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第二章 奴隷とかムカつきます

081 使い魔用に拾ってきた

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ターザに彼と同郷であろう少年を任せ、カトラは青年の目を治すための治療薬の材料について確認を始めた。

部屋にある小さなテーブルにつき、そこで空間収納から取り出したノートと母から譲り受けた資料を広げる。

しかし、カトラが本格的に集中しだす前にと、ナワちゃんが動いた。

《ーお食事はどうされますか?ー》
「忘れてた……けど、ターザも今は忙しそうだし、もう少し後で良いかな」
《ーではあの青年にだけでも何か出してやってくださいー》

ナワちゃんは未だに震える青年を心配しているらしい。

「そうだね……パン粥を出そうか。足は治したけど、熱も出てきたそうだし……」

あの震えは恐怖などから来るものだけではないとカトラは判断する。精神的にもかなり追い詰められていたのだ。仕方のないことだった。

「お兄さん。その目隠しだとナワちゃんが見えないから……あったこれ着けて」

カトラが取り出したのは、歌舞伎で見る黒衣くろごの頭巾だ。

受け取ったナワちゃんが素早く青年に着けてくれる。

「こ、これは……っ」
「それなら、足下とか見えるし、邪魔な時はめくりあげて上に上げて使ってよ」
「はい……」

目隠しと違って、ナワちゃんもきちんと隙間から見ることが出来る。薄めではあるが、外からは顔が透けて見えることはない特殊な布だ。

彼に見えてしまう人の魔力の光も、それなりに遮ることは可能だ。

次に消化の良いお粥をと思い、保存してあった食パンを小さく千切っていると、ターザが青年の頭巾に気付いた。

「その頭巾、どうしたの?」
「顔を隠して夜動く時に使おうと思って作ってみたやつ。でも少し大きすぎたから、そのまま使わずに保管してあったの」

ここで重要なのは、カトラが使用したかどうかだろう。こういう着るものはターザが気にすると分かっている。

「そう……一人で危ないことしちゃダメだよ」
「うん……」

実際未使用の物なので問題はない。だが、これで終わりではなかった。

「カーラが作った物を着けられるってことの意味、ちゃんと理解してよね」
「っ、は、はい……」
「当然、食事もだから」
「も、もちろんです……っ」

今カタカタと震えるのは間違いなく恐怖からだった。

忠告は済んだようで、ターザは再び少年の方へ向き直る。

それを見計らって、カトラはお粥を完成させた。魔術で温めも自由自在だ。ただ、こういうのは料理をしている気にならないのであまりやらない。

「ミルク、大丈夫?」
「はい……い、いただけるのですか……」
「そのつもりで作った。ターザのことは気にしないで良いよ。消化に悪いから。ナワちゃん、フォローしてやって」
《ーOKー》

看病も完璧にできるナワちゃんならば、任せて問題ないだろう。ターザから気も逸らしてくれるはずだ。

カトラは安心して資料の確認を始めた。

それから二時間くらいだろうか。キリがついた所で、ふと視線に気付いて顔を上げた。

視線の主は少年だった。

「あ、起きたんだ?」
「っ……」

目を見開いて、コクリと頷く。その様子を見てターザを探した。

「あれ? ターザは?」

答えたのは青年だった。

「……ターザ様でしたら、呪いを捨ててくると言って出ていかれました……」
「へえ……捨ててくるって言ったんだ……まあ、いいか。ナワちゃん、その子は何か食べた?」

返すではなく、わざわざ捨ててくると言って出て行ったのは気になったが、あのターザのことだ。問題はないだろう。

一方、ナワちゃんはその時、器用に何かを紙に書いていた。

《ーまだですー》

文字を書く先端とは別の方で返事をしてくれる。これしきの並列思考は分身しなくても可能らしい。

「ならそっちもパン粥でいいかな。ミルク大丈夫?」
「……ん……」

頷いたので大丈夫だろう。完成させる頃、ターザが戻って来た。

「あ、お帰り……?」
「ただいま」

語尾が上がってしまったのは、ターザが小さな黒猫をぶら下げて帰ってきたからだ。捨ててくると言ったはずの人が、何かを拾ってきたのだから気になる。

「……それ、どうしたの……?」
「ああ。使い魔用に拾ってきた」
「へえ……」

全く意味が分からない。だが、カトラは少年用のパン粥と共に、子猫用のミルクも用意していた。

「これ、食べさせてやって」
「ありがとう。ほら、ちゃんとお礼言って」
「……あり……が……と……っ」

たどたどしい言葉で返した少年。そんな彼の前にターザはお粥を置き、子猫をミルク皿の前に下ろす。

「その子猫……子猫? ガリガリだね」
「あ、気付いた? 鳥に突かれて死にかけてたけど、これでもシャドーガルテの幼獣だよ」
「幼獣っ……初めて見た」
「ふふ、珍しくはあるね」

闇属性を持つ森の番人とまで言われることのある厄介な魔獣の子ども。成獣になればAランクの冒険者と互角に渡り合えるほどの力を持つようになる。

姿を例えるならば真っ黒な虎だ。

「それを使い魔に? もしかして、その子用?」

ターザには今更そんな使い魔必要ないように思ったのだ。予想は当たった。

「そういうこと」

少年を邪険にする様子はない。ただ、面倒だという、少し諦めたような表情は見せている。それを見て、カトラは改めて少年を見た。そこで気付く。

「っ、ターザ……その子、親族?」

兄弟ではない。そこまで近いものではないが、魔力に似通ったものを感じた。これにターザは困ったように大きくため息をついて見せたのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
2019. 7. 22
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