86 / 197
mission 9 東大陸の調査
086 一体何なのでしょう
しおりを挟む
2018. 12. 22
**********
本来の大きさになった徨流の背に乗り、宗徳と廉哉は、大陸の東。海を隔てた大国へと向かっていた。
「ケーリア国っつたか? どんな国か覚えてるか?」
「はい……あまり良い国ではなかったですね……」
これは傷付けてしまっただろうかと、後ろに乗っている廉哉の顔を少し振り返ってみれば、暗い表情をしていた。だが、自身の胸の痛みに耐えているようなものではなかったので安心する。
その証拠に、廉哉はゆっくりと話し始めた。
「あの国から逃げていた時、同じ大陸にある国も回ったんですが、全体的にあの大陸は貧富の差が激しいように感じました」
廉哉は、身の危険を感じて勇者としての力を利用し、なんとかケーリア国を脱出した。しかし、安住できる場所を探すのは難しく、その折に見て回った他の国もいい印象はなかったらしい。
「それは暴君なのか……土地の問題か?」
「両方ですね。こう……大地に力がないような……草木もあまり豊かに茂っている場所というのがなかったように思いますし、王の印象も良くないです……」
干ばつの起こる地域も広くあり、作物も葉物だけでなく、根菜の育ちも悪かったようだ。その上に税収だけはきっちりしていたとなれば、国の印象は悪くなる。
「そりゃぁ……よくこっちの大陸にちょっかいかけずにいられるなぁ」
宗徳が聞いた話では、大陸内での戦争が多いということだった。それだけ生活に困窮しており好戦的ならば、海を渡ってこちらの大陸を攻めようとするはずだ。しかし、そうはならない理由があった。
「間にある海には、リヴァイアサンが居るんです。大きな船は沈められてしまうらしくて、大軍を送り込むということが出来ないんですよ」
「リブァイヤさん? ん? どっかでその言葉……」
口に出してみると言い難い。この響きをるどこかで口にしたような気がすると、宗徳は腕を組んで首を傾げる。
すると、徨流が体を揺らして主張する。
《ギュア》
「うわっと、あっ、そうだリヴァイアサン! 徨流がそれだ!」
「え? リヴァイアサンはもっと顔が尖ってたはずなんですけど……本当だ……あ、変異種なんですね」
《グルル~》
廉哉も鑑定能力があるらしく、徨流を改めて見て気付く。廉哉はこの本来の姿になった徨流を知らなかった。
「寿子さんから、あちらで龍神と呼ばれていたと聞いていたので、てっきりそういうものだと思ってました」
「おう。俺も言い難い名前より、龍神様な認識だからな。忘れてたぞ」
見た目も伝説にあるような龍の姿なのだから、この認識はある意味仕方がない。
「で? どうなんだ徨流。知ってるやつっぽいか?」
《グルゥ》
「あ、マジ?」
《グルゥっ》
「なら挨拶しなけりゃいかんな」
「えっと……会話できてるんですか? でもそういえば……いままでも宗徳さんとだけは……」
廉哉にはグルグル鳴いているようにしか聞こえないのだ。とはいえ、普段の小さい姿の時も、宗徳とはなんとなく会話しているように感じていたのだろう。本当にわかっているのかは、子ども達も聞いていない。
誓約者だからかなと、周りもなんとなく納得しているため、改めて聞く者はいなかった。
「分かるぞ? こうビビっとくる感じでな。言葉じゃねぇんだが……これってなんだろうな?」
《グルル?》
徨流も宗徳に訴えれば通じるので、それがどういう風に伝わっているのかは気にしていない様子だ。
「直感みたいな感じなんでしょうか……不思議ですね。それで、知り合いなんですか?」
《おう。母ちゃんだとさっ》
「えっ、そ、そうなんですかっ。あ、でもやっぱり魔獣って親離れしたら情とか……どうなんでしょう」
ある程度育てたら独り立ちという感じで、種族によっては親子であっても関係ないということにならないだろうか。そう廉哉は心配していた。
「そうだなぁ。まぁ、会ってみてだな。話が通じんかったら逃げりゃいいだろ」
「そうですね……それに、一般的なリヴァイアサンはこうして水から離れて空を飛んだりしませんし」
「……んん? 飛ばねぇの?」
「ええ。水面から多少浮き上がることはありますが、ほとんど水の中の生き物ですから」
この世界でリヴァイアサンというのは、魚の魔物の分類だと廉哉に説明され、宗徳は目を瞬く。
「……おい、徨流……お前なんで飛んでんの? ってか水にほとんど浸かってねぇし……寧ろ風呂好きってどうなんだ?」
「そういえば……温かいお湯、平気でしたね」
「魚じゃねぇじゃんっ」
《グルルル?》
人の好むお風呂の温度でも平気で浸かっていたりする徨流だ。この前など『風呂ってぇのはこうして頭にタオルを置いて入るんだぞ』なんて言いながら、宗徳に渡された小さな四角い布を頭に乗せて半身浴していた。
徨流も本当にお湯でも平気らしく、更には、子ども達の布団の上にとぐろを巻いて眠る。今更だが肺呼吸も問題ないということだ。
「ま、まぁ、変異種ですし……多少のイレギュラーはあるかと……」
廉哉がよく分からないフォローを入れる。
「……ってか、徨流……魚じゃないって言ってんよ……ならお前なんなんだろうなぁ……」
《グルっ》
「お、おう。徨流だな……そうか。そうだなっ。徨流は徨流だっ。よし、それで行こう」
「……そうですね……」
ただ、これで母親に親子とまではいかなくても、同種の仲間と判断してもらえるかは謎だった。
「会って大丈夫でしょうか……」
「いいじゃんか。徨流も会いたいだろうし」
《グルルゥっ》
「ほれ、会いたいってさ。そんじゃ、母ちゃんに挨拶と行くかっ」
《グルル~ゥ》
「……はい……」
呑気な宗徳と徨流に、廉哉は大丈夫かなと内心心配しながら、見えてきた海に目を向けたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一度お休みさせていただき
来年5日です。
よろしくお願いします◎
**********
本来の大きさになった徨流の背に乗り、宗徳と廉哉は、大陸の東。海を隔てた大国へと向かっていた。
「ケーリア国っつたか? どんな国か覚えてるか?」
「はい……あまり良い国ではなかったですね……」
これは傷付けてしまっただろうかと、後ろに乗っている廉哉の顔を少し振り返ってみれば、暗い表情をしていた。だが、自身の胸の痛みに耐えているようなものではなかったので安心する。
その証拠に、廉哉はゆっくりと話し始めた。
「あの国から逃げていた時、同じ大陸にある国も回ったんですが、全体的にあの大陸は貧富の差が激しいように感じました」
廉哉は、身の危険を感じて勇者としての力を利用し、なんとかケーリア国を脱出した。しかし、安住できる場所を探すのは難しく、その折に見て回った他の国もいい印象はなかったらしい。
「それは暴君なのか……土地の問題か?」
「両方ですね。こう……大地に力がないような……草木もあまり豊かに茂っている場所というのがなかったように思いますし、王の印象も良くないです……」
干ばつの起こる地域も広くあり、作物も葉物だけでなく、根菜の育ちも悪かったようだ。その上に税収だけはきっちりしていたとなれば、国の印象は悪くなる。
「そりゃぁ……よくこっちの大陸にちょっかいかけずにいられるなぁ」
宗徳が聞いた話では、大陸内での戦争が多いということだった。それだけ生活に困窮しており好戦的ならば、海を渡ってこちらの大陸を攻めようとするはずだ。しかし、そうはならない理由があった。
「間にある海には、リヴァイアサンが居るんです。大きな船は沈められてしまうらしくて、大軍を送り込むということが出来ないんですよ」
「リブァイヤさん? ん? どっかでその言葉……」
口に出してみると言い難い。この響きをるどこかで口にしたような気がすると、宗徳は腕を組んで首を傾げる。
すると、徨流が体を揺らして主張する。
《ギュア》
「うわっと、あっ、そうだリヴァイアサン! 徨流がそれだ!」
「え? リヴァイアサンはもっと顔が尖ってたはずなんですけど……本当だ……あ、変異種なんですね」
《グルル~》
廉哉も鑑定能力があるらしく、徨流を改めて見て気付く。廉哉はこの本来の姿になった徨流を知らなかった。
「寿子さんから、あちらで龍神と呼ばれていたと聞いていたので、てっきりそういうものだと思ってました」
「おう。俺も言い難い名前より、龍神様な認識だからな。忘れてたぞ」
見た目も伝説にあるような龍の姿なのだから、この認識はある意味仕方がない。
「で? どうなんだ徨流。知ってるやつっぽいか?」
《グルゥ》
「あ、マジ?」
《グルゥっ》
「なら挨拶しなけりゃいかんな」
「えっと……会話できてるんですか? でもそういえば……いままでも宗徳さんとだけは……」
廉哉にはグルグル鳴いているようにしか聞こえないのだ。とはいえ、普段の小さい姿の時も、宗徳とはなんとなく会話しているように感じていたのだろう。本当にわかっているのかは、子ども達も聞いていない。
誓約者だからかなと、周りもなんとなく納得しているため、改めて聞く者はいなかった。
「分かるぞ? こうビビっとくる感じでな。言葉じゃねぇんだが……これってなんだろうな?」
《グルル?》
徨流も宗徳に訴えれば通じるので、それがどういう風に伝わっているのかは気にしていない様子だ。
「直感みたいな感じなんでしょうか……不思議ですね。それで、知り合いなんですか?」
《おう。母ちゃんだとさっ》
「えっ、そ、そうなんですかっ。あ、でもやっぱり魔獣って親離れしたら情とか……どうなんでしょう」
ある程度育てたら独り立ちという感じで、種族によっては親子であっても関係ないということにならないだろうか。そう廉哉は心配していた。
「そうだなぁ。まぁ、会ってみてだな。話が通じんかったら逃げりゃいいだろ」
「そうですね……それに、一般的なリヴァイアサンはこうして水から離れて空を飛んだりしませんし」
「……んん? 飛ばねぇの?」
「ええ。水面から多少浮き上がることはありますが、ほとんど水の中の生き物ですから」
この世界でリヴァイアサンというのは、魚の魔物の分類だと廉哉に説明され、宗徳は目を瞬く。
「……おい、徨流……お前なんで飛んでんの? ってか水にほとんど浸かってねぇし……寧ろ風呂好きってどうなんだ?」
「そういえば……温かいお湯、平気でしたね」
「魚じゃねぇじゃんっ」
《グルルル?》
人の好むお風呂の温度でも平気で浸かっていたりする徨流だ。この前など『風呂ってぇのはこうして頭にタオルを置いて入るんだぞ』なんて言いながら、宗徳に渡された小さな四角い布を頭に乗せて半身浴していた。
徨流も本当にお湯でも平気らしく、更には、子ども達の布団の上にとぐろを巻いて眠る。今更だが肺呼吸も問題ないということだ。
「ま、まぁ、変異種ですし……多少のイレギュラーはあるかと……」
廉哉がよく分からないフォローを入れる。
「……ってか、徨流……魚じゃないって言ってんよ……ならお前なんなんだろうなぁ……」
《グルっ》
「お、おう。徨流だな……そうか。そうだなっ。徨流は徨流だっ。よし、それで行こう」
「……そうですね……」
ただ、これで母親に親子とまではいかなくても、同種の仲間と判断してもらえるかは謎だった。
「会って大丈夫でしょうか……」
「いいじゃんか。徨流も会いたいだろうし」
《グルルゥっ》
「ほれ、会いたいってさ。そんじゃ、母ちゃんに挨拶と行くかっ」
《グルル~ゥ》
「……はい……」
呑気な宗徳と徨流に、廉哉は大丈夫かなと内心心配しながら、見えてきた海に目を向けたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、一度お休みさせていただき
来年5日です。
よろしくお願いします◎
55
お気に入りに追加
818
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる