上 下
173 / 197
mission 16 家族と友人と

173 妖精の識別は無理?

しおりを挟む
本はパタパタと飛んでいるわけではなく、妖精が運んでいる。

本の大きさは、太さもある図鑑サイズ。そこに妖精達が上に乗ることで、浮き上がる。

「「……っ」」
「どうだ? 想像通りの姿だろ?」

妖精には、カゲロウのような薄い羽が背中に二対。光を纏いながら、時折僅かに震えるように動くのは確認できる。

「「……」」

じっと妖精を観察、見つめる徹と征哉。ゆっくりと、二人の眉間に皺が寄るのを見て、宗徳は何を考えているのかを察する。

「あれだろ? あの羽、意味あんのかって思っただろ」
「……っ」
「……あんま羽ばたき? が……ない……」
「それな。俺も最初思った」

妖精達は、本をまるで空飛ぶ絨毯のように使って飛んでいる。

単独で飛んでいるのも居るのだが、それらは虫のように残光を残して一瞬で通り過ぎていくため、どうやって飛んでいるのかわからない。羽がどう動いているのかも目視では確認できなかった。

「アレ、羽じゃねえんだよ」
「「は?」」

間違いなく羽のように見えるが、羽ではないのだ。

「魔力が光みたいに噴射されてんだよ。だから、ほれ。飛んでない奴は小人にしか見えんだろ?」
「っ、羽がないっ」
「っ、て、手、振ってる……」

窓辺にある机のフチに腰掛けている妖精には、羽がなかった。

そして、本の上に乗って飛び立とうとする者には、背中に羽が生えていく。

その中の一人(?)が手を振っていた。

「おっ。サダルム。今日は禁書庫じゃねえのか?」

そこに近付いていく宗徳に釣られるように、一定の距離を保ち、徹と征哉がついていく。

サダルムと呼ばれた妖精は、本に正座するように座って浮き、近付いてきた。そして、元気に片手を上げて笑う。

《ノリちゃんっ。やっほっ。ようやく寝かしつけられたからさあ。あっ、その子が息子? 似てなくない?》

宗徳を通り過ぎ、徹と征哉の周りを回る。

《どっちが息子?》
「そっちだ。髪に白いの混じってるだろ?」
《ほんとだ! そっか、年取ってる方が白いのがあるんだっけ》
「今は染めてんのもいるから、絶対にそれが基準になるってわけじゃねえよ? あと、女には気をつけろ。それで判断してるって知られると、叩き落とされるぞ」
《あはっ。気を付ける~》

ケラケラ笑いながら、宗徳の隣りでふわすわと滞空する。

「こいつは、サダルムだ。サダルム。息子が徹で、その息子の征哉だ」
《よろしく~》

それを目で追いながら、徹が少し頭を下げ、遠慮がちに尋ねる。

「っあ、ああ……ひょっとして、人の区別が付かない……のか?」
「こいつら、見た目、年取るってことがないから、年齢を見分けられんらしい」
《普通に人を見分けるのも苦手~。ほら、ボクら、顔似てるっしょ?》
「……確かに……」

机の上の妖精達は、出現させる羽の色と髪色が微妙に違うが、ほぼ同じような顔。背丈も同じくらい。服も簡素な長めの上衣に膝下までの短いズボンだ。

男女の性別があるかさえ分からない。髪も肩の辺りまでの者がほとんどだ。たまにもっと長い者はいるが、かなりの数が居るため、見た目では分からなくなる。

《人がそう見えるのと一緒で、あんま顔で見分けつけないの。ボクらは魔力で識別するから》
「……なるほど……視力に頼らないと……」
《あっ、うん。そういうことっ。けど、もう君たちはこうやって会ったから、もう分かるよっ。よろしく、トオル、セイヤ》
「「っ……よろしく……」」

そうして、顔合わせも出来たこともあり、宗徳は話を進める。

「サダルム。こいつらにここを案内してやってくれ。魔法とか、異世界とかそういう話が好きだから、教えてやって欲しい」
「「っ……」」
《いいよ~》
「じゃあ、頼んだ」
《ほいほ~い》
「「……」」

軽い返事に、二人は不安そうだ。それにサダルムは気付いたらしい。

《大丈夫だよ。言ったじゃん、魔力で判断するって。二人の容量もわかってるし、影響の受け方も分かるからさっ。イタズラしたがるのも居るけど、まあ、決定的に危ないことはしないから》
「「……」」
「それ、余計に不安にさせるぞ?」
《ええ~。大丈夫だよお》
「まあ、信用してるけどな」
《うんっ。この屋敷の主が望まないことはしないよっ》
「おう。頼んだぞ。俺は畑に居るからな」
《は~い》
「「……」」

若干不安そうな二人を書庫に残し、宗徳は庭の畑へと向かった。









**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...