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第十三章
518 そんなすごい人が町に
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コウヤは、十五人の冒険者達と共に、冒険者ギルドが用意した馬車に乗って目的の迷宮まで後数分というところまで来ていた。
この日のメンバーは、ユースールの冒険者が半数。王都ギルド、ユースール、ベルセンの職員がコウヤも含めて二人ずつだ。ユースールの冒険者の中には、二人近衛師団の者が混ざっている。その中の一人は、お馴染みのグラム。
残りはベルセンの冒険者達だった。
「今頃、ゼットさんが商業ギルドのお掃除を始めてるかな~」
この呟きに、ゼットを知るユースールの冒険者達が一斉にコウヤの方に顔を向けた。
「ゼットさんが掃除?」
「ゼットの兄貴がどうしたって?」
ゼットの話は、ユースールの冒険者にとって聞き逃せないものだ。それだけ慕われている。
「ベルセンの商業ギルドは、昔のユースールの商業ギルドに似てまして」
これだけ言えば、それなりに推察できるだろう。
思った通り、ユースールの冒険者達は頷いた。そしてグラムが少し遠いところを見る。
「ああ~……そういや、氾濫の時に屋台部隊が結構キレてたな……頭固いのと、卑怯なのと、バカにしてくるやつか」
「それ、どういうことです?」
ベルセンの冒険者ギルドの女性職員、受付担当のオーリが不安そうに尋ねる。
元々、冒険者ギルドと商業ギルドは、決められた通りの取引しかしないため、相手側の事情など気にすることもなかった。
これに答えたのは、グラムの友人でもあるセクタだ。
「うちにはうちのやり方があるとか言って、融通利かねえ古株連中と、少しでもおこぼれに与ろうと、手揉みする下のやつら。そんで、冒険者を頭の悪い運び屋くらいにしか思ってねえ奴らってことだよ」
「……いくらなんでも、そこまで……」
「装ってるからな。外面。どんだけバカにしてても、冒険者がいなけりゃ困るし、下に見てる奴に良い人ぶるの、あいつら得意だぜ?」
これにグラムが続ける。
「腹立つのは、区別してるとこだ。商人はまあ頭良い。平民は頭悪いってさ。腐ってる貴族と違うのは、そうやって区別してても、切り捨てずに利用するとこだな。自分たちが町を動かしてるって思ってるらしくて」
「職員になれた自分たちは、一般的な商人よりも頭良いと思ってるから、計算も出来ない平民はいくらでも騙せると思ってんだよ。便利に使ってやろうって。商人相手でも、自分たちが上だと思ってるしな。だから、学もない冒険者を集めてる冒険者ギルドなんて、ちょっと良い顔しとけば、使いやすい道具になるってよ」
「「「「「……」」」」」
セクタが吐き捨てるように最後を締めた。けれど、そこには悔しさもなにもない。客観的な意見というように、冷静な顔をしていた。
その理由は明らかだ。
「まあ、それが昔のユースールの商業ギルドの大半の職員達の考え方だったんだよ」
「……今は違うと?」
「ゼットさんが仕切ってっからな。商人の中にも、腐ったのが居たが、あれだ。そんな考え方の奴ってのは、結構バレなきゃ良いと思ってるから、悪いこともかなりしてたみたいでな。全員捕まってたぜ。聖魔教会の大司教様達が残りも綺麗にしてたし、あれから一切、あの頃に幅利かせてたの見ねえなあ」
これに、ベルセンからの女冒険者、ヒリタが口を挟む。
「すごいですね……ギルド職員以外も一掃したってことですか?」
「だな。ゼットさんは、人望もあるし、まともだった商業ギルドのやつらをまとめて、あっさりな。俺らが、なんかバタバタしてんな~って思ってる間に全部終わってた」
「あの人、指示も的確だからな……騎士になってたら団長に、冒険者になってたらAランクを率いるリーダーにって言われてるくらいだ」
「そんなすごい人が町に……」
これはヒリタの所属するパーティのリーダー、ロインが羨ましそうに呟く。彼らは、ゼットの姿を見ていなかった。
一目でも見せてあげればよかったなと、コウヤは微笑ましげに笑いながら教える。
「十日間は、ゼットさんもベルセンに居ますから、会えますよ」
「そっか……うわあ、なんか緊張する」
「そんなすごい人に会えるんだ~」
ロインとヒリタは、ベルセンの冒険者達を引っ張って行く者達だ。お手本となるように、いつでも気を張っている。
氾濫の折に、情けない姿も見せてしまったということも引き摺っており、それからずっと努力していた。
「あっ、でも、すごい人と言えばっ、えっと……お、王子様だったんですね……っ」
「そうだっ。お、王子様なんだっ」
そういえばと、気付いた者達がビシッと背筋を伸ばす。
コウヤは完全にギルド職員として装っているため、とても自然に溶け込んでいた。
「一応、こう……仕事は仕事と思ってますし、こっちがメインなので、気にしないでいただけると有り難いんですけど」
「で、でもっ」
「聖女様の血も引かれているとか……っ、そんなすごい方を気にしないとか……あり得なくて怖いんですがっ」
物凄く緊張しているようだ。コウヤも少しばかり失念していた。ユースールでは、コウヤはコウヤと思ってくれているし、王都では王弟であるアルキスも普通に活動しているため、数日で慣れてくれた。
こうして、恐縮されるのは、コウヤとしても困るものだ。
その困惑顔をどう思ったのか。ロインとヒリタは決意を口にする。
「あっ、心配しないでください! 迷宮で怪我なんてさせませんからっ」
「絶対に、守ってみせます! 道案内も任せてください!」
「え~っと……」
物凄いやる気にさせてしまったようだ。しかし、セクタがそれに口を挟む。
「何言ってんだお前ら。今回はコウヤが先頭だぜ?」
「「「「「え……」」」」」
他のベルセンの者達は皆、目を丸くする。何をするのかというのは聞いていたが、まさか王子であるコウヤが先頭を行くなど思ってもみなかったらしい。
あくまでもコウヤは指示し、守られながら行くとばかり思っていたようだ。
この後、その戦闘力を改めて目の当たりにし、口がしばらく閉まらなくなるのは、もうすぐだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、9日です!
この日のメンバーは、ユースールの冒険者が半数。王都ギルド、ユースール、ベルセンの職員がコウヤも含めて二人ずつだ。ユースールの冒険者の中には、二人近衛師団の者が混ざっている。その中の一人は、お馴染みのグラム。
残りはベルセンの冒険者達だった。
「今頃、ゼットさんが商業ギルドのお掃除を始めてるかな~」
この呟きに、ゼットを知るユースールの冒険者達が一斉にコウヤの方に顔を向けた。
「ゼットさんが掃除?」
「ゼットの兄貴がどうしたって?」
ゼットの話は、ユースールの冒険者にとって聞き逃せないものだ。それだけ慕われている。
「ベルセンの商業ギルドは、昔のユースールの商業ギルドに似てまして」
これだけ言えば、それなりに推察できるだろう。
思った通り、ユースールの冒険者達は頷いた。そしてグラムが少し遠いところを見る。
「ああ~……そういや、氾濫の時に屋台部隊が結構キレてたな……頭固いのと、卑怯なのと、バカにしてくるやつか」
「それ、どういうことです?」
ベルセンの冒険者ギルドの女性職員、受付担当のオーリが不安そうに尋ねる。
元々、冒険者ギルドと商業ギルドは、決められた通りの取引しかしないため、相手側の事情など気にすることもなかった。
これに答えたのは、グラムの友人でもあるセクタだ。
「うちにはうちのやり方があるとか言って、融通利かねえ古株連中と、少しでもおこぼれに与ろうと、手揉みする下のやつら。そんで、冒険者を頭の悪い運び屋くらいにしか思ってねえ奴らってことだよ」
「……いくらなんでも、そこまで……」
「装ってるからな。外面。どんだけバカにしてても、冒険者がいなけりゃ困るし、下に見てる奴に良い人ぶるの、あいつら得意だぜ?」
これにグラムが続ける。
「腹立つのは、区別してるとこだ。商人はまあ頭良い。平民は頭悪いってさ。腐ってる貴族と違うのは、そうやって区別してても、切り捨てずに利用するとこだな。自分たちが町を動かしてるって思ってるらしくて」
「職員になれた自分たちは、一般的な商人よりも頭良いと思ってるから、計算も出来ない平民はいくらでも騙せると思ってんだよ。便利に使ってやろうって。商人相手でも、自分たちが上だと思ってるしな。だから、学もない冒険者を集めてる冒険者ギルドなんて、ちょっと良い顔しとけば、使いやすい道具になるってよ」
「「「「「……」」」」」
セクタが吐き捨てるように最後を締めた。けれど、そこには悔しさもなにもない。客観的な意見というように、冷静な顔をしていた。
その理由は明らかだ。
「まあ、それが昔のユースールの商業ギルドの大半の職員達の考え方だったんだよ」
「……今は違うと?」
「ゼットさんが仕切ってっからな。商人の中にも、腐ったのが居たが、あれだ。そんな考え方の奴ってのは、結構バレなきゃ良いと思ってるから、悪いこともかなりしてたみたいでな。全員捕まってたぜ。聖魔教会の大司教様達が残りも綺麗にしてたし、あれから一切、あの頃に幅利かせてたの見ねえなあ」
これに、ベルセンからの女冒険者、ヒリタが口を挟む。
「すごいですね……ギルド職員以外も一掃したってことですか?」
「だな。ゼットさんは、人望もあるし、まともだった商業ギルドのやつらをまとめて、あっさりな。俺らが、なんかバタバタしてんな~って思ってる間に全部終わってた」
「あの人、指示も的確だからな……騎士になってたら団長に、冒険者になってたらAランクを率いるリーダーにって言われてるくらいだ」
「そんなすごい人が町に……」
これはヒリタの所属するパーティのリーダー、ロインが羨ましそうに呟く。彼らは、ゼットの姿を見ていなかった。
一目でも見せてあげればよかったなと、コウヤは微笑ましげに笑いながら教える。
「十日間は、ゼットさんもベルセンに居ますから、会えますよ」
「そっか……うわあ、なんか緊張する」
「そんなすごい人に会えるんだ~」
ロインとヒリタは、ベルセンの冒険者達を引っ張って行く者達だ。お手本となるように、いつでも気を張っている。
氾濫の折に、情けない姿も見せてしまったということも引き摺っており、それからずっと努力していた。
「あっ、でも、すごい人と言えばっ、えっと……お、王子様だったんですね……っ」
「そうだっ。お、王子様なんだっ」
そういえばと、気付いた者達がビシッと背筋を伸ばす。
コウヤは完全にギルド職員として装っているため、とても自然に溶け込んでいた。
「一応、こう……仕事は仕事と思ってますし、こっちがメインなので、気にしないでいただけると有り難いんですけど」
「で、でもっ」
「聖女様の血も引かれているとか……っ、そんなすごい方を気にしないとか……あり得なくて怖いんですがっ」
物凄く緊張しているようだ。コウヤも少しばかり失念していた。ユースールでは、コウヤはコウヤと思ってくれているし、王都では王弟であるアルキスも普通に活動しているため、数日で慣れてくれた。
こうして、恐縮されるのは、コウヤとしても困るものだ。
その困惑顔をどう思ったのか。ロインとヒリタは決意を口にする。
「あっ、心配しないでください! 迷宮で怪我なんてさせませんからっ」
「絶対に、守ってみせます! 道案内も任せてください!」
「え~っと……」
物凄いやる気にさせてしまったようだ。しかし、セクタがそれに口を挟む。
「何言ってんだお前ら。今回はコウヤが先頭だぜ?」
「「「「「え……」」」」」
他のベルセンの者達は皆、目を丸くする。何をするのかというのは聞いていたが、まさか王子であるコウヤが先頭を行くなど思ってもみなかったらしい。
あくまでもコウヤは指示し、守られながら行くとばかり思っていたようだ。
この後、その戦闘力を改めて目の当たりにし、口がしばらく閉まらなくなるのは、もうすぐだ。
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