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mission 16 家族と友人と
174 子どもの成長は早い
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この屋敷の敷地内には、屋敷を囲むように果樹園、薬草園、庭園、食菜園がある。
屋敷の北側は日が当たりにくいため使いにくいと思われがちだが、日が当たらないなら当たらないなりに都合の良い物を植えれば良いだけだ。
よって、北側にあるのは食菜園。食べられる植物ならなんでも植えるという菜園が広がっている。
屋敷の正面、南側より北側の方が広く、屋敷の影になる場所だけではないため、特に今の所問題はなかった。
因みに屋敷の南側が庭園で、東側が薬草園、西側に果樹園だ。
宗徳がここに手入れ用の肥料や鋏などを持ってやって来ると、徨流が飛んできた。
《くきゅ~》
「おっ、菓子作りはいいのか?」
《くふんっ》
「ああ……その手ではあんま手伝えなかったか」
《くきゅ……》
徨流の姿は、竜だ。手が短く小さい。何かを持って来たりするお手伝いは出来るが、中々難しいものがある。
「まあ、ほれ、俺と一緒で食う専門だな」
《くきゅ……》
でもやってみたかったというのはあるのだろう。少し落ち込みながら、宗徳の腕に巻き付いた。
「はあ……どうしたもんかな……」
《……》
白欐や黒欐の場合は見ているだけで充分楽しいと思っているようで、琥翔も何かをしている子ども達の傍に居られれば、今は満足している。
だが徨流は頭も良いからか、子ども達と同じことをやってみたいと思うようになっているようだ。
宗徳はどうにかしてやりたいと考えながら、野菜の様子を確認していく。
こうした菜園の仕事は最近始めたばかりのため、徨流は手を出さず、じっと見つめて観察している。
どうしてそうするのか。そういうことを考えているのだろう。言葉での質問よりも、徨流は観察して自分で答えを見つけようとしているようだった。
そこで宗徳は思い出したのだ。
「あ……人型になれればいいのか」
《くきゅ?》
円な徨流の瞳と目が合う。
そう。徨流が生まれた国。今は海の底にある獣人達の国では、母親であるリヴァイアサンも人型になっていた。そして、徨流も人型になれていたのだ。
「徨流……今も人型になれないのか?」
《……くきゅ……》
「そうか……いや。なんでもない。こっちでは無理かもしれんしな」
寿子にも、人型の姿をあちらでは一度見せていた。しかし、その一度きりで、それからなぜか人型になれなくなった。
宗徳や寿子は気にしなかったが、しばらく徨流は落ち込んでいた。とはいえ、宗徳達が気にしないと分かり、徨流もそれで悩むことはなくなったが、やはり人型になれればと思うことはあるのだろう。
「……どうにかしてやりたいが……」
考え込む宗徳。
《……きゅ?》
その時、徨流が頭を持ち上げて上へと顔を向ける。それと同時に、影になったことに気付き、宗徳も上を向いた。
「ん? あっ」
するとそこには、小さな雲の上に腰掛けながら、黒いレースのパラソルを差して宙に浮いている薔薇がいた。
「薔薇様? あ、オムライスはどうでした?」
「美味しかったよ。とても可愛らしくて、そのまま置いておきたかったんだが、残念だ……」
「いや、食べ物はなるべく早めに食べましょうよ」
「気を付けよう。それで? 何かを悩んでいるようだったが?」
「あ~……その。徨流の事なんですが……」
そうして、宗徳は向こうの世界でのことなどを話し、また人化できないものかと相談した。
「なるほど……」
「あそこでは一時期とはいえ出来たんで、子どもだから出来ないというわけでもないんじゃないかと」
「ふむ……どれ、こちらへ」
《くきゅ? くきゅっ》
行けばいいのかと宗徳に首を傾げて見せる徨流。それに宗徳が頷けば、するりと宗徳の腕から離れ、薔薇の差し出す手の上に頭を載せる。
「魔力……に問題はない……一度人化しようとしてみなさい」
《くきゅっ》
体が光に包まれる。しかし、しばらくして姿が変わらないまま光が収まってしまった。
《くきゅ……》
落ち込む様子の徨流を宗徳は見上げたまま心配そうに見つめる。
すると、薔薇の中で答えが出たようだ。
「ふむ。一つ確認しよう」
《きゅ?》
「人は……生き物は、完成するまで成長するものだ」
《くきゅう?》
「簡単言えば、年を取るということだ。お前も、成長し大きくなる。その姿は仮のものだろう? だから、成長したという実感がないのではないか?」
《くきゅ……きゅ?》
「そうだ。人型の姿も成長する」
それを聞いて、徨流は再び光を放った。
そして、今度はその光の型が変わっていく。大きく丸くなった光が弾けるように消えると、ゆっくりと宙空から子どもが背を向けて地面に降り立つ。
「……徨流?」
畑の中に立つその子の背は、確かに以前よりも高かった。けれどまだ子どもだ。悠遠より少し高いくらい。
白に近い青みがかった髪の毛は、以前の人型になった時と同じ地面スレスレの長さ。着物のような服も同じだった。
そして、自分の手の動きや隣にある野菜の大きさなどと自分の背の高さを確認し、宗徳を振り返った。
「とうちゃんっ」
嬉しそうに駆け出してくる人型になった徨流。その体を抱き留める。
「おおっ。ちょっと大っきくなったなっ」
「うん! おっきくなった!」
前は三歳頃の姿だったが、今は五歳頃という姿だった。
そんな二人の様子を、薔薇は上から微笑ましげに見つめていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
屋敷の北側は日が当たりにくいため使いにくいと思われがちだが、日が当たらないなら当たらないなりに都合の良い物を植えれば良いだけだ。
よって、北側にあるのは食菜園。食べられる植物ならなんでも植えるという菜園が広がっている。
屋敷の正面、南側より北側の方が広く、屋敷の影になる場所だけではないため、特に今の所問題はなかった。
因みに屋敷の南側が庭園で、東側が薬草園、西側に果樹園だ。
宗徳がここに手入れ用の肥料や鋏などを持ってやって来ると、徨流が飛んできた。
《くきゅ~》
「おっ、菓子作りはいいのか?」
《くふんっ》
「ああ……その手ではあんま手伝えなかったか」
《くきゅ……》
徨流の姿は、竜だ。手が短く小さい。何かを持って来たりするお手伝いは出来るが、中々難しいものがある。
「まあ、ほれ、俺と一緒で食う専門だな」
《くきゅ……》
でもやってみたかったというのはあるのだろう。少し落ち込みながら、宗徳の腕に巻き付いた。
「はあ……どうしたもんかな……」
《……》
白欐や黒欐の場合は見ているだけで充分楽しいと思っているようで、琥翔も何かをしている子ども達の傍に居られれば、今は満足している。
だが徨流は頭も良いからか、子ども達と同じことをやってみたいと思うようになっているようだ。
宗徳はどうにかしてやりたいと考えながら、野菜の様子を確認していく。
こうした菜園の仕事は最近始めたばかりのため、徨流は手を出さず、じっと見つめて観察している。
どうしてそうするのか。そういうことを考えているのだろう。言葉での質問よりも、徨流は観察して自分で答えを見つけようとしているようだった。
そこで宗徳は思い出したのだ。
「あ……人型になれればいいのか」
《くきゅ?》
円な徨流の瞳と目が合う。
そう。徨流が生まれた国。今は海の底にある獣人達の国では、母親であるリヴァイアサンも人型になっていた。そして、徨流も人型になれていたのだ。
「徨流……今も人型になれないのか?」
《……くきゅ……》
「そうか……いや。なんでもない。こっちでは無理かもしれんしな」
寿子にも、人型の姿をあちらでは一度見せていた。しかし、その一度きりで、それからなぜか人型になれなくなった。
宗徳や寿子は気にしなかったが、しばらく徨流は落ち込んでいた。とはいえ、宗徳達が気にしないと分かり、徨流もそれで悩むことはなくなったが、やはり人型になれればと思うことはあるのだろう。
「……どうにかしてやりたいが……」
考え込む宗徳。
《……きゅ?》
その時、徨流が頭を持ち上げて上へと顔を向ける。それと同時に、影になったことに気付き、宗徳も上を向いた。
「ん? あっ」
するとそこには、小さな雲の上に腰掛けながら、黒いレースのパラソルを差して宙に浮いている薔薇がいた。
「薔薇様? あ、オムライスはどうでした?」
「美味しかったよ。とても可愛らしくて、そのまま置いておきたかったんだが、残念だ……」
「いや、食べ物はなるべく早めに食べましょうよ」
「気を付けよう。それで? 何かを悩んでいるようだったが?」
「あ~……その。徨流の事なんですが……」
そうして、宗徳は向こうの世界でのことなどを話し、また人化できないものかと相談した。
「なるほど……」
「あそこでは一時期とはいえ出来たんで、子どもだから出来ないというわけでもないんじゃないかと」
「ふむ……どれ、こちらへ」
《くきゅ? くきゅっ》
行けばいいのかと宗徳に首を傾げて見せる徨流。それに宗徳が頷けば、するりと宗徳の腕から離れ、薔薇の差し出す手の上に頭を載せる。
「魔力……に問題はない……一度人化しようとしてみなさい」
《くきゅっ》
体が光に包まれる。しかし、しばらくして姿が変わらないまま光が収まってしまった。
《くきゅ……》
落ち込む様子の徨流を宗徳は見上げたまま心配そうに見つめる。
すると、薔薇の中で答えが出たようだ。
「ふむ。一つ確認しよう」
《きゅ?》
「人は……生き物は、完成するまで成長するものだ」
《くきゅう?》
「簡単言えば、年を取るということだ。お前も、成長し大きくなる。その姿は仮のものだろう? だから、成長したという実感がないのではないか?」
《くきゅ……きゅ?》
「そうだ。人型の姿も成長する」
それを聞いて、徨流は再び光を放った。
そして、今度はその光の型が変わっていく。大きく丸くなった光が弾けるように消えると、ゆっくりと宙空から子どもが背を向けて地面に降り立つ。
「……徨流?」
畑の中に立つその子の背は、確かに以前よりも高かった。けれどまだ子どもだ。悠遠より少し高いくらい。
白に近い青みがかった髪の毛は、以前の人型になった時と同じ地面スレスレの長さ。着物のような服も同じだった。
そして、自分の手の動きや隣にある野菜の大きさなどと自分の背の高さを確認し、宗徳を振り返った。
「とうちゃんっ」
嬉しそうに駆け出してくる人型になった徨流。その体を抱き留める。
「おおっ。ちょっと大っきくなったなっ」
「うん! おっきくなった!」
前は三歳頃の姿だったが、今は五歳頃という姿だった。
そんな二人の様子を、薔薇は上から微笑ましげに見つめていた。
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