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第十三章
514 話がどんどん大きく……
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コウヤは次の書類をめくりながら、次に問題点を指摘する。
「採取系のものの資料が少ないですね……過去の資料はありませんでしたか?」
ドロップアイテムの一覧は充実している。だが、それに比べて採取系の情報が少なすぎることが気になった。
「こちらの資料は過去のものも全てさらったはずです……担当の者に確認しましょうか」
「いえ……もしかしたら、そもそも採取できるものと思っていない可能性もあるかもしれません……」
「そうなのですか?」
「ええ……」
それが薬草であるという知識がない可能性が高いことに気付いたのだ。
「薬草の知識を持った薬師が迷宮に入ることも今は稀ですからね……」
薬師達は、迷宮に行くより、まずその辺の森に行く。その理由は単純に迷宮は外よりも難易度が高いのがほとんどだから。危険度がそれだけ高いということだ。
そして、更には薬草自体の問題もある。
「迷宮の中の薬草は、外では絶滅してしまったものもありますし、扱いがぐんと難しくなるものが多いです。採取の仕方も薬草によっては専門的な知識が必要になるものもあります」
「っ、では、本来ならば貴重な薬草が、雑草扱いされているかもしれないとか……?」
「あり得ますね。昔の、地上では採れなくなった薬草の存在も、薬師の方でさえ記録に残っていない可能性もあります」
「えっ!?」
薬師でさえ判別できない薬草があるかもしれないのだ。
特定の迷宮にのみ残っており、全く見なくなった薬草を使う薬の資料など、正しく残っていない可能性は高い。
それでは、どのみち需要など生まれないではないかと、ラーバは不安そうな顔をした。そして、あっと気付く。
「っ、コウヤ様ならば薬草の知識も豊富にお待ちですよね?」
「だからって、全部見て回るわけにいかないですし……う~ん……」
コウヤがチェックしてしまえば早い。だが、それでは時間もかかるし、流石にごめんだ。
この王都でのコウヤの指導は、他のギルド支部への教育内容をまとめるためにしている。
こちらも、全てのギルド支部をコウヤが指導、確認するわけにもいかないので、ここである程度の問題を洗い出し、対策を講じるということになっているのだ。
しばらく考えていたコウヤは、迷宮討伐の時に知り合った冒険者達と目が合って、手を振られるのを笑顔で返していてふと閃いた。
「あっ、エルフ族の方達に協力してもらいましょうか」
「え?」
「里には、何百年も前から薬師として知識を蓄えている人たちが居ます。悪しき慣習もなくなった今、協力してもらうのに問題はありません」
里から出た者は、裏切りものであり、見つけたら死をという長く続いてきた慣習は、迷宮討伐の折に廃止された。
里の近くの冒険者ギルドでは、里から出て冒険者として出稼ぎに来た者もいる。すっかり貧しくなっていた里では、もう外に出なければ食べていけなくなっていたのだ。
よって、協力は仰げるのではないかとコウヤは考えた。
「それは……昔からいたエルフの冒険者でも良く……ないんですね……」
「やっぱり、里で囲われていた人の方が知識は豊富ですからね。エルフだからって、誰もが薬草に詳しいわけではないですし」
「そうでしたか……」
決して『エルフ=薬師』ではない。
「まあ、それなりに種族としての自負がありそうなので、薬師としての知識を持っている者はそれなりの人数がいるみたいですけどね」
「そうですか……なら、協力をお願いできれば……」
「はい。調査が一気に進みますよね。一度、上に提案してみましょう」
「分かりましたっ」
冒険者ギルドの本部では、里抜けしたエルフを昔から保護していたり、グランドマスターはエルフだったりする。相談してみるのも良いだろう。
「薬草はエルフに聞くとして、鉱石なんかの採掘が出来る迷宮もあります。それはドワーフの方に見てもらいましょうか。木の実系は獣人族に見てもらってもいいですね」
「……話がどんどん大きく……」
全種族で手を取り合い、協力、共存していくためにも良い機会だ。
「ついでに、商業ギルドも本格的に巻き込んでもいいかもしれません」
「……本当に話が大きくなってる……」
これはやり甲斐があるぞと、コウヤは嬉々として計画を立て出したのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回18日です!
「採取系のものの資料が少ないですね……過去の資料はありませんでしたか?」
ドロップアイテムの一覧は充実している。だが、それに比べて採取系の情報が少なすぎることが気になった。
「こちらの資料は過去のものも全てさらったはずです……担当の者に確認しましょうか」
「いえ……もしかしたら、そもそも採取できるものと思っていない可能性もあるかもしれません……」
「そうなのですか?」
「ええ……」
それが薬草であるという知識がない可能性が高いことに気付いたのだ。
「薬草の知識を持った薬師が迷宮に入ることも今は稀ですからね……」
薬師達は、迷宮に行くより、まずその辺の森に行く。その理由は単純に迷宮は外よりも難易度が高いのがほとんどだから。危険度がそれだけ高いということだ。
そして、更には薬草自体の問題もある。
「迷宮の中の薬草は、外では絶滅してしまったものもありますし、扱いがぐんと難しくなるものが多いです。採取の仕方も薬草によっては専門的な知識が必要になるものもあります」
「っ、では、本来ならば貴重な薬草が、雑草扱いされているかもしれないとか……?」
「あり得ますね。昔の、地上では採れなくなった薬草の存在も、薬師の方でさえ記録に残っていない可能性もあります」
「えっ!?」
薬師でさえ判別できない薬草があるかもしれないのだ。
特定の迷宮にのみ残っており、全く見なくなった薬草を使う薬の資料など、正しく残っていない可能性は高い。
それでは、どのみち需要など生まれないではないかと、ラーバは不安そうな顔をした。そして、あっと気付く。
「っ、コウヤ様ならば薬草の知識も豊富にお待ちですよね?」
「だからって、全部見て回るわけにいかないですし……う~ん……」
コウヤがチェックしてしまえば早い。だが、それでは時間もかかるし、流石にごめんだ。
この王都でのコウヤの指導は、他のギルド支部への教育内容をまとめるためにしている。
こちらも、全てのギルド支部をコウヤが指導、確認するわけにもいかないので、ここである程度の問題を洗い出し、対策を講じるということになっているのだ。
しばらく考えていたコウヤは、迷宮討伐の時に知り合った冒険者達と目が合って、手を振られるのを笑顔で返していてふと閃いた。
「あっ、エルフ族の方達に協力してもらいましょうか」
「え?」
「里には、何百年も前から薬師として知識を蓄えている人たちが居ます。悪しき慣習もなくなった今、協力してもらうのに問題はありません」
里から出た者は、裏切りものであり、見つけたら死をという長く続いてきた慣習は、迷宮討伐の折に廃止された。
里の近くの冒険者ギルドでは、里から出て冒険者として出稼ぎに来た者もいる。すっかり貧しくなっていた里では、もう外に出なければ食べていけなくなっていたのだ。
よって、協力は仰げるのではないかとコウヤは考えた。
「それは……昔からいたエルフの冒険者でも良く……ないんですね……」
「やっぱり、里で囲われていた人の方が知識は豊富ですからね。エルフだからって、誰もが薬草に詳しいわけではないですし」
「そうでしたか……」
決して『エルフ=薬師』ではない。
「まあ、それなりに種族としての自負がありそうなので、薬師としての知識を持っている者はそれなりの人数がいるみたいですけどね」
「そうですか……なら、協力をお願いできれば……」
「はい。調査が一気に進みますよね。一度、上に提案してみましょう」
「分かりましたっ」
冒険者ギルドの本部では、里抜けしたエルフを昔から保護していたり、グランドマスターはエルフだったりする。相談してみるのも良いだろう。
「薬草はエルフに聞くとして、鉱石なんかの採掘が出来る迷宮もあります。それはドワーフの方に見てもらいましょうか。木の実系は獣人族に見てもらってもいいですね」
「……話がどんどん大きく……」
全種族で手を取り合い、協力、共存していくためにも良い機会だ。
「ついでに、商業ギルドも本格的に巻き込んでもいいかもしれません」
「……本当に話が大きくなってる……」
これはやり甲斐があるぞと、コウヤは嬉々として計画を立て出したのだ。
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