上 下
408 / 455
第十三章

513 偏りがありますね

しおりを挟む
コウヤがギルドマスターへの挨拶を終えて戻ると、すぐにサブギルドマスターであるラーバが、書類片手に駆け寄ってくる。

「こちら、確認していただきたい書類になります! こちらの机をお使いください!」
「ありがとうございます」

受付の後ろ。少し奥の方の事務机の一つに案内される。

そこに座れば、受付の外の様子も見える。ということは、逆に入ってきた冒険者達もコウヤが見えるということ。

パックン、ダンゴ、テンキが傍に居るので、万が一にも何かが飛んで来ても問題なく対処できる。犯人は外にいる今日の護衛であるグラン達が取り押さえるだろう。

何より、コウヤは隠れる気はなかった。それは、王子だからと距離を取る必要はないと見せるためだ。冒険者ギルドは誰もに平等であると示すためでもある。

この国は王族も冒険者をやる。冒険者ギルドは国とは関係ない独自の組織だ。王族だとして優遇することは基本的にない。

王族として生まれた者たちにとって、本当に自分自身の力を知るのは大事なこと。その貴重な経験ができるのが冒険者ギルドだった。

そこを曲げないためにも、コウヤは普段通り仕事をする。

「こっちはこのまま進めて大丈夫です。Z依頼もかなり消化できるようになってきましたし、この辺りを依頼化出来ないか商業ギルドへ相談してもいいですね。企画書類としてまとめてみましょうか」
「なるほど……これなら子ども達でも出来そうですし……分かりました! すぐに書類にまとめます!」
「まだそんなに慌てるほどではないので、しっかりまとめていきましょう。半端な出来の書類だと、最初の印象が良くないですから」

商業ギルドは、そうした書類などもきっちりとしたものを好む。下手なまとめ方をすると、完全に下に見てくるので、注意が必要だ。

「商業ギルドに企画を提案する時の書類の書き方は、コツがありますから……これを参考にしてください」

コウヤは自身のマジックバッグから資料を取り出してラーバに渡した。

「っ、ありがとうございます! こちらは写させていただいてもよろしいですか?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」

ラーバはコウヤが何をやっても感動してくれる。傍の机で聞いていた職員が、すぐに受け取って写しに入っていた。連携もスムーズだ。

「ふふっ。では、こちらはギルドマスターに承認してもらってください」
「はいっ」

ラーバがギルドマスターへと持っていく書類の山へとそれを置いた。

まだまだ確認する書類はある。そのため、ラーバはコウヤに張り付いたままだ。

「う~ん……やはり偏りがありますね……」

見ているのは、迷宮の利用状況と、依頼において利用する迷宮をまとめてもらったものだ。

「本当に、こんな風にまとめると偏りが分かりますね……」

こうした資料をまとめたことはなかったらしく、ラーバは改めて見てみてその偏りの酷さが分かったようだ。そして、首を傾げた。

「ですが、必要となるもの、依頼があるものを考えますと、偏るのは仕方がないのでは?」
「ええ。そうなるのは当然です。ですがそれだと、極端に利用されない迷宮は、最悪氾濫ということになります。だから、この辺の迷宮への依頼を、ギルドの方で出す必要があるんです」
「ギルドの方で……?」

そんな対処法は知らないと、ラーバは目を丸くした。

どう説明しようかなとコウヤは考える。

「う~ん。そうですね……例えば、この迷宮で採れるこのキノコ。この辺りではこの迷宮にしかありません。けど、採ってきてもこの辺りでは必要とする人が居ないので、あまり良い値段では売れません」
「はい……」

申し訳ないなという顔をするラーバ。冒険者達は命懸けで迷宮に潜っているのだ。そうして採ってきた物があまり高く引き取れないというのは、ギルド職員としても心苦しいものだった。

それはコウヤも良く分かっている。

「ですが、このキノコは二つ隣の国では、三倍の値段で取引されています」
「っ、えっ!? そっ、それはっ、ど、どうっ」

不当な値段であったのではないかと、ラーバは激しく動揺する。

「落ち着いてください。このキノコ、この辺ではこの値段になってしまうのは間違いないんです。ただ、隣の国の場合は、このキノコが伝統的な郷土料理の材料でもあるので、お祝いの時などに必要で、そのために、高く取引されているんです」
「お祝いの……なるほど……それは、高くなっても買いますね……」
「そうです。要は、需要があれば良いって事です。だから、このキノコを使った料理が美味しいと知られたら、きっとこのキノコの値段は上がりますよね」
「……っ、まさか、こちらで需要を作るってことですか?」
「そういうことです」
「……考えたこともありませんでした……」

あまり利用されない迷宮で採れるものが、それなりの値段で取引されるということになれば、冒険者達は自然と向かうようになる。

「何が採れるのかという資料も古そうですし、本格的に調査をした方が良いかもしれません。ついでに棚卸しが出来れば一石二鳥ですよねっ」
「……時間がかかりそうです……」
「ええ。ですから、調査の方を依頼として出すんです。実際、この辺では使わないだけで、他国では料理や薬に使っているというものもあります。手に入れてみなければ、料理人さん達もどんな料理に使えるのかも分かりません。ですから、その辺も商業ギルドと相談してみるといいと思います」
「確かに、安定して手に入ると知れば、それを使って料理や薬をと……研究する人は居るでしょうね……先ずは見せてみないと分からないですし」

こういう食材が安定して卸すことができるけど、使ってみないかと提案することも、そもそも現物がなければ研究もできない。

「知らなければ、注文、依頼することなんて出来ません。このキノコだって、捨て値ですよね。買い取り金額が安いから、冒険者達も二度と採ってこようと思わない。けれど、それなりの量がなくては、何に使えるかという研究もできません」
「それで、先ずギルドで依頼を出すということですか」
「そうです。経費として上げるのは最初は怖いかもしれませんけど、初期投資は必要ですよ」
「っ……初期投資。なるほどっ」

理解してくれたようだ。







**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:188

【完結】モブなのに最強?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,462pt お気に入り:4,564

虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:611

生前SEやってた俺は異世界で…

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:10,261

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:175

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。