上 下
50 / 199
mission 6 ギルド職員業務

050 少年の正体は

しおりを挟む
2018. 2. 3

**********

フードを取った少年に目を向ける。近付いてきた少年に、宗徳は少しばかり目をみはる。

金髪に緑の瞳の少年が、なぜか黒髪に黒い瞳の少年の姿がダブって見えたのだ。だが、ここは異世界。そんな事もあるのかと宗徳はすぐにこれを大した事のないものと頭を切り替えた。

「改めて、俺は宗徳。よろしく頼む」
「うん……あ、はい。僕は廉哉といいます……」
「レンヤ……?」

これはまた、日本人みたいな名前だなと奇妙に思った。

一方、廉哉は尋ねて良いものかどうか迷うような様子を見せる。先ほど帰した二人がいた時はぶっきらぼうな言い方だった彼だが、こちらが素なのかもしれない。

「時間を、無駄にする気はないのですがっ……聞きたい事があります……」

少し怯えるようにも見える。これは怖がられたかと反省しながら、宗徳は笑みを浮かべる。

「いいぞ。なんだ?」

こんな少年に、早く仕事をしろと責めるほど鬼畜ではない。

「む、ムネノリさんは、地球をご存知ですか!?」
「んん? ああ……というと……もしや、お前さん、日本人か?」
「はい!! よ、良かった……あ、会えた……っ、あっ、す、すみませんっ。すぐに地図をっ……」

そう言いながら、唐突に溢れ出た涙を乱暴に腕で拭う。

「こらこら、そんなんで擦るとバイキンが入るだろっ。ほれ、タオルがあるぞ」

宗徳は空間収納から、清潔なタオルを取り出して渡してやった。

「あ、ありがと……ございまっ……うっ、くっ……っ」

しばらく漏れてしまう嗚咽を必死で抑えている様子だった。顔に押し付けたフワフワなタオルは、石鹸の匂いがする。それを大きく吸い込むようにして、次第に落ち着いたようだ。

《くきゅ……》
「お、徨流そっとな」
《くきゅふ》

泣いている少年が心配になったらしい。他に人もいないので、徨流はしゅるりと宗徳の腕から離れると、廉哉の頭をツンツンと突くようにして覗き込む。

「っ……龍……?」
「こいつは徨流だ。問題になった霧の中心にいたリヴァイヤサンでな。まぁ、報告を聞いたところによると、こいつは暴れたり人を傷付けたりしてない。今は俺がそばにいるし、まだ子どもだからな。害はない」
《きゅふっ》
「っ、ふっ、くすぐったいよ」

やっと笑顔が見えた。

「あ、先に地図……仕事します」
「おう。頼む」

目を赤くしたままだったが、廉哉はしっかりと役目を果たしてくれた。

「これで合っていると思います……」
「ありがとなっ。さて、廉哉はこの後の予定は?」
「……ありません……ここに来たのは、奇妙な城が建ったと聞いたから……もしかしたら、僕と同じようにこちらへ来た人がいるかもしれないと思って……帰る方法を知らないかと……」
「ん? 帰れなかったのか?」

宗徳は、ライトクエストのようにこちらへ来る術があり、何か目的を持ってこの世界にいるのだと思っていたのだ。

泣いたのは、ただ、地球の人に会えた事が嬉しかっただけだと。ホームシックとでもいうのだろうか。そんなものだと思っていた。

「帰れませんっ……僕を召喚した国は、僕に邪神を封印させた後、僕を殺そうとしました……っ」
「何だとっ!? ちょっ、廉哉、とりあえず善じぃ……ここのギルドマスターに説明しろ。俺では色々まだ分からない事が多いからな。大丈夫だ。お前を追い出したり、殺させたりしない」
「っ……はいっ……お願いしますっ」

早速、善治に会わせようと立ち上がった宗徳だったが、そこで善治は今休んでいるということを思い出した。

「あっ、すまん。今は善じぃが寝てるわ。そうだなぁ……俺の部屋に来い。子どもらがいるが、そろそろ昼だからな。妻が戻ってくるだろう。まずそっちに行くぞ」

宗徳はすぐに戻ると同僚に言い置いて、廉哉を連れて部屋に向かう。すると、途中で寿子に出会うことができた。

「寿子」
「あら、あなた。その子、どうしたんです?」
「廉哉は日本人だ」
「えっ!? 私達の他にもこちらに?」
「そのことについて色々聞いておいてくれ。俺はまだ仕事が残ってるからな。子どもらと部屋にいてもらってくれ。そんで、善じぃが起きたら会わせてやってほしい」

悪い奴ではないことは、ここまでの様子で分かる。宗徳は自分の目を信じているのだ。そして、彼の鑑定結果はこれだ。


固有名称【廉哉】
レベル【126】
種別【人族(勇者:召喚された者)】
HP【5690/5780】
MP【8600/8600】


「ええ。分かりました。私は寿子。レンヤ君ね。一緒に行きましょう。そろそろお昼だし、一緒に食べましょう」
「食事……っ、はい!」
「じゃぁ、子ども達を迎えに行って食堂に行きましょうっ」

寿子に任せれば問題ないだろう。

「そんじゃ、俺はもう一仕事してくるからなっ」

そう声をかけると、寿子に注意された。

「お夕飯の時間には帰ってくるんですよっ。七時ですからねっ。徨流ちゃんもよっ」
「おうっ」
《くきゅふっ》

返事をすると、宗徳は会議室へ急ぎ戻ったのだ。

**********

読んでくださりありがとうございます◎


勇者らしいです。


次回、土曜10日0時です。
よろしくお願いします◎

しおりを挟む
感想 202

あなたにおすすめの小説

女神なんてお断りですっ。

紫南
ファンタジー
圧政に苦しむ民達を見るに耐えず、正体を隠して謀反を起こした第四王女『サティア・ミュア・バトラール』は、その企みを成功させた。 国を滅し、自身も死んでリセット完了。 しかし、次に気付いたら『女神』になっており?! 更には『転生』させられて?! 新たな生は好きにするっ!! 過去に得た知識や縁、女神として得てしまった反則級な能力で周りを巻き込みながら突き進む。 死後『断罪の女神』として信仰を得てしまった少女の痛快転生譚。 ◆初めて読まれる方には、人物紹介リポートを読まれる事をオススメいたします◎ 【ファンタジーが初めての方でも楽しんでいただける作品を目指しております。主人公は女の子ですが、女性も男性も嫌味なく読めるものになればと思います】 *書籍化に伴い、一部レンタル扱いになりました。 ☆書籍版とはアプローチの仕方やエピソードが違っています。 ●【2018. 9. 9】書籍化のために未公開となってしまった未収録エピソードを編集公開開始しました。【閑話】となっています◎

聖人様は自重せずに人生を楽しみます!

紫南
ファンタジー
前世で多くの国々の王さえも頼りにし、慕われていた教皇だったキリアルートは、神として迎えられる前に、人としての最後の人生を与えられて転生した。 人生を楽しむためにも、少しでも楽に、その力を発揮するためにもと生まれる場所を神が選んだはずだったのだが、早々に送られたのは問題の絶えない辺境の地だった。これは神にも予想できなかったようだ。 そこで前世からの性か、周りが直面する問題を解決していく。 助けてくれるのは、情報通で特異技能を持つ霊達や従魔達だ。キリアルートの役に立とうと時に暴走する彼らに振り回されながらも楽しんだり、当たり前のように前世からの能力を使うキリアルートに、お供達が『ちょっと待て』と言いながら、世界を見聞する。 裏方として人々を支える生き方をしてきた聖人様は、今生では人々の先頭に立って駆け抜けて行く! 『好きに生きろと言われたからには目一杯今生を楽しみます!』 ちょっと腹黒なところもある元聖人様が、お供達と好き勝手にやって、周りを驚かせながらも世界を席巻していきます!

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...