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mission 2 環境整備
011 あの頃と同じ笑顔で
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2017. 5. 6
**********
善治について、宗徳と寿子はその大きな扉をくぐった。
光を抜けた先には草原が広がっていた。
「は……」
「きれい……」
思わず見惚れてしまうような光景。風が緑の瑞々しい匂いを運んでくる。木と足首までの草。それが見えるだけの場所。どうやら、丘の上のようだ。地面と空の境界線が美しい。
振り向いてどこから入ってきたのか確認する。
「祠……?」
そこは石で作られた祠。絶妙なバランスで組まれた洞窟のようにも見えるものだった。
「ここは古い神を祀っていた、かつての神殿だ。今は朽ちて、入る者もいない。町の外で、入り口を繋げるにはいい場所だったからな」
善治はゆっくりと歩き出す。それについて行きながら、この場所を忘れないようにしようと景色を焼き付ける。
「へぇ……で、ここから行き来すりゃぁいいのか?」
「いや。帰りは扉かドアがあればどこでも構わない。ただ、あまり大っぴらにすべきではないのでな。人が多い場所でやるのは避けてくれ。規制があるのは時間だ」
「時間……ですか?」
寿子が不安そうな声で確認する。
退路がいつでも用意されるわけではないと聞けば不安にもなる。宗徳も、声には出さないが、善治を真っ直ぐに見て続きを待つ。
「この世界では三時間だ。丁度良い。腕輪を見ながら『時間』を意識してみろ。『今何時間か』と考えると上手くいく」
「あ、ああ……時間……っ」
すると、腕輪に丸い吹き出しが出て、時計が映し出された。
「出た!」
またも吹き出しだとおかしく思いながら、それを確認する。ただ、その時計は中に二つ小さな時計もある。高級時計のような、カッコいい感じだ。
「ゴッツイ腕時計みたいな時計だな」
「小さい時計は、帰還の魔術が発動出来るかどうかを示す。今は黒い方……右下のやつだ」
「丸だけの……文字盤がない方ですね」
寿子の言葉で気付く。確かに、針が一本だけで、目盛りもない。
「それが一周してくると、だんだん白くなる。そうなったらいつでも帰れる。ただし、さっきも言ったが帰りの通路は扉やドアに作られるから、それを探さなくてはならないがな」
扉やドアならばどれでも良いらしい。鍵穴がなくてはならないとかもない。
「ん? なら、さっきの祠は? 扉なんて……」
目を凝らすと、祠の奥は石の壁で塞がっているように見える。
「もしかして、アレかっ!」
そうかと手を打った宗徳。しかし『アレ』を言語化する前に善治に言われてしまった。
「そこの扉は特殊だ。横にスライドする。仕掛け扉で、左側の上にある燭台を下に引っ張ると開く」
それを聞いて、燭台を確認する。それからあからさまに肩を落とした。
「へぇ……開けゴマって言うやつかと思って、ちょいワクワクしたのに……」
「……それは残念だったな……」
少年の頃の夢は、この歳になっても不意に思い出すものだ。
そこで、もしかして寿子も同じ事を考えたのではないかと思って横を見る。だが、そこで、飛び上がるほど驚いた。
「あっ、へっ、ひ、寿子!?」
「なんです……っ、あなた……っ!」
お互い、この時点でようやく姿を認識した。視界に入っていたのは、服装だけだったのだ。気付いて自覚すれば、少しいつもより視界の位置が高い。
「わ、若返ってる……」
血色の良い唇。口紅なんて必要ない。真っ黒で長い髪も艶やかで、張りのある肌。引き締まった腰。程よい胸の膨らみ。二十代後半頃の寿子だった。
「あなたもよ……二十代前半って所かしら?」
「え、前半?」
そうだろうかと顔の張りを確かめる。しかし、ペタペタと触ってみて年齢が分かるはずもない。
そこで善治が言った。
「腕輪に鏡の機能もあるぞ」
「なんでもアリかっ!」
思わずツッコミながらも、鏡をと念じると、いつの間にか消えていた時計の場所に、今度は大きめで縦長の鏡が吹き出し仕様で出現する。
そこに顔を写すと、顎の具合などを見て頷く。
「た、確かに……二十代前半の張りと艶……なのか? いや、だが寿子は二十代後半……」
「なんですか……?」
チラリと寿子を見て、年齢に差があるなと首を捻る。すると、ギロリと睨まれた。
「い、いや、綺麗だな。うんっ、美人だ! さすがは俺の嫁!」
「はいはい」
「……あの頃はもうちょっと……いえ、なんでもありません!」
若い頃は、何も言わずに頬を赤らめるだけだったというのに、精神年齢は若くなっていないなと、密かに少しがっかりする宗徳だ。
「漫才は終わったか? 行くぞ」
「え、あっ、はい!」
途中で、善治の存在を完全に忘れていた。慌てて歩き出した善次に追いすがる。
「軽い……」
寿子が隣で呟く。
そうだ。なんだか胸のつかえが取れたような、そんな身軽さを感じる。この感動はこの前の試験の時も思った。
「若いってスゲェな」
「はい」
嬉しくなって笑い合う。その笑顔は、夫婦として二人で多くの事を分かち合っていこうと誓った若かりし頃のものと同じだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
これから本格的にお仕事ですね。
次回、土曜13日の0時です。
よろしくお願いします◎
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善治について、宗徳と寿子はその大きな扉をくぐった。
光を抜けた先には草原が広がっていた。
「は……」
「きれい……」
思わず見惚れてしまうような光景。風が緑の瑞々しい匂いを運んでくる。木と足首までの草。それが見えるだけの場所。どうやら、丘の上のようだ。地面と空の境界線が美しい。
振り向いてどこから入ってきたのか確認する。
「祠……?」
そこは石で作られた祠。絶妙なバランスで組まれた洞窟のようにも見えるものだった。
「ここは古い神を祀っていた、かつての神殿だ。今は朽ちて、入る者もいない。町の外で、入り口を繋げるにはいい場所だったからな」
善治はゆっくりと歩き出す。それについて行きながら、この場所を忘れないようにしようと景色を焼き付ける。
「へぇ……で、ここから行き来すりゃぁいいのか?」
「いや。帰りは扉かドアがあればどこでも構わない。ただ、あまり大っぴらにすべきではないのでな。人が多い場所でやるのは避けてくれ。規制があるのは時間だ」
「時間……ですか?」
寿子が不安そうな声で確認する。
退路がいつでも用意されるわけではないと聞けば不安にもなる。宗徳も、声には出さないが、善治を真っ直ぐに見て続きを待つ。
「この世界では三時間だ。丁度良い。腕輪を見ながら『時間』を意識してみろ。『今何時間か』と考えると上手くいく」
「あ、ああ……時間……っ」
すると、腕輪に丸い吹き出しが出て、時計が映し出された。
「出た!」
またも吹き出しだとおかしく思いながら、それを確認する。ただ、その時計は中に二つ小さな時計もある。高級時計のような、カッコいい感じだ。
「ゴッツイ腕時計みたいな時計だな」
「小さい時計は、帰還の魔術が発動出来るかどうかを示す。今は黒い方……右下のやつだ」
「丸だけの……文字盤がない方ですね」
寿子の言葉で気付く。確かに、針が一本だけで、目盛りもない。
「それが一周してくると、だんだん白くなる。そうなったらいつでも帰れる。ただし、さっきも言ったが帰りの通路は扉やドアに作られるから、それを探さなくてはならないがな」
扉やドアならばどれでも良いらしい。鍵穴がなくてはならないとかもない。
「ん? なら、さっきの祠は? 扉なんて……」
目を凝らすと、祠の奥は石の壁で塞がっているように見える。
「もしかして、アレかっ!」
そうかと手を打った宗徳。しかし『アレ』を言語化する前に善治に言われてしまった。
「そこの扉は特殊だ。横にスライドする。仕掛け扉で、左側の上にある燭台を下に引っ張ると開く」
それを聞いて、燭台を確認する。それからあからさまに肩を落とした。
「へぇ……開けゴマって言うやつかと思って、ちょいワクワクしたのに……」
「……それは残念だったな……」
少年の頃の夢は、この歳になっても不意に思い出すものだ。
そこで、もしかして寿子も同じ事を考えたのではないかと思って横を見る。だが、そこで、飛び上がるほど驚いた。
「あっ、へっ、ひ、寿子!?」
「なんです……っ、あなた……っ!」
お互い、この時点でようやく姿を認識した。視界に入っていたのは、服装だけだったのだ。気付いて自覚すれば、少しいつもより視界の位置が高い。
「わ、若返ってる……」
血色の良い唇。口紅なんて必要ない。真っ黒で長い髪も艶やかで、張りのある肌。引き締まった腰。程よい胸の膨らみ。二十代後半頃の寿子だった。
「あなたもよ……二十代前半って所かしら?」
「え、前半?」
そうだろうかと顔の張りを確かめる。しかし、ペタペタと触ってみて年齢が分かるはずもない。
そこで善治が言った。
「腕輪に鏡の機能もあるぞ」
「なんでもアリかっ!」
思わずツッコミながらも、鏡をと念じると、いつの間にか消えていた時計の場所に、今度は大きめで縦長の鏡が吹き出し仕様で出現する。
そこに顔を写すと、顎の具合などを見て頷く。
「た、確かに……二十代前半の張りと艶……なのか? いや、だが寿子は二十代後半……」
「なんですか……?」
チラリと寿子を見て、年齢に差があるなと首を捻る。すると、ギロリと睨まれた。
「い、いや、綺麗だな。うんっ、美人だ! さすがは俺の嫁!」
「はいはい」
「……あの頃はもうちょっと……いえ、なんでもありません!」
若い頃は、何も言わずに頬を赤らめるだけだったというのに、精神年齢は若くなっていないなと、密かに少しがっかりする宗徳だ。
「漫才は終わったか? 行くぞ」
「え、あっ、はい!」
途中で、善治の存在を完全に忘れていた。慌てて歩き出した善次に追いすがる。
「軽い……」
寿子が隣で呟く。
そうだ。なんだか胸のつかえが取れたような、そんな身軽さを感じる。この感動はこの前の試験の時も思った。
「若いってスゲェな」
「はい」
嬉しくなって笑い合う。その笑顔は、夫婦として二人で多くの事を分かち合っていこうと誓った若かりし頃のものと同じだった。
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これから本格的にお仕事ですね。
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