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第一幕 第一章 家にいる気はありません

062 必死で仕事して

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2019. 3. 12

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予想通りというか、その日旅に出る直前までダルと揉めた。

「俺も行く!」
「ダメに決まってるでしょ?」

聖王国に挨拶に行くと言えば、当然のように行くと言う。

「じゃあ仕事はどうするんだよっ」
「……一人でどうにかしなよ……」

さすがにナワちゃんが頑張りすぎだ。ダルの補佐として置いていくには不安があった。

「ナワはお前の兄貴の所にもいるんだろっ。なら置いて行ってくれてもいいじゃないかっ」
「置いて行ったら使うでしょ?」
「当たり前だろっ」
「当たり前じゃないよ……」

どうしても一人で仕事をしたくないらしい。いつの間にそんな寂しがり屋になってしまったのだろう。

「カーラだって、この前出かけたばっかだろっ。メシはどうすんだっ」
「私、師匠の奥さんじゃないよ?」
「あっ、なら奥さんにっ……ッ」

なぜか食事は作ることになっているらしい。

そこに荷物整理をしていたターザがやってきた。

「ダル師匠……なんか変な言葉が聞こえたんだけど?」
「え? なに? 別に何も言って……」
「カーラを奥さんとか言わなかった?」

一気に冷気と呼べるほどの殺気が部屋を満たす。

「ひっ、い、言ってねえよ!? め、メシは作って欲しいって思ったけどっ……」
「そう? 気のせい? ならいいけど。カーラ、いける?」
「うん。けど、師匠が納得しない」
「……ダル師匠?」
「っ、な、ナワを置いてってくださいっ! 寂しくて死んじゃうからっ」

どこぞのウサギさんか。

いつの間にかダルは土下座していた。

《ー主様ー》
「ん?」

ナワちゃんがそんなダルの前にやってくる。

《ー分身体を置いていきますー》
「でも、どこまでやれるかわからないでしょ?」

思考力が強化されたと言っても、どれだけ離れてもいいかとか、どこまで個々に思考できるかとかまだ検証できていないのだ。

「無理をしたらどういう不具合が出るかわからないんだよ?」

ナワちゃんの存在自体、偶発的に誕生したものなのだ。何かの拍子に消えてしまう可能性だってあり得なくはない。

《ーある程度無理ならばわかりますー》
《ーやらせてくださいー》
《ーきっと能力の成長も望めるかとー》

ナワちゃんも成長を望んでいる。それは少し前からわかっていた。カトラが一人で旅に出た頃から、次第にその傾向は強くなっていた。

それは全てカトラのため。

《ー主様のお役に立ちたいのですー》
「ナワちゃん……無理しない?」
《ーいたしませんー》
《ー約束しますー》

カトラにとって、家を出たあの日。身内はナワちゃんだけになったと思った。絶対に裏切らない唯一の味方。それがナワちゃんだ。

だからこそ、ナワちゃんが消えることをとても恐れている。

それが当然だが、ターザにはわかったらしい。

「カーラ。大丈夫だよ。ナワちゃんがカーラを置いて消えるはずないからね」
「……うん……なら、師匠」
「はいっ」

正座したままのダル。まったく師匠としての威厳はなくなった。

「ちゃんと、必死で仕事して。ナワちゃんに無理させないように」
「了解であります! 命にかけてっ!!」

そこまでは必要ないのだが、いい心構えだと頷く。

「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいましっ」
《ーお気をつけて!ー》

こうして、カトラとターザは聖王国へ『挨拶』に出かけたのだ。

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六日空きます。
よろしくお願いします◎
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