上 下
22 / 200
mission 3 救護活動

022 治療魔術

しおりを挟む
2017. 7. 22

**********

一階に下りると、慌しく走り回る人々が目に付いた。

「あの腕に白い布を結んでんの従業員か?」

宗徳が城を建てている間にも、善治と仮設の受付などを作っていた人達も同じように布を腕に巻いていたなと思い出したのだ。

彼らはどうやら、外から怪我人や病人を運んでいるようだ。救護室として造った部屋の方へ、次々に人を担いで連れて行く。

「他の冒険者ギルドから派遣されて来たのだが……一体何が起きているのか……悪いがお前達も手伝ってくれ。私は状況の確認をしてくる」
「おう。力なら有り余ってるからな」
「任せてください」

宗徳と寿子は、重症で歩けないでいる人々を抱き上げて救護室に連れて行く。しかし、そこはもうベッドが足りなくなっていた。

「こりゃぁ、ここだけじゃ無理だな。だいたい、どっからこれだけの人数が集まってきたんだ?」

当然一人や二人ではない。三十人は超えている。対応している職員は五名だ。その職員達もかなりお疲れな様子だった。

もちろん、これだけの人数を彼らだけで運んでいたわけではないようで、友人や恋人なのか、怪我人の付き人達が大半を運んでいた。

「医者はどこだ?」

職員達は運ぶだけで精一杯なのか、人々をただ部屋に運んで休ませているだけだ。

キョロキョロと治療する者を探していた宗徳に、奥から出て来た寿子が眉をひそめて言う。

「あなた。お医者様はいないそうです……」
「なんだと? それならなんでここに集めるんだ。もうベッドの空きもないだろう」
「ええ。ですから、上の部屋を確認してきます。お布団はなくてもシーツのような敷物は用意出来そうですから」
「そうだな。頼む。俺は善じぃに治療をどうするのか聞いて来る」

運んだとしても寝かせておくだけならば意味がない。一見した所、半数以上は怪我人だ。衛生的にも良くないだろう。

とりあえず、まだまだ外でへばっている者もいるようなので、それらを中へと運び込みながら善治を探す。

見つけたと思った善治の周りには、そこにも五人の職員達が何を言うでもなく集まっている。一人ずつ報告をしているのだろうが、立ち止まっているならば手伝えと言いたい。

宗徳が善治の方へ一歩踏み出した所で、一人の女性が声をかけてきた。

「あのっ、ここにマナポーションは売っていますか?」
「ま、まな……何だって?」

耳慣れない言葉に戸惑う。横文字はただでさえ苦手なのだ。全くといっていいほど、記憶に残らない。すると、通りかかった職員の一人が答えた。

「八ランクと七ランクのが辛うじて各五つならありますよ。ただ、今は非常事態なので、治療魔術が使える方にしかお売りできません」
「分かっています。初級クラスですが使えます。まず夫を助けたいんですっ」
「ではその後、可能な限り他の方にも治療をお願いします」
「はいっ」

女性は連れていた男性を壁に寄りかからせて座らせると、自身も細かい擦り傷だらけの体で右足を若干引きずりながらカウンターへ向かう。

戻ってきた女性は、手に持っていた小さなドリンク剤ほどの瓶の中身を飲み干す。それから集中すると、意識がない男性へ両手を向けた。

光が集まっていくように見えた。それが女性が両手を広げたぐらいの大きさの魔法陣を空中に描いていく。

「……青と……ちょい白……」

淡いその魔法陣は、次に男性の体へ吸い込まれていった。すると、擦り傷や打撲は消えたように見える。

「はぁ……っ、完全に塞げない……っ、もう一度っ」

再び女性は集中し、同じように魔法陣を出現させるとそれを男性に向かって放つ。よくよく男性を見ると、胸辺りには斜めに大きな傷が走っていた。胸当てが黒いのかと思ったが、それは全て血だったようだ。

その血も止まっているように見えず、顔色も良くならない。意識も依然として戻らない男性を見て、女性はヘタリ込む。

「リーヤっ……リーヤ……っ、ごめんなさいっ」

今にも死んでしまうと思っているような悲観ぶりに、宗徳が堪らず近付いていく。

「あ…….あの、ごめんなさい。他の方の治療は待って……」

女性は、宗徳が他の人の治療をするように言いに来たのだと思ったようだ。その様子から感じるに、この世界での生存率は低いのだろう。

助かる確率の高い者を常に優先させる傾向にあるのだ。この世界の常識では、男性はもう助からない部類なのだろう。だが、宗徳は幸か不幸かこの世界の者ではない。非常事態であろうと、手を尽くしても良いと思っている。

だから、口にしたのは女性の予想したものではない。

「ああ、いや。さっきの術、要は止血して切れた所をくっ付けるんだよな? けど、こんだけ血が出てっと貧血でどのみち危ねぇぞ?」
「え……」

宗徳は男性の斜め前に屈み込み、その顔色を窺ったり、傷の具合を確かめたりする。それからぶつぶつと呟きながら記憶にある先ほどの魔法陣を思い出す。

「青に見えたって事は『水』だよな……こんだけ土が付いてんのに、傷口はきれいになってるって事は、消毒して……バイキンが入っちゃ意味ねぇもんなぁ。そんで白ってぇと……『時』だったか? あ~、治りを早めんのか。けど、それだけだと結局……なぁ、姉ちゃん」
「は、はいっ?」

色々と考察をしていた宗徳は、唐突に女性に声をかける。それからおもむろに腰にさしていた小刀を抜いて自身の人差し指の先を少しだけ切る。それを見せるように女性へ差し出した。

「っ……!」
「もう一回、さっきの術見せてくれ」
「あ、は、はいっ!」

笑顔でおかしな事を提案してくる宗徳に、女性は目を白黒させながら反射的に応える。

体に大きな傷のある男性の時とは違い、現れた魔法陣は手のひらサイズだった。それが傷口に吸い込まれていく。宗徳は描かれたこの世界の文字らしき紋様を目に焼き付ける。

だが、その努力とは裏腹に、傷口がきれいに消えると同時にあっさり宗徳は理解した。そう、宗徳は感覚の人だ。

「……へぇ……これなら、あとは血を元に戻してやるのも入れて、使った活力は飯を食えれば問題ないよな」

そう呟いて立ち上がると、宗徳は男性に向かって先ほどの女性がかけた魔術よりも遥かに眩い光の魔法陣を描く。

「これでどうだ!」
「っ!?」

女性は引きつった声を上げたようだ。一度宗徳から反射的に離れようと足に力を入れた女性は、見事に尻餅を付いている。

そんな行動の理由も考えず、宗徳は己の放った魔術を見つめる。全ての魔法陣が男性の体に吸い込まれると、体に付いていた血も全て消えていた。

「服に付いた血ももったいねぇからなっ」

満足気に腰に手を当てて胸を張る宗徳。すると、男性が目を開いた。

「ん……っ、ここは……」
「うそ……っ、リーヤっ!?」
「ミラ……? 俺は……」

抱き合って喜ぶ男女に、宗徳は居心地が悪くなって数歩下がる。すると、善治が背後まで来ていた。

「宗徳……お前は……」
「うおっ、び、びっくりしたぁ」
「はぁ……とりあえず、お前は怪我人をそうやって治療してこい。倒れそうになったらコレを飲め」
「お、おう……お、怒ってんのか?」

さすがにいきなり人体実験はマズかったかもしれない。しかし、微妙にピリピリしているように感じたのだが、善治の顔は明らかに呆れている様子だ。

「いいから行ってこい!」
「はいっ、師匠!」

善治の迫力ある声に、宗徳は子どもの頃からの条件反射で返事をし、救護室へ駆け込んで行くのだった。

**********

読んでくださりありがとうございます◎


できてしまったようです。


次回、土曜29日0時です。
よろしくお願いします◎

しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...