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第十三章
546 随分変わったよね
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聖女達が聖魔教会に引き取られて三日が経ったその日、コウヤは教会でリスティアンを探していた。
この時間は神官達も昼食が済み、落ち着いた頃だが、リスティアンは三人の聖女の様子を確認していたらしく、地下からの階段を上ってきた所だった。
「あっ。お疲れ様」
「っ、こ、コウヤ様! ブラっ!」
コウヤの傍には、ブランナが控えており、リスティアンはコウヤに出会えたことを喜びながらも、ギクリと動きを止める。どうやら、騎士然としているブランナが苦手らしい。
神教国に居た頃は、どこか迷いもあったため、押せば何でも言う事を聞いてくれそうな雰囲気だった。だが、今のブランナからは、自身が立つべき場所、あるべき立場を全て自分のものにしている自信が感じられた。
その自信が、リスティアンには近寄りがたい強さを見せているようだ。今、かつてのようにリスティアンが振る舞えば、ブランナは即座にコウヤの傍から遠ざけるだろう。それが分かるから、ブランナの前では特に構えてしまうのだ。
まるで頭の上がらない教育係の前に居るように、リスティアンは態度を取り繕う。
既にコウヤの前で大きな声を上げてしまったことで、失敗だったとドキドキしていた。
「し、失礼しました。ごきげんよう。コウヤ様」
「こんにちは。あの三人の監視を引き受けてくれたと聞いたから、どんな様子かなと思ってね。無理してない?」
「っ、わ、私を心配してくださったのですか!?」
「うん。だって、元同僚になるわけでしょう? 色々とやりにくくない?」
知り合いだからこそ、見たくなかった姿や聞きたく無い言葉もあるだろう。コウヤは、それでリスティアンに悪い影響があるのではないかと心配したのだ。
「もっ、問題ありません! 少し口が悪くなるかもしれませんが、アレら相手にだけですし!」
「ふふっ。そういえば、サーナさんから聞いたよ。言い負かしていたって。あの三人を一人で言い負かすのはすごいね」
「っ、ありがとうございます!」
『やばい、褒められた』と感動するリスティアン。そんなリスティアンに、コウヤは軽く抱えられるくらいの箱を鞄から取り出して差し出した。
「これ、今朝採ってきたんだ。皆んなに配ってるんだけど、この後、孤児院の方で休憩でしょう? この前、孤児院に持って行った時、子ども達を優先して食べられなかった神官さん達が居るって聞いたから、これテルザさん達と食べて」
「し、失礼します……っ、ビルワ! よろしいのですか!?」
「うん。 プーラはまた今度ね。少し少なかったんだ」
「充分です! ありがとうございます!」
リスティアンは大粒のビルワを見つめてキラキラと表情を輝かせた。喜んでくれたようだとコウヤもホッとする。
「じゃあ、あまり無理しないように」
「は、はい!」
コウヤは頭を下げるリスティアンに笑いながら、ブランナと共にその場を後にする。充分離れてから、コウヤはクスクスと笑った。
「ふふっ。本当に、随分変わったよね」
「はい……あれはもう別人です。あっ、失礼しました」
「ふふふっ。ブランナもそう思うんだ。相当だよ」
「ええ。あれが本来の彼女なのでしょうか」
「そうかもね」
あの三人には、口汚くなってもきっちりやり込められるくらい強く言わないと聞かないだろう。そんな彼女達への対応と、孤児院での対応や町の人々への対応は全く別だ。きちんと区別している彼女はとても優秀だろう。
聖女として上の顔色を窺い、従ってくれる下の者達に聖女として相応しい態度を見せる。そんな生き方をしてきたからこそ、その人その人、場面にも合った対応が柔軟にできる。
傲慢な所はあったが、それ以上に優しさも持っていたのだ。神官達にあの三人を任せれば、きっと三人は反発しただろう。だからリスティアンは、憎まれ役を買って出た。
そして、三人の方にも、これ以上誰かに嫌われないように自分が盾になる事を選んだ。
「彼女、ばばさま達に似てきたと思わない?」
「……あの方々と比べれば、まだまだ、もどきのようなものですが……性格の種類と言いますか、少し雰囲気が似てきたかもしれません」
「だよねっ。ああゆう聖女なら、居てもいいかもね。庶民派みたいな。もう何十年かしたらきっと、住民達から『お母さん』って呼ばれるかも」
そんな話をしながら教会の外に出ると、待ち構えていたグラムがそれを耳にして察した。元々、コウヤはリスティアンに会いに来たのを知っていたのだ。
「リアンの嬢ちゃんか? あれはお母さんっていうか、『おっかさん』って感じになるんじゃないか?」
「あははっ。そうかもっ」
「そんな感じですね」
ブランナまでもが納得した。
「さてと、後はギルドにもお裾分けして、お城に行こうかな。リルにも食べさせてあげたいしね」
「承知しました」
「おうっ。ついでに、ギルドで情報もらってくるんだろう?」
「うん。ルー君やばばさま達も後で城に来るって言ってたしね。他国の使者達も来てるみたいだし、今日から神教会や迷宮についての話し合い」
他国からは、聖魔教会を誘致する話が来ており、その仲介をこの国が行うのだ。使者達が直接、ベニ達に話を付ければいいのだが、畏れ多いと言って仲介をお願いして来ているらしい。
真に神々から認められた教会ということは、迷宮化討伐の折に神々が本当に出て来た事で理解している。そのため、神教会のように虚偽ではないのだと知り、どうすれば良いのかと対応に困ったというわけだ。実感できるというのは、声高にそうと言っているだけのとは大きな違いだ。
「迷宮と言えば、買い取れる薬草類や採取物がかなり増えたって、王都の冒険者達が騒いでたぞ」
「そういえば、調査が進んでるんだった」
「エルフや獣人の里から来られた方々の調査でしたか。近衛師団の中からも護衛任務に出向いていましたが」
「うん」
本格的に、里から出て来た年配の者達がこの辺りの迷宮から手始めに調査を開始していた。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
この時間は神官達も昼食が済み、落ち着いた頃だが、リスティアンは三人の聖女の様子を確認していたらしく、地下からの階段を上ってきた所だった。
「あっ。お疲れ様」
「っ、こ、コウヤ様! ブラっ!」
コウヤの傍には、ブランナが控えており、リスティアンはコウヤに出会えたことを喜びながらも、ギクリと動きを止める。どうやら、騎士然としているブランナが苦手らしい。
神教国に居た頃は、どこか迷いもあったため、押せば何でも言う事を聞いてくれそうな雰囲気だった。だが、今のブランナからは、自身が立つべき場所、あるべき立場を全て自分のものにしている自信が感じられた。
その自信が、リスティアンには近寄りがたい強さを見せているようだ。今、かつてのようにリスティアンが振る舞えば、ブランナは即座にコウヤの傍から遠ざけるだろう。それが分かるから、ブランナの前では特に構えてしまうのだ。
まるで頭の上がらない教育係の前に居るように、リスティアンは態度を取り繕う。
既にコウヤの前で大きな声を上げてしまったことで、失敗だったとドキドキしていた。
「し、失礼しました。ごきげんよう。コウヤ様」
「こんにちは。あの三人の監視を引き受けてくれたと聞いたから、どんな様子かなと思ってね。無理してない?」
「っ、わ、私を心配してくださったのですか!?」
「うん。だって、元同僚になるわけでしょう? 色々とやりにくくない?」
知り合いだからこそ、見たくなかった姿や聞きたく無い言葉もあるだろう。コウヤは、それでリスティアンに悪い影響があるのではないかと心配したのだ。
「もっ、問題ありません! 少し口が悪くなるかもしれませんが、アレら相手にだけですし!」
「ふふっ。そういえば、サーナさんから聞いたよ。言い負かしていたって。あの三人を一人で言い負かすのはすごいね」
「っ、ありがとうございます!」
『やばい、褒められた』と感動するリスティアン。そんなリスティアンに、コウヤは軽く抱えられるくらいの箱を鞄から取り出して差し出した。
「これ、今朝採ってきたんだ。皆んなに配ってるんだけど、この後、孤児院の方で休憩でしょう? この前、孤児院に持って行った時、子ども達を優先して食べられなかった神官さん達が居るって聞いたから、これテルザさん達と食べて」
「し、失礼します……っ、ビルワ! よろしいのですか!?」
「うん。 プーラはまた今度ね。少し少なかったんだ」
「充分です! ありがとうございます!」
リスティアンは大粒のビルワを見つめてキラキラと表情を輝かせた。喜んでくれたようだとコウヤもホッとする。
「じゃあ、あまり無理しないように」
「は、はい!」
コウヤは頭を下げるリスティアンに笑いながら、ブランナと共にその場を後にする。充分離れてから、コウヤはクスクスと笑った。
「ふふっ。本当に、随分変わったよね」
「はい……あれはもう別人です。あっ、失礼しました」
「ふふふっ。ブランナもそう思うんだ。相当だよ」
「ええ。あれが本来の彼女なのでしょうか」
「そうかもね」
あの三人には、口汚くなってもきっちりやり込められるくらい強く言わないと聞かないだろう。そんな彼女達への対応と、孤児院での対応や町の人々への対応は全く別だ。きちんと区別している彼女はとても優秀だろう。
聖女として上の顔色を窺い、従ってくれる下の者達に聖女として相応しい態度を見せる。そんな生き方をしてきたからこそ、その人その人、場面にも合った対応が柔軟にできる。
傲慢な所はあったが、それ以上に優しさも持っていたのだ。神官達にあの三人を任せれば、きっと三人は反発しただろう。だからリスティアンは、憎まれ役を買って出た。
そして、三人の方にも、これ以上誰かに嫌われないように自分が盾になる事を選んだ。
「彼女、ばばさま達に似てきたと思わない?」
「……あの方々と比べれば、まだまだ、もどきのようなものですが……性格の種類と言いますか、少し雰囲気が似てきたかもしれません」
「だよねっ。ああゆう聖女なら、居てもいいかもね。庶民派みたいな。もう何十年かしたらきっと、住民達から『お母さん』って呼ばれるかも」
そんな話をしながら教会の外に出ると、待ち構えていたグラムがそれを耳にして察した。元々、コウヤはリスティアンに会いに来たのを知っていたのだ。
「リアンの嬢ちゃんか? あれはお母さんっていうか、『おっかさん』って感じになるんじゃないか?」
「あははっ。そうかもっ」
「そんな感じですね」
ブランナまでもが納得した。
「さてと、後はギルドにもお裾分けして、お城に行こうかな。リルにも食べさせてあげたいしね」
「承知しました」
「おうっ。ついでに、ギルドで情報もらってくるんだろう?」
「うん。ルー君やばばさま達も後で城に来るって言ってたしね。他国の使者達も来てるみたいだし、今日から神教会や迷宮についての話し合い」
他国からは、聖魔教会を誘致する話が来ており、その仲介をこの国が行うのだ。使者達が直接、ベニ達に話を付ければいいのだが、畏れ多いと言って仲介をお願いして来ているらしい。
真に神々から認められた教会ということは、迷宮化討伐の折に神々が本当に出て来た事で理解している。そのため、神教会のように虚偽ではないのだと知り、どうすれば良いのかと対応に困ったというわけだ。実感できるというのは、声高にそうと言っているだけのとは大きな違いだ。
「迷宮と言えば、買い取れる薬草類や採取物がかなり増えたって、王都の冒険者達が騒いでたぞ」
「そういえば、調査が進んでるんだった」
「エルフや獣人の里から来られた方々の調査でしたか。近衛師団の中からも護衛任務に出向いていましたが」
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本格的に、里から出て来た年配の者達がこの辺りの迷宮から手始めに調査を開始していた。
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