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mission 13 魔女の来臨

134 変われた者たち

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拠点である竜守城へと戻ってきた宗徳は、先ず先にと王妃達へ顔を見せに行った。

「居るか?」

ドアをノックして告げると、騎士が顔を出した。

「あ、ムネノリ様。お帰りになられましたか」
「おう。放っておいて悪かったなあ。どうだ? 様子は」

お入りくださいと招かれながら尋ねると、笑顔の王妃がソファから立ち上がって答えた。

こうして嫌な顔一つせずに招き入れてくれるのは、彼らが心から恩を感じているからだろう。王妃自らが声をかけてくるのがその証拠だ。

「まあっ、ムネノリ様。ヒサコ様の薬で、あれから咳も出ず、とても快適に過ごさせていただいておりますわ」

来た頃に比べると、格段に顔色も表情も良くなっていた。連れてきた時は、歩くのもやっとだったというのに、今など駆け寄ってきている。

「そりゃあ良かった。明日には城に送り届けることになっているからな。この調子なら大丈夫だろう」
「あ……そ、そうでしたわ……帰るのですわよね……」
「ん? ははっ。ここ、気に入ってくれたようだな」
「っ、もちろんですわ! 子ども達も、毎日楽しそうで」

本当に嬉しそうに王妃は同意を求めて子ども達を振り返った。

「はい。こちらの……マスターにも色々とお話をお聞きし、生きた知識というのを実感いたしました。机上のものだけではダメなのだと」

もう村とは呼べないここは、次第に外から冒険者や商人も入って来ており、活気付いている。そんな町の様子を直に見て回り、王子は色々と考えさせられたようだ。

「私も妹も、本など読むのも飽きていたのですが……そういうことも大事なのだと教えていただきました」

どうやら留守の間に、善治が随分と世話を焼いていたようだった。

「そうか。良い経験が出来たみたいだな」
「はい!」

どこか自信のなさそうだった王子や王女。けれど、今は笑顔も輝いていた。

善治は子どもが好きだ。教えることにも秀でている。いつもの教師とは違うことも、王子達にはよかったのかもしれない。

視点を変えられたことで、今まで凝り固まっていた知識が息づいたのだろう。宗徳にも経験のあることだった。ただなんとなく溜め込まれていた知識が、ふとしたきっかけで理解を得る。

それを知っているから、親は子どもが将来苦労しないようにと必死になって与えようとする。

自分の経験から、これはやっていた方が良い。これも知っていて欲しい。そういうものを与え続ける。

けれど、子ども達にはその意味が伝わり難い。良いと思ってやらせる習い事の数々。やることに意味を見出せないから、飽き性になったり嫌々やって身に付かないことで、更にやる気がなくなる。

その悪循環を乗り越えて、我慢してやり切って、ようやく一部の子が意味を知る。だが、大半は大人になってから、親になってから理解するものだ。

経験を生きたものにすることができた王子と王女はとても幸運だった。

いずれ国を背負って立つ者として、ここでの経験が活きるのは、民達にとっても良いことのはずだ。

「帰ってからも、きちんと活かせよ。そうだな……なんか悩みとか出来たら、手紙でも出してくれ。また遊びに来てもいい」
「っ、いいのですか!」
「ああ。同じ国に居るわけだしな」
「はい!」

相手は一国の王子だが、ここまで慕われているのだ。助けてやりたい。この世界では助けてやれるだけの力もあるのだから。

王族というものへ対する敬いが薄いというわけではない。地球ではあり得ないだろう。だが、言ってはなんだが、生きてきた世界とは無関係な世界の王族だ。少し認識は薄くはなる。

何より、特別な力があることが大きい。王族相手でも助けることが出来ると気が大きくもなっている。だから、決して敬う気持ちがないというわけではないのだ。

「王妃さんも、大変な立場だ。体は大丈夫になったかもしれんが、無理せずにな。寿子がいつでも何でも相談に乗ると言っていた」
「ありがとうございます。本当に……来てよかった……お二人に出会えてよかった」
「俺もだ。まあ、なんだ。旦那とも仲良くな」
「はい。お二人のような関係……とまではいかないでしょうが、もっと話をしてみようと思います」
「おう」

彼女宛に王から預かった手紙によって、今まで知り得なかった想いも知ったらしい。夫婦仲も、少し変わるだろう。それも良い方に。

「そんじゃあ、明日の朝食後に予定しといてくれ」
「分かりました」

それを伝えて、宗徳は善治の元へ向かった。

そして、そこで魔女達と顔を合わせたのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
よろしくお願いします◎
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