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mission 7 王族の歓待
063 ちょっと嫉妬してます?
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2018. 6. 2
**********
部屋に入ってきたのは寿子と二人のギルド職員だ。施設の説明のために連れてきたのだろう。
寿子は一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。
「ようこそ、竜守城へ。私は寿子と申します。王家の方々には少々窮屈な部屋かもしれませんが、ごゆっくりとお寛ぎください」
宗徳は、徨流の背で王族を連れて行くという事を寿子に連絡していたのだ。
この寿子の言葉に、王妃が立ち上がって答えた。
「このような時分にお尋ねすることになり、申し訳ありません。この国の王妃シャラと申します。こっちが王太子のカーラ。王女のリーアです」
「ご丁寧にありがとうございます。早速ですが、そちらの女中……メイドの方々に湯殿の説明をさせていただきます……二人とも、お願いするわね」
「はい」
「こちらになります」
後ろに控えていた二人の職員が、部屋の奥へとメイドを連れて行く。この部屋には大浴場とは別に浴場が用意されていた。
ついでにキッチンの設備やトイレなどの説明もしてくれるはずだ。この世界にはない作りだが、そう難しくはないので問題はないだろう。
「王妃様には、お薬をご用意しております」
「あ、あの……本当に治るのでしょうか?」
「ご様子を確認した所では、喘息です。あと、お化粧品がよろしくないようですね。アレルギーもお持ちのようですから。化粧品につきましては明日、合いそうなものを用意させていただきます。こちらはまずお飲みください。お湯をお使いになる前に」
「わかりました」
寿子の差し出した薬瓶を王妃はあっさり受け取った。だが、やはりあまり歓迎される事ではない。命の軽い世界だ。それがもしも毒だったならと思うのは当然だろう。王子が不安そうな声をあげる。
「母上……その……信用はできそうですが……」
「王妃様。このような得体の知れない……王城を襲撃するような者の仲間にもらった薬など危険です」
もっともな意見を従者も出してくれた。宗徳も無理にとは勧められない。
「そりゃぁ、信用しろってのは難しいかもしれんよな。けど、騙されたと思って飲んでみてくれ。怖いとは思うがな」
けれど、王妃は穏やかに笑って薬の蓋を開けた。
「怖くなどありません。ほんの少しですけれど、ムネノリ様とお話させていただいて、信用できると確信しております。ヒサコ様はその奥様ですもの。いただきますわ」
そう言って、王妃は一気に薬を飲み干した。
「王妃様っ!」
「ふふ、大丈夫よ。こんな飲みやすいお薬は初めてだわ」
「はちみつが入っていますから。お水もどうぞ。すぐに効いてきますが、お腹が落ち着くまではそのままで」
「わかりました。あら? なんだか……胸の辺りが軽くなったわ……」
「効いてきたのでしょう。この後、お風呂に入って血行が良くなれば、明日の朝にはもっと楽になっていると思いますよ」
「まぁっ。嬉しいわっ」
さすがは、魔術を合わせた薬だ。効果は劇的だった。体調が悪いまま風呂に入った場合は、逆に出た後に息苦しくなったりするので効いてくれて良かったと宗徳はホッとする。
王妃だけお風呂に入れないのは気の毒だと思ったのだ。
「あちらの説明も終わったようですし、今夜はゆっくりなさってください。朝食もお届けいたします。お化粧はなさらないでくださいね」
「わかりました」
それから、宗徳も一緒に部屋を出た。廊下をしばらく進み、後をついてくるギルド職員の二人に、寿子が労いの言葉をかける。
「二人とも、ありがとうございました。もう休んでください」
「お疲れ様です」
「お先に失礼します」
「おう。悪かったな」
手を振って彼らを帰す。
「それで? 師匠はどうしました?」
「あ~……王様吊るし上げ中……?」
「止めなかったんですか?」
「いやぁ、あとは話し合いだけみたいだったからなぁ。ただ、その現場にあの子ども達が居合わせたらしくて、怖がらせただろうから気分転換と、善じぃの印象をここでちょい回復できるかと思って連れてきた」
「なるほど……それで? ついでに王妃様も?」
「ん? なんかトゲが……いや、なんか調子悪そうだったから気になって……」
なぜだか、寿子が少しばかり機嫌が悪いような気がした。
「あ、ってか悪い。子ども達は寝たか?」
「ええ……ったく、鈍感なところは若い時と変わらないわね……私達も戻りますよ!」
宗徳に聞こえたのは最初の返事と最後の一言だけだ。寿子は大きくため息をつく。一目見て、王妃が宗徳に好意を抱いているのが分かってしまったのだ。恐らく、気付いていないのは、あの場で宗徳だけだった。
そんな事を全く察していない宗徳は、しきりに内心首を傾げている。
「お、おう……眠いのか……?」
寿子が機嫌が悪いのは分かっていても、理由までは気付けない宗徳だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
こっち方面、鈍いみたいです。
次回、一度お休みさせていただき
土曜16日0時です。
よろしくお願いします◎
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部屋に入ってきたのは寿子と二人のギルド職員だ。施設の説明のために連れてきたのだろう。
寿子は一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。
「ようこそ、竜守城へ。私は寿子と申します。王家の方々には少々窮屈な部屋かもしれませんが、ごゆっくりとお寛ぎください」
宗徳は、徨流の背で王族を連れて行くという事を寿子に連絡していたのだ。
この寿子の言葉に、王妃が立ち上がって答えた。
「このような時分にお尋ねすることになり、申し訳ありません。この国の王妃シャラと申します。こっちが王太子のカーラ。王女のリーアです」
「ご丁寧にありがとうございます。早速ですが、そちらの女中……メイドの方々に湯殿の説明をさせていただきます……二人とも、お願いするわね」
「はい」
「こちらになります」
後ろに控えていた二人の職員が、部屋の奥へとメイドを連れて行く。この部屋には大浴場とは別に浴場が用意されていた。
ついでにキッチンの設備やトイレなどの説明もしてくれるはずだ。この世界にはない作りだが、そう難しくはないので問題はないだろう。
「王妃様には、お薬をご用意しております」
「あ、あの……本当に治るのでしょうか?」
「ご様子を確認した所では、喘息です。あと、お化粧品がよろしくないようですね。アレルギーもお持ちのようですから。化粧品につきましては明日、合いそうなものを用意させていただきます。こちらはまずお飲みください。お湯をお使いになる前に」
「わかりました」
寿子の差し出した薬瓶を王妃はあっさり受け取った。だが、やはりあまり歓迎される事ではない。命の軽い世界だ。それがもしも毒だったならと思うのは当然だろう。王子が不安そうな声をあげる。
「母上……その……信用はできそうですが……」
「王妃様。このような得体の知れない……王城を襲撃するような者の仲間にもらった薬など危険です」
もっともな意見を従者も出してくれた。宗徳も無理にとは勧められない。
「そりゃぁ、信用しろってのは難しいかもしれんよな。けど、騙されたと思って飲んでみてくれ。怖いとは思うがな」
けれど、王妃は穏やかに笑って薬の蓋を開けた。
「怖くなどありません。ほんの少しですけれど、ムネノリ様とお話させていただいて、信用できると確信しております。ヒサコ様はその奥様ですもの。いただきますわ」
そう言って、王妃は一気に薬を飲み干した。
「王妃様っ!」
「ふふ、大丈夫よ。こんな飲みやすいお薬は初めてだわ」
「はちみつが入っていますから。お水もどうぞ。すぐに効いてきますが、お腹が落ち着くまではそのままで」
「わかりました。あら? なんだか……胸の辺りが軽くなったわ……」
「効いてきたのでしょう。この後、お風呂に入って血行が良くなれば、明日の朝にはもっと楽になっていると思いますよ」
「まぁっ。嬉しいわっ」
さすがは、魔術を合わせた薬だ。効果は劇的だった。体調が悪いまま風呂に入った場合は、逆に出た後に息苦しくなったりするので効いてくれて良かったと宗徳はホッとする。
王妃だけお風呂に入れないのは気の毒だと思ったのだ。
「あちらの説明も終わったようですし、今夜はゆっくりなさってください。朝食もお届けいたします。お化粧はなさらないでくださいね」
「わかりました」
それから、宗徳も一緒に部屋を出た。廊下をしばらく進み、後をついてくるギルド職員の二人に、寿子が労いの言葉をかける。
「二人とも、ありがとうございました。もう休んでください」
「お疲れ様です」
「お先に失礼します」
「おう。悪かったな」
手を振って彼らを帰す。
「それで? 師匠はどうしました?」
「あ~……王様吊るし上げ中……?」
「止めなかったんですか?」
「いやぁ、あとは話し合いだけみたいだったからなぁ。ただ、その現場にあの子ども達が居合わせたらしくて、怖がらせただろうから気分転換と、善じぃの印象をここでちょい回復できるかと思って連れてきた」
「なるほど……それで? ついでに王妃様も?」
「ん? なんかトゲが……いや、なんか調子悪そうだったから気になって……」
なぜだか、寿子が少しばかり機嫌が悪いような気がした。
「あ、ってか悪い。子ども達は寝たか?」
「ええ……ったく、鈍感なところは若い時と変わらないわね……私達も戻りますよ!」
宗徳に聞こえたのは最初の返事と最後の一言だけだ。寿子は大きくため息をつく。一目見て、王妃が宗徳に好意を抱いているのが分かってしまったのだ。恐らく、気付いていないのは、あの場で宗徳だけだった。
そんな事を全く察していない宗徳は、しきりに内心首を傾げている。
「お、おう……眠いのか……?」
寿子が機嫌が悪いのは分かっていても、理由までは気付けない宗徳だった。
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読んでくださりありがとうございます◎
こっち方面、鈍いみたいです。
次回、一度お休みさせていただき
土曜16日0時です。
よろしくお願いします◎
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