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第十三章
600 戸惑う?
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戦いが始まる前から、コウヤは浮遊城の中で神殿内をトレースしようとしていた。真上に城をセットしたのはそのためでもある。
「どうだ。解析できたか?」
ゼストラークは、落ち着いた様子でコウヤの下にやってきた。ここは、あの城の中央にあたる制御室。部屋としているが、もっとも広い階で、フロア全てに、様々な制御装置を置いている。
「うん。やっぱり迷宮みたいになってる。けど、普通の迷宮とも違うね。この世界に根付いているわけじゃないみたい」
「……穴が空いているか」
「あれじゃあ、迷宮化というより異界化かなって。どうも、別の世界と繋げようとしてる感じがあるね」
この世界だけの力ではない流れが、そのデータに見られたのだ。
「でも、予想してたから、今回のを搭載したんでしょ?」
「ああ……次元を少し歪ませる。それで穴を遮断しやすくなるだろう」
「外の力は同質の外の力に引き寄せられて向こう側に帰るだろうしね。それだけ強力だけど」
「今回以外、使い所はないだろう」
「使い終わったら解体?」
「その方が、安心させられる。信用してくれているようだがな……」
「そうだね」
力は恐怖を与える。今回ゼストラークが作り上げたものは、世界さえ壊せるものだ。しかし、それを予想しても、人々はゼストラークを怖がってはないない。
「『全力で走るように~』『逃げ遅れないでね~』だって」
「うむ……自分たちに向く事はないと信じているのだろうな……」
畏怖されることを、ゼストラーク達は恐れていた。それだけ、親しく付き合うようになった人々との関係を嬉しく思っているのだ。
「けど、悪い事したら怒られるってのも分かってるみたいだよ?」
「……そうか」
「みんな、自分たちが子どもだからって」
「……うむ」
人々は、親しく付き合っていても、ゼストラーク達神の、この世界の子どもなのだと理解している。だから、親を失望させたくないのだ。
「ゼストパパは、今の距離感……嫌?」
「人とのか? 嫌ではない。だが、今までなかったことだ。多くの神は、見守ることに重きを置いている。自主性を重んじる……といえば聞こえは良いが、手を出さないことが多い」
「戸惑う?」
「そうだな……少しな」
「そっか」
ゼストラークは、今まで多くの世界を作り上げてきた。けれど、これほど人と近付いたことはなかったのだ。だから、その関係性に戸惑う。
「何事にも、はじめてってあるよね」
「……」
「他に合わせることないでしょう?」
「うむ……」
「新しい形を模索してもいいよね?」
「……ああ……」
「失敗もあるよ。けど、やり直せば問題ない」
「……前向きだな」
ゼストラークは、一度コウルリーヤを失いかけた。それをずっと悔いている。けれど、コウルリーヤが求めた人との新しい距離感を諦めたくもなかった。
「うん。でも、思ったんだよね~。この中に居る奴が居なかったら、もっと早く今みたいに上手くいってたんじゃないかって」
「……」
コウルリーヤが討たれることになったきっかけを作ったのは、神殿の中にいる邪神だ。その囁きがなければ、今のような関係が、もっと早く実現できていたかもしれない。
「もちろん、時間はかかっただろうし、人々の暮らしに今くらいの余裕が出来ないといけないってのもあったと思うよ?」
それでも、もしかしたらと思うのだ。
「エルフや獣人達と仲違いすることもなく、理想とした共存関係ができていたかも」
「ああ……」
ゼストラークの表情が曇ったのを確認しながら、コウヤは続けた。
「そうゼストパパも思ったから、怒ってるんだよね?」
「……知っていたのか」
「なんとなく? ゼストパパって、データ収集とか統計とか取るの結構好きでしょ? で、今まで見てきた世界の情報もある。だから、今回のあのイレギュラーは、許せなかったんだよね?」
「……」
ゼストラークは、少し顔を顰めてゆっくりと頷いた。コウヤにそれがバレているとは思わなかったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「どうだ。解析できたか?」
ゼストラークは、落ち着いた様子でコウヤの下にやってきた。ここは、あの城の中央にあたる制御室。部屋としているが、もっとも広い階で、フロア全てに、様々な制御装置を置いている。
「うん。やっぱり迷宮みたいになってる。けど、普通の迷宮とも違うね。この世界に根付いているわけじゃないみたい」
「……穴が空いているか」
「あれじゃあ、迷宮化というより異界化かなって。どうも、別の世界と繋げようとしてる感じがあるね」
この世界だけの力ではない流れが、そのデータに見られたのだ。
「でも、予想してたから、今回のを搭載したんでしょ?」
「ああ……次元を少し歪ませる。それで穴を遮断しやすくなるだろう」
「外の力は同質の外の力に引き寄せられて向こう側に帰るだろうしね。それだけ強力だけど」
「今回以外、使い所はないだろう」
「使い終わったら解体?」
「その方が、安心させられる。信用してくれているようだがな……」
「そうだね」
力は恐怖を与える。今回ゼストラークが作り上げたものは、世界さえ壊せるものだ。しかし、それを予想しても、人々はゼストラークを怖がってはないない。
「『全力で走るように~』『逃げ遅れないでね~』だって」
「うむ……自分たちに向く事はないと信じているのだろうな……」
畏怖されることを、ゼストラーク達は恐れていた。それだけ、親しく付き合うようになった人々との関係を嬉しく思っているのだ。
「けど、悪い事したら怒られるってのも分かってるみたいだよ?」
「……そうか」
「みんな、自分たちが子どもだからって」
「……うむ」
人々は、親しく付き合っていても、ゼストラーク達神の、この世界の子どもなのだと理解している。だから、親を失望させたくないのだ。
「ゼストパパは、今の距離感……嫌?」
「人とのか? 嫌ではない。だが、今までなかったことだ。多くの神は、見守ることに重きを置いている。自主性を重んじる……といえば聞こえは良いが、手を出さないことが多い」
「戸惑う?」
「そうだな……少しな」
「そっか」
ゼストラークは、今まで多くの世界を作り上げてきた。けれど、これほど人と近付いたことはなかったのだ。だから、その関係性に戸惑う。
「何事にも、はじめてってあるよね」
「……」
「他に合わせることないでしょう?」
「うむ……」
「新しい形を模索してもいいよね?」
「……ああ……」
「失敗もあるよ。けど、やり直せば問題ない」
「……前向きだな」
ゼストラークは、一度コウルリーヤを失いかけた。それをずっと悔いている。けれど、コウルリーヤが求めた人との新しい距離感を諦めたくもなかった。
「うん。でも、思ったんだよね~。この中に居る奴が居なかったら、もっと早く今みたいに上手くいってたんじゃないかって」
「……」
コウルリーヤが討たれることになったきっかけを作ったのは、神殿の中にいる邪神だ。その囁きがなければ、今のような関係が、もっと早く実現できていたかもしれない。
「もちろん、時間はかかっただろうし、人々の暮らしに今くらいの余裕が出来ないといけないってのもあったと思うよ?」
それでも、もしかしたらと思うのだ。
「エルフや獣人達と仲違いすることもなく、理想とした共存関係ができていたかも」
「ああ……」
ゼストラークの表情が曇ったのを確認しながら、コウヤは続けた。
「そうゼストパパも思ったから、怒ってるんだよね?」
「……知っていたのか」
「なんとなく? ゼストパパって、データ収集とか統計とか取るの結構好きでしょ? で、今まで見てきた世界の情報もある。だから、今回のあのイレギュラーは、許せなかったんだよね?」
「……」
ゼストラークは、少し顔を顰めてゆっくりと頷いた。コウヤにそれがバレているとは思わなかったのだ。
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