463 / 475
第十三章
598 えい!
しおりを挟む
三時間ほどが経っただろうか。外に空けられた穴から出て来る魔物の数は少しずつ減ってきていた。
「お? はあ……そろそろ終わりが見えてきたか……?」
「まだ魔力はどうにかなるけど、さすがに疲れてきたな……」
「やべえ……鼻がきかなくなってきたかも……」
「あ~……鉄臭かねえんだけど、生臭いんだよな~」
「だって、血じゃないしね。青とか緑ってなんなの?」
「キモいから。確認しなくていいから」
止めどなく出て来ていた魔物。夢中で戦っていたから気付かなかったが、疲れを感じはじめていた。
「地面も焦げ焦げじゃん?」
「この辺、焦げた臭いすごいよ」
「アレ、穴の近くは訳のわからん青やら緑やらので汚れてるし、こっちは黒焦げ……後片付け大変そう……」
「しばらく、普通の獣も近寄らなさそうね。あんた達、鼻は大丈夫?」
《……グフ……》
《フガ……》
「だよね……」
従魔達は、もう鼻がきかないらしい。ウンザリだという顔をしているように見えた。
「コウヤ君に頼んで、消臭剤をお願いしないと」
「きっと、良いやつ作ってくれるって」
「コウヤ君、従魔に優しいしね~」
しばらく、煙の臭いを嗅いだら、これを思い出しそうだとか、剣が滑ってきたから替えないととか、少し余裕は出て来たようだ。
そこに、大きな猪に乗って、レナルカがやって来たのだ。足音を聞いて振り返った冒険者達は、三度見した。
「え!? ちょっ、レナルカちゃん!?」
「うそっ! ダメだよ! ちょっと、保護者どこ!?」
「ヤバい! とんだワイルドなお姫様だよ!! めちゃくちゃイイ!!」
「こら! そこの変態!! 落ち着きなさい!」
一気に賑やかになったところで、猪は立ち止まる。一番後方にいる冒険者達と並ぶところだ。そこで、レナルカは斜めがけバッグからよいしょと大きな黒いボールを取り出す。
「うんしょっ」
「待って……待ってねレナルカちゃん! それ何!?」
「えい!」
ポイっと両手で投げたそのボールは、弾みながら穴に向かって転がっていく。
「わわっ」
「何か来るよ! 避けてー」
「うわっ」
頭を下げたりして、冒険者達の間をボールが進む。
冒険者達の居る場所を抜けた所で、レナルカは猪の背の上に立ち上がり、Y字型のスリングショットをバッグから取り出して構える。そして、小さな弾を弾いた。
「しょうどくなのよー!」
黒い大きなボールに当たったことで、水風船のようにそのボールが割れて、中にあったキラキラと光る液体が飛び散る。
「へ? 血が……消えた?」
「綺麗になった……」
「臭いが……消えた?」
地面に染み込んでいた青や緑の液体が、蒸発するようにして、光る液体に触れると消えた。空気も綺麗になったようだ。
「つぎなのよ!」
レナルカは、また大きな黒いボールを取り出し、両手で放り投げると、今度は穴の入り口まで転がしてからスリングショットを撃つ。すると、ボールの弾け方が先ほどとは違い、穴の中へと吸い込まれるように、光る液体が弾けていた。
それがかかった魔物は、悲鳴を上げて溶けた。
「……うげ……」
「あ、うん……溶ける所はグロいけど、何も残らないとか……ま、まあ、良いんじゃない?」
「あの液体何よ……」
「俺らも溶ける?」
不安になるのも分かる消滅の仕方だった。なので、レナルカは元気に宣言する。
「だいじょうぶなのよ! 人にはむがいなのよ! さいじょうくうの、セイスイなのよ!」
「さいじょうくう……あ、最上級ね。の……セイスイ……聖水!?」
「むしろ、びょうきもなおるのよ?」
「「「「「すご!」」」」」
「えっへん!」
猪の上で立って、胸を張るレナルカに、拍手が送られた。
その時、上空から何かがやって来る。鳴き声が響き、上を見上げた。
《クガーっ》
「へ? 荷物?」
五つの木の箱を、パラシュートで落としてきたのは、ジェットイーグルの群れだ。V字型に隊列を組んで、それは遠ざかっていった。これがレナルカと猪の前にゆっくりと落ちて来た。
「なかに、これくらいのボールがはいっているの。あのアナの中にこう~、ころがしてほしいのよ」
ボールの大きさは、バスケットボールくらい。それが約十個ずつ。計五十個程がある。
「これもセイスイがはいってるから、すあなにいっぱい、ほおりこむのよ! じげんしきだから、おくまでいくのよ!」
「「「「「楽しそ~!」」」」」
ノリの良い冒険者達は、早速と、ボウリングでもするように、ボールを穴の中へと投げ込みだした。
遠い所で、爆発する音が響き、同時に魔物の悲鳴が聞こえる。効果ばつぐんだった。
二十は投げ込んだだろうか、そこで、穴の入り口がガタガタと崩れ出した。
「むっ。のこりもはやく、ほうりこんじゃって! おきみやげはいらないのよ!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
ボールを全て放り込んだ所で、穴が閉じた。魔物が向かって来ているのが見えたが、それらはドッヂボールの要領で投げられたボールに弾き飛ばされて中に留まる。恐らく、それらは最後の放出だったのだろう。ギリギリだった。
「かんぜんしょうりなのよ!!」
「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」
「む。ノノちゃん! つぎにいくのよ!」
《フガっ》
レナルカが座り、トントンと背を叩かれたノノの呼ばれた猪は、返事をして走り出した。
「え!? レナルカちゃん?」
「ここはおわりなのっ。やすんでいいの~。おつかれさまでした~」
「お……」
「「「「「お疲れ様でしたぁぁぁぁ」」」」」
冒険者達は手を振ってレナルカを見送り、その後、その場でへたり込んだ。
「やべえ……足がガクガクするわ……」
「疲れた……うん。疲れてたみたい……」
「はぁぁぁ……終わった……」
魔法師達のほとんどは、魔力切れギリギリだったようで、限界だとその場で眠りに落ちていた。もちろん、他の冒険者達も、もう動けないと転がる者もいた。従魔達がそんな彼らを守るように囲むようにして身を横たえ、束の間の休息に入っていった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「お? はあ……そろそろ終わりが見えてきたか……?」
「まだ魔力はどうにかなるけど、さすがに疲れてきたな……」
「やべえ……鼻がきかなくなってきたかも……」
「あ~……鉄臭かねえんだけど、生臭いんだよな~」
「だって、血じゃないしね。青とか緑ってなんなの?」
「キモいから。確認しなくていいから」
止めどなく出て来ていた魔物。夢中で戦っていたから気付かなかったが、疲れを感じはじめていた。
「地面も焦げ焦げじゃん?」
「この辺、焦げた臭いすごいよ」
「アレ、穴の近くは訳のわからん青やら緑やらので汚れてるし、こっちは黒焦げ……後片付け大変そう……」
「しばらく、普通の獣も近寄らなさそうね。あんた達、鼻は大丈夫?」
《……グフ……》
《フガ……》
「だよね……」
従魔達は、もう鼻がきかないらしい。ウンザリだという顔をしているように見えた。
「コウヤ君に頼んで、消臭剤をお願いしないと」
「きっと、良いやつ作ってくれるって」
「コウヤ君、従魔に優しいしね~」
しばらく、煙の臭いを嗅いだら、これを思い出しそうだとか、剣が滑ってきたから替えないととか、少し余裕は出て来たようだ。
そこに、大きな猪に乗って、レナルカがやって来たのだ。足音を聞いて振り返った冒険者達は、三度見した。
「え!? ちょっ、レナルカちゃん!?」
「うそっ! ダメだよ! ちょっと、保護者どこ!?」
「ヤバい! とんだワイルドなお姫様だよ!! めちゃくちゃイイ!!」
「こら! そこの変態!! 落ち着きなさい!」
一気に賑やかになったところで、猪は立ち止まる。一番後方にいる冒険者達と並ぶところだ。そこで、レナルカは斜めがけバッグからよいしょと大きな黒いボールを取り出す。
「うんしょっ」
「待って……待ってねレナルカちゃん! それ何!?」
「えい!」
ポイっと両手で投げたそのボールは、弾みながら穴に向かって転がっていく。
「わわっ」
「何か来るよ! 避けてー」
「うわっ」
頭を下げたりして、冒険者達の間をボールが進む。
冒険者達の居る場所を抜けた所で、レナルカは猪の背の上に立ち上がり、Y字型のスリングショットをバッグから取り出して構える。そして、小さな弾を弾いた。
「しょうどくなのよー!」
黒い大きなボールに当たったことで、水風船のようにそのボールが割れて、中にあったキラキラと光る液体が飛び散る。
「へ? 血が……消えた?」
「綺麗になった……」
「臭いが……消えた?」
地面に染み込んでいた青や緑の液体が、蒸発するようにして、光る液体に触れると消えた。空気も綺麗になったようだ。
「つぎなのよ!」
レナルカは、また大きな黒いボールを取り出し、両手で放り投げると、今度は穴の入り口まで転がしてからスリングショットを撃つ。すると、ボールの弾け方が先ほどとは違い、穴の中へと吸い込まれるように、光る液体が弾けていた。
それがかかった魔物は、悲鳴を上げて溶けた。
「……うげ……」
「あ、うん……溶ける所はグロいけど、何も残らないとか……ま、まあ、良いんじゃない?」
「あの液体何よ……」
「俺らも溶ける?」
不安になるのも分かる消滅の仕方だった。なので、レナルカは元気に宣言する。
「だいじょうぶなのよ! 人にはむがいなのよ! さいじょうくうの、セイスイなのよ!」
「さいじょうくう……あ、最上級ね。の……セイスイ……聖水!?」
「むしろ、びょうきもなおるのよ?」
「「「「「すご!」」」」」
「えっへん!」
猪の上で立って、胸を張るレナルカに、拍手が送られた。
その時、上空から何かがやって来る。鳴き声が響き、上を見上げた。
《クガーっ》
「へ? 荷物?」
五つの木の箱を、パラシュートで落としてきたのは、ジェットイーグルの群れだ。V字型に隊列を組んで、それは遠ざかっていった。これがレナルカと猪の前にゆっくりと落ちて来た。
「なかに、これくらいのボールがはいっているの。あのアナの中にこう~、ころがしてほしいのよ」
ボールの大きさは、バスケットボールくらい。それが約十個ずつ。計五十個程がある。
「これもセイスイがはいってるから、すあなにいっぱい、ほおりこむのよ! じげんしきだから、おくまでいくのよ!」
「「「「「楽しそ~!」」」」」
ノリの良い冒険者達は、早速と、ボウリングでもするように、ボールを穴の中へと投げ込みだした。
遠い所で、爆発する音が響き、同時に魔物の悲鳴が聞こえる。効果ばつぐんだった。
二十は投げ込んだだろうか、そこで、穴の入り口がガタガタと崩れ出した。
「むっ。のこりもはやく、ほうりこんじゃって! おきみやげはいらないのよ!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
ボールを全て放り込んだ所で、穴が閉じた。魔物が向かって来ているのが見えたが、それらはドッヂボールの要領で投げられたボールに弾き飛ばされて中に留まる。恐らく、それらは最後の放出だったのだろう。ギリギリだった。
「かんぜんしょうりなのよ!!」
「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」
「む。ノノちゃん! つぎにいくのよ!」
《フガっ》
レナルカが座り、トントンと背を叩かれたノノの呼ばれた猪は、返事をして走り出した。
「え!? レナルカちゃん?」
「ここはおわりなのっ。やすんでいいの~。おつかれさまでした~」
「お……」
「「「「「お疲れ様でしたぁぁぁぁ」」」」」
冒険者達は手を振ってレナルカを見送り、その後、その場でへたり込んだ。
「やべえ……足がガクガクするわ……」
「疲れた……うん。疲れてたみたい……」
「はぁぁぁ……終わった……」
魔法師達のほとんどは、魔力切れギリギリだったようで、限界だとその場で眠りに落ちていた。もちろん、他の冒険者達も、もう動けないと転がる者もいた。従魔達がそんな彼らを守るように囲むようにして身を横たえ、束の間の休息に入っていった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
1,437
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。