転生令嬢は平穏な人生を夢みる『理不尽』の破壊者です。

紫南

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第二章 奴隷とかムカつきます

067 返すものじゃない

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家の中では、ナワちゃんの本体が少女達の世話をやいていた。

ログハウスとはいえ、かなり大きいものだ。お風呂、キッチン、寝室も四つある。

「お風呂も入ったんだね。服、私の大きさだから、合わなくてごめんね」

お風呂に入る前に少しだけ暖かいスープを飲んだこともあり、彼女達の顔色は悪くない。

服はカトラの服だ。この家には、小さいとはいえ、一部屋分のカトラ専用のクローゼットがある。ターザがあれもこれもとやたらと買い与えたがるのだ。空間収納にも入っているので、ほんの一部でもある。

四人の少女達はナワちゃんが選んだカトラの服を着て絨毯の上でへたり込んでいた。

因みに、選んだ服はカトラが買ったものであり、ターザがカトラのために用意した服ではない所が気遣い屋のナワちゃんらしいところだ。

カトラに気付いて、一番真面目そうな少女が正座して頭を下げた。

「食事にお湯……服までご用意いただき、ありがとうございます。このご恩は必ずお返しいたします」
「恩なんて思わなくてもいいよ。それに、返すものじゃない。気にせず楽にしてて」
「……ですが……」

カトラはそのままキッチンに向かう。そこで薬草を使ったお粥を作った。魔術を使えば煮込み料理も数分で出来上がる。

それを持って少女達のいる部屋に戻ると、テーブルに置く。

「おいで。眠いだろうけど、これを少しだけ食べてからにして」
「え……でも私達は先ほど……」

お風呂の前に飲んだスープのことを言っているのだろう。彼女たちにとっては、一回分の食事という認識だったようだ。

「スープだけでしょう? あれはお風呂に入る前のエネルギーを補充しただけ。お湯に浸かるのって、それだけで体力使うんだよ。熱を発散するからね。あなた達はほとんど飢餓状態だったから、あのまま湯に浸かってたら危なかったの。だから、あのスープは治療の一環って考えて」
「……はあ……」

わからなかったようだ。だが、お腹は空いているのだろう。食事の匂いに、落ち着きがなくなっているのに気付いていた。

「ほら、ゆっくり立っておいで。この器に二杯ずつはあるから。それを食べたら寝るといいよ。ベッドの用意してくるからね」
「っ、そんなっ、私達にベッドだなんて……」
「気にしないでって言ったでしょう? 寝室はいっぱいあるんだ。使わないともったいない。ナワちゃん、ここ任せるね」
《ーOKー》

カトラのことが気になるようなので、彼女達はナワちゃんに任せ、部屋の用意に向かう。

寝室の一つ。そこは四人部屋。四角にベッドが並んでいる。

浄化の魔術で一気にベッドを綺麗にする。シーツもパリッと仕上がり、掛布はふんわりしている。

中央にあるテーブルには水差しがあり、それを持ってキッチンへ向かう。レモンのような果物の果汁を絞ったビタミン水を作り、それを寝室へ置いておく。

あとは彼女たちの食事が済むまでと思い、カトラはキッチンで本を読みながらゆったりとお茶を楽しんでいた。

そこへ、ナワちゃんが報告に来る。

《ー食事が終わりましたー》

カトラはそれを聞いて彼女達のいる部屋に向かう。ほっとした表情になっているのを見て、これならばすぐに体も良くなるだろうと安心する。

「部屋に案内するよ。おいで」
「……はい……ありがとうございます」

ナワちゃんが何か伝えたのだろうか。素直についてきてくれた。

「この部屋を使って。この水は果物の汁が入っているから飲みやすいと思う。目が覚めた時には毎回、少しは飲むこと。水分補給は大事だからね」

それだけ言って、カトラは部屋を出ようとする。しかし、そこで一番小さい少女が駆け寄ってきた。

「お、お姉さんっ。こ、こんなによくしてもらって……わたし何も返せないよっ」

涙を浮かべてすがりついてくる。どれだけ冷たい世界にこの子はいたのだろうか。与えられたなら、必ず返さなくてはならないなんて思うほどの悲しい場所にいたのだろうか。

「これは返す必要のないことだよ。分からないかもしれないけど……ここで私やナワちゃん、もう一人いた男の人が用意するものは、何一つ返さなくていい。怖いかもしれない……不安かもしれないけど、信じてほしい。大丈夫。ここにはあなた達を虐げる人はいないから」
「っ……本当にっ……?」
「本当よ。この家も、あなた達を傷つけるような人は絶対に入って来られない。そういう魔導具みたいなものなの。だから、安心して今は休んで。落ち着いたら、あなた達の話を聞かせてね」
「……はい……っ、あ、ありがとうございますっ」

泣きながらお礼を言う少女の頭をカトラは優しく撫でてやることしかできなかった。

他の少女達も涙を堪えきれなかったらしく、それぞれ声を必死で殺しながら泣いているのが痛ましかった。

こんな少女達を深く傷つける現実など、カトラには許せるものではない。

少女達が眠ると、ナワちゃんがカトラの所までやってきた。

《ーすぐに眠りましたー》
「うん。あれだけ疲労していればね……少し話はした?」
《ー全員同じ孤児院にいたそうですー》
「孤児院に? それでなんで奴隷に……」

全員が同じ孤児院というのが重要だろう。調べてみる必要がありそうだ。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
また来週の予定です。
よろしくお願いします◎
2019. 4. 15
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