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第十三章

524 癖になりそう

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ボス戦も終え、迷宮から出て来た冒険者達は、まだ軽い興奮状態にあった。

転移石のある階層ごとで外に出て、ドロップした果物をギルドで手配られた荷車に載せていたので、ドロップ品が持ちきれないということにはならない。

しかし、深層のドロップ品は多く、更にボスの素材まであるため、これまでの荷物よりもかなり多くなっていた。

それを荷馬車に載せながら、冒険者達は今日の感想を言い合う。

「いやあ、マジで楽しかったなっ」
「人数が居たからってのもあるが、倒し方のコツ? みたいなのが分かって、倒すのも楽だったしな」
「それそれっ。そりゃあ、俺らもそれなりに経験して来てるから、なんとなく倒し方とか分かるけどさあ、効率よく倒す方法? っての? 考えながらとか、普段はそんな暇ねえし」

しみじみと言う冒険者達に、ギルド職員の一人が尋ねる。

「そうなんですか? そういうのを知っておくと、時間も短縮されますよね?」
「いや、だって、とりあえず数こなすことしか考えねえって。依頼の数を達成しなきゃ、意味ねえもんよ」
「がむしゃらにでも、進まないと、攻略できねえし」
「……そういうものなんですか……」
「「「「「そういうもんだ」」」」」

冒険者達は、日々依頼を達成することだけを考えている。時間だって無限にあるわけではないし、一日で目標とする金額に近付けなくては生活ができないのだから仕方がない。

「ふふっ。今回のような戦い方は、お金に余裕がある人じゃないとできないですね。日が沈むまでにとにかく数をこなすことに重きを置くのが普通ですから」

コウヤがそう言えば、冒険者達はうんうんと頷いた。

「今回は倒すことよりも、調査に重きを置いてますから、いつもとは違うことが出来たんです。時間的に余裕があったり、研究職の人ができる戦い方ですね」
「そっか……研究職……確かに、一体に時間をかけるって、普段は無理かもしれませんね……」
「ええ。でも、今回は戦力過多でしたから、そうした余裕もあったというだけですけどねっ」

護衛に残せるだけの人の余裕があり、対する魔獣達を軽く倒せるレベルだったからというのもある。

「なあ、コウヤ。調査と一緒にこうやって余裕をもって戦い方の検証もできるように今後もしてもらえないか? 俺ら冒険者にとっても、良い機会だと思う」

グラムが真面目な顔で提案した。

これにコウヤが少し考えるような素振りを見せたが、すぐに頷く。

「分かりました。マスター達にも提案してみましょう。どのみち、数日は調査の為に迷宮を封鎖しますし、その間に、別働隊を入れてもいいかもしれません。それ専用の」
「魔獣の倒し方とかを研究するチームみたいな感じか?」
「ええ。そこで知ったことを、新人研修とかで指導できたらいいですよね」
「そうだなっ。そうしたら、新人達でも倒しやすくなるっ」

駆け出しの頃というのは、本当に苦しいものだ。無茶をして怪我をし、あっという間に心が折れてしまう。

「最近は、あまり新人が育たないから、少しでも戦いやすくなるなら、役に立ちますよ!」
「そういえばそうですね……いつまで経ってもランクが上がらないとイラついてる人が多いです……それでもお金が要るから冒険者を辞めることはないみたいですけど……」
「なんか、向上心? が感じられない方が多いんですよね……それでも、先日の迷宮化の時の映像を見て、今はやる気があるみたいですけど」

これがギルド職員の最近感じていることだった。

「その……ユースールのことで、戦闘講習とかを取り入れるようにと通達が来ましたけど、実際にやろうとしても、それを受け持てる人材もいなくて……」
「それ以前に、講習を受けようとする人がいないです……講習というのが、印象的に良くないらしくて」
「講習なんて受けるのは、弱いヤツとか半人前って思われているみたいですから」
「そうなんですか?」

現在、ユースールで有効と実証されたことを、他のギルド支部に広げている。だが、あまり反応は良くないようだ。

「でも、それで良いんじゃないですか?」
「え?」
「いや、受けてもらえないと意味ないじゃないですか」

良いと思われているものも、受け入れられなければ意味がない。

しかし、コウヤは荷物を積みながらも笑っていた。

「そのうち浸透していきますよ。受ける人が全く居ないわけではないんでしょう?」
「それはそうですが……」
「指導員の方は、ギルドで指導員用の研修をしましょうか。どうやって指導すれば良いのかが分かれば、それなりに受け持てる人は居ると思います。高ランクの冒険者でも、Z依頼と同じで、討伐依頼に出かけたくない日とかに受けてもらえれば良いですし」
「あ……」

高ランクの冒険者であろうと、怪我を治療して、一日は精神的にも外での討伐依頼はキツいと思う時や、武器の修理や調整中で、町の外へ出られない時がある。そう言った時に、講習を受けたい者が居れば、それをお願いできるだろう。

「そっか……武器の調整中でも、その武器を使う必要はないから、別に困ることもないし、ギルドでの一コマ一時間くらいの拘束ですしねっ」
「寧ろ、やりたいと思う人が多くなるかもしれません」
「俺も、それなら受けてもいいかも」

そんな会話をしながら、荷物が積み終わった。

「それにしても……眩いな……」
「結局、金でも銀でもないんだな……けど、めっちゃ硬い」
「解体要らずなのはいいよな。使える素材が余すとこなく手に入るとか、良いことしかないっ」
「癖になりそうだよなっ」
「外で戦えなくなりそうだっ。解体するの面倒じゃんっ」
「「「「「それある~」」」」」

ボスの素材は、解体後の素材だけの状態でドロップしたのだ。要らない部分が消えたことで、こんな楽で有難いことはないと冒険者達は感動していた。

解体には、多少だが手数料がかかるものだ。だから、それも要らないとなれば、大歓迎となるのは当然だった。

「なあ、コウヤ。これ、制限あるんじゃね?」

こんな美味しい話など普通あるものじゃないと、グラム達は疑っていた。それは外れてはいない。

「ありますよ? これを討伐したメンバーが一人でも入っていると、半月は同じ挑戦が出来ません」
「やっぱりっ。けど、半月? それだけか?」

思っていたより優しい制限だ。拍子抜けという顔を見せる。しかし、もちろんそれだけではない。

「いえ。あとは、条件をクリアするために、無理に従魔や従魔術師を連れて行った場合、一緒に来たメンバーは、その後一切この挑戦を受けられなくなります」
「……それは……必要な措置だな」
「ですよね。なので、こればかり狙うのは、結構難しいですよ?」
「……だな……けど……他の迷宮でも試してみたいもんだ。良い訓練にもなるし!」
「良い素材が手に入りますしねっ」
「ああ」

こうして後日、この挑戦専門のチームが立ち上がることになる。中心となるのは、従魔術師達。そこに、訓練の一環としての参加で近衛師団の者達が入るようになる。

迷宮の棚卸しの時に、研究班も結成され、戦い方の研究もなされることとなるのだ。

他にも、ギルド職員達と冒険者達とのお互いの理解が深まり、様々な要望が出されていくようになった。








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次回、16日です!
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