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第二章 奴隷とかムカつきます

064 放っておこうか

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2019. 3. 25

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巨大な火の玉は二つ。

誰もがそれに目を見開いて注目していた。

「「気を付けて」」

カトラとターザは同じことを告げながらそれを争っている者達の前後に打ち込んだ。

「「「「「ひっ!?」」」」」

ブルブルと震えて、腰を抜かす者が続出した。

前後は馬車が動けないよう深いクレーターができている。馬が逃げたようで、きっちりギリギリ。

ステアリングの効かない馬車が、そこから移動するのは困難だろう。

「……ターザ、前にまで打ったらあのままじゃん」
「だって、調子に乗って大きくしちゃったでしょ? 同じ場所に打ったら大爆発で全部吹っ飛ばしちゃっただろうし、警告だったなって思い出して」
「……そっか、警告だったね……」

ちょっと忘れてた。

あんぐりと口を開けていく彼らの顔が面白くて、つい大きなものにしてしまったのだ。

ターザも同じだったのだろう。

さてどうしたものか。そうして、すぐに結論が出た。

「行こうか」
「そうだね」
《ーよろしいので?ー》

ナワちゃんが気にしているが、ただの邪魔者なのだから構わない。

そうして、カトラとターザは呆然とする彼らを放置して先を急ぐことにした。

その時、カトラ達は気付いていた。馬車から出て逃げ出す数人の女達に。

《ーあれもよろしいのですか?ー》
「気にしちゃダメだよ、ナワちゃん」
「っていうか、あれって奴隷?」

カトラは彼女達が気になるというか、彼女たちの首に付いているものがとても気になっていた。

「そっか、カーラは国から出たことなかったんだもんね。そう。あれは奴隷だよ」

見たことがなかった。カトラの生きてきた国では、奴隷取り引きを原則禁止している。

犯罪者などは、犯罪者として特別に国が管理する鉱山や労働現場に連れて行かれるので、一般的に目にすることはない。

刑務所のような施設もあり、その中で仕事をさせる体制も整っているのだ。

「あれは借金奴隷だね。犯罪奴隷はもっと厳ついのを付けてる」
「借金……国が保護しないの?」
「ほとんどの国ではそこまでしないよ。あの国が特殊な方」
「そうなんだ……」

カトラの生まれた国でも、借金によって生活ができなくなる者も多い。

そうなれば、自分を売る借金奴隷となるのが普通だが、国では『奴隷』という言葉を忌避していた。

だから、奴隷という言葉を使わないが、契約魔術によって縛られた労働者として派遣されるようになっている。

彼らは契約魔術によって主人に逆らわないように縛られるが、しっかりと契約内容は決められており、他国よりも比較的早くその契約をまっとうすることができる。

今見たように首に奴隷だと分かる首輪を付けることはあり得なかった。

「ああして見せしめみたいにする所は多いよ。けど、解放された後でも卑屈になったりして、更生っていうの? そういう感じにはならないかな。それを考えると、あの国とかは優しいよね」

契約魔術を施された者であったという事を知っているのは主人だけ。その主人も、契約上それを他人に話すことは許されない。

人権は守るというのが原則。

よって、契約をまっとうした後、比較的すぐに普通の生活に戻ることができるのだ。

奴隷から解放されても、奴隷であったということを周りに知られてしまっていると、良くない目で見られてしまう。これによって卑屈になり、犯罪に走る者も多いらしい。

「あんな感じで逃げ出す人も多いからね。国の治安も悪くなる。因みに、あの奴隷を国に届けると謝礼がもらえるよ? どうする?」
「……いい。放っておく」
「けど、あのまま犯罪に走るかもよ?」

試すようにターザはカトラの顔を覗き込んできた。これにカトラは無感情のまま答えた。

「それもあの人たちの人生でしょ?」
「ふふ、そうだね」

満足のいく答えだったらしい。

そのままカトラとターザは町を目指して進んでいたのだが、途中夜営をしていると近付いてくる気配があった。

「……あの奴隷の人みたい」
「俺たちの後をつけてくるなんて、結構身体能力高いんだね」

カトラもターザも、比較的のんびりと進んでは来たが、足は速い方だ。

追い付いたというのは普通にすごい。

ちなみに、夜営はターザの空間収納から出したログハウスでだ。

何もない場所に一つだけ家があったら目立つだろう。

「どのみち入っては来れないし、放っておこうか」
「うん」

そうして、構わず一夜を過ごした。

接触してきたのは、次の日の朝。出発の時だ。それも思わぬ一言から始まった。

「やっと出てきた! 私の王子様!」
「は?」
「……」

その女は、ターザに抱き着こうと飛び付いてきたのだ。

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次回、来週です。
よろしくお願いします◎
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