転生令嬢は平穏な人生を夢みる『理不尽』の破壊者です。

紫南

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第一幕 第一章 家にいる気はありません

045 似合っちゃいそうじゃない

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2018. 12. 25

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カトラが打ち合わせを終えて商業ギルドを出る頃には、ターザが入り口で待っていた。

「早かったね?」
「そんなに手間じゃないからね。仕掛けは万全だよ」
「……仕掛け……いや、うん。問題ないなら良いよ」

何を仕掛けたのか不安だったが、知るのは怖い。黙っておくに限る。

「この後は? もう帰るだけ?」
「冒険者ギルドに寄るよ」
「警備の依頼?」
「そっちはもう任せてる」
「じゃぁなんで?」

それ以外に何があるのかと不思議がるターザに、カトラは自身の右脇へと視線を投げる。

「ナワちゃんがね……」
「ナワちゃん? ああ、配置とかの確認?」
「それもある……」
「ん?」

歯切れの悪いカトラに、ターザは気になって仕方がないようだが、こればっかりは見てもらった方が早いと黙っておいた。

幸い、冒険者ギルドにはすぐに到着した。

ギルドに入ると夕方ということもあり、依頼を終えて戻ってきた冒険者達が多い。そんな大勢の冒険者達の目が一斉に向けられた。

「……」

ターザが不機嫌そうにスッとカトラの前に出たのは反射的な行動なのだろうか。

そんなターザの背中をトントンと叩く。振り返ったところで指を差した。

「大丈夫だよ。ほら」
「……ナワちゃん?」

すでにカトラの腰から離れたナワちゃんが、床をスルスルと移動し、受付の一つの上に乗る。

カトラが指を差したことで、それに皆の目が集中する。その先ではナワちゃんが受付の机の上で文字を作ろうとしていた。

同時にカトラは耳を塞いだ。

《ー皆の者! 準備はいいか!!ー》

ビシッと作られたその文字を目で追った冒険者達は、一斉に腕を上げた。

「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」

ビリビリと空気が震えるほどの咆哮だった。

「え……なにこれ……」

それから、ナワちゃんの後ろでギルド職員達が広げたのは町の地図だ。

それを指し示しながら、ナワちゃんが警備体制の確認をしていく。

冒険者達は大人しくそれを見つめ、話し合い、手を上げて意見や質問を述べる。そんな様子を呆然と見つめるターザ。びっくりするだろう。

「ここのギルド、ナワちゃんの支持率ハンパないの」
「……すごいね、これ……」
「ナワちゃんも人が変わるっていうか……あ、縄か……縄が変わる……ん?」

よくわからなくなった。

「でもこれはこれでちょっとイヤだな」
「なんで?」
「だって、ナワちゃんはカーラの相棒でしょう? なのにカーラを無視するなんて」

カトラが注目されるのは嫌だが、無視される今の状態も気に入らないらしい。

「ターザ、ワガママ……」
「そう?」

そんな話をしながら、カトラとターザはギルドの隅の方にある席に落ち着く。

「それにしても、ナワちゃん気合い入ってるね。あれ、カーラが教えたの?」
「……ちょっと、話聞かせたやつに影響されたっていうか……」

実はヒーローものや王道の戦記ものなど、前世で観たアニメやドラマ、映画の話を聞かせていたことがあった。それが影響しているのは間違いない。

「ふ~ん……カーラはやっちゃダメだよ?」
「なんで?」

机にティーセットを用意しながらそう口にするターザに首を傾げる。

「だって、似合っちゃいそうじゃない」
「え……似合う?」
「うん。それで、いっぱいああいいうのが付いて来ちゃうんだ」
「ああいうの……」

屈強な男たちが、今や床に体育座りをしていた。完全にナワちゃんの独断場だ。

《ー祭りの成功は我々にかかっている!ー》
《ー班分けを発表なさい!ー》
「はい、ナワさん!」

職員達までナワちゃんに指示されている。

《ーいいか! 絶対成功させるぞ!!ー》
「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」

そんな様子を、カトラとターザは感心しながら見つめる。

「ナワちゃん、楽しそう」
「なんか、任せとけば大丈夫って感じするね」

安心し過ぎなくらい、二人は場違いなほど呑気に紅茶とお菓子を堪能していた。

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読んでくださりありがとうございます◎
次回、三日空きます。
よろしくお願いします◎
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