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mission 13 魔女の来臨
135 魔女達の質問
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善治の居る執務室の扉を開ける前。不思議な感覚を覚えた。
「ん?」
意識が自然と扉の向こう側へ集中する。
「ああ……これが気配ってやつだな……」
気配を読むというのがコレだなと改めて感じ取った。その存在感がすごい。お陰で今後、気配を読むというのが容易に出来るようになりそうだ。確実にコツが掴めた。
中に居るのは、恐らく七人。内一人は善治で間違いない。
「ん~……イズ様と……それに似てるな」
イザリが居る感覚は、前から知っていたようで、そうだと確信を持てる。だから、それに似ている残りも魔女なんだろうなと自然に察した。ドアをノックする。
コンコンコン
「宗徳だな。入れ」
「失礼します」
いつもならば『入りま~す』なんて言いながら部屋に入ったりするのだが、今回は遠慮した。ガチャリとドアを開けると、善治が女性達に囲まれているのが目に飛び込んで来る。今まで見たことのない光景に、思わず動きを止めた。
あれだ。父親が同僚の若いお姉さん達に絡まれているように見えたのだ。
その女性達が、次の獲物が来たというように目を輝かせたのが分かった。
「あ~……」
お邪魔しましたとドアを閉めてしまいたかった。だが、それよりも先にイザリがソファから立ち上がる。
「邪魔をしているぞ、宗徳」
歩み寄って来るイザリ。お陰で、他の魔女達は遠慮したようだ。
「こんにちは、イズ様。あの魔法陣の処理で、こんな大勢で? かなりいかんものでしたか」
「いかん……ああ。間違いなく良くないものではあるな。あの魔法陣の絵、上手く描けていた。お陰で、詳細な所もよく分かったぞ」
「それは良かったです。ああいったものを正確に写すのは好きなんで」
宗徳は、建築に関わっていたため、そういったことも出来るようになっていた。それが役に立ったようだ。
「だが、写真だけでなく、わざわざ描くと教えられていなかっただろう。よくやろうと思ったな」
「ああ……そりゃあ、写真の方が正確なんでしょうが、見たものと写真は違ったりするんで。それに、光の加減とかで写真には写り辛いのもあるかなと」
「なるほど……いや、正解だった」
今のカメラは花火も映るが、ひと昔前までは映らなかった。どれだけ高性能になっても、目で見たものには敵わない。もちろん、脳内補完されているというのも分かった上で、必要かなと思ったのだ。
「それにしても、よく描くことを躊躇わなかったものだな。発動したらと考えなかったか? 描き写して来いと言っても、怖いと嫌がる者は多いのだが」
「ん? ああしたものってえのは、特殊なインクとか使うもんなんでは?」
「そうだ。知っていたのか」
魔力を流しながらだとか、決まった配合で作られたものとか、そうしたもので描かれてこそ、魔法陣は発動する。
「いやあ、魔術を使う時に見える魔法陣とか見てたんで、そうゆうもんかなと。勘です」
「……勘か……いや、良い勘をしている。今後も、気になる魔法陣などあれば描き写して見せてくれ」
「分かりました」
そうして、会話がひと息吐くいたところで、魔女達が驚いたような顔でこちらを見ていることに気づいた。
「どうかしたんです?」
すると、一人がうんと一つ頷いてから口を開いた。
「あなた七十過ぎてるわよね?」
「過ぎとりますね」
何が気になるのか宗徳には分からない。とりあえず、質問には答える。そして、また一人、質問する。
「この仕事はじめたの、最近なのよね?」
「三ヶ月も経ってないです」
バリバリの新人だとアピールすべきか迷った。
「地球に戻った時、見た目ってちゃんと変わるの?」
「変わりますよ? 精々、六十前くらいには若返った気はしますが」
「そう……それにしては……魔力の適合率が異常なんだけど。あ、大丈夫だよ? こっち側に馴染みやすいだけだから。悪いことじゃないんだ」
「はあ……」
結局、その適合率とやらに驚いていただけなのか、魔女達は落ち着いた。
「それにしても、七十過ぎでおかしな頑固さがないとか、貴重だよ」
「きちんと、今まで生きてきて得た知識も活かせるのはすごいね」
「勘が良いものポイント高いわ」
「あ、そういえば奥さんは?」
落ち着いたはずなのに、口は止まらなかった。
「魔法陣のあった大陸に置いてきました。子ども達と一緒です」
「あら。留守番させてるの?」
「俺も、まだ残りたかったんですが、預かっていたこの国の王妃達を送っていかないといけないので、一旦戻ってきたんです」
「あら。浮気?」
ニヤニヤする魔女達。だが、宗徳は気分を害することなく普通に答えた。
「俺が妻として愛する女は、寿子一人だけです」
「「「「「……」」」」」
「初恋なんで」
「「「「「初恋……」」」」」
照れながら告げる宗徳に、魔女達は呆然とする。彼女たちにとっては、恋というものはただの幻想、錯覚だ。それだけ恋愛というものを彼女たちは軽んじてきた。
男は惑わせば簡単に意見を変えるし、女は男が裏切ったと囁いてやれば、勝手に破滅に向けて転がっていく。一石投じれば壊れるもの。そんなものに価値が見出せないのは当然だ。
だから知らなかった。本当に信じ合う夫婦というものを。初恋が実ったものだと、七十過ぎても照れて自慢出来る者を目の前にするのは初めてだったのだ。
そこに善治が追い討ちをかける。
「本当です。寿子も同じことを言うでしょう。この夫婦は壊れませんよ」
「え、壊す? やめてくださいよ。寿子怒らすと怖いんですから」
「……怒らせても壊れないってこと?」
「は? いや、夫婦ですから」
「え?」
「ん?」
イザリだけが誇らしそうにうんうんと頷く。他の魔女達は、本物の夫婦も知らないようだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
よろしくお願いします◎
「ん?」
意識が自然と扉の向こう側へ集中する。
「ああ……これが気配ってやつだな……」
気配を読むというのがコレだなと改めて感じ取った。その存在感がすごい。お陰で今後、気配を読むというのが容易に出来るようになりそうだ。確実にコツが掴めた。
中に居るのは、恐らく七人。内一人は善治で間違いない。
「ん~……イズ様と……それに似てるな」
イザリが居る感覚は、前から知っていたようで、そうだと確信を持てる。だから、それに似ている残りも魔女なんだろうなと自然に察した。ドアをノックする。
コンコンコン
「宗徳だな。入れ」
「失礼します」
いつもならば『入りま~す』なんて言いながら部屋に入ったりするのだが、今回は遠慮した。ガチャリとドアを開けると、善治が女性達に囲まれているのが目に飛び込んで来る。今まで見たことのない光景に、思わず動きを止めた。
あれだ。父親が同僚の若いお姉さん達に絡まれているように見えたのだ。
その女性達が、次の獲物が来たというように目を輝かせたのが分かった。
「あ~……」
お邪魔しましたとドアを閉めてしまいたかった。だが、それよりも先にイザリがソファから立ち上がる。
「邪魔をしているぞ、宗徳」
歩み寄って来るイザリ。お陰で、他の魔女達は遠慮したようだ。
「こんにちは、イズ様。あの魔法陣の処理で、こんな大勢で? かなりいかんものでしたか」
「いかん……ああ。間違いなく良くないものではあるな。あの魔法陣の絵、上手く描けていた。お陰で、詳細な所もよく分かったぞ」
「それは良かったです。ああいったものを正確に写すのは好きなんで」
宗徳は、建築に関わっていたため、そういったことも出来るようになっていた。それが役に立ったようだ。
「だが、写真だけでなく、わざわざ描くと教えられていなかっただろう。よくやろうと思ったな」
「ああ……そりゃあ、写真の方が正確なんでしょうが、見たものと写真は違ったりするんで。それに、光の加減とかで写真には写り辛いのもあるかなと」
「なるほど……いや、正解だった」
今のカメラは花火も映るが、ひと昔前までは映らなかった。どれだけ高性能になっても、目で見たものには敵わない。もちろん、脳内補完されているというのも分かった上で、必要かなと思ったのだ。
「それにしても、よく描くことを躊躇わなかったものだな。発動したらと考えなかったか? 描き写して来いと言っても、怖いと嫌がる者は多いのだが」
「ん? ああしたものってえのは、特殊なインクとか使うもんなんでは?」
「そうだ。知っていたのか」
魔力を流しながらだとか、決まった配合で作られたものとか、そうしたもので描かれてこそ、魔法陣は発動する。
「いやあ、魔術を使う時に見える魔法陣とか見てたんで、そうゆうもんかなと。勘です」
「……勘か……いや、良い勘をしている。今後も、気になる魔法陣などあれば描き写して見せてくれ」
「分かりました」
そうして、会話がひと息吐くいたところで、魔女達が驚いたような顔でこちらを見ていることに気づいた。
「どうかしたんです?」
すると、一人がうんと一つ頷いてから口を開いた。
「あなた七十過ぎてるわよね?」
「過ぎとりますね」
何が気になるのか宗徳には分からない。とりあえず、質問には答える。そして、また一人、質問する。
「この仕事はじめたの、最近なのよね?」
「三ヶ月も経ってないです」
バリバリの新人だとアピールすべきか迷った。
「地球に戻った時、見た目ってちゃんと変わるの?」
「変わりますよ? 精々、六十前くらいには若返った気はしますが」
「そう……それにしては……魔力の適合率が異常なんだけど。あ、大丈夫だよ? こっち側に馴染みやすいだけだから。悪いことじゃないんだ」
「はあ……」
結局、その適合率とやらに驚いていただけなのか、魔女達は落ち着いた。
「それにしても、七十過ぎでおかしな頑固さがないとか、貴重だよ」
「きちんと、今まで生きてきて得た知識も活かせるのはすごいね」
「勘が良いものポイント高いわ」
「あ、そういえば奥さんは?」
落ち着いたはずなのに、口は止まらなかった。
「魔法陣のあった大陸に置いてきました。子ども達と一緒です」
「あら。留守番させてるの?」
「俺も、まだ残りたかったんですが、預かっていたこの国の王妃達を送っていかないといけないので、一旦戻ってきたんです」
「あら。浮気?」
ニヤニヤする魔女達。だが、宗徳は気分を害することなく普通に答えた。
「俺が妻として愛する女は、寿子一人だけです」
「「「「「……」」」」」
「初恋なんで」
「「「「「初恋……」」」」」
照れながら告げる宗徳に、魔女達は呆然とする。彼女たちにとっては、恋というものはただの幻想、錯覚だ。それだけ恋愛というものを彼女たちは軽んじてきた。
男は惑わせば簡単に意見を変えるし、女は男が裏切ったと囁いてやれば、勝手に破滅に向けて転がっていく。一石投じれば壊れるもの。そんなものに価値が見出せないのは当然だ。
だから知らなかった。本当に信じ合う夫婦というものを。初恋が実ったものだと、七十過ぎても照れて自慢出来る者を目の前にするのは初めてだったのだ。
そこに善治が追い討ちをかける。
「本当です。寿子も同じことを言うでしょう。この夫婦は壊れませんよ」
「え、壊す? やめてくださいよ。寿子怒らすと怖いんですから」
「……怒らせても壊れないってこと?」
「は? いや、夫婦ですから」
「え?」
「ん?」
イザリだけが誇らしそうにうんうんと頷く。他の魔女達は、本物の夫婦も知らないようだった。
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