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第二章 奴隷とかムカつきます

089 悪運が強いようですね

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カトラはターザに避けられて倒れた少女を見た。

ターザはあまりカトラ以外の女に触れられるのが好きではない。自分がそれなりに女性達からアプローチを受ける容姿をしていることは自覚があるらしく、彼女たちが勘違いしないように気を付けているのだ。

よって、迫られてもなびく素振りどころか無視するのが普通だ。カトラ以外はどうでも良いらしい。

そんなターザの行動はいつも通り。なので、特に何かを言ったり気にしたりするつもりはないのだが、やって来た女が問題だった。

「えっと……確か……セルカとかいう?」

これに同意したのはケイトだ。彼女にはちょっと恨みもある。

「そうです。間違いありません。でも、なぜここに?」

心底不思議で不快だというのには同意する。

「なんでもいいよ。カーラ、行くよ? 今日の宿を決めないと」
「あ、うん」
「え!? まっ、待ってっ」

ターザが助け起こしてくれるのを期待していたらしいセルカは慌てる。視線を向けることすらされなかったことに気付いていないのだろうか。

「ここでは通行の妨げになりますよ」
「邪魔……」
《みぎゃっ!》
「へ!? ちょっ、失礼なっ!」

フェジとトゥーリ、リィリが冷たい視線を向けて通り過ぎる。ターザが無視したということはそういうことだと彼らはもう理解している。

すなわち、カトラに有害であると。

「本当になんでこんな所にいるんでしょうね?」
「一人でここまで来られないし、売られた先ってこと?」
「ごしゅ人さまのカオを見てみたいですっ」

キュリ、クスカ、コルが通り過ぎてからチラリと振り返って呆れ顔をする。あんなのを放置するのだから、ロクな主人じゃない。

「旦那様達のご迷惑にならなければいいのですが」

ケイトが不安げに呟くが、そんなことになったら消すだけだなと思っていた。

これに呼応するのが隣に来たフェジだ。

「既に調べはじめています」
「なら安心ですね」

元影達が、この町で諜報活動をはじめていた。セルカがなぜここにいるのかを調べはじめたのは、彼女がターザを認識して駆け出した時だ。かつて影であった時以上に反応は早くなっている。その上に仲間意識も強くなり、連携もできるようになった。

「まっ、待ってよっ。私を助けてくれるのが王子様でしょう!?」

おかしなことを町中で叫んでいることに本人は気付いていないのだろうか。気付いていないから叫ぶのかとカトラは完全に異常者を見る目になっていた。

「ねえ、あれって、どうなってんのかな?」
「頭? スカスカなんだと思うけど?」
「まあそうだよね……」
「色々とすぐ忘れるんでしょ。都合の良いことだけしか覚えられないの。そのうち、言葉も忘れてくれないかな」

声さえ聴きたくないのだろう。彼女に聞こえないのがせめてもの救いだ。

チリっと何かを感じたのは彼女が睨んででもいるのだろうか。ざわりと心が音を立てるように感じたが、それは一瞬で、なんだったのかと考えるまでもなく、その感覚はすぐに消えてしまった。

そのままカトラ達は彼女を放置して町の中心へと向かって行ったのだ。

宿はここでもランクの高い所に決めた。商人達が多い町なので、比較的安い宿が多く、そちらは埋まってしまっている。そのため、逆にこうした高めの宿は取りやすかった。

部屋に入って一息つくと、報告がやってきた。

「失礼いたします」
「あの女のこと?」
「はい。報告させていただいてよろしいでしょうか」
「頼むよ」
「はっ」

ターザの許可が出たことで、元影は集めて来た情報を開示した。

「護送中、賊に襲撃され、逃げ出したようです。この町までは、通りかかった冒険者のパーティに寄生してやった来たとか。この先の町に生家があるようです」

媚びを売るのは得意な彼女は、まんまと冒険者達を言いくるめ、安全にこの町まで来られたようだ。

「冒険者達は、途中で奴隷であることに気付き、この町で引き渡しをしようとしたらしいのですが、そこで逃げ出したようです」
「もしかして、それでターザにあんな言葉を?」
「はい。逃げ出した末ということになります」
「……そこまで行くと、逞しいね……」

ちょっと尊敬しそうだ。因みに、今はあの後にやって来た兵により、牢に入れられているらしい。

「それって、賊で間違いなかったのでしょうか?」

ケイトが確認する。彼女たちと一緒に護送されていた時に襲って来たのは、セルカに恨みを持った者が差し向けた者達だった。今回もそれを予想したのだ。

「今回は間違いなかったようです。騎士が護送に当たっていたので、それさえも襲えてしまうだけの賊と、そのあとに魔獣がやって来たそうで、彼女は混乱に乗じて逃げ延びたのでしょう」
「悪運が強いようですね」
「運というには少し違和感がありますね……」

フェジが考え込む。そして、目を向けると、その先でターザも顎に手を添えて難しい顔をしていた。

「ターザ?」

カトラが声をかけると、ターザは緩慢な動きでこちらを見た後、ゆっくりと手を上げて手招いた。

「……?」

近付いていくと捕まった。引き寄せられ、横抱きにして膝に乗せられる。

「どうしたの?」
「う~ん。ちょっと厄介なのが動きだしたみたいでね。カーラ、あんまり一人で動かないでね」
「うん? いいけど、この格好は必要?」
「必要だよ。大事なことの確認中なんだ」
「そう?」

手を絡め、抱きしめて頭を撫でる。ここまでベタベタされたのは初めてだ。カトラしか視界に入れたくないという様子。ここまでくると、カトラも少し前までの、誰かの身代わりだという感覚はどうでも良くなっていた。

ある意味、安心したカトラは、その間ターザに構わず淹れられたお茶を飲んでいた。ケイト達も荷物の整理をしてターザが落ち着くのを待つ。

しばらくして、ようやくターザが顔を上げたのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
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