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mission 16 家族と友人と
171 頭は柔らかく
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宗徳は、亜空間から二本の太さの違う筆を取り出して見せる。
「ん? ああ。こういう……」
子ども達のキラキラした目が筆に注がれるのを見て微笑ましく思いながら続ける。
「筆で墨を使って文字を書くんだ。集中力も付くし、特徴とか注目すべき所ってのが分かるようになるから、そうした目や考え方も養える」
そこで、五歳の狐の獣人、次女の刹那が筆と旗に描かれた絵を見比べてそれを口にした。
「それ……それでかいたの……お父さんのおへやにあるやつ?」
「おっ。よく気付いたな。ああ『 進取果敢 』と書いたのを掲げてある。俺が一番好きな言葉だ。勇敢に……怖がらずに新しい事に進んでいくという意味がある」
ここで書斎を手に入れた宗徳が、せっかくならばと、そこの壁に掲げたものだ。
部屋に来る度、子ども達の中で、刹那だけがそれを静かに見つめている事には気付いていた。刹那はあまり喋らないが、興味があることにしっかりと注目する。
だから、屋敷に慣れてきたら、習字をやってみるかと聞いてみようと思っていた。
「こわがらずに、あたらしいこと……」
呟く刹那の頭を、寿子が撫でて微笑む。
「刹那ちゃんは、お習字をやってみたいのかしら? やりたいと思うなら、やってみていいのよ? お絵描きでもなんでも、やりたいと思ったらやりたいと言えばいいわ」
「そうしたら、俺らが必要になるものを用意してやるからな」
「……うん。やってみたい」
いつも自信なさそうにし、大人しい刹那が、初めて自分の意思でやりたいと思ったようだ。
「分かった。なら、習字がいつでもできる部屋を用意しよう。俺も欲しかったからな。早速、午後から部屋の改装をするかな」
「ふふふ。部屋は余っていますものねえ」
この時、徹が目を丸くしていたのには宗徳と寿子は気付かなかった。子どもがやりたいと言ったことを即座に叶えようとする所に驚いたようだ。そして、自分の時はどうだったかと思考に沈んでいく。
「墨のついた筆を洗える場所も必要だから、その辺のって訳にはいかんが……桂樢、良い部屋を見繕ってくれ。広さも欲しい。だいたいこの食堂の半分くらいがいいな」
大きな作品も書くことを想定すると、広めの部屋が良いと、バトラーの桂樢へ要望を出しておく。相応しい部屋を見繕ってくれるだろう。
「承知しました。お食事が終わりましたら、ご案内いたします」
「おう。よろしくな」
「お任せください」
そうこうしている間に、イザリと薔薇用のオムライスが出来上がって来た。旗もしっかり立っている。
オレンジのヨーグルトがけとコンソメスープも控えめな量でセットされた。
「お待たせいたしました。お部屋にお持ちしますか?」
「うむ。頼む」
「承知しました」
イザリは食事の載ったワゴンを押すメイドの藜蘭を引き連れ、転移用の壁に向かっていく。
そして、一度振り向いて告げた。
「それではな。午後のティータイムはお邪魔させてもらう。その時にそちらの彼らも紹介してくれ」
「ええ。楽しみにしてます」
「お待ちしてますわ」
宗徳と寿子がそう言葉に出す時に、初対面の者達が緊張気味に一礼していた。
そうして見送ると、沙耶達はほっとしたようだ。
「なんだ? 怖い人じゃねえぞ?」
「そ、それはそうかもしれませんが……お義父さん達が敬意を払う方ですから……それに、見た目通りの方ではないんでしょう?」
「まあな。偉い魔女様だ。俺らより何百年と年上だしな」
「でも、気難しい方ではないから、安心して」
「は、はい……」
見た目は十歳ちょっとくらいの子どもにしか見えない。だが、話す雰囲気などはそれに当てはまらない落ち着いた大人のようなもの。奇妙に思えるだろう。
一般的な見た目通りの子どもではないという事で、かなり緊張したようだ。
「本当に魔女様って居るのね……」
「「……」」
徹と征哉は言葉もない様子だ。改めてその存在を認識したのだろう。顔が強張っている。魔女という未知のものとの遭遇に、落ち着かないのも分からないでもない。
「色々見て回って、不思議な事も体験しただろうに。ほれ。そろそろ食事にするぞ」
「そうね。いくら冷めないようにしたと言っても、お腹は空きました。ほら、旗は選んだ? 食べましょう」
「「「「「は~い」」」」」
「「「……はい……」」」
こうして、昼食がようやく始まった。
沙耶、徹、征哉はここまで放置されたのに温かいままのオムライスに一度驚き、そうだったと思い出す。それでもその美味しさのせいか、手は完全に止まらなかった。
それを見て、宗徳は苦笑する。
「こんなんで、薔薇様に会ったらどうなるんだ?」
「ふふふ。お茶も飲めないかもしれませんわね」
「面白がってるだろ」
「あら。あなただって」
寿子は楽しそうだ。
「まあな。もう俺に頭固いとか言えんだろうな~」
「そうですね。それを考えると、私たち、とっても頭が柔らかくなりましたわね」
「常識とか大分、ぶち壊されたからな。良い意味で」
「ええ。そうですね。良い意味で」
クスクスと二人で笑い、食事に手をつけた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「ん? ああ。こういう……」
子ども達のキラキラした目が筆に注がれるのを見て微笑ましく思いながら続ける。
「筆で墨を使って文字を書くんだ。集中力も付くし、特徴とか注目すべき所ってのが分かるようになるから、そうした目や考え方も養える」
そこで、五歳の狐の獣人、次女の刹那が筆と旗に描かれた絵を見比べてそれを口にした。
「それ……それでかいたの……お父さんのおへやにあるやつ?」
「おっ。よく気付いたな。ああ『 進取果敢 』と書いたのを掲げてある。俺が一番好きな言葉だ。勇敢に……怖がらずに新しい事に進んでいくという意味がある」
ここで書斎を手に入れた宗徳が、せっかくならばと、そこの壁に掲げたものだ。
部屋に来る度、子ども達の中で、刹那だけがそれを静かに見つめている事には気付いていた。刹那はあまり喋らないが、興味があることにしっかりと注目する。
だから、屋敷に慣れてきたら、習字をやってみるかと聞いてみようと思っていた。
「こわがらずに、あたらしいこと……」
呟く刹那の頭を、寿子が撫でて微笑む。
「刹那ちゃんは、お習字をやってみたいのかしら? やりたいと思うなら、やってみていいのよ? お絵描きでもなんでも、やりたいと思ったらやりたいと言えばいいわ」
「そうしたら、俺らが必要になるものを用意してやるからな」
「……うん。やってみたい」
いつも自信なさそうにし、大人しい刹那が、初めて自分の意思でやりたいと思ったようだ。
「分かった。なら、習字がいつでもできる部屋を用意しよう。俺も欲しかったからな。早速、午後から部屋の改装をするかな」
「ふふふ。部屋は余っていますものねえ」
この時、徹が目を丸くしていたのには宗徳と寿子は気付かなかった。子どもがやりたいと言ったことを即座に叶えようとする所に驚いたようだ。そして、自分の時はどうだったかと思考に沈んでいく。
「墨のついた筆を洗える場所も必要だから、その辺のって訳にはいかんが……桂樢、良い部屋を見繕ってくれ。広さも欲しい。だいたいこの食堂の半分くらいがいいな」
大きな作品も書くことを想定すると、広めの部屋が良いと、バトラーの桂樢へ要望を出しておく。相応しい部屋を見繕ってくれるだろう。
「承知しました。お食事が終わりましたら、ご案内いたします」
「おう。よろしくな」
「お任せください」
そうこうしている間に、イザリと薔薇用のオムライスが出来上がって来た。旗もしっかり立っている。
オレンジのヨーグルトがけとコンソメスープも控えめな量でセットされた。
「お待たせいたしました。お部屋にお持ちしますか?」
「うむ。頼む」
「承知しました」
イザリは食事の載ったワゴンを押すメイドの藜蘭を引き連れ、転移用の壁に向かっていく。
そして、一度振り向いて告げた。
「それではな。午後のティータイムはお邪魔させてもらう。その時にそちらの彼らも紹介してくれ」
「ええ。楽しみにしてます」
「お待ちしてますわ」
宗徳と寿子がそう言葉に出す時に、初対面の者達が緊張気味に一礼していた。
そうして見送ると、沙耶達はほっとしたようだ。
「なんだ? 怖い人じゃねえぞ?」
「そ、それはそうかもしれませんが……お義父さん達が敬意を払う方ですから……それに、見た目通りの方ではないんでしょう?」
「まあな。偉い魔女様だ。俺らより何百年と年上だしな」
「でも、気難しい方ではないから、安心して」
「は、はい……」
見た目は十歳ちょっとくらいの子どもにしか見えない。だが、話す雰囲気などはそれに当てはまらない落ち着いた大人のようなもの。奇妙に思えるだろう。
一般的な見た目通りの子どもではないという事で、かなり緊張したようだ。
「本当に魔女様って居るのね……」
「「……」」
徹と征哉は言葉もない様子だ。改めてその存在を認識したのだろう。顔が強張っている。魔女という未知のものとの遭遇に、落ち着かないのも分からないでもない。
「色々見て回って、不思議な事も体験しただろうに。ほれ。そろそろ食事にするぞ」
「そうね。いくら冷めないようにしたと言っても、お腹は空きました。ほら、旗は選んだ? 食べましょう」
「「「「「は~い」」」」」
「「「……はい……」」」
こうして、昼食がようやく始まった。
沙耶、徹、征哉はここまで放置されたのに温かいままのオムライスに一度驚き、そうだったと思い出す。それでもその美味しさのせいか、手は完全に止まらなかった。
それを見て、宗徳は苦笑する。
「こんなんで、薔薇様に会ったらどうなるんだ?」
「ふふふ。お茶も飲めないかもしれませんわね」
「面白がってるだろ」
「あら。あなただって」
寿子は楽しそうだ。
「まあな。もう俺に頭固いとか言えんだろうな~」
「そうですね。それを考えると、私たち、とっても頭が柔らかくなりましたわね」
「常識とか大分、ぶち壊されたからな。良い意味で」
「ええ。そうですね。良い意味で」
クスクスと二人で笑い、食事に手をつけた。
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