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第十三章
598 えい!
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三時間ほどが経っただろうか。外に空けられた穴から出て来る魔物の数は少しずつ減ってきていた。
「お? はあ……そろそろ終わりが見えてきたか……?」
「まだ魔力はどうにかなるけど、さすがに疲れてきたな……」
「やべえ……鼻がきかなくなってきたかも……」
「あ~……鉄臭かねえんだけど、生臭いんだよな~」
「だって、血じゃないしね。青とか緑ってなんなの?」
「キモいから。確認しなくていいから」
止めどなく出て来ていた魔物。夢中で戦っていたから気付かなかったが、疲れを感じはじめていた。
「地面も焦げ焦げじゃん?」
「この辺、焦げた臭いすごいよ」
「アレ、穴の近くは訳のわからん青やら緑やらので汚れてるし、こっちは黒焦げ……後片付け大変そう……」
「しばらく、普通の獣も近寄らなさそうね。あんた達、鼻は大丈夫?」
《……グフ……》
《フガ……》
「だよね……」
従魔達は、もう鼻がきかないらしい。ウンザリだという顔をしているように見えた。
「コウヤ君に頼んで、消臭剤をお願いしないと」
「きっと、良いやつ作ってくれるって」
「コウヤ君、従魔に優しいしね~」
しばらく、煙の臭いを嗅いだら、これを思い出しそうだとか、剣が滑ってきたから替えないととか、少し余裕は出て来たようだ。
そこに、大きな猪に乗って、レナルカがやって来たのだ。足音を聞いて振り返った冒険者達は、三度見した。
「え!? ちょっ、レナルカちゃん!?」
「うそっ! ダメだよ! ちょっと、保護者どこ!?」
「ヤバい! とんだワイルドなお姫様だよ!! めちゃくちゃイイ!!」
「こら! そこの変態!! 落ち着きなさい!」
一気に賑やかになったところで、猪は立ち止まる。一番後方にいる冒険者達と並ぶところだ。そこで、レナルカは斜めがけバッグからよいしょと大きな黒いボールを取り出す。
「うんしょっ」
「待って……待ってねレナルカちゃん! それ何!?」
「えい!」
ポイっと両手で投げたそのボールは、弾みながら穴に向かって転がっていく。
「わわっ」
「何か来るよ! 避けてー」
「うわっ」
頭を下げたりして、冒険者達の間をボールが進む。
冒険者達の居る場所を抜けた所で、レナルカは猪の背の上に立ち上がり、Y字型のスリングショットをバッグから取り出して構える。そして、小さな弾を弾いた。
「しょうどくなのよー!」
黒い大きなボールに当たったことで、水風船のようにそのボールが割れて、中にあったキラキラと光る液体が飛び散る。
「へ? 血が……消えた?」
「綺麗になった……」
「臭いが……消えた?」
地面に染み込んでいた青や緑の液体が、蒸発するようにして、光る液体に触れると消えた。空気も綺麗になったようだ。
「つぎなのよ!」
レナルカは、また大きな黒いボールを取り出し、両手で放り投げると、今度は穴の入り口まで転がしてからスリングショットを撃つ。すると、ボールの弾け方が先ほどとは違い、穴の中へと吸い込まれるように、光る液体が弾けていた。
それがかかった魔物は、悲鳴を上げて溶けた。
「……うげ……」
「あ、うん……溶ける所はグロいけど、何も残らないとか……ま、まあ、良いんじゃない?」
「あの液体何よ……」
「俺らも溶ける?」
不安になるのも分かる消滅の仕方だった。なので、レナルカは元気に宣言する。
「だいじょうぶなのよ! 人にはむがいなのよ! さいじょうくうの、セイスイなのよ!」
「さいじょうくう……あ、最上級ね。の……セイスイ……聖水!?」
「むしろ、びょうきもなおるのよ?」
「「「「「すご!」」」」」
「えっへん!」
猪の上で立って、胸を張るレナルカに、拍手が送られた。
その時、上空から何かがやって来る。鳴き声が響き、上を見上げた。
《クガーっ》
「へ? 荷物?」
五つの木の箱を、パラシュートで落としてきたのは、ジェットイーグルの群れだ。V字型に隊列を組んで、それは遠ざかっていった。これがレナルカと猪の前にゆっくりと落ちて来た。
「なかに、これくらいのボールがはいっているの。あのアナの中にこう~、ころがしてほしいのよ」
ボールの大きさは、バスケットボールくらい。それが約十個ずつ。計五十個程がある。
「これもセイスイがはいってるから、すあなにいっぱい、ほおりこむのよ! じげんしきだから、おくまでいくのよ!」
「「「「「楽しそ~!」」」」」
ノリの良い冒険者達は、早速と、ボウリングでもするように、ボールを穴の中へと投げ込みだした。
遠い所で、爆発する音が響き、同時に魔物の悲鳴が聞こえる。効果ばつぐんだった。
二十は投げ込んだだろうか、そこで、穴の入り口がガタガタと崩れ出した。
「むっ。のこりもはやく、ほうりこんじゃって! おきみやげはいらないのよ!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
ボールを全て放り込んだ所で、穴が閉じた。魔物が向かって来ているのが見えたが、それらはドッヂボールの要領で投げられたボールに弾き飛ばされて中に留まる。恐らく、それらは最後の放出だったのだろう。ギリギリだった。
「かんぜんしょうりなのよ!!」
「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」
「む。ノノちゃん! つぎにいくのよ!」
《フガっ》
レナルカが座り、トントンと背を叩かれたノノの呼ばれた猪は、返事をして走り出した。
「え!? レナルカちゃん?」
「ここはおわりなのっ。やすんでいいの~。おつかれさまでした~」
「お……」
「「「「「お疲れ様でしたぁぁぁぁ」」」」」
冒険者達は手を振ってレナルカを見送り、その後、その場でへたり込んだ。
「やべえ……足がガクガクするわ……」
「疲れた……うん。疲れてたみたい……」
「はぁぁぁ……終わった……」
魔法師達のほとんどは、魔力切れギリギリだったようで、限界だとその場で眠りに落ちていた。もちろん、他の冒険者達も、もう動けないと転がる者もいた。従魔達がそんな彼らを守るように囲むようにして身を横たえ、束の間の休息に入っていった。
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読んでくださりありがとうございます◎
「お? はあ……そろそろ終わりが見えてきたか……?」
「まだ魔力はどうにかなるけど、さすがに疲れてきたな……」
「やべえ……鼻がきかなくなってきたかも……」
「あ~……鉄臭かねえんだけど、生臭いんだよな~」
「だって、血じゃないしね。青とか緑ってなんなの?」
「キモいから。確認しなくていいから」
止めどなく出て来ていた魔物。夢中で戦っていたから気付かなかったが、疲れを感じはじめていた。
「地面も焦げ焦げじゃん?」
「この辺、焦げた臭いすごいよ」
「アレ、穴の近くは訳のわからん青やら緑やらので汚れてるし、こっちは黒焦げ……後片付け大変そう……」
「しばらく、普通の獣も近寄らなさそうね。あんた達、鼻は大丈夫?」
《……グフ……》
《フガ……》
「だよね……」
従魔達は、もう鼻がきかないらしい。ウンザリだという顔をしているように見えた。
「コウヤ君に頼んで、消臭剤をお願いしないと」
「きっと、良いやつ作ってくれるって」
「コウヤ君、従魔に優しいしね~」
しばらく、煙の臭いを嗅いだら、これを思い出しそうだとか、剣が滑ってきたから替えないととか、少し余裕は出て来たようだ。
そこに、大きな猪に乗って、レナルカがやって来たのだ。足音を聞いて振り返った冒険者達は、三度見した。
「え!? ちょっ、レナルカちゃん!?」
「うそっ! ダメだよ! ちょっと、保護者どこ!?」
「ヤバい! とんだワイルドなお姫様だよ!! めちゃくちゃイイ!!」
「こら! そこの変態!! 落ち着きなさい!」
一気に賑やかになったところで、猪は立ち止まる。一番後方にいる冒険者達と並ぶところだ。そこで、レナルカは斜めがけバッグからよいしょと大きな黒いボールを取り出す。
「うんしょっ」
「待って……待ってねレナルカちゃん! それ何!?」
「えい!」
ポイっと両手で投げたそのボールは、弾みながら穴に向かって転がっていく。
「わわっ」
「何か来るよ! 避けてー」
「うわっ」
頭を下げたりして、冒険者達の間をボールが進む。
冒険者達の居る場所を抜けた所で、レナルカは猪の背の上に立ち上がり、Y字型のスリングショットをバッグから取り出して構える。そして、小さな弾を弾いた。
「しょうどくなのよー!」
黒い大きなボールに当たったことで、水風船のようにそのボールが割れて、中にあったキラキラと光る液体が飛び散る。
「へ? 血が……消えた?」
「綺麗になった……」
「臭いが……消えた?」
地面に染み込んでいた青や緑の液体が、蒸発するようにして、光る液体に触れると消えた。空気も綺麗になったようだ。
「つぎなのよ!」
レナルカは、また大きな黒いボールを取り出し、両手で放り投げると、今度は穴の入り口まで転がしてからスリングショットを撃つ。すると、ボールの弾け方が先ほどとは違い、穴の中へと吸い込まれるように、光る液体が弾けていた。
それがかかった魔物は、悲鳴を上げて溶けた。
「……うげ……」
「あ、うん……溶ける所はグロいけど、何も残らないとか……ま、まあ、良いんじゃない?」
「あの液体何よ……」
「俺らも溶ける?」
不安になるのも分かる消滅の仕方だった。なので、レナルカは元気に宣言する。
「だいじょうぶなのよ! 人にはむがいなのよ! さいじょうくうの、セイスイなのよ!」
「さいじょうくう……あ、最上級ね。の……セイスイ……聖水!?」
「むしろ、びょうきもなおるのよ?」
「「「「「すご!」」」」」
「えっへん!」
猪の上で立って、胸を張るレナルカに、拍手が送られた。
その時、上空から何かがやって来る。鳴き声が響き、上を見上げた。
《クガーっ》
「へ? 荷物?」
五つの木の箱を、パラシュートで落としてきたのは、ジェットイーグルの群れだ。V字型に隊列を組んで、それは遠ざかっていった。これがレナルカと猪の前にゆっくりと落ちて来た。
「なかに、これくらいのボールがはいっているの。あのアナの中にこう~、ころがしてほしいのよ」
ボールの大きさは、バスケットボールくらい。それが約十個ずつ。計五十個程がある。
「これもセイスイがはいってるから、すあなにいっぱい、ほおりこむのよ! じげんしきだから、おくまでいくのよ!」
「「「「「楽しそ~!」」」」」
ノリの良い冒険者達は、早速と、ボウリングでもするように、ボールを穴の中へと投げ込みだした。
遠い所で、爆発する音が響き、同時に魔物の悲鳴が聞こえる。効果ばつぐんだった。
二十は投げ込んだだろうか、そこで、穴の入り口がガタガタと崩れ出した。
「むっ。のこりもはやく、ほうりこんじゃって! おきみやげはいらないのよ!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
ボールを全て放り込んだ所で、穴が閉じた。魔物が向かって来ているのが見えたが、それらはドッヂボールの要領で投げられたボールに弾き飛ばされて中に留まる。恐らく、それらは最後の放出だったのだろう。ギリギリだった。
「かんぜんしょうりなのよ!!」
「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」
「む。ノノちゃん! つぎにいくのよ!」
《フガっ》
レナルカが座り、トントンと背を叩かれたノノの呼ばれた猪は、返事をして走り出した。
「え!? レナルカちゃん?」
「ここはおわりなのっ。やすんでいいの~。おつかれさまでした~」
「お……」
「「「「「お疲れ様でしたぁぁぁぁ」」」」」
冒険者達は手を振ってレナルカを見送り、その後、その場でへたり込んだ。
「やべえ……足がガクガクするわ……」
「疲れた……うん。疲れてたみたい……」
「はぁぁぁ……終わった……」
魔法師達のほとんどは、魔力切れギリギリだったようで、限界だとその場で眠りに落ちていた。もちろん、他の冒険者達も、もう動けないと転がる者もいた。従魔達がそんな彼らを守るように囲むようにして身を横たえ、束の間の休息に入っていった。
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