上 下
59 / 118
第一幕 第一章 家にいる気はありません

059 どっちに来るかな

しおりを挟む
2019. 2. 26

**********

カトラの予想通り、宿へ行くと歓迎された。お忍びとはいえ、明らかに貴族らしい一行を泊めることになっていたため、警備が不安だったらしい。

因みに、侯爵夫妻も同じ宿だった。この町に来る時はここを利用するのだという。見込んでいた警備体制に加え、侯爵の護衛もいるとはいえ、不安はあったようだ。

余計にカトラは歓迎された。

部屋も良い部屋だ。ターザと二人で部屋を取ったのだが、寝室も二つあるスイートだった。

そして、夜半。それは現れた。

「来たみたいだね」
「うん……ところでターザ、なんで別に寝室があるのに、ここにいるの?」

そう。なぜかターザは同じベッドに入って本を読んでいた。

「いつもは同じ部屋でしょ? それに、このベッドは大きいから、一緒に寝ても狭くないよね」
「そうだけど……」

当たり前のように言われると、それもそうだなと思ってしまう。ターザも変に意識させる気はないらしく、同じベッドにいても触れることはない。

今までもカトラが落ち込んでいたりしない限りは、しっかりと距離を取ってくれていた。特におかしなことではない。

「それより、どうする?」
「うん……ただの盗賊とは違うし、タイミングが難しいかも」

ただの物盗りならば、怪しい動きをして宿に近付いた時点で捕まえても問題はない。いくら言い訳を並べようと、調べれば盗っ人であるという事実は変わらない。

だが、今回の相手は聖王国の影達だ。なんの証拠もなく捕らえれば、国際問題になる可能性もある。

「警備の人数はそれなりにいるし、宿もしっかりしてるから、中に入ってもらう?」
「そうだね……でも、どっちに来るかな」

どっちとは、カトラの方か双子の王子の方かということだ。

薬草を使ったお菓子を出しているということで、ベジラブの方も調べていたようなのだ。彼らならば、ベジラブにカトラが関わっているといずれ分かる。

聖王国は神聖魔術によって栄えてきた国。その力の有用性を脅かすほどのカトラの薬学の知識が危険視されているのだ。だから今回、カトラを狙ってのことかとターザは警戒している。

「多分、あの子達を追ってこの町に来たんだと思う。警護の人数も少ないしね。私を狙ってるなら、間違いなく野営中にする」
「なるほど。なら、やりやすいね」
「うん。ターザは部屋の外から行ってくれる?逃げられないように」
「部屋に入れちゃえばいいってことだね」

部屋の外で護衛する者達が対処出来ればそれでいいが、できないのならば、部屋に入ってしまってもらった方が狙いがはっきりする。言い逃れができない状況にするのだ。

「ナワちゃんには窓からの脱走を防いでもらう」
「わかった。カーラも十分に気をつけてね?」
「うん」

ターザが窓から出て行く。今部屋の外に出れば、鉢合わせしてしまうのだ。

王子達の部屋はこの部屋の真上。カトラは気配を読みながらその時を待った。

部屋の中にいるのは、護衛一人。双子は幼いが、食事も着替えも大抵のことは自分たちでできる。兄であるマリウスが少し手伝うくらいで問題がないのだろう。

それがあるから、護衛も少数で侍女達も連れずに祭り見学に来られたのだ。マリウス自身、それなりに自衛もできる腕を持っている。

帰りは聞くところによると侯爵一行と王都に戻るようだ。不用心ではあるが、考えていないわけではないらしい。

その時、上階へと影達が上がったのを察した。これでカトラの方へ来る者はいないと確認が取れた。

もう双子達は眠っている。奥の寝室の手間、そこでマリウスと護衛の一人が話しをしているようだ。ならばとカトラはそこへ転移した。

「なっ」
「っ!?」

当然驚く。声を上げられないよう、カトラは即座に二人の口を手で塞いだ。それから素早く状況を説明する。

「静かにっ、今部屋の外に聖王国の影が来てる。いい? なるべく自然に、奥の寝室の方に行って二人と一緒にいて」
「っ、わかった……」

マリウスは護衛と頷き合い、寝室の方へ向かう。こういう場合、護衛が駄々をこねるものだが、拍子抜けだ。

相変わらず、カトラはガラドのことを覚えていなかった。どうでもいい人のことは覚えないのがカトラだ。覚える努力は最初から放棄している。

そして、カトラはお茶の用意を始めた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
四日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...