上 下
22 / 118
第一幕 第一章 家にいる気はありません

022 実証実験……ダメ?

しおりを挟む
2018. 10. 10

**********

ターザは裏切らない。だから絶対の味方だ。そう思えるくらいには信頼しているのだが、信用とは違った。

「……ねぇ、ターザ……これはあまりにも……」

城から出て行こうとするカトラを、多くの者達が引き留めようと向かってきた。

けれど、それらを全部スルーしてみせるのがターザだ。もしこの時、カトラが歩いていたなら、辛うじて引き留められたかもしれない。

「ん? カーラは気にしないで。ナワちゃん、頼むよ」
《ーYes,Sir!ー》
「……ナワちゃん……」

本当に、どうしてナワちゃんは創造主とでもいえるべきカトラよりもターザの言葉を優先するのか。

《ー主はご安心をー》
《ー邪魔はさせませんのでー》
《ー蹴散らしてご覧に入れますー》
「いや……だって、あの人達、もう土下座……」

そう、多くの者が、何故か土下座して道を塞いでいるのだ。訳がわからない。『どうかお待ちくださいっ』とか『部屋にお戻りをっ』とか言って額を床に擦り付けるのだ。

剣さえも持っていないようで、争う気はないと体全体で示している。

そして、道を塞ごうとする者たちを、ナワちゃんがズルズルっと引っ掛けて端に寄せていく。

異様過ぎる光景だ。ナワちゃんは器用に、退かせた者たちの向きをも調整する。そうなるとどうなるか。

全員が中央を歩いていくターザ達へ頭を向けており、まるで王に傅くが如き道ができた。洋風の城に違和感が半端無い。だいたい、土下座をどこで知ったのだろうか。

だが、ターザはこれがいつものことだとでもいう様子で、平然と歩いている。そういえば、ターザの母国は南国だ。その話を聞く限り、あちらの国ではこんな感じなのかもしれない。それにダルも思い至ったのだろう。

「うわぁ……こりゃ引くなぁ……ターザの国を知って……いやいやっ、マジでターザお前、何したん?」
「何って、別に?」

何もしないでこうはならないだろう。確実に全面降伏を示させるほどの何かをやらかしている。

「カーラに手を出した奴らの腕は斬り飛ばしたけど、それ以外は何もしてないよ?」
「そういや、そんな奴らいたな……そうだな。多分、それだな」

間違いなくそれだろう。

「え? 何が?」
「いや、だから、コイツらが怖がってる理由だよ」

そう、震えているのだから。これは、異国の挨拶に則ってというわけではない。明らかに恐怖からの行動だ。崩折れるようにこの体勢になっていくのだから。

だが、そこで本当の原因に気付く。腕の中のカトラや、隣を歩くダルには感じられないだけだ。

「……ターザ、殺気漏れてる……?」
「あ~……なんつう器用な真似を……ピンポイントとかムズイだろ……」
「何? 攻撃するより平和的でしょ?」

もちろん、完全に道を塞ごうとする者達はそうして殺気を当てることで屈伏させているようだが、ゾロゾロと出てくる兵達はそれよりも先に腰が引けていた。

斬られた人の事を知っているのだろう。所々から、そんな話も聴こえてきた。

「殺気放ってる時点で平和じゃねぇよ……ったく……どうすんだ、これ……」

テロレベルだ。後ろを見ても、復活している人がほとんどいないのだから。

「……師匠、斬られたのって二人だよね?」
「おう、それがどうした?」

ターザがあの時、怒るとすれば相手は二人。腕輪を付けた騎士と、腕輪を用意した魔術師のはずだ。

「なら、これ渡してもらって。『欠損完治薬』実験の段階は済んでるし、多分、今はあの国に借りを作りたくないと思うから」
「カーラ、そんなの必要ないよ。あいつらは自業自得でしょ?」

不機嫌になるターザを真摯に見つめながら理由を告げる。

「メル君とセリ君のためだよ。それに、この薬、ちゃんと治るけどスっごく痛いんだ。まだ試作品だから」

神子の神聖魔術と違い、いくら古い欠損、元からなかった手足でも治るのだが、とにかく痛い。

「神聖魔術は時間を戻すんだけど、これは本当に生やすから」
「へぇ。それなら罰になるかな」

神経や骨、肉を新たに生成していくのだ。その様は恐ろしいだろうし、急激に作り出すために激しい痛みが伴う。

「それに、人に試すの初めてなんだ……実証実験……ダメ?」

さすがに人で実験はしていない。古代の文献から復元させたものだ。その性能は眉唾物で、本当であったとしてもデタラメな効果を持っている。簡単に実験できるものではなかった。盗賊にでも試してみようかと考えていた所だったのだ。

これに、ターザはあっさりと笑って許可した。

「それならいいよ。何より、あの国にも良い薬になりそうだしね」
「……うん……」

ターザに隠し事はできない。カトラがこの薬を出すことで与えようとしている影響さえ見抜いている。

それは、聖王国への牽制。それと、双子達から目を背けさせること。

「カーラがそこまで気を回してやる義理なんてないんだよ?」
「そうだけど……あの子達のためになるなら良いかなって……」
「気に入ったの?」
「……弟ができたみたいで……可愛かったから……」
「そう……」

ずっと、弟や妹が欲しかった。それに、あれ程慕われれば、凍り付いた心にも情が湧く。

「……子どもなら作ってあげられるのに……弟とか妹はちょっと難しいかな……」
「……」

何か聞いちゃいけない言葉を聞いたような気がする。こちらを反射的に見上げたダルも『あ~……』という顔をしていた。

「あ、そ、そんじゃ俺は、これ渡してくっから、先にギルド行ってろ」

来た通路を戻って行くダルをターザの肩越しに見送り、強張りそうになる体に苦労しながら苦笑する。

「……ターザ、そろそろ歩くよ?」
「ダメ、こいつらに触られたらどうするの? 大人しくしてて。馬車も用意するから」
「……うん……」

とりあえず、このまま街中を歩くようなことにはならないようで安心した。とはいえ『触られたら』とはどういう意味だろうか。疑問を抱きながらも、カトラ達は城を無事に脱出する。

そして、この後、向かったギルドでも土下座祭りが開催されるとは、さすがに予想できなかった。

**********

読んでくださりありがとうございます◎

次回、土曜13日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜
恋愛
 公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。  婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。  違和感を感じたエリザ。  彼女には貴金属の目利きスキルがあった。  直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...