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mission 12 神の救済
127 心の声
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宗徳は両肩に乗った神達を確認してから、そういやあと手を打つ。
「名前聞いてないな」
《ぐる?》
《くる?》
「あ? ない?」
どういうことだと目を瞬かせる。
これに廉哉もそういえばと考え込むように視線を上の方へ投げる。
「僕も聞いたことないです。『この地の神』って言ってましたし、その……あとは『邪神』……と……」
不思議と気にならなかったらしい。それは、本当に神に名がないからだ。
「そりゃあ、不便だな。名乗ったらダメな理由でもあるのか?」
《ぐるる》
《くるる》
「ないなら、名前決めたらどうだ?」
《ぐるう?》
《くるう?》
共に目を丸くし、共に首を傾げる。まるで双子のようだ。
「くくっ。二人は双子の兄弟みたいだな」
《ぐる……っ》
《くるっ》
黒い方は照れくさそうに顔をくるりと背け、白い方は嬉しそうに鳴いた。
「ははっ。ほれ。名前、付けないか?」
《ぐ……ぐるる……》
《くる? くるる?》
二匹で相談し始めた。邪魔しないようにしながら、ゆっくり部屋を見回した。やっぱり寂しい部屋だと思う。
刀は宗徳の腰に戻ってきている。それを弄りながら待った。
《ぐるる!》
《くるっ》
「いてっ」
「宗徳さん!?」
ボサッとしてたら両肩から、コツンと頭を突かれた。
「なんだあ? 決まったのか?」
《ぐるるっ》
《くるっるー》
「は? 俺が?」
名前を付けろと言われてしまったのだ。
「あ~……と言われても、すぐにはな……ちょい考えさせてくれや」
《ぐるっ》
《くるっ》
「おう。しっかり考えるわ」
別にいつでもいいと言われた。さすがに神にというのは難しい。それも二つ。徨流はほとんど直感だったが、なんだか今度はそれではダメな気がしたのだ。
「なら、とりあえず出るか」
「そうですね」
《きゅぅ!》
廉哉も徨流も嬉しそうに返事をした。廉哉は、神に対して思うところがあり、ずっとここに来るまで緊張していたのだ。疲れたというのもあるのだろう。
《ぐるる》
《くるる~》
「ん? 出口?」
二匹が片方の翼を広げて指した先。そこに、光魔法陣が出現した。
「あれが?」
「転移の魔法陣ですね」
「転移?」
「アレで一階層に跳べるんですよっ」
直接一階層に転移できる魔法陣を神達は用意してくれたのだ。攻略法はアレだったが、ボスを攻略したのだから当然だろう。だが、宗徳はキッパリ断った。
「あ? 転移? 入り口に? 使わんでいい。歩いて帰るぞ」
「え……」
《ぐる……》
《くるぅ……》
お約束をまたもや無視する宗徳に、廉哉と二匹の神達は絶句した。
「だってなあ。上の奴ら、心配してたんだぞ? 顔見ずに出てくなんていかんだろ」
《ぐる……》
《く、くる……》
二匹にとっては、引き籠る場所を作るついでだったのだ。今までは自身の殻に閉じこもって感じなかったようだが、確かに今、感謝の想いが伝わってくるらしい。
感謝される謂れはないし、ついでだったのだ。なんだか落ち着かないと、頭を埋める。
「恥ずかしいんか? 外を見てくるぞって言うだけだ。それだけできっと喜んでくれるさ。まあ、心配もするかもしれんが、そこは俺の出番だろ? 任せとけ」
《ぐるる……》
「いやいや。嫌われてねえって」
どうにも黒い方は素直になれないらしい。自分は悪だ。嫌われ者だと呟く。
「俺はお前も好きだぞ?」
《ぐっ……ぐるっ》
「汚い? 色が? 黒くていいじゃないか。黒だから悪いとかないぞ? 知ってるか? 色ってえのは、混ぜるほど黒に近付く。誰も避けられない色だ」
《ぐる……》
だから、悪い色だろうと黒い方が落ち込む。だが、それを言いたいわけではない。
「けどなあ。それでも、本当の黒にはなり得ねえと思うんだよ。本当の……この黒ってえのは混ざって出来たもんじゃねえ」
《っ……》
そっと撫でると、また少し震えているのが分かった。それを宥めるようにゆっくり撫でて、毛を整える。
「こんな綺麗な黒は、間違いなく唯一の色だ。誰にも真似できねえ。悪な訳あるかよ。悪いもんってえのは、嫌悪を感じるもんだ。こんな綺麗なあんたを、誰が嫌うんだよ」
《ぐる……っ》
ポタリと涙がこぼれた。大きな、丸い目からポタリと。それが、美しい宝石になる。
「うわっ。お前もそれ出るんか。もったいない。ほれ、やっぱり綺麗じゃねえか。あ~あ。色付いてるし。紅に青に……よしっ。寿子にこれで王冠作ってもらおう。一時期、ビーズにハマっててなあ。王冠作れると思うぞ」
《ぐる?》
「だって、夜の王様みたいじゃんか。めっちゃカッコいいよなっ」
《ぐっ、ぐる……っ》
宗徳の目が輝いていた。
そこで、神たちには改めて宗徳の本心が見えてしまった。
《っ……》
《……くる……っ》
どこにも偽りがないことに気付いたのだ。
『ぜってえ似合うよな!』
宗徳は綺麗だと。王冠が似合うと。そう心から思っていた。
《ぐるる……っ》
いつからか怖くて人の本心を見ないようにしていた神たち。言っていることと違うことを考えているのが当たり前で、疎ましく思われているのだと知って悲しかった。
それが苦しくて、知りたくないと耳と目を塞いだ。けれど、いざ聞こえなくなると、見えなくなると不安だった。
そして、また聞いてしまって傷付く。その繰り返し。それに疲れてしまったのだ。けれど今、どこまでも素直に言葉にする人が目の前にいる。
分かっていた。全部の人がそうではない。聞きたくないと思っても聞いていたその向こうに、素直に慕う声もあったのだと思い出した。
そして、心は自由でなくてはならないのだと。
その自由を与えたのも、確かに自分たちなのだと思い出したのだ。
「お? なんか元気になったか?」
《ぐるる》
《くるー》
何を怯えることがあるのか。醜い心の声も許し、時には手を上げる。それは、その人を守るためのものだ。
決して、自分たちを傷付けるためのものではない。それを思い出した神たちは、安心して宗徳にすり寄った。
「んん? ははっ。くすぐったいなあ」
《ぐる~》
《くるる~》
その時、宗徳の心にあったのは『可愛いなあ』という想い。
それに照れながら、神たちはようやく本当に肩の力を抜くことができたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
よろしくお願いします◎
「名前聞いてないな」
《ぐる?》
《くる?》
「あ? ない?」
どういうことだと目を瞬かせる。
これに廉哉もそういえばと考え込むように視線を上の方へ投げる。
「僕も聞いたことないです。『この地の神』って言ってましたし、その……あとは『邪神』……と……」
不思議と気にならなかったらしい。それは、本当に神に名がないからだ。
「そりゃあ、不便だな。名乗ったらダメな理由でもあるのか?」
《ぐるる》
《くるる》
「ないなら、名前決めたらどうだ?」
《ぐるう?》
《くるう?》
共に目を丸くし、共に首を傾げる。まるで双子のようだ。
「くくっ。二人は双子の兄弟みたいだな」
《ぐる……っ》
《くるっ》
黒い方は照れくさそうに顔をくるりと背け、白い方は嬉しそうに鳴いた。
「ははっ。ほれ。名前、付けないか?」
《ぐ……ぐるる……》
《くる? くるる?》
二匹で相談し始めた。邪魔しないようにしながら、ゆっくり部屋を見回した。やっぱり寂しい部屋だと思う。
刀は宗徳の腰に戻ってきている。それを弄りながら待った。
《ぐるる!》
《くるっ》
「いてっ」
「宗徳さん!?」
ボサッとしてたら両肩から、コツンと頭を突かれた。
「なんだあ? 決まったのか?」
《ぐるるっ》
《くるっるー》
「は? 俺が?」
名前を付けろと言われてしまったのだ。
「あ~……と言われても、すぐにはな……ちょい考えさせてくれや」
《ぐるっ》
《くるっ》
「おう。しっかり考えるわ」
別にいつでもいいと言われた。さすがに神にというのは難しい。それも二つ。徨流はほとんど直感だったが、なんだか今度はそれではダメな気がしたのだ。
「なら、とりあえず出るか」
「そうですね」
《きゅぅ!》
廉哉も徨流も嬉しそうに返事をした。廉哉は、神に対して思うところがあり、ずっとここに来るまで緊張していたのだ。疲れたというのもあるのだろう。
《ぐるる》
《くるる~》
「ん? 出口?」
二匹が片方の翼を広げて指した先。そこに、光魔法陣が出現した。
「あれが?」
「転移の魔法陣ですね」
「転移?」
「アレで一階層に跳べるんですよっ」
直接一階層に転移できる魔法陣を神達は用意してくれたのだ。攻略法はアレだったが、ボスを攻略したのだから当然だろう。だが、宗徳はキッパリ断った。
「あ? 転移? 入り口に? 使わんでいい。歩いて帰るぞ」
「え……」
《ぐる……》
《くるぅ……》
お約束をまたもや無視する宗徳に、廉哉と二匹の神達は絶句した。
「だってなあ。上の奴ら、心配してたんだぞ? 顔見ずに出てくなんていかんだろ」
《ぐる……》
《く、くる……》
二匹にとっては、引き籠る場所を作るついでだったのだ。今までは自身の殻に閉じこもって感じなかったようだが、確かに今、感謝の想いが伝わってくるらしい。
感謝される謂れはないし、ついでだったのだ。なんだか落ち着かないと、頭を埋める。
「恥ずかしいんか? 外を見てくるぞって言うだけだ。それだけできっと喜んでくれるさ。まあ、心配もするかもしれんが、そこは俺の出番だろ? 任せとけ」
《ぐるる……》
「いやいや。嫌われてねえって」
どうにも黒い方は素直になれないらしい。自分は悪だ。嫌われ者だと呟く。
「俺はお前も好きだぞ?」
《ぐっ……ぐるっ》
「汚い? 色が? 黒くていいじゃないか。黒だから悪いとかないぞ? 知ってるか? 色ってえのは、混ぜるほど黒に近付く。誰も避けられない色だ」
《ぐる……》
だから、悪い色だろうと黒い方が落ち込む。だが、それを言いたいわけではない。
「けどなあ。それでも、本当の黒にはなり得ねえと思うんだよ。本当の……この黒ってえのは混ざって出来たもんじゃねえ」
《っ……》
そっと撫でると、また少し震えているのが分かった。それを宥めるようにゆっくり撫でて、毛を整える。
「こんな綺麗な黒は、間違いなく唯一の色だ。誰にも真似できねえ。悪な訳あるかよ。悪いもんってえのは、嫌悪を感じるもんだ。こんな綺麗なあんたを、誰が嫌うんだよ」
《ぐる……っ》
ポタリと涙がこぼれた。大きな、丸い目からポタリと。それが、美しい宝石になる。
「うわっ。お前もそれ出るんか。もったいない。ほれ、やっぱり綺麗じゃねえか。あ~あ。色付いてるし。紅に青に……よしっ。寿子にこれで王冠作ってもらおう。一時期、ビーズにハマっててなあ。王冠作れると思うぞ」
《ぐる?》
「だって、夜の王様みたいじゃんか。めっちゃカッコいいよなっ」
《ぐっ、ぐる……っ》
宗徳の目が輝いていた。
そこで、神たちには改めて宗徳の本心が見えてしまった。
《っ……》
《……くる……っ》
どこにも偽りがないことに気付いたのだ。
『ぜってえ似合うよな!』
宗徳は綺麗だと。王冠が似合うと。そう心から思っていた。
《ぐるる……っ》
いつからか怖くて人の本心を見ないようにしていた神たち。言っていることと違うことを考えているのが当たり前で、疎ましく思われているのだと知って悲しかった。
それが苦しくて、知りたくないと耳と目を塞いだ。けれど、いざ聞こえなくなると、見えなくなると不安だった。
そして、また聞いてしまって傷付く。その繰り返し。それに疲れてしまったのだ。けれど今、どこまでも素直に言葉にする人が目の前にいる。
分かっていた。全部の人がそうではない。聞きたくないと思っても聞いていたその向こうに、素直に慕う声もあったのだと思い出した。
そして、心は自由でなくてはならないのだと。
その自由を与えたのも、確かに自分たちなのだと思い出したのだ。
「お? なんか元気になったか?」
《ぐるる》
《くるー》
何を怯えることがあるのか。醜い心の声も許し、時には手を上げる。それは、その人を守るためのものだ。
決して、自分たちを傷付けるためのものではない。それを思い出した神たちは、安心して宗徳にすり寄った。
「んん? ははっ。くすぐったいなあ」
《ぐる~》
《くるる~》
その時、宗徳の心にあったのは『可愛いなあ』という想い。
それに照れながら、神たちはようやく本当に肩の力を抜くことができたのだ。
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