98 / 200
mission 10 荒廃した町の支援
098 見に来たんだそうで
しおりを挟む
2019. 4. 20
**********
先ず、最初に接触した四人はこの町の住民達の代表だった。
「……孤児達が消えたのに気付いて、気になって調べていたんだ……」
彼らの家の裏や近くの路地にも、ろくに動けなくなった子ども達がいた。その存在を知ってはいても、助けることができなかった。
人一人を養うというのは大変なこと。それが小さな子どもであっても、明日の生活さえ満足に想像できない彼らにとっては重荷になる。
助けることで、自分自身や家族が死ぬかもしれないのだ。
毎日、日に日に衰弱していく孤児達を目の端に置いて生活していた。それはとてもストレスのかかることだ。
しかし、そんな子ども達が一晩で消えた。
町の者達はその怪異と呼べるような現象に不安を覚えた。そして、この教会にたどり着いたのだ。
「こんな教会、昨日の朝はなかった。なにが起きたのか怖くなって……交代で見張っていたんだ」
「まあ、そりゃあ驚くわな。すまん。つい出来心でな」
「はあ……ということは、本当にこれをあなたが……」
「おう。俺と息子でな」
これを聞いて、信じるとは思っていない。
いくら魔術を知るこちらの人であっても、こんなことが容易くできるものではない。それに何より、この大陸で魔術を使えるのは上流階級の者のみ。
平民である彼らには想像できない奇跡の技だった。
一方、貴族らしく見える身なりの良い少年と護衛の二人の三人組。彼らも信じられないようだ。
「これは魔術を使われたのですか……? もしや、あなたは西の大陸の方ですか?」
「そうだ。まあ、だからってあっちの大陸の奴らが全員これをできるとは俺も思わねえよ? 俺らはちょい特殊なんだよ」
「それは……わかります」
あまりにも荒唐無稽に過ぎるとでも思っているのだろう。魔術を知っているからこそ、これがどれほど異常なのかがわかるのだ。
「で? お前さんは何者なんだ? 貴族の坊ちゃんで間違いないとは思うが」
これに少年は素直に頷いた。
「はい……私はこの町を治める領主の三男です」
「三男か。なんだ? じゃあ、様子見てこいって言われたのか」
「そうです……それでこの教会を接収しろと……」
「へえ。接収ねえ……で? すんのか?」
「っ……」
宗徳がニヤリと笑って見つめると、少年は怖じたように首を引っ込めた。
よく見ると震えているようだ。そして、はっきりとした声で叫ぶように否定する。
「で、できませんっ」
「ははっ、そんな怯えんなって。なあ、父ちゃん連れて来られるか?」
「え……父ちゃ……父上のことですか?」
「そう。その父上さまをな。俺はどんなやつか気になるし、父ちゃんはここが気になってんだろう? なら来いってこと」
「……父上を……」
少年は悩み出す。宗徳への恐怖心を一時的に忘れてしまうほど、思案していた。
その間に町の青年たちへ再び話しかける。先ほどから少年の護衛達はピクリとも動かないのだ。どうも、宗徳が只者ではないと感じ取り、動くべきではないと判断したらしい。
なので、彼らはいないものと考えることにした。
「お前らの家ってどの辺なんだ?」
そう言って、宗徳は机に手を触れ、集中するとふっと魔術を発動させる。
すると、机にこの町の地図が描かれた。まるで焼き入れされたようだった。
「っ!?」
「ほれ、ここがこの教会だ。どこだ?」
「え、えっと……」
驚きながらも、宗徳が平然と尋ねるので慌てて視線を走らせていた。
「こ、ここだと思います……」
「あんま遠くないな。で、お前らは?」
そうして四人全員の家の場所を把握する。
その頃には少年の思考が終了しており、次に唐突に机に描かれた町の地図に目を見開いていた。
「お、戻ってきたか。お前さんの家はそれだよな?」
「は、はい」
丁度少年の正面。町のほぼ中央に立派な屋敷があったのだ。
「そんで、どうだ? 父ちゃん、呼んでこられそうか?」
「……いえ……私の言葉を父上は聞かないでしょう……」
「いや、聞くくらいするだろう」
今回も見てこいと言ったのなら報告は聞くはずだ。とはいえ、家では発言権が低いのだろうことは分かった。
「まあいいけどな。なら、お前しばらくここに泊まればいい。その内、気になって出てくるだろう」
「……え?」
宗徳は少年のやつれた姿を見た時には既にそれを決めていた。
「どうせ、家でもあんま食ってねえんだろ。ここにいろ。好きなだけ食わせてやっからな」
「っ……」
ニカッと笑った宗徳に、少年だけでなく全員が期待するように目を見開いたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一週空きます。
よろしくお願いします◎
**********
先ず、最初に接触した四人はこの町の住民達の代表だった。
「……孤児達が消えたのに気付いて、気になって調べていたんだ……」
彼らの家の裏や近くの路地にも、ろくに動けなくなった子ども達がいた。その存在を知ってはいても、助けることができなかった。
人一人を養うというのは大変なこと。それが小さな子どもであっても、明日の生活さえ満足に想像できない彼らにとっては重荷になる。
助けることで、自分自身や家族が死ぬかもしれないのだ。
毎日、日に日に衰弱していく孤児達を目の端に置いて生活していた。それはとてもストレスのかかることだ。
しかし、そんな子ども達が一晩で消えた。
町の者達はその怪異と呼べるような現象に不安を覚えた。そして、この教会にたどり着いたのだ。
「こんな教会、昨日の朝はなかった。なにが起きたのか怖くなって……交代で見張っていたんだ」
「まあ、そりゃあ驚くわな。すまん。つい出来心でな」
「はあ……ということは、本当にこれをあなたが……」
「おう。俺と息子でな」
これを聞いて、信じるとは思っていない。
いくら魔術を知るこちらの人であっても、こんなことが容易くできるものではない。それに何より、この大陸で魔術を使えるのは上流階級の者のみ。
平民である彼らには想像できない奇跡の技だった。
一方、貴族らしく見える身なりの良い少年と護衛の二人の三人組。彼らも信じられないようだ。
「これは魔術を使われたのですか……? もしや、あなたは西の大陸の方ですか?」
「そうだ。まあ、だからってあっちの大陸の奴らが全員これをできるとは俺も思わねえよ? 俺らはちょい特殊なんだよ」
「それは……わかります」
あまりにも荒唐無稽に過ぎるとでも思っているのだろう。魔術を知っているからこそ、これがどれほど異常なのかがわかるのだ。
「で? お前さんは何者なんだ? 貴族の坊ちゃんで間違いないとは思うが」
これに少年は素直に頷いた。
「はい……私はこの町を治める領主の三男です」
「三男か。なんだ? じゃあ、様子見てこいって言われたのか」
「そうです……それでこの教会を接収しろと……」
「へえ。接収ねえ……で? すんのか?」
「っ……」
宗徳がニヤリと笑って見つめると、少年は怖じたように首を引っ込めた。
よく見ると震えているようだ。そして、はっきりとした声で叫ぶように否定する。
「で、できませんっ」
「ははっ、そんな怯えんなって。なあ、父ちゃん連れて来られるか?」
「え……父ちゃ……父上のことですか?」
「そう。その父上さまをな。俺はどんなやつか気になるし、父ちゃんはここが気になってんだろう? なら来いってこと」
「……父上を……」
少年は悩み出す。宗徳への恐怖心を一時的に忘れてしまうほど、思案していた。
その間に町の青年たちへ再び話しかける。先ほどから少年の護衛達はピクリとも動かないのだ。どうも、宗徳が只者ではないと感じ取り、動くべきではないと判断したらしい。
なので、彼らはいないものと考えることにした。
「お前らの家ってどの辺なんだ?」
そう言って、宗徳は机に手を触れ、集中するとふっと魔術を発動させる。
すると、机にこの町の地図が描かれた。まるで焼き入れされたようだった。
「っ!?」
「ほれ、ここがこの教会だ。どこだ?」
「え、えっと……」
驚きながらも、宗徳が平然と尋ねるので慌てて視線を走らせていた。
「こ、ここだと思います……」
「あんま遠くないな。で、お前らは?」
そうして四人全員の家の場所を把握する。
その頃には少年の思考が終了しており、次に唐突に机に描かれた町の地図に目を見開いていた。
「お、戻ってきたか。お前さんの家はそれだよな?」
「は、はい」
丁度少年の正面。町のほぼ中央に立派な屋敷があったのだ。
「そんで、どうだ? 父ちゃん、呼んでこられそうか?」
「……いえ……私の言葉を父上は聞かないでしょう……」
「いや、聞くくらいするだろう」
今回も見てこいと言ったのなら報告は聞くはずだ。とはいえ、家では発言権が低いのだろうことは分かった。
「まあいいけどな。なら、お前しばらくここに泊まればいい。その内、気になって出てくるだろう」
「……え?」
宗徳は少年のやつれた姿を見た時には既にそれを決めていた。
「どうせ、家でもあんま食ってねえんだろ。ここにいろ。好きなだけ食わせてやっからな」
「っ……」
ニカッと笑った宗徳に、少年だけでなく全員が期待するように目を見開いたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一週空きます。
よろしくお願いします◎
76
お気に入りに追加
862
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる