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第二章 奴隷とかムカつきます
066 新婚さんみたいだ
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少女は、自分が良ければそれでよかった。
他人は、自分をより輝かせるための存在でしかない。男たちは他の少女たちが憧れる存在ほど自分に相応しいのだと思っていた。
「っ、あの王女ね……なんて浅ましいっ。私を殺そうとするなんて、許されるはずないわっ」
「……」
やっぱり反省なんてしなかったのかとカトラは呆れてちょっと引いた。
これほどの自己中女がいるのかと痛い人を見るような目で見てしまう。
「私は愛されるために生まれてきたのっ。そうお母様たちが言ったもの。素敵な王子様と結婚して、誰にでも愛される幸せな女の子だって言ったのよっ」
「……」
完全に育て方を間違ったタイプだ。
「そんなのを真に受けて育ったの? ああ、なるほど……君は中々子どもができなくて、やっと出来た女の子だったんだね。これはあれだ。親が一方的に悪いわけじゃない。君が現実を見ないバカだったってことだ」
「なっ、わ、私はバカじゃないわっ」
「バカだったから売られたんでしょ? それに、奴隷に落とされてもまだ現実を見てない。これをバカと言わずに何て言うの?」
「っ……」
怒りでフルフルと震える少女。これが現実を見ていないという証拠だ。
「君が王女達にやったこと、自分で体験しても君みたいな子って、逆恨みするだけなんだよね~。どうしようかな……」
自分が同じことを他人にしたのに、いざ自身の身に降りかかってくると、そうなった原因を作った人に逆恨みする。反省という言葉自体が彼女の中には存在しないのだ。
「だからって、殺しちゃうのもね……それで終わりってのが許せないし。とりあえず突き出そうか。それでいい? カーラ」
「うん。けど、あの子達はちょっと話を聞いて決めたい」
「わかった。そっちは任せるよ」
先に家の中に入れた四人の少女達は、間違いなく借金奴隷なのだろう。かなり弱っているのが気になった。
体を震わせながらも、気力だけでこのわがままな少女に従っていた。そうしなくてはならないと思わせる何かがあったのだろう。
「でもどうする? ターザはこの人、中に入れたくないよね?」
「なっ、ど、どうしてよっ。なんであの子達が良くて私がダメなのっ? 私はあの子達よりも尊い存在よっ?」
尊いとか言っちゃうんだとカトラは驚いた。
「尊い存在って言った? 自分のこと、そう言えるの? 初めて聞いた」
「俺も初めて。あ、でもカーラは俺にとって尊い存在だよ?」
「えっと、ありがとう」
こんなのどう返していいのかわからない。ターザはこの状況でも平常運転だ。
「で、どうしておく? ナワちゃんに縛っておいてもらおうか?」
「それも嫌だな。これだけ真っ黒な穢れた魂を持つ人にはナワちゃんにも触って欲しくない。ナワちゃんが穢れるよ」
良くわからないが、真っ黒な魂だと聞いて、なるほどと思ってしまった。
「他人の恨みをこれだけ纏わせて魂が吸ってるのって、中々ないよ。まあ、貴族には多いけどね。普通は誰かに感謝されたり好意を向けられたりして相殺されるから、ここまで黒くはならないはずなんだけど」
「へぇ……」
どうやらすごいらしい。
だが、これも納得だ。好意なんて、絶対に向けられないだろうと確信できるほど彼女の性根は腐っている。
その後、外に放っておいても煩そうなので、カトラが土で牢を作り、それをターザが音を遮る結界で包んだ。
中でギャンギャン言っているように見えるが、聞こえないので良しとする。
「さて、仕方ないから、一日ここで休もうか」
「うん。彼女達に薬作ってあげたいから、少し出てくるけど」
「あ、それは俺が行くよ。何が欲しいかメモしてくれる? 俺が出かけてる間に色々話を聞いてあげるといいよ」
ターザは普通に気遣いのできる男だ。少女達のところに、男であるターザが残るよりは、同性であるカトラが残った方が良いという配慮。
こういうさり気ないところが結構ある。
「ついでに食べられるものとかも採ってくるから」
「わかった」
すぐに足りない材料を書き留める。それをターザに手渡し、見送ろうとするところに、ナワちゃんが分身体を作って出てきた。
《ーご一緒しますー》
「ありがとう、ナワちゃん。じゃあ、カーラ、二時間くらいで戻るよ。誰か来てもドア開けちゃダメだよ? 俺が戻るまで外に出ないでね?」
「……自衛できるよ?」
「ダ~メ。わかった?」
「……わかった」
どうにも子ども扱いされているようで不本意だが、ここは従っておくことにする。
「ふふ。新婚さんみたいだ」
「っ、き、気を付けて……」
子ども扱いではなかったらしい。
こういうのはどうしても慣れない。
ターザは、牢に入っている少女に見せつけているだけだろう。あちらの声は聞こえないが、こちらの声は聞こえるように術式を弄っていたのをカトラは知っている。
その証拠に、少女は悔しげにカトラを睨んでいた。
「うん。じゃあ、行ってきます」
そう言ってから、ターザはカトラの額にキスを落としていった。
「っ!?」
「どう? これぞ新婚さんでしょ?」
楽しげに笑って、ターザは森の方へと歩いていく。目の端では、牢の中で少女が呆然と立ち尽くしていた。
「……絶対遊んでる……」
どこまでが本気でどこまでが冗談なのか。カトラは苦笑してから家の中へと入った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また来週です。
よろしくお願いします◎
2019. 4. 8
他人は、自分をより輝かせるための存在でしかない。男たちは他の少女たちが憧れる存在ほど自分に相応しいのだと思っていた。
「っ、あの王女ね……なんて浅ましいっ。私を殺そうとするなんて、許されるはずないわっ」
「……」
やっぱり反省なんてしなかったのかとカトラは呆れてちょっと引いた。
これほどの自己中女がいるのかと痛い人を見るような目で見てしまう。
「私は愛されるために生まれてきたのっ。そうお母様たちが言ったもの。素敵な王子様と結婚して、誰にでも愛される幸せな女の子だって言ったのよっ」
「……」
完全に育て方を間違ったタイプだ。
「そんなのを真に受けて育ったの? ああ、なるほど……君は中々子どもができなくて、やっと出来た女の子だったんだね。これはあれだ。親が一方的に悪いわけじゃない。君が現実を見ないバカだったってことだ」
「なっ、わ、私はバカじゃないわっ」
「バカだったから売られたんでしょ? それに、奴隷に落とされてもまだ現実を見てない。これをバカと言わずに何て言うの?」
「っ……」
怒りでフルフルと震える少女。これが現実を見ていないという証拠だ。
「君が王女達にやったこと、自分で体験しても君みたいな子って、逆恨みするだけなんだよね~。どうしようかな……」
自分が同じことを他人にしたのに、いざ自身の身に降りかかってくると、そうなった原因を作った人に逆恨みする。反省という言葉自体が彼女の中には存在しないのだ。
「だからって、殺しちゃうのもね……それで終わりってのが許せないし。とりあえず突き出そうか。それでいい? カーラ」
「うん。けど、あの子達はちょっと話を聞いて決めたい」
「わかった。そっちは任せるよ」
先に家の中に入れた四人の少女達は、間違いなく借金奴隷なのだろう。かなり弱っているのが気になった。
体を震わせながらも、気力だけでこのわがままな少女に従っていた。そうしなくてはならないと思わせる何かがあったのだろう。
「でもどうする? ターザはこの人、中に入れたくないよね?」
「なっ、ど、どうしてよっ。なんであの子達が良くて私がダメなのっ? 私はあの子達よりも尊い存在よっ?」
尊いとか言っちゃうんだとカトラは驚いた。
「尊い存在って言った? 自分のこと、そう言えるの? 初めて聞いた」
「俺も初めて。あ、でもカーラは俺にとって尊い存在だよ?」
「えっと、ありがとう」
こんなのどう返していいのかわからない。ターザはこの状況でも平常運転だ。
「で、どうしておく? ナワちゃんに縛っておいてもらおうか?」
「それも嫌だな。これだけ真っ黒な穢れた魂を持つ人にはナワちゃんにも触って欲しくない。ナワちゃんが穢れるよ」
良くわからないが、真っ黒な魂だと聞いて、なるほどと思ってしまった。
「他人の恨みをこれだけ纏わせて魂が吸ってるのって、中々ないよ。まあ、貴族には多いけどね。普通は誰かに感謝されたり好意を向けられたりして相殺されるから、ここまで黒くはならないはずなんだけど」
「へぇ……」
どうやらすごいらしい。
だが、これも納得だ。好意なんて、絶対に向けられないだろうと確信できるほど彼女の性根は腐っている。
その後、外に放っておいても煩そうなので、カトラが土で牢を作り、それをターザが音を遮る結界で包んだ。
中でギャンギャン言っているように見えるが、聞こえないので良しとする。
「さて、仕方ないから、一日ここで休もうか」
「うん。彼女達に薬作ってあげたいから、少し出てくるけど」
「あ、それは俺が行くよ。何が欲しいかメモしてくれる? 俺が出かけてる間に色々話を聞いてあげるといいよ」
ターザは普通に気遣いのできる男だ。少女達のところに、男であるターザが残るよりは、同性であるカトラが残った方が良いという配慮。
こういうさり気ないところが結構ある。
「ついでに食べられるものとかも採ってくるから」
「わかった」
すぐに足りない材料を書き留める。それをターザに手渡し、見送ろうとするところに、ナワちゃんが分身体を作って出てきた。
《ーご一緒しますー》
「ありがとう、ナワちゃん。じゃあ、カーラ、二時間くらいで戻るよ。誰か来てもドア開けちゃダメだよ? 俺が戻るまで外に出ないでね?」
「……自衛できるよ?」
「ダ~メ。わかった?」
「……わかった」
どうにも子ども扱いされているようで不本意だが、ここは従っておくことにする。
「ふふ。新婚さんみたいだ」
「っ、き、気を付けて……」
子ども扱いではなかったらしい。
こういうのはどうしても慣れない。
ターザは、牢に入っている少女に見せつけているだけだろう。あちらの声は聞こえないが、こちらの声は聞こえるように術式を弄っていたのをカトラは知っている。
その証拠に、少女は悔しげにカトラを睨んでいた。
「うん。じゃあ、行ってきます」
そう言ってから、ターザはカトラの額にキスを落としていった。
「っ!?」
「どう? これぞ新婚さんでしょ?」
楽しげに笑って、ターザは森の方へと歩いていく。目の端では、牢の中で少女が呆然と立ち尽くしていた。
「……絶対遊んでる……」
どこまでが本気でどこまでが冗談なのか。カトラは苦笑してから家の中へと入った。
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2019. 4. 8
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