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mission 9 東大陸の調査
095 家族になっていきます
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2019. 3. 16
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宗徳と廉哉は夕食の時間ギリギリに帰城した。寿子と五人の子ども達と共に食事をしていたのだが、今日一日あったことを話し、最後に教会を改造して子ども達をそこに置いてきたと聞いた途端、寿子が怒り出した。
「今すぐに行きますよ! まったくあなたという人は! 確かに夕食はきちんと揃ってと言いました。ですが、それも時と場合によります!」
「お、おう……すまん……」
昔から、寿子との約束は守るようにしてきた。家のことを任せる以上、それくらいは最低でもと思ってきたのだ。
実は若い頃は同僚と毎晩のように飲み歩いた。その時に一度家出されたのだ。
『実家に帰らせていただきます!』というやつだ。
朝は出かける前の忙しさで話しはほとんどできない。昼間は仕事だ。
そんな中で夕飯は夫婦で一日の出来事について話す大切な時間。その時間が取れなくなるのは、情報の共有ができないということ。これは家族として良くないと思ったものだ。
息子の徹が生まれてからは、寿子がこうして欲しいというならそれを叶えるために努力した。もちろん、できる範囲でだ。とはいえ、寿子も無茶は言わない。
それが分かっているから、今回のように『夕食には帰って来ること』という言葉を何が何でも守りたかった。
だが、今回は不味かったらしい。確かに考えてみれば、あのような状況なのだ。連絡手段もあるのだから、帰れないと伝えておけばそれで良かった。
「約束を守ろうとしてくれるのは良いんですよ? けど、相談してください。わがままは言いませんよ?」
「そうだな……けど、今日は徨流もレンも疲れてる。明日の朝に行くことにする。対策はしてきた。大丈夫だ」
宗徳は妻のため、家族のためと頑張れる人だ。だが、寿子としては何でもかんでも言う通りにして欲しいわけではない。可能な限りで構わないと思っているのだ。
夫婦である以上、どちらかが無理をする関係は良くない。面倒ではあるが、それを苦とも思わずに二人ともが自然とバランスを取れる関係。それが理想なのだから。
妻として夫を支えたい。その思いは、この歳になっても寿子の中で変わることはなかった。苦難は共にと思っている。
「……そんな状況なら、明日は私も行きます。後で師匠に許可をいただいてきますね」
「いいのか?」
「当然です。何より、こちらでは主婦と会社員というわけではありませんもの。私……あなたと同じように一緒に働けるのがすごく嬉しいんです」
「寿子……」
宗徳は今になって気付いた。今の状況が異常すぎて気付かなかった。
寿子は今、同じ職場の同僚である。
それに『仕事』は家族の生活がかかっているという無意識の強迫観念のようなものがあった。けれど、今ここではそれがない。思うままに行動しても構わないのだ。
機械のように上からの命令で一日を過ごさなくても良い。不満がない職場だ。自分たちで考え、一から会社を作っていくようなものだ。
それを夫婦でやれる。これほど恵まれた環境は他にないだろう。
「俺も、お前と一緒に考えてやっていけるのは嬉しい。俺の足りん所、教えてくれ。頼りにしてるからな」
「もちろんです。私達は夫婦ですもの」
「そうだな」
若い姿になり、身体能力も格段に上がっている。だが、今あるのは新婚気分というものではない。宗徳と寿子は長年寄り添ってきた経験そのままに、温かい夫婦の雰囲気が部屋を満たしていた。
これに、子ども達も自然と笑顔になる。
「ボクもおてつだいする~!」
いつも元気で慌てん坊な猫の獣人である五歳の男の子、石火が楽しそうに手を上げた。
「おとうさん。ぼくもやります」
真面目な次男。廉哉を除けば一番年長の六歳。狼の獣人の悠遠も名乗りを上げた。
そうすると他の妹達も同意する。
「わ、わたしも、がんばる」
「やる~」
「は~い」
楽しそうだった。
「おっ、いいのか? けどなあ……あっちには獣人がいないしなあ……」
「いいじゃありませんか。色々な価値観を知ることも必要です。私たちが絶対の味方なんですから、それを示せれば問題ありませんよ」
「僕が悠遠達の側にいますよ」
「そうか? なら……父さん達と一緒に仕事してくれるか?」
「「「「「するー!!」」」」」
宗徳と寿子は顔を見合わせて笑うと、明日の予定を考えながら万全を期そうと頷き合ったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一週空き30日の予定です。
よろしくお願いします◎
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宗徳と廉哉は夕食の時間ギリギリに帰城した。寿子と五人の子ども達と共に食事をしていたのだが、今日一日あったことを話し、最後に教会を改造して子ども達をそこに置いてきたと聞いた途端、寿子が怒り出した。
「今すぐに行きますよ! まったくあなたという人は! 確かに夕食はきちんと揃ってと言いました。ですが、それも時と場合によります!」
「お、おう……すまん……」
昔から、寿子との約束は守るようにしてきた。家のことを任せる以上、それくらいは最低でもと思ってきたのだ。
実は若い頃は同僚と毎晩のように飲み歩いた。その時に一度家出されたのだ。
『実家に帰らせていただきます!』というやつだ。
朝は出かける前の忙しさで話しはほとんどできない。昼間は仕事だ。
そんな中で夕飯は夫婦で一日の出来事について話す大切な時間。その時間が取れなくなるのは、情報の共有ができないということ。これは家族として良くないと思ったものだ。
息子の徹が生まれてからは、寿子がこうして欲しいというならそれを叶えるために努力した。もちろん、できる範囲でだ。とはいえ、寿子も無茶は言わない。
それが分かっているから、今回のように『夕食には帰って来ること』という言葉を何が何でも守りたかった。
だが、今回は不味かったらしい。確かに考えてみれば、あのような状況なのだ。連絡手段もあるのだから、帰れないと伝えておけばそれで良かった。
「約束を守ろうとしてくれるのは良いんですよ? けど、相談してください。わがままは言いませんよ?」
「そうだな……けど、今日は徨流もレンも疲れてる。明日の朝に行くことにする。対策はしてきた。大丈夫だ」
宗徳は妻のため、家族のためと頑張れる人だ。だが、寿子としては何でもかんでも言う通りにして欲しいわけではない。可能な限りで構わないと思っているのだ。
夫婦である以上、どちらかが無理をする関係は良くない。面倒ではあるが、それを苦とも思わずに二人ともが自然とバランスを取れる関係。それが理想なのだから。
妻として夫を支えたい。その思いは、この歳になっても寿子の中で変わることはなかった。苦難は共にと思っている。
「……そんな状況なら、明日は私も行きます。後で師匠に許可をいただいてきますね」
「いいのか?」
「当然です。何より、こちらでは主婦と会社員というわけではありませんもの。私……あなたと同じように一緒に働けるのがすごく嬉しいんです」
「寿子……」
宗徳は今になって気付いた。今の状況が異常すぎて気付かなかった。
寿子は今、同じ職場の同僚である。
それに『仕事』は家族の生活がかかっているという無意識の強迫観念のようなものがあった。けれど、今ここではそれがない。思うままに行動しても構わないのだ。
機械のように上からの命令で一日を過ごさなくても良い。不満がない職場だ。自分たちで考え、一から会社を作っていくようなものだ。
それを夫婦でやれる。これほど恵まれた環境は他にないだろう。
「俺も、お前と一緒に考えてやっていけるのは嬉しい。俺の足りん所、教えてくれ。頼りにしてるからな」
「もちろんです。私達は夫婦ですもの」
「そうだな」
若い姿になり、身体能力も格段に上がっている。だが、今あるのは新婚気分というものではない。宗徳と寿子は長年寄り添ってきた経験そのままに、温かい夫婦の雰囲気が部屋を満たしていた。
これに、子ども達も自然と笑顔になる。
「ボクもおてつだいする~!」
いつも元気で慌てん坊な猫の獣人である五歳の男の子、石火が楽しそうに手を上げた。
「おとうさん。ぼくもやります」
真面目な次男。廉哉を除けば一番年長の六歳。狼の獣人の悠遠も名乗りを上げた。
そうすると他の妹達も同意する。
「わ、わたしも、がんばる」
「やる~」
「は~い」
楽しそうだった。
「おっ、いいのか? けどなあ……あっちには獣人がいないしなあ……」
「いいじゃありませんか。色々な価値観を知ることも必要です。私たちが絶対の味方なんですから、それを示せれば問題ありませんよ」
「僕が悠遠達の側にいますよ」
「そうか? なら……父さん達と一緒に仕事してくれるか?」
「「「「「するー!!」」」」」
宗徳と寿子は顔を見合わせて笑うと、明日の予定を考えながら万全を期そうと頷き合ったのだ。
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よろしくお願いします◎
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