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第一幕 第一章 家にいる気はありません
059 どっちに来るかな
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2019. 2. 26
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カトラの予想通り、宿へ行くと歓迎された。お忍びとはいえ、明らかに貴族らしい一行を泊めることになっていたため、警備が不安だったらしい。
因みに、侯爵夫妻も同じ宿だった。この町に来る時はここを利用するのだという。見込んでいた警備体制に加え、侯爵の護衛もいるとはいえ、不安はあったようだ。
余計にカトラは歓迎された。
部屋も良い部屋だ。ターザと二人で部屋を取ったのだが、寝室も二つあるスイートだった。
そして、夜半。それは現れた。
「来たみたいだね」
「うん……ところでターザ、なんで別に寝室があるのに、ここにいるの?」
そう。なぜかターザは同じベッドに入って本を読んでいた。
「いつもは同じ部屋でしょ? それに、このベッドは大きいから、一緒に寝ても狭くないよね」
「そうだけど……」
当たり前のように言われると、それもそうだなと思ってしまう。ターザも変に意識させる気はないらしく、同じベッドにいても触れることはない。
今までもカトラが落ち込んでいたりしない限りは、しっかりと距離を取ってくれていた。特におかしなことではない。
「それより、どうする?」
「うん……ただの盗賊とは違うし、タイミングが難しいかも」
ただの物盗りならば、怪しい動きをして宿に近付いた時点で捕まえても問題はない。いくら言い訳を並べようと、調べれば盗っ人であるという事実は変わらない。
だが、今回の相手は聖王国の影達だ。なんの証拠もなく捕らえれば、国際問題になる可能性もある。
「警備の人数はそれなりにいるし、宿もしっかりしてるから、中に入ってもらう?」
「そうだね……でも、どっちに来るかな」
どっちとは、カトラの方か双子の王子の方かということだ。
薬草を使ったお菓子を出しているということで、ベジラブの方も調べていたようなのだ。彼らならば、ベジラブにカトラが関わっているといずれ分かる。
聖王国は神聖魔術によって栄えてきた国。その力の有用性を脅かすほどのカトラの薬学の知識が危険視されているのだ。だから今回、カトラを狙ってのことかとターザは警戒している。
「多分、あの子達を追ってこの町に来たんだと思う。警護の人数も少ないしね。私を狙ってるなら、間違いなく野営中にする」
「なるほど。なら、やりやすいね」
「うん。ターザは部屋の外から行ってくれる?逃げられないように」
「部屋に入れちゃえばいいってことだね」
部屋の外で護衛する者達が対処出来ればそれでいいが、できないのならば、部屋に入ってしまってもらった方が狙いがはっきりする。言い逃れができない状況にするのだ。
「ナワちゃんには窓からの脱走を防いでもらう」
「わかった。カーラも十分に気をつけてね?」
「うん」
ターザが窓から出て行く。今部屋の外に出れば、鉢合わせしてしまうのだ。
王子達の部屋はこの部屋の真上。カトラは気配を読みながらその時を待った。
部屋の中にいるのは、護衛一人。双子は幼いが、食事も着替えも大抵のことは自分たちでできる。兄であるマリウスが少し手伝うくらいで問題がないのだろう。
それがあるから、護衛も少数で侍女達も連れずに祭り見学に来られたのだ。マリウス自身、それなりに自衛もできる腕を持っている。
帰りは聞くところによると侯爵一行と王都に戻るようだ。不用心ではあるが、考えていないわけではないらしい。
その時、上階へと影達が上がったのを察した。これでカトラの方へ来る者はいないと確認が取れた。
もう双子達は眠っている。奥の寝室の手間、そこでマリウスと護衛の一人が話しをしているようだ。ならばとカトラはそこへ転移した。
「なっ」
「っ!?」
当然驚く。声を上げられないよう、カトラは即座に二人の口を手で塞いだ。それから素早く状況を説明する。
「静かにっ、今部屋の外に聖王国の影が来てる。いい? なるべく自然に、奥の寝室の方に行って二人と一緒にいて」
「っ、わかった……」
マリウスは護衛と頷き合い、寝室の方へ向かう。こういう場合、護衛が駄々をこねるものだが、拍子抜けだ。
相変わらず、カトラはガラドのことを覚えていなかった。どうでもいい人のことは覚えないのがカトラだ。覚える努力は最初から放棄している。
そして、カトラはお茶の用意を始めた。
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読んでくださりありがとうございます◎
四日空きます。
よろしくお願いします◎
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カトラの予想通り、宿へ行くと歓迎された。お忍びとはいえ、明らかに貴族らしい一行を泊めることになっていたため、警備が不安だったらしい。
因みに、侯爵夫妻も同じ宿だった。この町に来る時はここを利用するのだという。見込んでいた警備体制に加え、侯爵の護衛もいるとはいえ、不安はあったようだ。
余計にカトラは歓迎された。
部屋も良い部屋だ。ターザと二人で部屋を取ったのだが、寝室も二つあるスイートだった。
そして、夜半。それは現れた。
「来たみたいだね」
「うん……ところでターザ、なんで別に寝室があるのに、ここにいるの?」
そう。なぜかターザは同じベッドに入って本を読んでいた。
「いつもは同じ部屋でしょ? それに、このベッドは大きいから、一緒に寝ても狭くないよね」
「そうだけど……」
当たり前のように言われると、それもそうだなと思ってしまう。ターザも変に意識させる気はないらしく、同じベッドにいても触れることはない。
今までもカトラが落ち込んでいたりしない限りは、しっかりと距離を取ってくれていた。特におかしなことではない。
「それより、どうする?」
「うん……ただの盗賊とは違うし、タイミングが難しいかも」
ただの物盗りならば、怪しい動きをして宿に近付いた時点で捕まえても問題はない。いくら言い訳を並べようと、調べれば盗っ人であるという事実は変わらない。
だが、今回の相手は聖王国の影達だ。なんの証拠もなく捕らえれば、国際問題になる可能性もある。
「警備の人数はそれなりにいるし、宿もしっかりしてるから、中に入ってもらう?」
「そうだね……でも、どっちに来るかな」
どっちとは、カトラの方か双子の王子の方かということだ。
薬草を使ったお菓子を出しているということで、ベジラブの方も調べていたようなのだ。彼らならば、ベジラブにカトラが関わっているといずれ分かる。
聖王国は神聖魔術によって栄えてきた国。その力の有用性を脅かすほどのカトラの薬学の知識が危険視されているのだ。だから今回、カトラを狙ってのことかとターザは警戒している。
「多分、あの子達を追ってこの町に来たんだと思う。警護の人数も少ないしね。私を狙ってるなら、間違いなく野営中にする」
「なるほど。なら、やりやすいね」
「うん。ターザは部屋の外から行ってくれる?逃げられないように」
「部屋に入れちゃえばいいってことだね」
部屋の外で護衛する者達が対処出来ればそれでいいが、できないのならば、部屋に入ってしまってもらった方が狙いがはっきりする。言い逃れができない状況にするのだ。
「ナワちゃんには窓からの脱走を防いでもらう」
「わかった。カーラも十分に気をつけてね?」
「うん」
ターザが窓から出て行く。今部屋の外に出れば、鉢合わせしてしまうのだ。
王子達の部屋はこの部屋の真上。カトラは気配を読みながらその時を待った。
部屋の中にいるのは、護衛一人。双子は幼いが、食事も着替えも大抵のことは自分たちでできる。兄であるマリウスが少し手伝うくらいで問題がないのだろう。
それがあるから、護衛も少数で侍女達も連れずに祭り見学に来られたのだ。マリウス自身、それなりに自衛もできる腕を持っている。
帰りは聞くところによると侯爵一行と王都に戻るようだ。不用心ではあるが、考えていないわけではないらしい。
その時、上階へと影達が上がったのを察した。これでカトラの方へ来る者はいないと確認が取れた。
もう双子達は眠っている。奥の寝室の手間、そこでマリウスと護衛の一人が話しをしているようだ。ならばとカトラはそこへ転移した。
「なっ」
「っ!?」
当然驚く。声を上げられないよう、カトラは即座に二人の口を手で塞いだ。それから素早く状況を説明する。
「静かにっ、今部屋の外に聖王国の影が来てる。いい? なるべく自然に、奥の寝室の方に行って二人と一緒にいて」
「っ、わかった……」
マリウスは護衛と頷き合い、寝室の方へ向かう。こういう場合、護衛が駄々をこねるものだが、拍子抜けだ。
相変わらず、カトラはガラドのことを覚えていなかった。どうでもいい人のことは覚えないのがカトラだ。覚える努力は最初から放棄している。
そして、カトラはお茶の用意を始めた。
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