転生令嬢は平穏な人生を夢みる『理不尽』の破壊者です。

紫南

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第二章 奴隷とかムカつきます

069 それくらい好きだから

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四人の少女達が目を覚ましたということだったので、ナワちゃんに引き続き情報を聞き出してもらうことにした。

安全だとまだ心のどこかで思えずにいるのだろう。眠りが浅いのだ。それは、カトラにも覚えがある。

あの生家では、心が休まらなかった。体は睡眠を欲していても、深く眠ることがるできなかったのだ。

まだ彼女達はカトラにも警戒している。人が近付くことに怯えている。傍にいるだけでストレスになるのだ。

起きたばかりの彼女たちには、食事よりも先に薬湯を飲ませることにした。目が覚めたといっても、体はまだ眠っている可能性が高い。

弱っている彼女達の体にこれ以上負担をかけるのは良くなかった。

なので、ナワちゃんに話しを聞いてもらいながら、チビチビと薬湯を飲んでもらうことにしたのだ。

その間、カトラとターザは別室で二人で食事をする。町へも行ったらしいターザの話しを聞きながら、我ながら良く出来たビーフシチューに舌鼓を打つ。

「ちょっと物価が上がってる。それと、人狩りが横行してて治安がかなり悪くなってるみたいだ」
「人狩りって何?」

聞いたことのない言葉だった。

「盗賊みたいなものだよ。人を襲って、身ぐるみ剥いで奴隷として売り飛ばすんだ」
「……売るって……だって借金もないし犯罪者でもないでしょう? 寧ろ犯罪者が売る方ってどういうことよ」

それではただの人攫いだ。奴隷とは、そうしてなるものではないはずだろう。

「違法奴隷ってやつだよ。身寄りのなくなった孤児とか、借金をでっち上げて奴隷に落とすんだ。少し前まではここまで無法地帯じゃなかったんだけどね」

カトラは絶句していた。国境を越えただけでこうも世界が変わるものなのかと思うと信じられなかった。

けれど、冷静に考える。ひっかかったのは少し前までは違ったということ。

「……国の状況が変わったのかな……? こんなことが横行してたら、国は衰退するだけだよね? 国の民の半数以上が奴隷とかってなったらどうする気なんだろう」
「ははっ。今の状態が続くならなりそうだねえ。史上初の『奴隷国家』? 周りの国からさぞ叩かれることだろう」

冗談ではなく、できてしまいそうだ。

「あの子達も孤児院にいたってことは……」

カトラが少女達がいる部屋の方へ視線を投げる。すると、ターザもそれに倣った。

「予想はできるね。孤児院丸ごと売られたって可能性もあるよ」

彼女たちは正規の借金奴隷ではないのかもしれない。人狩りのように、誰かの手によって孤児院から売られたのだろう。

「なら、誰が得をしたかを調べれば色々分かるかな?」
「助ける気なの?」

ターザの目が真っ直ぐにカトラへと向けられていた。真意を確認するように、全てを見透そうとする瞳だった。

それを真っ直ぐに見つめ返して答える。

「悪い子たちには感じなかった。それに、彼女たち怯えてる……あれは虐げられた人の目だった。何も悪いことをしてないのに、貶められるのは間違ってる。そういうの、許したくない」
「……」

わかっている。これはただの自己満足でしかない。自分勝手な思いだ。けれど、カトラは嫌だった。理不尽に耐えて、耐えて耐える人生ほど苦しく、惨めなものはない。

他人になぜ振り回されなくてはならないのか。一方的にどうして迷惑をかけられなくてはならないのか。

今ならば分かる。前世では全て諦めてしまっていた。生きることに疲れていたのかもしれない。怒る気力すらないほど疲れ切っていたのだ。

けれど今は思い出せば思い出すほど、前世での理不尽な出来事に怒りが湧いてくる。このドロドロとした汚い気持ちが嫌で堪らない。

だからこそ、理不尽に耐えている人が目の前にいると、それをどうにかしたいと思ってしまう。

そうして自分の中の怒りを昇華したいのだ。

「……私は自分勝手な人間だよ……目の前の他人の理不尽を叩き潰すことで満足したいんだ……屈しないっていうのを世界に示したいだけ」

何一つ与えてくれなかった世界に見せつけたいのだ。自身の力というものを。

「……うん。なら、俺も力を貸すよ。俺は今のカーラの力の一つだって思ってくれればいい。世界に思い知らせてやればいいよ」
「でも、これは私のわがままだよ?」

今までも、当たり前のように力を貸してくれているターザ。少し甘え過ぎな気がしている。

前世で一人孤独に向き合っていた感覚が抜けない。誰も味方なんていなかったのだから。

「今は何も返せないよ?」

これに、ターザは笑みを浮かべる。

「返すようなものじゃないよ。わかるでしょう?」
「っ……」

それは、カトラが少女達に告げた言葉だ。

「聞いてたの……」
「ナワちゃんに聞いた。カーラは、他人には遠慮なく与えるのに、受け取るのはできないの?」
「だってっ……フェアじゃない……私があげるのは、その分ちゃんと私の中で得をしてると思うから……助けるってことで何かを貰ってるって実感があるからだもの」

一方的ではない。そこには必ずプラスマイナスゼロの関係を求めている。

理不尽を嫌うカトラは、理不尽な関係を望まない。だからこそ、職業としての冒険者という生き方はカトラにとって理想的だった。

「ターザともフェアでいたい。いつか……いつか理不尽だって思うようになるなら、やめて……っ」

そう口にしていて、滲んでくる涙に気付いた。いつかというのが怖かった。ターザが傍にいるのはもう当たり前で、手を貸してくれるのも当たり前になっていることに気付いた。

これではいつか離れてしまう。

その時、ふわりと頭に乗せられた大きな手に驚く。顔を少し上げると、立ち上がり、身を乗り出して手を差し出すターザが目に入った。

「俺だっていつもカーラからもらってる。すごく大事なものをね。それに、俺はカーラのいうようなフェアな関係を望んでない。君に全部あげたいんだ。君の力になることが俺の喜びだからね」
「でも……っ」

そこでターザはカトラの方へと歩み寄ってくる。そして、隣まで来て膝をついた。

「俺のこれはね。愛だよ。だから、最初っから見返りなんて求めてない。親が一方的に子どもに与えるのと同じ。もちろん、カーラが子どもってわけじゃないよ? 分かるよね?」
「っ……うん……」

知っている。ずっとずっと、思われてきた。

「好きだよカーラ。俺は君に出会えただけで、もう充分なんだ。もしも俺が嫌いで、顔も見せるなって言うならそうするよ。でもきっと、君に見つからないように君の一生を見つめ続ける。それくらい好きだから」
「……うん……」

執着されていることにはちゃんと気付いてた。それはストーカーだよとかツッコむ気も起きないほど当たり前の行動だと思う。

お陰でスッと涙は引いた。呆っとして熱を持っていた頭も正常な温度に戻っていくようだ。

これが普通の令嬢だったら、そのまま熱に浮かせれたような状態になっただろうなと冷静になった。

「ターザは……ずっと一緒にいるつもりなんだね」
「もちろんだよ。捨てられても陰からついて行くからね。ん? どうしたのカーラ」
「……うん。ちょっと認識が甘かったって反省してるところ」
「反省なんてカーラには必要ないでしょう?」

この人はカトラの全部を肯定する。これは人をダメにする人だ。

「必要だよ。もっと自分に厳しくなる」
「充分厳しいと思うけど」

厳し過ぎるくらいで丁度いい。こんな甘々な人が絶対に離れないのだから。

「ねえターザ。力を貸してくれる?」
「もちろん。昔からそう言ってるよ? 使ってよ。俺のお姫様」
「……うん。いっぱい頼むからね」
「っ、いいよ! 国が欲しいとか、神さまになりたいとかでも問題ないからねっ。俺以外の男を全部消すとか、性格の悪い女を死滅させるのも出来なくないからっ。全部、なんでも任せて!」
「……あ、ありがと……」

寧ろ手を離したら危険だということを認識した瞬間だった。

《ー? ? ? 良い雰囲気だったはずでは?ー》

部屋の外で様子を見ていたナワちゃんが呆れているのにはカトラもターザも気づかなかったのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
次回も来週です。
よろしくお願いします◎
2019. 4. 29
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