元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
422 / 475
第十三章

527 ご試食どうぞ

しおりを挟む
商業ギルドの総括。その人がトルヴァランにやって来たという情報は、その日の内にコウヤの下に届いた。

しかし、彼らはお忍びでの訪問だった。どうやら、王都の商業ギルドの不正などを確認するために来たらしく、王都の商業ギルドの者たちも知らなかったことのようだ。

それなのに、すぐにコウヤに情報が届いた理由は簡単なことだった。

その情報は、第二王妃のカトレアからもたらされた。

彼女は、商業ギルドと契約している。しかし、表向きは謹慎中の彼女は城からは出られないため、出来上がった商品は、商業ギルドの関係者が城へと取りに来る。

その時に聞いたらしい。その商業ギルドの関係者も、まるで襲撃を受けたような騒動になっていた商業ギルドから退避するためにも早めに城へと来たという。

『商業ギルドと相談する事があるって言っていましたでしょう? 総括が来たなら、やりやすそうですよねっ』

そんな風にたまたま城に上がっていたコウヤへとカトレアが嬉々として教えてくれたのだ。

コウヤの役に立つ情報を渡せるというのがカトレアには嬉しかったらしい。

しっかりとお礼を言ったコウヤは、すぐに城を飛び出して、チャンスとばかりに商業ギルドに向かい、総括に面会を申し出た。

そして、今回の話し合いに参加をお願いしたのだ。

総括である人が立ち上がる。背の高いその人は、骨格がしっかりとしていることもあり、大きな人に見えた。しかし、お辞儀をする姿勢はとても綺麗で柔らかかった。

「初めまして。商業ギルドの総括をしておりますウィルズと申します。こちらは補佐のレネとマルトです」

補佐たちが一人ずつ立ち上がって頭を下げた。

「このような話し合いの場に呼んでいただけて嬉しく思います」

これに、シーレスとタリスが答える。

「そう固くならずに。忌憚のない意見も聞きたいですので」
「お仕事があるのに、割り込む感じになってごめんね。でも、絶対に損はさせないからっ」
「……ありがとうございます……」

コウヤが強引に引き合わせることにしたのだ。二人もかなり驚いていた。

少し申し訳なさそうにするシーレスとタリスを気にすることなく、コウヤは早速というように、先ずは『果実の迷宮』で大量に手に入れたものを、トレーに載せてウィルズの前に置いた。

「……これは? 匂いからして……ワルビとプーラの様に思いますが……」

総括をやっているだけはあり、それが何なのかをすぐに言い当てた。

説明するのは、シーレスだ。

「そうです。その二つは、『果実の迷宮』から出たものです」
「……スタンピードの情報はなかったと思うのですが……?」

果実の迷宮から出る果物についての情報も、きちんと把握しているのだろう。

そして、これがその迷宮では出ないことを知っていたのだ。新たな種が出るとすれば、それは集団暴走スタンピードが起きたということ。

しかし、集団暴走スタンピードの情報は、兆候ありとなった時には、冒険者ギルドより連絡が入ることになっている。これは契約として取り決めていることだ。

集団暴走スタンピードとなれば、その迷宮でドロップする品物がしばらく手に入らなくなる可能性が高い。そして、ドロップ品が変わることもある。

そうなれば、市場への影響も出る。そこを混乱させずに収めるのが商業ギルドの仕事だ。

だから、少しばかりウィルズの声に棘があった。連絡を怠ったのかという疑いを持ったのだ。

これを察し、シーレスは首を横に振る。

「未踏破の領域があった。そこの魔獣からドロップしたものだよ」
「そんな事が……」
「あるんだよね~……というか、あったんだよね~」

タリスが頬杖をついて苦笑して見せる。

「それも、長い間閉じられた感じになってたから、中に出現してる魔獣の数が半端なくてね~。で、出たのがその二種類ってわけ」
「……なるほど……ですが……このワルビとプーラは……規格外の大きさですね……見た事もないのですが……」

総括ですら、見た事のない大きさだったのだ。

「古代種だそうですよ」

シーレスが面白そうに笑いながら告げた。商業ギルドの総括も驚く様な商品というのが楽しいらしい。

「っ、それは……っ」
「「っ!!」」

商業ギルドの三人が、どう売り出すべきかと瞬時に考え出す。普通では手に入らない種なのだ。高値で売れるこのは間違いない。

そんな三人の前に、コウヤはビルワとプーラの皮を剥き、食べやすくカットしたものを並べた。

「ご試食どうぞ」
「え、あ、はい……」

コウヤはタリス達にも配っていく。

ウィルズは、果物の見た目を確認し、匂いを確認し、ゆっくりと先ずビルワにフォークを刺した。

「硬さも普通のと同じ……香りも良い……っ!!」
「「っ、おいしいっ……っ」
「これは美味しいっ!」
「うまっ」

誰もがその美味さに悶絶した。

プーラの方もと口に入れると、こちらも絶品だと誰もが恍惚とした笑みを浮かべた。

「美味しいですよね~」

コウヤはしみじみと、味を堪能しながら呟く。

そして、ウィルズが立ち上がった。

「是非とも卸してください!! 絶対に売れます!!」
「だって、コウヤちゃん」

ニヤリとタリスが笑う。

「良かったです。各千個ほどありますので、よろしくお願いします」
「「「……え……?」」」
「ふふっ。ワルビもプーラも千個ほどあります。それも、果実の迷宮でのドロップ品なので、全て食べ頃です」
「っ!! そ、それは……い、今はどこにっ……っ」

腐るよねと顔色を悪くする商業ギルドの三人。どんなに急いでも、千個など捌けないと思ったのだ。

こんなにも美味しいのに、タダ同然で売らなくてはならないのかと真っ青になる。

良い商品、美味い商品はそれなりの値段で売る。それが商人の矜持だ。それも、迷宮という危険な場所から採ってきたドロップ品。

生産者の苦労に見合った報酬を出したいと願い、ルールを決めるのが商業ギルドだ。だから顔色も悪くなる。

「ご心配なく。今回急遽、腐らないようにするため、時を止める魔導具の箱を開発しました。ただ、魔石の消費が少し早いですので、本当に必要な物に使うべきかとは思います」
「た、確かにそうですね……」

コウヤの説明を聞き、こちらの魔導具も合わせた費用を、頭の中で必死で計算するウィルズ。

タリスやシーレスの顔を見れば、まだまだ何らかの交渉があるというのは嫌でもわかる。

それに更に顔色を悪くして、商業ギルドの三人は、今日この時に居合わせてしまった事を、心から嘆いた。











***********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、6日です!
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。