シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜

紫南

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mission 11 王都調査と救助

116 神の遣い?

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ユマは信頼できる騎士達に父王達が逃げないように任せ、宗徳達の所へ戻ってきた。気付いた寿子は手を上げて呼ぶ。

「あ、ユマさんっ」
「お、本当に来てたんだな」
「あら?」
「どうした?」

向かってくるユマを見て、寿子が少し不思議そうにした。

「ええ……なんだかユマさんの雰囲気が変わった気がして……アレかしら。お父さん達にちゃんと言いたいこと、言えたのかしらね。なんだかスッキリした顔だわ」
「ん? ここに親が居たのか?」

宗徳は、その父親はちゃんと無事だったか心配になった。

「あなた……忘れてるのね? ユマさんは王女様だったでしょう?」
「あ、そういやそうだった。ってことは、父親は国王……か? 無事だったんだな」
「……助けた人の確認もしなかったのですか? 居ましたよ。凄く派手で高そうな服を着た方が。ユマさんの兄姉らしき方々も。ただ……その高そうな服がボロボロで、もったいなかったですけど」
「そりゃあ……あん中にいたらな……もったいねえ」

二人とも、気にするのは無事だったことよりもその服だ。演劇でしか見たことのないあの豪華な服を着ているのかと思うと、宗徳は顔をしかめることしかできなかった。

ユマがやって来るのと同時に、廉哉と久遠が、作ったご飯を持ってきた。

「あ、ユマさんも戻って来られたんですね。丁度良かったです」

廉哉はユマへも届けようとしていたらしい。久遠がユマへラップで包んだおにぎりを手渡す。

「はいっ! どうじょ!」

力が入っている。

「まあっ。ありがとう。これは……」

ラップなど見たことがないだろう。どこにこのラップがあったかと言うと、コンテナハウスの中だ。日に日に何かあった時の為にと中の物は増えている。棚に入れておいたやつだろう。

久遠がユマに包みを開くのを指をさして教えていた。彼女は頭が良い。狼系の獣人は賢い者が多いと聞いている。兄である悠遠もしっかりしているので、そうなるのかなと思っている。それを見ながら宗徳は廉哉へ尋ねた。

「あそこに入ってたラップだけじゃ足りんだろう」
「いえ、僕も持ってましたし、お皿がある人は、それに、キュアの力で浄化して渡してます」
「俺も持ってるから、持ってって良いぞ」
「私も持ってます」

空間収納に、宗徳も寿子もラップを一本ずつどころか、入れ替え用も持っていた。それを出して見せる。異世界、何があるか分からない。備えは大事だ。

「じゃあ、一本だけ、替えのを持って行きます」
「おう、持ってけ」

そんな会話の間に、ユマはおにぎりにかぶりついていた。

「美味しい! 甘くてもちもちしてるのねっ。似たようなのを食べたことあるけど、もっとパサパサしてて硬かったわ」

少し離れた所に居る騎士達が二度見どころか三度見していた。彼らはユマが王女だと分かっている。

宗徳と寿子も受け取り、パクつく。

「ん、ちゃんと米、炊いたんだな」
「ええ。美希鷹君が、サバイバル実習で腕を磨いたとかで、魔術を使ってやってました。ただ……」
「どうした?」
「なあに?」

何か厄介なことでもあったのだろうかと『サバイバル実習』という注目すべき言葉も流し、宗徳と寿子は心配気に食べるのをやめて廉哉を見た。

「それが……炊くにはコンテナハウスにあった小さい炊飯器では間に合わないので、美希鷹君とキュアが『異世界だし良いっか♪』と言って、本来? の姿に……」
「「ん?」」

二人で顔を見合わせた。本来の姿とはなんだったか。聞いてないはずはない気がする。そして、寿子が思い当たった。

「……タカ君……そういえば、翼人族だと言っていませんでした?」
「あ……ってことは、そうか。キュアと合体した……?」
「キュアちゃんがタカ君の翼だって言ってましたものね……」

あちらでは中々その姿になることも、本来なら飛べるのに、飛ぶこともできないのだと聞いたことがある。

確かに、異世界ならばアリかと宗徳と寿子は納得した。だが、異世界でも珍しいものはある。

「そうなんです……まさに天使だと治季さんが言い出して、混乱を避けるにはコレだと律紀さんも盛り上がって……」
「……何があった?」
「コレってのが気になるわね……」

治季はこちらへ来てから特にテンションがおかしい。律紀も冷静そうに見えて、あれは内心楽しんでいるようだった。その二人の案。嫌な予感がした。

「美希鷹君も、遠慮なく魔術を披露してしまったのもありますし、この国が神を邪神として打ってしまったという話も、僕がしてしまったのが悪かったのかと……」

治季と律紀は、廉哉と宗徳がなぜこの国に来たのかという話も聞き、それならば、神の威光を取り戻してやろうと張り切りだしたらしい。

「態度の悪い人達も居たので、それでまた勢いが付いたんだと思います。美希鷹君を……神の遣いだと……講釈を少々……」
「……悪いことじゃねえけど……」
「……やったわね……」

美希鷹がまさに天使の見た目になったのだ。天使は神の遣い。これから宗徳達が神に会いに行くのなら、少しでもその影響力を付けておこうと思ったのだろう。ダメではない。

「……拝み方って、異世界でも同じなんです。受け取る人がみんな、捧げ持つように掲げてました……」

廉哉は遠い目をしていた。だが、これによって、平和に炊き出しが出来るようになったらしい。

それを聞いていたユマが声を上げる。

「それは素敵な状況ですね! 使わせていただいてよろしいでしょうか?」
「ん? どういうことだ?」

美希鷹とキュリアートを利用しようと言うのなら、あまり歓迎できることではない。その思いを、宗徳の声音から感じ取ったのだろう。ユマは手と首を振って否定する。

「あ、いえ、皆さまにご迷惑はかけません。ただ、この機会に、間違ってしまったこと……神の真実と、今回の起こりについて民達に話そうと思うのです。神が居ることを、神の遣いがいるということで、信じやすくなります」
「神の遣いが居るということだけに使うということですね? それくらいなら……先に美希鷹君に話してきましょうか」

ユマではなく、廉哉は宗徳に確認する。

「そうだな……まあ、何かあれば俺が守るさ。けど、鷹には確認してくれ」
「では、先に行って来ます」

廉哉が駆け出していった。

「ありがとうございます。申し訳ありません。皆さんには既にこれほどのご迷惑をおかけしているというのに……」
「いいのよ。何ともないし、どうにかなりそうだもの。それより、タカ君なら賛成してくれると思うわ。だから、ユマさんも準備して来て」
「準備……ですか?」

何のだろうと本気でユマは頭を傾げた。

「この惨状で、原因を作った人達が頭を下げないのは許されないわよね?」

寿子がニヤリと笑った。それにユマも応えるように笑みを浮かべる。若干、黒いのは気のせいではないかもしれない。

「ふふ。なるほど。もちろんです。王家を滅しても……いえ、お二人が居なければ、ここに居た王族は絶えていました。ならば同じことです」

そうして、ユマは騎士へ声をかける。

「王族を全員連れてきてちょうだい」

その一言で、騎士達はビシッと敬礼し、駆け足で実行に移った。

「ユマさんって、やっぱり王女ね」
「元、です」

そう笑い合う二人が怖いと、宗徳は近付いて来た久遠を抱え、小さくなっていた。

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読んでくださりありがとうございます◎
また二週空きます。
よろしくお願いします◎
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