元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
440 / 475
第十三章

545 よく反省するように!

しおりを挟む
日が暮れる頃までイスリナとミラルファによって、『お前達は王妃になど相応しくない』『常識も知らないのか』『人としてマズいだろう』とひたすらダメ出しを食らう話し合いが続いた。

これにより、聖女達は、聖魔教会に引き取られる時はとても静かだった。

「……何でしょう……何も食べていないのに、お腹いっぱいな気がします……」
「疲れた……聞いてるだけなのに、すごく……」
「そんなに喋ってないのに、喋り疲れた? みたいな……謎……」

神官達に連行されて来た三人は、先ずお風呂に入れられた。聖女のトレードマークである純真さをアピールするための真っ白なローブは回収され、一般的な住民達が着るような上下が渡された。

当然、文句を言うのはわかっていた。

「私たちの服は!?」
「あれは、聖女の特別な服なのよ!?」
「こんな普通の服着れるわけないわ!」

下着だけを身につけた状態で喚く三人。そこに、リスティアンがやって来て手を叩いた。


パンパンパン!


「はいはいはい。相変わらずよね。神教国がほぼ国として成り立たなくなってるのに、まだ聖女だとか言ってんのバカじゃない?」
「……あなた……リスティアン?」
「何であんたがここに?」
「その服、ここの人たちが着てるやつ……」

リスティアンは、元同僚である聖女達が動揺する中、彼らに呆れた目を向ける。

「今の私はリアンよ。もう、あんなクソみたいな所で生きてた私じゃないの」
「「「……は?」」」

意味が分からないと混乱する三人。そんなのはどうでも良いとリスティアンは続けた。

「さっさとその服着なさいよ。ってか、あんた達って、本当にバカだったのね。あの方の母親に本気でなれると思ったの? 頭腐ってんじゃない?」
「「「……は?」」」
「あんた達が元同僚とか、恥ずか死ぬかと思ったわ」
「「「……っ」」」
「ぼけっとしてないで、早く着ろって言ってんのっ。下着姿でワガママ言うとか、子どもかっ」
「「「っ、なっ」」」
「さっさとしろ! 張っ倒すぞ!」
「「「っ!!」」」

三人はリスティアンから発せられた威圧に腰を抜かした。

そこに、サーナがやって来る。

「リアン? 口が悪くなっていますよ」
「はっ、サーナお姉様! 申し訳ありません! このグズ共がお時間を取らせておりまして!」
「そうですね。そろそろ神官達の湯浴みの時間ですからね」
「はい! すぐに! すぐに部屋に放り込みます! あんた達! ぼさっとするなって言ってんでしょ!!」
「「「ひっ!!」」」

もう三人には、かつてのリスティアンの印象が霞んでいた。衝撃でこれは別人だと認識しはじめている。

「落ち着きなさい。リアン。あなた方も、これ以上この子を怒らせないように動いた方が良いですよ」
「「「はいっっっ」」」

恐怖に突き動かされ、三人は涙を滲ませながら服を着ていく。膝丈のワンピースに下はズボンだ。彼女達には着たことのない服。下々の者が着る服だと認識している。着たくはない。それは、自分達が下に落ちるということ。だが、着なければ恐怖はずっと続くのではないかと感じていた。文句も言わずに身に付けた。

「最初っからそうやって、口より手を動かせば良いのよ。ほら、行くわよ」
「「「っ……」」」
「返事!」
「「「っ、はいっ!」」」

カタカタと体が震えるのは、まだリスティアンが威圧を向けているからだ。だが、それが分からない三人は、なぜ自分たちが震えているのかも分からない恐怖に、ただ従う。

「ではサーナお姉様。こちらはお任せください」
「ええ。頼みましたよ」
「はい! ついて来なさい!」
「「「はい!」」」

突き動かされるままに、リスティアンについていく三人。

そんな様子を感じながら、リスティアンは地下の階段へ向かう。

「これから、きっちり反省し、自分自身と向き合い、悔い改めるまで地下の独居部屋で過ごしてもらいます。当面の間、食事は朝と夕の二回。部屋に運びます。朝の七時と夜の七時です。二回とも八時に回収に来ますから、それまでに食べるように」
「「「……っ」」」
「部屋には、史実書が置いてあります。正しい世界の史実を記したものです。神教国の罪、人の罪を知り、自分たちの愚かさを確認してください」
「「「……っ」」」
「それと、薬草辞典と計算問題集と史実書を元にした読解問題集、日常の常識問題集があります。問題集は、一日各二、三ページずつやるように。辞典も読んで一週間に一度、進捗を確認します」
「「「……っ??」」」

三人は顔を見合わせる。そんな様子も、ここで鍛えられたリスティアンには手に取るように分かる。だが、振り向くことなく尚も続けた。

「あなた達はまだ理解していないようですが、神教国はもうすぐ消えます。帰る場所、比護される場所はなくなるんです。今回のことで、この国だけでなく他国にもあなた方のバカさ加減は大々的に知られていくでしょう」
「……何……それ……」
「今日のあなた達の城の前での言動、この国に来るまでの行動は全ての国の民が知る所になったということです」
「……え?」

壁に映し出されていた映像だけでなく、これまでの国と国の間の門や宿でのやり取りの映像も、聖魔教の神官達によって密かに収録されていたのだ。

「後で見せてあげますよ。今夜はそれを観ながら眠ると良いわ。私なら、恥ずかし過ぎて寝られないけど」
「「「……?」」」

首を傾げる三人。だが、リスティアンは構わない。

「まあ、それは置いておいて、一般市民として生きていけるように常識を身に付けてください。落ち着いたら、掃除や洗濯の仕方を教えます。それから薬草採取の勉強。これでなんとか生きていけますからね。料理は……追々で」
「「「……」」」
「さっさと独り立ちしてください。本当は顔も見たくないので」
「「「……っ」」」

本気でリスティアンが嫌っているのは、三人も理解できたようだ。

「部屋はここです。一つ置きに使ってもらいます。いいですか。よく反省するように!」
「「「っ……」」」

一人ずつ、別の部屋に入ると、ドアをしっかりと閉められる。

しばらく呆然としていた三人だが、部屋の中を確認し、机の上にある問題集などを確認していれば、リスティアンが食事を運んで来る。

ドアには、下の方に食事のお膳を差し入れられる窓が付いており、ドアを開けなくてもそこからやり取りすることができた。

ドアを開ける気がないのだと知り、三人は状況をまた一つ理解する。

そして、その夜。部屋の壁にあるモニターに、編集された三人の愚行が映し出された。時間にして二時間。

住民達の反応や、意見なども入れられており、自分たちの行いが全く受け入れられないものだったのだとここでようやく気付く。

子どもにまで『おかしなおんなのひとたち』と評されていたことに、三人は羞恥心を知ったのだった。








**********
読んでくださりありがとうございます◎
今年もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。