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mission 6 ギルド職員業務
058 ルールには従うつもりです
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2018. 4. 21
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街に入ったのは月が明るく照らす頃だ。宗徳が最後だった。
閉門作業も同時に終わったらしく、兵士達は頷き合ってから未だ白い煙が立ち昇る城へ向かおうとしている宗徳に声をかけた。
「あの……あれを止めるために来たと仰いましたが……どういうことかお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ん? いいぞ。向かいながらでいいか?」
「はい。お願いします」
これに、三人の兵士が宗徳と並びながらついてくる。
彼らは、あっという間に自分達を倒し、威圧した宗徳をには敵対すべきではないと体で理解したらしい。横柄な態度を取ることもなく、実に丁寧に言葉を選んだ。
「焦ってももう仕方ねぇしな。あそこにいるのは俺の師匠で、こっから南の国境近くにある開拓村のギルドマスターを任された人だ」
始めは開拓民が寄り集まってできた村であったというのが、元からいた村人達と関わる中で得た情報だった。
この国は領土としては広いらしいのだが、森や荒野が多い。そのため、小国とそう変わらない人数の民しかいない。
そうして、開拓を託された民達が、広い領土内に点在し、集落を作っているというのが、この国の実情だ。
ただし、徐々に国からの支援もなくなり、今は開拓という目的を持って生活している民はほとんどいないのだとか。そんな中で領土の一番端。この王都から遠く離れたあの村だけは、開拓という目標を常に忘れなかったらしい。
お陰で宗徳達が村を弄っても、一緒になって働いてくれた。あの場所は資源も多く、生活する上で自給自足も十分にできていたこともあり、国からの支援がなくとも問題なかったのだ。生きるのに必死になることもないため、開拓を続けられたのだ。
「王様に、全部任せるってお墨付きまでしっかりもらってたってのに、騎士がちょっかいかけてきてな。そんで師匠が怒っちまったってこった」
「なるほど……確か、数日前に騎士団が出て行きました。それですね」
「かもな。直接俺は何を奴らが言ったか知らねぇから何とも言えねぇが、師匠の逆鱗に触れたってのだけは確かだ。そんで王宮に乗り込んで王に直談判ってところだろうな」
とはいえ、予想はできる。この王都より、間違いなく宗徳達の作った町は活気があり、豊かだ。この世界にはないであろう大きな城まで建ててしまった。目立って妬まれても仕方がない。
「一度は任せたのに、手のひら返されたら、そりゃ怒るよな」
「で、ですが王ですよ? 騎士とは、国の……王の指示でしか動きません。王の勅命を届けたはずです。それが気に入らないとなっては……」
この世界での騎士は、国王直轄。国の総意で動くものであり、彼らのやることは王の意思だ。否定することなどあってはならない。
「王だってなんだって、正式に書面で約束したことを反故にするのはダメだろ。それに、騎士なんてのは武力だ。その武力を差し向けたんだから、武力で応える。何より、俺らは他所モンだ。国の領内にいるが、話によっては切り取りにかかるぞ。この世界の奴らが向かって来たところで負けねぇ自信もあるしな」
「そんな……」
この世界では、宗徳達は大きな力を持っている。国取りだって問題なくやれてしまうだろう。国とはそこに住む者達を守るものでなくてはならない。それができないというのならば、勝手ではあるが、その一部を切り取り、そこに住まう者達を自分達の庇護下に置こうと考えるのは悪いことではない。
蹂躙するわけではない。虐げるわけではないのだから、侵略行為ではなければ、この世界のルールに反したとはいえない。
城にたどり着くと、そこは兵達でごった返していた。
「さてと、さっさと中に入ってどうなったか確認するか」
「そ、その……この状態で中に入るのは難しいかと……」
「ん? そうか? 多分、本気で飛べばあそこのテラスまで行けるぞ」
「へ? あ、あのバルコニーですか!?」
宗徳が上向いて指差した場所は、城の三階にあるバルコニーだった。今いる場所からは、直線で見ても数百メートルの距離がある。
「一キロ先は無理だが、あれくらいならいける。そんじゃ、ちょっくら行ってくるから」
何度か屈伸し、力の入れ具合を確認してから、宗徳はそこを鋭い視線で確認する。
「徨流、しっかり掴まってろよ」
《すん》
小声で飾りのように腕に巻きついている徨龍に一言告げてから膝を折り曲げた。そして、一気に魔力を足に込めながら飛び上がる。
「「「ええっ!!」」」
本気で行くとは思わなかったのだろう。半信半疑で見ていた兵士達は、思わず驚きの声を上げた。
周りの兵士達も、自分達の頭上を越えていった何者かに目を見開くことしかできない。
そして次の瞬間、宗徳はバルコニーの上に危なげなく立っていたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
喧嘩は売らない方がいいです。
次回、土曜28日0時です。
よろしくお願いします◎
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街に入ったのは月が明るく照らす頃だ。宗徳が最後だった。
閉門作業も同時に終わったらしく、兵士達は頷き合ってから未だ白い煙が立ち昇る城へ向かおうとしている宗徳に声をかけた。
「あの……あれを止めるために来たと仰いましたが……どういうことかお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ん? いいぞ。向かいながらでいいか?」
「はい。お願いします」
これに、三人の兵士が宗徳と並びながらついてくる。
彼らは、あっという間に自分達を倒し、威圧した宗徳をには敵対すべきではないと体で理解したらしい。横柄な態度を取ることもなく、実に丁寧に言葉を選んだ。
「焦ってももう仕方ねぇしな。あそこにいるのは俺の師匠で、こっから南の国境近くにある開拓村のギルドマスターを任された人だ」
始めは開拓民が寄り集まってできた村であったというのが、元からいた村人達と関わる中で得た情報だった。
この国は領土としては広いらしいのだが、森や荒野が多い。そのため、小国とそう変わらない人数の民しかいない。
そうして、開拓を託された民達が、広い領土内に点在し、集落を作っているというのが、この国の実情だ。
ただし、徐々に国からの支援もなくなり、今は開拓という目的を持って生活している民はほとんどいないのだとか。そんな中で領土の一番端。この王都から遠く離れたあの村だけは、開拓という目標を常に忘れなかったらしい。
お陰で宗徳達が村を弄っても、一緒になって働いてくれた。あの場所は資源も多く、生活する上で自給自足も十分にできていたこともあり、国からの支援がなくとも問題なかったのだ。生きるのに必死になることもないため、開拓を続けられたのだ。
「王様に、全部任せるってお墨付きまでしっかりもらってたってのに、騎士がちょっかいかけてきてな。そんで師匠が怒っちまったってこった」
「なるほど……確か、数日前に騎士団が出て行きました。それですね」
「かもな。直接俺は何を奴らが言ったか知らねぇから何とも言えねぇが、師匠の逆鱗に触れたってのだけは確かだ。そんで王宮に乗り込んで王に直談判ってところだろうな」
とはいえ、予想はできる。この王都より、間違いなく宗徳達の作った町は活気があり、豊かだ。この世界にはないであろう大きな城まで建ててしまった。目立って妬まれても仕方がない。
「一度は任せたのに、手のひら返されたら、そりゃ怒るよな」
「で、ですが王ですよ? 騎士とは、国の……王の指示でしか動きません。王の勅命を届けたはずです。それが気に入らないとなっては……」
この世界での騎士は、国王直轄。国の総意で動くものであり、彼らのやることは王の意思だ。否定することなどあってはならない。
「王だってなんだって、正式に書面で約束したことを反故にするのはダメだろ。それに、騎士なんてのは武力だ。その武力を差し向けたんだから、武力で応える。何より、俺らは他所モンだ。国の領内にいるが、話によっては切り取りにかかるぞ。この世界の奴らが向かって来たところで負けねぇ自信もあるしな」
「そんな……」
この世界では、宗徳達は大きな力を持っている。国取りだって問題なくやれてしまうだろう。国とはそこに住む者達を守るものでなくてはならない。それができないというのならば、勝手ではあるが、その一部を切り取り、そこに住まう者達を自分達の庇護下に置こうと考えるのは悪いことではない。
蹂躙するわけではない。虐げるわけではないのだから、侵略行為ではなければ、この世界のルールに反したとはいえない。
城にたどり着くと、そこは兵達でごった返していた。
「さてと、さっさと中に入ってどうなったか確認するか」
「そ、その……この状態で中に入るのは難しいかと……」
「ん? そうか? 多分、本気で飛べばあそこのテラスまで行けるぞ」
「へ? あ、あのバルコニーですか!?」
宗徳が上向いて指差した場所は、城の三階にあるバルコニーだった。今いる場所からは、直線で見ても数百メートルの距離がある。
「一キロ先は無理だが、あれくらいならいける。そんじゃ、ちょっくら行ってくるから」
何度か屈伸し、力の入れ具合を確認してから、宗徳はそこを鋭い視線で確認する。
「徨流、しっかり掴まってろよ」
《すん》
小声で飾りのように腕に巻きついている徨龍に一言告げてから膝を折り曲げた。そして、一気に魔力を足に込めながら飛び上がる。
「「「ええっ!!」」」
本気で行くとは思わなかったのだろう。半信半疑で見ていた兵士達は、思わず驚きの声を上げた。
周りの兵士達も、自分達の頭上を越えていった何者かに目を見開くことしかできない。
そして次の瞬間、宗徳はバルコニーの上に危なげなく立っていたのだ。
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喧嘩は売らない方がいいです。
次回、土曜28日0時です。
よろしくお願いします◎
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