42 / 118
第一幕 第一章 家にいる気はありません
042 カーラを見てるんだけど
しおりを挟む
2018. 12. 13
**********
カトラはミルサルトにある商業ギルドへやって来ていた。
迷わず中に入ってカウンターへ向かおうとするカトラとは違い、ターザは珍しそうに周りを見回していた。
「ターザ、来たことないの?」
「ないね。うちの国だとキラキラした成り金がたむろってるから、近付こうって思えなくて。でも、ここは静かだね」
ターザの国では、奇抜に着飾った一癖も二癖もある商人達が沢山いるらしい。南の温暖な気候の国ということもあるのだろうか。賑やかで派手好きな者たちが多いそうだ。
商人達は、そんな国柄を全面に出して商売とする。南国特有のものが多いので、宣伝にもなるのだろう。そんな陽気な雰囲気も商売に活かす商人達が集まるのだ。ターザには居心地が悪いだろう。
入ってすぐのロビーには、落ち着いた雰囲気の椅子とテーブルが置かれている。ゆったりとそこで世間話をしている者達や、一人で本を読んでいる人などはいるが、動き回っている人はほとんどいなかった。
「たむろってはいないかな。すぐ個人的な商談に入っちゃうから、このロビーに居るのは大抵、商業登録待ちの人か待ち伏せしてる人かな」
「待ち伏せ?」
その声に反応したわけではないだろうが、不意にカトラの方へと数人の視線が集まる。揃って立ち上がるとターザが不快げに眉をひそめた。
「ターザ、冒険者じゃないから武力行使はダメだよ」
「でも、カーラを見てるんだけど」
「そういう所なの。ここは他よりマナーが良いから大丈夫」
「……わかったよ」
カトラが彼らに目を向けて少し会釈をすれば、相手は座ったままではあるが、深く頭を下げた。
それらを確認してから、カトラはカウンターへ向かう。
「話しかけては来ないんだね」
「こっちの用事が終わるの待ってくれるんだよ。それが出来ない人はここで取引できないの」
「へぇ……随分とお行儀良いんだね。うちの国のだったら、既に取り囲まれてると思うよ?」
ターザの持つ商人のイメージではそうだろう。誰よりも早く取引の話をしようとする。
「胡散臭い笑いとかもしないね」
「そういう人、ここの支部長が嫌いなの。『堅実に騙し合いじゃなく双方が納得した上での最高の関係を』ってのが理念でね。もちろん、駆け引きはするけど」
このミルサルト支部では、手揉みしながら笑顔を貼り付けたような下品な商人はいない。いわゆる凄腕の商人達が多いのだ。下手にも上手にも出ない。対等から入って商談をするので、高い水準の取引が行われる。
「煩くなくていいでしょ?」
「本当だね」
ターザも彼らの態度を見て落ち着いたらしい。
カウンターの前に立つと、受付嬢が立ち上がって深く頭を下げた。
「ようこそ、カーラ様。支部長に会われますか?」
「お願いします」
「ご案内いたします」
この受付嬢。余分な事は口にしない。一瞬ターザを見たが、そのまま案内してくれる。それにターザの方が気になったのだろう。
「俺も一緒に通していいのかい?」
「カーラ様のお連れ様ですので、そこは信用させていただいております」
商人は信用第一。よって、カーラが連れて来た者を詮索したりはしないのだ。
「ふぅ~ん……カーラってすごいんだね」
苦笑するカトラに対し、受付嬢が誇らしげに答える。
「もちろんです。カーラ様はこの国でも既にトップクラスの実績をお持ちですので。この支部の自慢です」
「そこまでかなぁ。でも、ありがとう。これからもよろしくね」
「はい」
この受付嬢は本気で誇らしいのだろう。普段はこんな風には喋らない。笑顔も美しいお姉さんだ。
彼女は到着した部屋のドアをノックし、カトラが来たことを中へ告げる。
「どうぞ、お入りください」
ドアを開け、頭を下げて中へと導くと、そのまま部屋を出て行った。
部屋にいたのは六十代頃の女性だった。
「あらあら、カーラちゃん。今日は素敵な殿方を連れているのね。結婚の報告かしら?」
これに、ターザが答える前にカトラが素早く応じた。
「違います。二日後のお祭りと支店の話をしたいと言っていたのは支部長でしょう」
「ふふふ、そうだったわ。こっちにかけて」
魅力的にふわふわと笑う支部長に勧められ、カトラとターザは並んでソファに座った。そして、向かいに座った支部長は、改めてカトラとターザを見て嬉しそうに笑う。
「すごくお似合いね」
「ありがとうございます。数年後にはちゃんとご挨拶できると思いますよ」
「まぁまぁ。ステキ! その時は盛大にお祝いするわ!」
「お願いします」
「……」
ターザが黙っていられるはずがなかった。
カトラは弁明を諦めて商談に移った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、三日空きます。
よろしくお願いします◎
**********
カトラはミルサルトにある商業ギルドへやって来ていた。
迷わず中に入ってカウンターへ向かおうとするカトラとは違い、ターザは珍しそうに周りを見回していた。
「ターザ、来たことないの?」
「ないね。うちの国だとキラキラした成り金がたむろってるから、近付こうって思えなくて。でも、ここは静かだね」
ターザの国では、奇抜に着飾った一癖も二癖もある商人達が沢山いるらしい。南の温暖な気候の国ということもあるのだろうか。賑やかで派手好きな者たちが多いそうだ。
商人達は、そんな国柄を全面に出して商売とする。南国特有のものが多いので、宣伝にもなるのだろう。そんな陽気な雰囲気も商売に活かす商人達が集まるのだ。ターザには居心地が悪いだろう。
入ってすぐのロビーには、落ち着いた雰囲気の椅子とテーブルが置かれている。ゆったりとそこで世間話をしている者達や、一人で本を読んでいる人などはいるが、動き回っている人はほとんどいなかった。
「たむろってはいないかな。すぐ個人的な商談に入っちゃうから、このロビーに居るのは大抵、商業登録待ちの人か待ち伏せしてる人かな」
「待ち伏せ?」
その声に反応したわけではないだろうが、不意にカトラの方へと数人の視線が集まる。揃って立ち上がるとターザが不快げに眉をひそめた。
「ターザ、冒険者じゃないから武力行使はダメだよ」
「でも、カーラを見てるんだけど」
「そういう所なの。ここは他よりマナーが良いから大丈夫」
「……わかったよ」
カトラが彼らに目を向けて少し会釈をすれば、相手は座ったままではあるが、深く頭を下げた。
それらを確認してから、カトラはカウンターへ向かう。
「話しかけては来ないんだね」
「こっちの用事が終わるの待ってくれるんだよ。それが出来ない人はここで取引できないの」
「へぇ……随分とお行儀良いんだね。うちの国のだったら、既に取り囲まれてると思うよ?」
ターザの持つ商人のイメージではそうだろう。誰よりも早く取引の話をしようとする。
「胡散臭い笑いとかもしないね」
「そういう人、ここの支部長が嫌いなの。『堅実に騙し合いじゃなく双方が納得した上での最高の関係を』ってのが理念でね。もちろん、駆け引きはするけど」
このミルサルト支部では、手揉みしながら笑顔を貼り付けたような下品な商人はいない。いわゆる凄腕の商人達が多いのだ。下手にも上手にも出ない。対等から入って商談をするので、高い水準の取引が行われる。
「煩くなくていいでしょ?」
「本当だね」
ターザも彼らの態度を見て落ち着いたらしい。
カウンターの前に立つと、受付嬢が立ち上がって深く頭を下げた。
「ようこそ、カーラ様。支部長に会われますか?」
「お願いします」
「ご案内いたします」
この受付嬢。余分な事は口にしない。一瞬ターザを見たが、そのまま案内してくれる。それにターザの方が気になったのだろう。
「俺も一緒に通していいのかい?」
「カーラ様のお連れ様ですので、そこは信用させていただいております」
商人は信用第一。よって、カーラが連れて来た者を詮索したりはしないのだ。
「ふぅ~ん……カーラってすごいんだね」
苦笑するカトラに対し、受付嬢が誇らしげに答える。
「もちろんです。カーラ様はこの国でも既にトップクラスの実績をお持ちですので。この支部の自慢です」
「そこまでかなぁ。でも、ありがとう。これからもよろしくね」
「はい」
この受付嬢は本気で誇らしいのだろう。普段はこんな風には喋らない。笑顔も美しいお姉さんだ。
彼女は到着した部屋のドアをノックし、カトラが来たことを中へ告げる。
「どうぞ、お入りください」
ドアを開け、頭を下げて中へと導くと、そのまま部屋を出て行った。
部屋にいたのは六十代頃の女性だった。
「あらあら、カーラちゃん。今日は素敵な殿方を連れているのね。結婚の報告かしら?」
これに、ターザが答える前にカトラが素早く応じた。
「違います。二日後のお祭りと支店の話をしたいと言っていたのは支部長でしょう」
「ふふふ、そうだったわ。こっちにかけて」
魅力的にふわふわと笑う支部長に勧められ、カトラとターザは並んでソファに座った。そして、向かいに座った支部長は、改めてカトラとターザを見て嬉しそうに笑う。
「すごくお似合いね」
「ありがとうございます。数年後にはちゃんとご挨拶できると思いますよ」
「まぁまぁ。ステキ! その時は盛大にお祝いするわ!」
「お願いします」
「……」
ターザが黙っていられるはずがなかった。
カトラは弁明を諦めて商談に移った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、三日空きます。
よろしくお願いします◎
30
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。
章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。
これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。
だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。
一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

美人な姉と『じゃない方』の私
LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。
そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。
みんな姉を好きになる…
どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…?
私なんか、姉には遠く及ばない…

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる