上 下
183 / 199
mission 17

183 変わっていくものですから

しおりを挟む
宗徳は、かなりこうした迷宮に慣れ始めていた。

「要は『解体判定』が出れば良いんだよ」
「……『解体判定』? 初めて聞いた」
「判定? 迷宮のってこと?」
「あっ、どこまでが攻撃で、どこからが解体かってことかっ」
「……倒した後の切り分け方? を、考える?」
「そういうことだ」

真っ二つになって倒せたとする。だが、そのまま五分経つと魔石がドロップして消えてしまうのだ。

一方、その倒したものの皮を剥ぎ、部位ごとに切り分けると、丸っと手に入る素材となる。この区別はどこからなのかということだ。

「この前、首を落として、羽を切り落とした状態だと、ダメだった。なら、そこに尻尾も切り落としたらどうなるか……」

そう言って、宗徳は近付いて来た一体のドラゴンの首を、亜空間から取り出した刀で断ち切った。声を上げる隙さえ見せず、落下してくる間に両翼と尻尾を切り落とす。

すかさず寿子が切断面から血が流れ出ないように結界で塞ぎ、指示を出した。

「受け止めるわよっ。ルイ君、頭お願い! 男の子二人で尻尾よ! 私たちは羽。あなた! 胴体いけるわね?」
「おうよっ。音は最小限になっ」

身体強化も出来る一同は、トサッという音だけで受け止め、それらを地面に置いた。

「とりあえず、これで五分待ってみるぞ」
「「「はい!」」」
「ん」
「成功するといいわねえ」

そうして、五分が経った。

「……消えない……っ」
「ドロップにならない……」
「成功?」
「おおっ。やった!」

こんなんでいいのかと、新しい発見に瑠偉も含めて大喜びする。解体を急がなくて良くなるというのは大きい。

「これっ、他の奴らにも教えても良いっスか!?」
「当然だろ」
「そうよ。普段からお仕事するのはあなた達なんだから」
「「「ありがとうございます!!」」」
「……嬉しい……」

本気で嬉しそうだ。

「さあ、じゃあ、血抜きしましょうか。周りに臭いがいかないように、結界の中に血を溜めて燃やすわ。今回は血は要らないのよね?」
「この前、大量に回収したから要らないって言われました」
「一体でも大量に手に入るから、当分要らないって言われたっス」

それを確認して、寿子は手早く圧縮して血を絞り出す。そして、処理を終えると、安全な場所を確保し、そこで本格的に解体を始める。

「お肉は少し持ち帰るんだったわよね?」
「そうです。食堂の方からの依頼で」
「何体分いるの?」
「一体分で充分ですよ。けど、私たち個人的にも欲しいので、二体分で。ヒサコさん達もいりますよね?」
「ドラゴン肉は美味えからなあ」
「そうねえ。抱えられるくらいの一塊りは欲しいわあ」

半年ほど前まで二人は、あまり肉を食べたいと思うことも無くなっていたが、最近は違う。体が求めているのかもしれない。若返って来ているということなのだろう。

「部位ごとで取ってみるか?」
「良いですねえっ」
「そうなると……とりあえず皮を剥いで……ここと、ここと……ここかっ」

スルスルと皮を剥ぎ、部位で大雑把に分ける宗徳。それを見て、瑠偉達が目を丸くする。

「……俺らより手際が良いんだけど……」
「ドラゴンの部位別って……俺、分からん……」
「考えたこともなかったわ……ドラゴンの肉はドラゴンの肉でしょう? 尻尾か首か胴体かってくらいしか……」
「……細かい……」

牛や豚のように、細かく部位で分けているように見えるのだ。寿子も、なぜ分かるのか気になったらしい。

「あなた……勉強しました?」
「おう。薔薇様がこの前、美味い魔獣五十選って本をくれたんだよ。それが結構面白くてさあ」
「……ゲテモノは嫌ですからね?」
「どこからがゲテモノだ? ドラゴンもそっちに分類する人いねえかな?」
「それもそうですね……虫じゃなければ許します」
「ああ……虫も二つくらいしかなかったし、分かった!」
「危なかったわ……」

寿子は胸を撫で下ろす。宗徳なら、その五十選をコンプリートしたがるだろう。突然、『コレ美味いんだってさっ!』と虫系を持って来られたら、今の寿子には粉砕する自信がある。

「ヒサコさんも大変なんだね……」
「こういう嗜好とかはね。付き合ってる段階では分からなかったりするのよ。人は日々、成長して、時に新しい一面に目覚める生き物ですからね……」
「深いね……」
「最低限、結婚する前にその人が何に、誰に弱いか、どこまでワガママを聞いてくれるかの確認はした方が良いわよ。夫婦も他人ですからね。本当の本当の最低限の身の安全は自分で確保しておくべきです。もちろん、男も女も関係なく」
「「「なるほど……」」」
「……」

嬉々として解体を続ける宗徳を見つめ、夫婦って奥が深いなと若者達はうんうんと頷いた。

そんな一幕もありつつ、宗徳達は、順調にドラゴン狩りを続けたのだ。







**********
読んでくださりありがとうございます◎

ご報告いただきましたこちらの作品の
無断使用については解決したはずです……
恐らくという感じですが……
次がありましたら法的な手続きをしようと
思っております。
ご心配いただきましたことお礼申し上げます。




しおりを挟む
感想 202

あなたにおすすめの小説

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

公爵令嬢は父の遺言により誕生日前日に廃嫡されました。

夢見 歩
ファンタジー
日が暮れ月が昇り始める頃、 自分の姿をガラスに写しながら静かに 父の帰りを待つひとりの令嬢がいた。 リリアーヌ・プルメリア。 雪のように白くきめ細かい肌に 紺色で癖のない綺麗な髪を持ち、 ペリドットのような美しい瞳を持つ 公爵家の長女である。 この物語は 望まぬ再婚を強制された公爵家の当主と 長女による生死をかけた大逆転劇である。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ⚠︎ 義母と義妹はクズな性格ですが、上には上がいるものです。 ⚠︎ 国をも巻き込んだ超どんでん返しストーリーを作者は狙っています。(初投稿のくせに)

女神なんてお断りですっ。

紫南
ファンタジー
圧政に苦しむ民達を見るに耐えず、正体を隠して謀反を起こした第四王女『サティア・ミュア・バトラール』は、その企みを成功させた。 国を滅し、自身も死んでリセット完了。 しかし、次に気付いたら『女神』になっており?! 更には『転生』させられて?! 新たな生は好きにするっ!! 過去に得た知識や縁、女神として得てしまった反則級な能力で周りを巻き込みながら突き進む。 死後『断罪の女神』として信仰を得てしまった少女の痛快転生譚。 ◆初めて読まれる方には、人物紹介リポートを読まれる事をオススメいたします◎ 【ファンタジーが初めての方でも楽しんでいただける作品を目指しております。主人公は女の子ですが、女性も男性も嫌味なく読めるものになればと思います】 *書籍化に伴い、一部レンタル扱いになりました。 ☆書籍版とはアプローチの仕方やエピソードが違っています。 ●【2018. 9. 9】書籍化のために未公開となってしまった未収録エピソードを編集公開開始しました。【閑話】となっています◎

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...