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第十三章
591 可笑しいわあ
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コウヤはゼストラーク何か本気で作っているという不穏な言葉を聞き、報告も聞き終えたところで、すぐに単身で教会に転移した。
その場で意識を集中すれば、そのまま神界へと転移する。精神だけでなく、そのままだ。かなり神力が戻っていると感じているコウヤには、もう負担もなかった。出入り口として教会を使っているのも良かった。
たどり着いた神界の部屋。そこには大きなテーブルに幾つもの複雑な術式らしきものを書いた紙を広げ、不気味に笑っているエリスリリアが居た。
「ふふふ……これをこうすれば、もっと強度が出るわ。範囲の固定は……っ、ふっ、コウヤちゃんみたいには上手くいかないわねえ……ふふふっ、ふふふふふっ」
「……え、え~……エリィ姉さん?」
声をかけるのも憚られる様子に、それでも、恐る恐る声をかけた。すると、ゆっくりとエリスリリアは首を回した。
「……あら? うふふ。なぜかしら? コウヤちゃんが居る~? なんで? なんでかしらん?」
焦点が定まっていなかった。そして、目の下にすごいクマがあった。顔色もかなり悪い。
「っ、え、エリィ姉っ!? 酷い顔だよっ!!」
「あらあ? 本当にコウヤちゃん?」
「そうだよ! え? ちょっ、そんなになるまで何したの!? あれ? 寝なくても良いのに、寝不足!? どうなってるの!?」
神は眠る必要がない。それなのに、見事なクマが出来ているのだ。どういうことだとコウヤが混乱するのも無理はない。
「うふふ。そうよね~、寝なくても良いのに、なんだか眠いわ~、どうなっているのかしらん?」
「それヤバいよ! ちょっと休もう!」
「あらあら、うふふ。コウヤちゃんに休むように言われるなんて、可笑しいわあ」
「しっかりしてっ」
椅子に座っているのにフラフラしているエリスリリアを咄嗟に支える。
そこに、リクトルスがやって来た。しかし、その様子がおかしかった。
「おやおや。コウヤくん。いらっしゃい」
「あ、うん、リクトにぃ……なんでそんなに汚れてるの……」
「ああ。ちょっと訓練に力が入ってしまいまして」
「え、誰と?」
「私だけですよ」
「……リクト兄が訓練???」
確かに、リクトルスも感覚が鈍る気がするからと、体を動かすことはある。しかし、神の体は衰えないし、能力が落ちることもない。だから、訓練をする必要はなかった。とはいえ、能力が上昇することはあるようなので、武神としては何もしないということはできないようではあった。
そんなリクトルスが服を汚すほどの激しい訓練など、どこでしたのかとコウヤは不審げにリクトルスを見た。
「いやあ、精霊達に頼んだ最難関の迷宮を作り上げてもらったんですよ~」
「……え……」
「今度、グラム君達も連れて行きたいですね~」
「……」
あははと楽しそうに笑うリクトルス。ちょっと興奮しているようにも感じられた。
そして、そこに汗を拭いながら、ゼストラークがやってきた。
「おお。来ていたのか」
「う、うん……なんか、すごいの作ってるって聞いて……」
「ああ。あと一日もすれば完成だっ」
「……何が……?」
「ふふふ」
「っ……」
ゼストラークの目が怖かった。何か凄まじく怒っているようだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
その場で意識を集中すれば、そのまま神界へと転移する。精神だけでなく、そのままだ。かなり神力が戻っていると感じているコウヤには、もう負担もなかった。出入り口として教会を使っているのも良かった。
たどり着いた神界の部屋。そこには大きなテーブルに幾つもの複雑な術式らしきものを書いた紙を広げ、不気味に笑っているエリスリリアが居た。
「ふふふ……これをこうすれば、もっと強度が出るわ。範囲の固定は……っ、ふっ、コウヤちゃんみたいには上手くいかないわねえ……ふふふっ、ふふふふふっ」
「……え、え~……エリィ姉さん?」
声をかけるのも憚られる様子に、それでも、恐る恐る声をかけた。すると、ゆっくりとエリスリリアは首を回した。
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焦点が定まっていなかった。そして、目の下にすごいクマがあった。顔色もかなり悪い。
「っ、え、エリィ姉っ!? 酷い顔だよっ!!」
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「そうだよ! え? ちょっ、そんなになるまで何したの!? あれ? 寝なくても良いのに、寝不足!? どうなってるの!?」
神は眠る必要がない。それなのに、見事なクマが出来ているのだ。どういうことだとコウヤが混乱するのも無理はない。
「うふふ。そうよね~、寝なくても良いのに、なんだか眠いわ~、どうなっているのかしらん?」
「それヤバいよ! ちょっと休もう!」
「あらあら、うふふ。コウヤちゃんに休むように言われるなんて、可笑しいわあ」
「しっかりしてっ」
椅子に座っているのにフラフラしているエリスリリアを咄嗟に支える。
そこに、リクトルスがやって来た。しかし、その様子がおかしかった。
「おやおや。コウヤくん。いらっしゃい」
「あ、うん、リクトにぃ……なんでそんなに汚れてるの……」
「ああ。ちょっと訓練に力が入ってしまいまして」
「え、誰と?」
「私だけですよ」
「……リクト兄が訓練???」
確かに、リクトルスも感覚が鈍る気がするからと、体を動かすことはある。しかし、神の体は衰えないし、能力が落ちることもない。だから、訓練をする必要はなかった。とはいえ、能力が上昇することはあるようなので、武神としては何もしないということはできないようではあった。
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「いやあ、精霊達に頼んだ最難関の迷宮を作り上げてもらったんですよ~」
「……え……」
「今度、グラム君達も連れて行きたいですね~」
「……」
あははと楽しそうに笑うリクトルス。ちょっと興奮しているようにも感じられた。
そして、そこに汗を拭いながら、ゼストラークがやってきた。
「おお。来ていたのか」
「う、うん……なんか、すごいの作ってるって聞いて……」
「ああ。あと一日もすれば完成だっ」
「……何が……?」
「ふふふ」
「っ……」
ゼストラークの目が怖かった。何か凄まじく怒っているようだった。
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