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mission 8 故郷への帰還
073 負けなかった
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2018. 9. 1
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二十二階。
ここは通称『異世界派遣開拓室』の第一課と呼ばれている。因みに第三課まであり、各課が二十三階と二十四階を使っている。
その三つと二十一階、二十五階までをまとめるのが、上司であるクーヴェラルだ。宗徳と寿子は、廉哉を連れて彼女の執務室にやってきた。
しかし、そこにいたのは、クーヴェラルだけではなかった。銀の長い髪を一つに結い、一見女性のような優しく柔らかな表情と整った顔をしているが、カジュアルなジャケットスーツを纏ったその体は、鍛えられたものだとわかる。
善治に似た雰囲気を持つその男は、しかし、浮かべられる表情から性格は真逆に近いかもしれないと感じられた。
善治はほとんど無表情で淡々と様々な事をこなし、人にあまり頼らない。しかし、目の前の男は恐らく穏やかに笑いながら上手く人を使い分ける器用さを持っていそうだ。
「お帰り、二人とも。それと、あなたも良く一人で頑張ったわね。私はクーヴェラル。彼らの上司よ」
「あ、はじめまして……廉哉といいます」
頭を下げる廉哉を、クーヴェラルも男も嬉しそうに見つめた。
宗徳達の視線に気付いたのだろう。男が一歩近付いて名乗る。
「はじめまして。この一つ下の階の『召喚対策室』の室長をしている蒼瑛《ソウエイ》です。こちらの対応が間に合わず、廉哉君には辛い思いをさせてしまった。申し訳ない」
「え……いえ……」
美しく頭を下げる蒼瑛に、廉哉も戸惑う。
「事情は大体、善君から聞いているけれど、君から話を聞かせてもらいたい。勿論、疲れているようなら日を改めよう」
「あ、あの。大丈夫です。話します」
「ありがとう。ではそこに座ってくれ。よろしいですか? クー様」
「ええ。もちろん。二人も座って」
促され、廉哉を真ん中にして宗徳と寿子がソファにかける。正面にクーヴェラルと蒼瑛が座ると廉哉が話しはじめた。
その時、廉哉は唐突に光に包まれたという。何が起きたのか分からず、目の前に広がった光景に唖然としたらしい。
「神殿でした。白くて、立派な石造りの神殿の中に座っていたんです」
周りにいるのは数人の白いローブを着た者達。誰も彼も目深にフードを被っているために顔は分からなかった。
そして、そんな彼らの後ろにはこれぞ王と思える人物が立っていた。まさしく彼は王で、不敵に傲慢に笑みを浮かべてこちらを見下ろしていたのだという。
「邪神が現れ、徐々に国を蝕んでいるんだと言われたんです。それを止めるために喚んだのだと……」
「その邪神、どこから現れたかわかるかい?」
「え? あ……山……鉱山です」
「そう。ああ、ごめんね。続けて」
「はい……」
その山から瘴気が溢れ、子ども達の間では病が蔓延していた。些細なことから諍いが起こり、怒鳴りあう大人たち。そんな異常な状況が少しずつ国を侵食していった。
「それでも、王都に届くまでは時間があるからと言われて、数ヶ月は魔法や剣の扱い方を教えられました……」
「レン……」
それは、戦場に出るためのもの。そのための訓練をまだ幼い少年に課した。戦いも知らない異世界人である廉哉には辛いことだっただろう。頼る者もおらず、たった一人で知らない大人たちに囲まれて過ごしたのだ。
廉哉はその時のことを思い出したのだろうか。辛そうに眉を寄せて俯いてしまった。宗徳と寿子は、膝に置かれた廉哉の手に自分達の手を重ねる。
「っ……」
重ねられた手に、廉哉は自分の指を控えめに絡めた。少しだけ涙を滲ませて、再び顔を上げる。
「それは闇でした……っ、いいえ……あれは神でした。戦った……けど、戦うべきもの……倒すべきものではないと思ったんです。だから、封印しました」
「封印に使った術は覚えているかい?」
「はい……ですが、多分あの場でしか使えませんでした。あの山……凄く魔素が多くて……大きな魔石が沢山あって……それで無理やり成立したんだと思います」
できるとは思えなかった。けれど、出来たらとその時強く願った。
廉哉は用意された紙に術式を書き記す。それを手に取り、クーヴェラルと蒼瑛は頷き合う。
「なるほど。確かに、これでは出力が足りない。魔石や魔素が一助になったのは間違いなさそうだ」
「あの世界ではまだここまでの領域に届かないはずだわ。あなたがアレンジしたの?」
「はい……戦うのが嫌だったんです……」
「そう……そうよね……」
廉哉は必死だったのだ。生きるのにも、戦いに慣れないことにも。それは、日本に帰りたいと思うからこそ。魔獣を倒しても、人を手にかけるのだけは嫌だった。戻れないと思ったからだ。
その一線だけは越えたくない。だから必死だったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
続きます。
次回、土曜8日0時です。
よろしくお願いします◎
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二十二階。
ここは通称『異世界派遣開拓室』の第一課と呼ばれている。因みに第三課まであり、各課が二十三階と二十四階を使っている。
その三つと二十一階、二十五階までをまとめるのが、上司であるクーヴェラルだ。宗徳と寿子は、廉哉を連れて彼女の執務室にやってきた。
しかし、そこにいたのは、クーヴェラルだけではなかった。銀の長い髪を一つに結い、一見女性のような優しく柔らかな表情と整った顔をしているが、カジュアルなジャケットスーツを纏ったその体は、鍛えられたものだとわかる。
善治に似た雰囲気を持つその男は、しかし、浮かべられる表情から性格は真逆に近いかもしれないと感じられた。
善治はほとんど無表情で淡々と様々な事をこなし、人にあまり頼らない。しかし、目の前の男は恐らく穏やかに笑いながら上手く人を使い分ける器用さを持っていそうだ。
「お帰り、二人とも。それと、あなたも良く一人で頑張ったわね。私はクーヴェラル。彼らの上司よ」
「あ、はじめまして……廉哉といいます」
頭を下げる廉哉を、クーヴェラルも男も嬉しそうに見つめた。
宗徳達の視線に気付いたのだろう。男が一歩近付いて名乗る。
「はじめまして。この一つ下の階の『召喚対策室』の室長をしている蒼瑛《ソウエイ》です。こちらの対応が間に合わず、廉哉君には辛い思いをさせてしまった。申し訳ない」
「え……いえ……」
美しく頭を下げる蒼瑛に、廉哉も戸惑う。
「事情は大体、善君から聞いているけれど、君から話を聞かせてもらいたい。勿論、疲れているようなら日を改めよう」
「あ、あの。大丈夫です。話します」
「ありがとう。ではそこに座ってくれ。よろしいですか? クー様」
「ええ。もちろん。二人も座って」
促され、廉哉を真ん中にして宗徳と寿子がソファにかける。正面にクーヴェラルと蒼瑛が座ると廉哉が話しはじめた。
その時、廉哉は唐突に光に包まれたという。何が起きたのか分からず、目の前に広がった光景に唖然としたらしい。
「神殿でした。白くて、立派な石造りの神殿の中に座っていたんです」
周りにいるのは数人の白いローブを着た者達。誰も彼も目深にフードを被っているために顔は分からなかった。
そして、そんな彼らの後ろにはこれぞ王と思える人物が立っていた。まさしく彼は王で、不敵に傲慢に笑みを浮かべてこちらを見下ろしていたのだという。
「邪神が現れ、徐々に国を蝕んでいるんだと言われたんです。それを止めるために喚んだのだと……」
「その邪神、どこから現れたかわかるかい?」
「え? あ……山……鉱山です」
「そう。ああ、ごめんね。続けて」
「はい……」
その山から瘴気が溢れ、子ども達の間では病が蔓延していた。些細なことから諍いが起こり、怒鳴りあう大人たち。そんな異常な状況が少しずつ国を侵食していった。
「それでも、王都に届くまでは時間があるからと言われて、数ヶ月は魔法や剣の扱い方を教えられました……」
「レン……」
それは、戦場に出るためのもの。そのための訓練をまだ幼い少年に課した。戦いも知らない異世界人である廉哉には辛いことだっただろう。頼る者もおらず、たった一人で知らない大人たちに囲まれて過ごしたのだ。
廉哉はその時のことを思い出したのだろうか。辛そうに眉を寄せて俯いてしまった。宗徳と寿子は、膝に置かれた廉哉の手に自分達の手を重ねる。
「っ……」
重ねられた手に、廉哉は自分の指を控えめに絡めた。少しだけ涙を滲ませて、再び顔を上げる。
「それは闇でした……っ、いいえ……あれは神でした。戦った……けど、戦うべきもの……倒すべきものではないと思ったんです。だから、封印しました」
「封印に使った術は覚えているかい?」
「はい……ですが、多分あの場でしか使えませんでした。あの山……凄く魔素が多くて……大きな魔石が沢山あって……それで無理やり成立したんだと思います」
できるとは思えなかった。けれど、出来たらとその時強く願った。
廉哉は用意された紙に術式を書き記す。それを手に取り、クーヴェラルと蒼瑛は頷き合う。
「なるほど。確かに、これでは出力が足りない。魔石や魔素が一助になったのは間違いなさそうだ」
「あの世界ではまだここまでの領域に届かないはずだわ。あなたがアレンジしたの?」
「はい……戦うのが嫌だったんです……」
「そう……そうよね……」
廉哉は必死だったのだ。生きるのにも、戦いに慣れないことにも。それは、日本に帰りたいと思うからこそ。魔獣を倒しても、人を手にかけるのだけは嫌だった。戻れないと思ったからだ。
その一線だけは越えたくない。だから必死だったのだ。
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