元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十三章

548 張り合ってるの?

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この日、王城で仕事をしていたコウヤは落ち着いた午後、昼過ぎから届くようになった冒険者やギルド職員からの報告書に目を通していた。この場には今、ニールしかいない。

フレスタとディスタは現在、騎士達に混ざって訓練に出ている。コウヤの侍従ならば、それなりに戦えなくてはならないということらしい。

「あ~、これは……予想してなかったな~……」
「どうされたのですか?」

ニールがお茶を淹れ直してくれるのを受け取りながら、コウヤは苦笑いを浮かべた。

「うん。エルフや獣人の里から、迷宮内の採取物の調査する人を送ってもらったでしょう?」
「ええ。先ずは近場の迷宮から、少人数で近衛師団の者が数人護衛に付いて始めると……そういえば、今日辺りからでしたね」
「そう。それで、結果がコレなんだけど」
「拝見します」

コウヤが差し出した報告書をニールは受け取り、目を通していく。それは報告書というか、泣き言が多分に含まれていた。

ニールは、これを報告書として扱って良いのかという文句を呑み込み、意見をまとめる。

「……結果的には、かなり色々と貴重なものを見落としていたと……言うことですね」
「結果的に見るとね」
「……この、暴動が起きかねないのいうのは……」
「昔存在していたキノコとか、植物ってね……そのままでも美味しいのが多いんだよ」
「……はい?」

コウヤがちょっと目を逸らしながら告げた。

「だって、ほら、まだこうした国もなくて、ともすれば、家もなくて、一人一人が森とかに入ってその日の食べ物を集めて来るような時代に、手の込んだ料理とか出来ないでしょう?」
「……そうですね……調味料も難しそうです」
「そうっ。だから、ある程度、焼いただけで美味しかったり、そのままでも美味しいものってのを用意したんだ」
「……コウヤ様……コウルリーヤ様がですか?」
「うん……果物とかは品種改良もして、好きな味を追求しちゃったり……」
「……」

ニールは大体ここで理解した。

「コウルリーヤ様が好まれたもの、作られたものならば、精霊様達が大事にされるのも分かります」
「やっぱりそうかな!? このトキト茸なんて、色ヤバいけどめちゃくちゃ美味しいんだよ! あ、今日の夜に食べられるように料理長に渡しておくね。是非食べてみて! 確か死蔵してるのがあったから」
「は、はい……」
「俺も、全部の迷宮に目を通してるわけじゃないし、こういうのもあるかな~って思ってたけど、初日の、一つ目でコレはヤバい気がするんだよ!」

これでは、もっとゴロゴロ出て来そうだ。コウヤとしても、自分がドロップ品で欲しいと思った物を取りに行くくらいなので、迷宮の棚卸しのように確認もしたことがなかった。

トキト茸も、たまたま迷宮に他の物を目的として潜った折に見つけて採取していたものだ。それも隠し部屋にあったので、特に報告も上げていない。

精霊達のためには、本職の冒険者達に隠し部屋は見つけて欲しいだろうという気遣いのためだった。

「……発表は対策をしてからでないと、そこにばかり人が殺到しますね。それも値崩れが……いえ、今まで出ていない物ですし、値段を付けるのもかなり難しそうで……」
「マズいよね? うわあ~、まだ商業ギルドの統括さんって滞在してたっけ?」
「確認して……あ、居られるそうです。呼びに……行かれました」

ニールが動く前に、裏に潜んでいた者達が動いたようだ。現在は、神官達だけでなく、この国の暗部の者達もコウヤのために動くようになっている。

神官達に鍛えられた暗部の者達の反応は早く、最近は精度もかなり増していた。そうして成長した自分達が誇らしいらしく、仕事にも熱が入るという。

「助かるよ。どうしようか、ここに来てもらって……」

そこで、部屋にノックして入って来る者がいた。アビリス王の侍従だ。

「失礼致します。王が会議室を開けておくそうです。コウヤ様には、商業ギルドの統括が来られるまでに説明をお願いいたします」
「あっ、ありがとう」
「いえ。失礼いたします」
「……」
「ニール?」

ニールが退室していく侍従を睨むようにしていたのに気付いたコウヤが声をかける。すると、すぐにニールは普段の雰囲気を取り戻した。

「いえ。失礼しました」
「何か張り合ってるの?」
「っ、ご存知だったのですか?」
「うん。なんとなく?」

そう言って笑いながらコウヤは立ち上がる。

「お恥ずかしい……その、侍従としての意地なようなものでして……」
「ふふっ。最近は、あの人とか父さんの侍従達も裏道使うようになったから、動きが素早いよね」
「……はい……」

メイド達は一部だけだが、城の裏道を使える者は多くなった。

暗部や騎士達は当然のように利用し、そこに最近、侍従達が加わったようだ。通達することなどあれば、これを駆使して城内を駆ける。

「意外と鍛えてるみたいだしね」
「……はい……」
「もしかして、知らなかった?」
「はい……」

見ていた報告書を集めて腰にあるバッグに詰め、ニールを伴って部屋を出る。パックンがいつでも側にいる訳ではないので、王子仕様の服装になっても、バッグは付けていた。

「ジル父さんの侍従は、一緒に冒険者出来るくらいだって言ってたかな? お祖父様の……さっきの人だと近衛騎士になれるくらいみたいだけど」
「ええ……騎士達が驚いていました」
「隠してたみたいだしねえ」
「はい……」

見た目、戦えそうにない人たちだ。そう装っていたらしく、結構な速度や身体能力を必要とする裏道も使えたことで、それが発覚した。だが、気付かなかったことが、ニールには気に入らないのだろう。

「けど、間違いなく戦いになったらニールが一番だよ。それは間違いないから」
「っ……はい……」

ニールが強いことは分かっているからねと励ましながら、照れるニールと共にコウヤは会議室へと向かった。







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読んでくださりありがとうございます◎
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