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第十三章
558 マズい
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神教国内には現在、他国からの様子見するための密偵くらいしかいなくなっていた。
ジンク達で国の隅々まで回り、住民達を保護したのだ。閉じ込めているのは、ゼストラークでさえも知らなかったかつての神の力。前任の神が消しきれなかったものだ。
もしもそんなものと戦うことになれば、どこまでが戦場になるか分からない。そんな理由もあって、国の端まで見て周り、保護したのだ。
ただ、困った事に、周辺国はいくら聖魔教の要請であっても、彼らを国に受け入れることを拒んだ。神教国の住民だというだけで、石を投げられることもあり、国境から少し離れた場所に仮に村を幾つか作って、そこに住まわせている。
いつ何があっても良いように、建物は用意せず、全てテントにしており、避難民のように暮らしている状態だ。
世話と、監視の為に、聖魔教の神官達がかなり投入され、ようやく少しずつだが、自分たちで生活できるようになってきた所だった。
「反抗する意思もないとか、ちょっと拍子抜け」
「ユミ。そう思っても口にしないの」
「だって~。ミナ姉だって、言いたい事いっぱいあったでしょう?」
「そうですけどね……昔よりも、こうも覇気のない目をする者達ばかりだと、いっそ哀れにしか思えません」
「確かに、姉さんの言う通りですね。精気さえ感じられない者が、まだまだ多いです」
「ソラっ。どこ行ってたのよっ」
「村の周りの調査です。急遽切り拓いた場所ですからね。魔獣や魔物もまだ周りにかなり残っていますし」
かつての神子であるジンク達は、交代しながら、神教国の国民達を見張り、諭していた。上の者達だけの企みであったとしても、まだ住民達を信用する事はできない。完全に無害だと分かるまで見極めるつもりだ。
今日から三日ほどの担当は、ユミ、ミナ、ソラだった。
「そういえば、聖女とか名乗ってた子達をこっちに手伝いに来させるって話はどうなったのかしら」
「あ~、炊き出しの手伝いくらいさせるってやつね? ベニ姉様達が、聖女らしいことさせてやろうって言ってたわね」
かなりプライドは折ったらしいが、それでもまだ、自分たちは聖女なのだと言っている。どうも、聖女と呼ばれる存在でなければならないという強迫観念めいたものがあるようだ。それならばと、ベニ達は正しい聖女とは何かを教え込むと決めた。
「残念ながら、彼女達は、料理が本当に致命的に出来ないそうです」
「なにそれっ。ウケる」
「ユミと一緒ね」
「っ、鍋の中をかき回すくらいは出来るよ!?」
「……それしか出来ないんですか……?」
「悪い!?」
「「マズい」」
「え……」
悪くはないが、それだけしかできないのはマズいだろうとはっきり言っておく。
「まあ、ユミは元姫だものね」
「大丈夫ですよ。あの自称聖女達は、器にスープを入れることすら怪しいようですから」
「ふっ、ふふんっ。それくらいは、出来るわ!」
「「良かった~」」
それも出来なかったらどうしようかと思ったというのは、口にしなかった。
「で? じゃあ、来ないの?」
これに答えたのは、唐突に現れたジンクだ。
「来ないよ。元自国民だって言って、ふんぞりかえるに決まってるし。未だにスープ混ぜることも怪しいらしい」
「え!? 混ぜるのも出来ないの!? ヤバくない!?」
「ヤバいよ~。なんか混ぜる力もない上に、もっと美味しくなると思うとかって、余計なもの入れたがるらしいから」
「「「……最悪……」」」
「だよね~」
当然だが、その余計なものを入れた場合は、きっちり自分たちで食べるように指導している。時折、奇跡的に旨くなって胸を張るらしいが、その場合は食材の金額を考えさせ、一回の食事代の計算などの指導が入る。これにより最近は大分、余計なことはしなくなったようだ。
「高級食材使ってるのに、毒物並みの不味い食事を作る奴らだぜ? ここに連れて来たら、テロ騒ぎになる」
「それは迷惑だわ」
「それで聖女になれるのかしら……いくらベニ姉様達でも、素質がマイナスでは……」
「だからといって、料理上手なコウヤ様にご指導いただくわけにもいきませんしね」
「「「それは絶対にダメ!」」」
「ですよね……」
未だに周りは、コウヤには会わせる気がなかった。
「それで? ジンクは様子を見て来たんでしょう? どうだった?」
「ん~、な~んか、きな臭い感じだった」
「殺し合いでも始めた?」
冗談半分でユミが口にする。それに、ジンクが苦笑した。
「当たり」
「マジで!?」
「まあっ……」
「……」
さすがに、そこまでバカだとは思っていなかった。
「生け贄とか、捧げ物的な発想が出てるかも」
「っ、あり得るわね……」
「いよいよ、邪神が出てくるということですか……」
「結界に問題は?」
「その辺、これから警戒に入る。ベニちゃん達に伝えてくれる? 俺はこの後からずっと張り付くことになるからさ」
「分かったわ。気を付けなさいよっ」
「お気を付けて」
「無理をなさらないように」
「おう。行ってくる」
そうして、コウヤの居る王宮に連絡がもたらされた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また一週空けます。
よろしくお願いします。
ジンク達で国の隅々まで回り、住民達を保護したのだ。閉じ込めているのは、ゼストラークでさえも知らなかったかつての神の力。前任の神が消しきれなかったものだ。
もしもそんなものと戦うことになれば、どこまでが戦場になるか分からない。そんな理由もあって、国の端まで見て周り、保護したのだ。
ただ、困った事に、周辺国はいくら聖魔教の要請であっても、彼らを国に受け入れることを拒んだ。神教国の住民だというだけで、石を投げられることもあり、国境から少し離れた場所に仮に村を幾つか作って、そこに住まわせている。
いつ何があっても良いように、建物は用意せず、全てテントにしており、避難民のように暮らしている状態だ。
世話と、監視の為に、聖魔教の神官達がかなり投入され、ようやく少しずつだが、自分たちで生活できるようになってきた所だった。
「反抗する意思もないとか、ちょっと拍子抜け」
「ユミ。そう思っても口にしないの」
「だって~。ミナ姉だって、言いたい事いっぱいあったでしょう?」
「そうですけどね……昔よりも、こうも覇気のない目をする者達ばかりだと、いっそ哀れにしか思えません」
「確かに、姉さんの言う通りですね。精気さえ感じられない者が、まだまだ多いです」
「ソラっ。どこ行ってたのよっ」
「村の周りの調査です。急遽切り拓いた場所ですからね。魔獣や魔物もまだ周りにかなり残っていますし」
かつての神子であるジンク達は、交代しながら、神教国の国民達を見張り、諭していた。上の者達だけの企みであったとしても、まだ住民達を信用する事はできない。完全に無害だと分かるまで見極めるつもりだ。
今日から三日ほどの担当は、ユミ、ミナ、ソラだった。
「そういえば、聖女とか名乗ってた子達をこっちに手伝いに来させるって話はどうなったのかしら」
「あ~、炊き出しの手伝いくらいさせるってやつね? ベニ姉様達が、聖女らしいことさせてやろうって言ってたわね」
かなりプライドは折ったらしいが、それでもまだ、自分たちは聖女なのだと言っている。どうも、聖女と呼ばれる存在でなければならないという強迫観念めいたものがあるようだ。それならばと、ベニ達は正しい聖女とは何かを教え込むと決めた。
「残念ながら、彼女達は、料理が本当に致命的に出来ないそうです」
「なにそれっ。ウケる」
「ユミと一緒ね」
「っ、鍋の中をかき回すくらいは出来るよ!?」
「……それしか出来ないんですか……?」
「悪い!?」
「「マズい」」
「え……」
悪くはないが、それだけしかできないのはマズいだろうとはっきり言っておく。
「まあ、ユミは元姫だものね」
「大丈夫ですよ。あの自称聖女達は、器にスープを入れることすら怪しいようですから」
「ふっ、ふふんっ。それくらいは、出来るわ!」
「「良かった~」」
それも出来なかったらどうしようかと思ったというのは、口にしなかった。
「で? じゃあ、来ないの?」
これに答えたのは、唐突に現れたジンクだ。
「来ないよ。元自国民だって言って、ふんぞりかえるに決まってるし。未だにスープ混ぜることも怪しいらしい」
「え!? 混ぜるのも出来ないの!? ヤバくない!?」
「ヤバいよ~。なんか混ぜる力もない上に、もっと美味しくなると思うとかって、余計なもの入れたがるらしいから」
「「「……最悪……」」」
「だよね~」
当然だが、その余計なものを入れた場合は、きっちり自分たちで食べるように指導している。時折、奇跡的に旨くなって胸を張るらしいが、その場合は食材の金額を考えさせ、一回の食事代の計算などの指導が入る。これにより最近は大分、余計なことはしなくなったようだ。
「高級食材使ってるのに、毒物並みの不味い食事を作る奴らだぜ? ここに連れて来たら、テロ騒ぎになる」
「それは迷惑だわ」
「それで聖女になれるのかしら……いくらベニ姉様達でも、素質がマイナスでは……」
「だからといって、料理上手なコウヤ様にご指導いただくわけにもいきませんしね」
「「「それは絶対にダメ!」」」
「ですよね……」
未だに周りは、コウヤには会わせる気がなかった。
「それで? ジンクは様子を見て来たんでしょう? どうだった?」
「ん~、な~んか、きな臭い感じだった」
「殺し合いでも始めた?」
冗談半分でユミが口にする。それに、ジンクが苦笑した。
「当たり」
「マジで!?」
「まあっ……」
「……」
さすがに、そこまでバカだとは思っていなかった。
「生け贄とか、捧げ物的な発想が出てるかも」
「っ、あり得るわね……」
「いよいよ、邪神が出てくるということですか……」
「結界に問題は?」
「その辺、これから警戒に入る。ベニちゃん達に伝えてくれる? 俺はこの後からずっと張り付くことになるからさ」
「分かったわ。気を付けなさいよっ」
「お気を付けて」
「無理をなさらないように」
「おう。行ってくる」
そうして、コウヤの居る王宮に連絡がもたらされた。
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