シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜

紫南

文字の大きさ
上 下
73 / 203
mission 8 故郷への帰還

073 負けなかった

しおりを挟む
2018. 9. 1

**********

二十二階。
ここは通称『異世界派遣開拓室』の第一課と呼ばれている。因みに第三課まであり、各課が二十三階と二十四階を使っている。

その三つと二十一階、二十五階までをまとめるのが、上司であるクーヴェラルだ。宗徳と寿子は、廉哉を連れて彼女の執務室にやってきた。

しかし、そこにいたのは、クーヴェラルだけではなかった。銀の長い髪を一つに結い、一見女性のような優しく柔らかな表情と整った顔をしているが、カジュアルなジャケットスーツを纏ったその体は、鍛えられたものだとわかる。

善治に似た雰囲気を持つその男は、しかし、浮かべられる表情から性格は真逆に近いかもしれないと感じられた。

善治はほとんど無表情で淡々と様々な事をこなし、人にあまり頼らない。しかし、目の前の男は恐らく穏やかに笑いながら上手く人を使い分ける器用さを持っていそうだ。

「お帰り、二人とも。それと、あなたも良く一人で頑張ったわね。私はクーヴェラル。彼らの上司よ」
「あ、はじめまして……廉哉といいます」

頭を下げる廉哉を、クーヴェラルも男も嬉しそうに見つめた。

宗徳達の視線に気付いたのだろう。男が一歩近付いて名乗る。

「はじめまして。この一つ下の階の『召喚対策室』の室長をしている蒼瑛《ソウエイ》です。こちらの対応が間に合わず、廉哉君には辛い思いをさせてしまった。申し訳ない」
「え……いえ……」

美しく頭を下げる蒼瑛に、廉哉も戸惑う。

「事情は大体、善君から聞いているけれど、君から話を聞かせてもらいたい。勿論、疲れているようなら日を改めよう」
「あ、あの。大丈夫です。話します」
「ありがとう。ではそこに座ってくれ。よろしいですか? クー様」
「ええ。もちろん。二人も座って」

促され、廉哉を真ん中にして宗徳と寿子がソファにかける。正面にクーヴェラルと蒼瑛が座ると廉哉が話しはじめた。

その時、廉哉は唐突に光に包まれたという。何が起きたのか分からず、目の前に広がった光景に唖然としたらしい。

「神殿でした。白くて、立派な石造りの神殿の中に座っていたんです」

周りにいるのは数人の白いローブを着た者達。誰も彼も目深にフードを被っているために顔は分からなかった。

そして、そんな彼らの後ろにはこれぞ王と思える人物が立っていた。まさしく彼は王で、不敵に傲慢に笑みを浮かべてこちらを見下ろしていたのだという。

「邪神が現れ、徐々に国を蝕んでいるんだと言われたんです。それを止めるために喚んだのだと……」
「その邪神、どこから現れたかわかるかい?」
「え? あ……山……鉱山です」
「そう。ああ、ごめんね。続けて」
「はい……」

その山から瘴気が溢れ、子ども達の間では病が蔓延していた。些細なことから諍いが起こり、怒鳴りあう大人たち。そんな異常な状況が少しずつ国を侵食していった。

「それでも、王都に届くまでは時間があるからと言われて、数ヶ月は魔法や剣の扱い方を教えられました……」
「レン……」

それは、戦場に出るためのもの。そのための訓練をまだ幼い少年に課した。戦いも知らない異世界人である廉哉には辛いことだっただろう。頼る者もおらず、たった一人で知らない大人たちに囲まれて過ごしたのだ。

廉哉はその時のことを思い出したのだろうか。辛そうに眉を寄せて俯いてしまった。宗徳と寿子は、膝に置かれた廉哉の手に自分達の手を重ねる。

「っ……」

重ねられた手に、廉哉は自分の指を控えめに絡めた。少しだけ涙を滲ませて、再び顔を上げる。

「それは闇でした……っ、いいえ……あれは神でした。戦った……けど、戦うべきもの……倒すべきものではないと思ったんです。だから、封印しました」
「封印に使った術は覚えているかい?」
「はい……ですが、多分あの場でしか使えませんでした。あの山……凄く魔素が多くて……大きな魔石が沢山あって……それで無理やり成立したんだと思います」

できるとは思えなかった。けれど、出来たらとその時強く願った。

廉哉は用意された紙に術式を書き記す。それを手に取り、クーヴェラルと蒼瑛は頷き合う。

「なるほど。確かに、これでは出力が足りない。魔石や魔素が一助になったのは間違いなさそうだ」
「あの世界ではまだここまでの領域に届かないはずだわ。あなたがアレンジしたの?」
「はい……戦うのが嫌だったんです……」
「そう……そうよね……」

廉哉は必死だったのだ。生きるのにも、戦いに慣れないことにも。それは、日本に帰りたいと思うからこそ。魔獣を倒しても、人を手にかけるのだけは嫌だった。戻れないと思ったからだ。

その一線だけは越えたくない。だから必死だったのだ。

**********

読んでくださりありがとうございます◎


続きます。


次回、土曜8日0時です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 213

あなたにおすすめの小説

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

お姉さまに挑むなんて、あなた正気でいらっしゃるの?

中崎実
ファンタジー
若き伯爵家当主リオネーラには、異母妹が二人いる。 殊にかわいがっている末妹で気鋭の若手画家・リファと、市中で生きるしっかり者のサーラだ。 入り婿だったのに母を裏切って庶子を作った父や、母の死後に父の正妻に収まった継母とは仲良くする気もないが、妹たちとはうまくやっている。 そんな日々の中、暗愚な父が連れてきた自称「婚約者」が突然、『婚約破棄』を申し出てきたが…… ※第2章の投稿開始後にタイトル変更の予定です ※カクヨムにも同タイトル作品を掲載しています(アルファポリスでの公開は数時間~半日ほど早めです)

処理中です...