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第十三章
512 恥ずいし
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久し振りの王都の冒険者ギルドは、かつてない賑わいを見せていた。
職員達は、裏口から入っても良いし、表から入っても良い。多くの職員は、冒険者達の中を歩くのは怖いということで、裏口から入るが、コウヤは入り口にゴミが落ちていないか、汚れはないか等確認しながら入ることにしているため、特に気にせず表から入るのが常だ。
「ん? 扉が少し歪んでますね……」
コウヤの呟きに、グラムが扉を見て確認する。そして、ここで初めてコウヤが表から入る理由を理解した。
ユースールでも、入る前にゴミを拾っていたり、入り口の足下を修復していたりしているのは、見た事があったためだ。
「え? あ、確かに……ってか、コウヤ……もしかして、表から入るのは、そういうチェックするためか?」
「そうですよ? やっぱり、玄関……入り口はキレイにしておかないと、印象悪いですからね。それに、出がけに転んだりしたら、幸先悪いって、思うでしょう?」
「思うなあ」
「それある」
冒険者達は、意外と迷信とか信じるタイプが多い。靴紐が切れるとか、飾りのネックレスが千切れて落ちるとかあると、その日は依頼に出かけないという人も居る。
もちろん、靴紐が切れたのを気付かなければ、思わぬところで怪我をしたりもする。そういう経験からだろうが、朝一番に転びそうになるとかでも、良い気分にはならないだろう。
「なので、出勤した時に確認してるんです。少しでも気持ちよく出かけて欲しいですから」
「さすがコウヤだわ……」
「ふふっ。あとは、ほら……やっぱりちょっと転びそうになると格好悪いじゃないですか。それを見られてたりすると、機嫌悪くなりますし、物や人に当たりたくなりますよね」
「あるわ」
「恥ずいし」
ちょっと転びそうになっただけでも、入り口だし、見ている人はいる。それは、格好つけたい大人達にはとても恥ずかしいことだろう。
「そうなると、ちょっとの事でも揉め事に発展したりしますよね。そうしたら、他の人にも飛び火するんです。一人不機嫌なだけでなく、周りもってなると、困りますから」
「うわ~……うん。それ考えたら確かに、このチェック必要だわ」
「本当にな……ありがとうコウヤ」
「どういたしまして。というか、これも冒険者の方へのサポートなんで、業務の一環ですよ」
そんな会話を、聞いている者が居た。
「っ、コウヤ様っ……コウヤ様は本当にっ、そんなことまで考えておられるなんてっ」
「あ、ラーバさん。おはようございます」
「おはようございます!」
この冒険者ギルドのサブマスターであるラーバは、コウヤが表から入って来た事に真っ先に気付き、慌てて出て来ていた。
「裏にご案内しようとしたのですが……表から入るのには理由があったのですね……っ」
「ああ、すみません。そうですよね。裏からこっそり入った方が良かったかな……」
今、冒険者ギルドは静まり返っていた。誰もがコウヤの存在に気付き、視線を固定したまま微動だにしなくなっていたのだ。
これは困ったと、コウヤは少し困惑しながらも挨拶する。
「みなさん、おはようございます」
「「「「「っ! おはようございます!!」」」」」
返事は返って来たので、避けられることはなさそうだとコウヤはギルドのカウンターの入り口へと進む。
すると、職員達が再起動する。
「はっ、お疲れ様です!」
「「「「「お疲れ様です」」」」」
「お疲れ様です」
王子だからと敬遠されることはなさそうだと、これで少し安心する。
「っ、あ、あのっ。こ、コウヤ様っ。報告書の確認をお願いできますかっ」
「はい。でも、先にギルドマスターに挨拶に行って来ますね」
「分かりました! ご用意してお待ちします!」
「お願いします」
ギルドは現在進行形でユースールのギルドの様々な政策を取り込んでいる。
仕事を受ける冒険者の数も、コウヤが出入りする以前よりも遥かに増えている。そのため、処理の仕方からして効率化を図らねばならなかった。
そうして、改善していく段階での報告書は、コウヤへと真っ先に渡されていたのだ。
ギルドの改革は、本部からの要望もあってのもの。それに対する派遣なので、これは当然だった。
報告書の書き方から指導しているので、職員達のコウヤへの信頼度は高い。城へも、二日に一度は送られてきていた。
その中には、色々と個人的に相談する案件もあるが、それはやはりコウヤの人柄によるものだろう。ギルドマスターに相談するよりもと思っているようだ。
「……コウヤって……ギルドマスターできるんじゃねえの?」
「そうなると最年少だな……」
「「「「「……さすがコウヤ……」」」」」
グラム達は護衛ではあるが、ギルドの奥には入らない。冒険者ギルド内で冒険者達に紛れて滞在することになる。
とは言え、退屈はしない。
「王子がギルド職員とか……いいのか?」
そんな声も聞こえるため、グラム達は説明に回ることになる。こうしたことも近衛師団の仕事だ。
「アルキス様だって冒険者やってるじゃないか。最近は、王妃様もだし、ギルド職員ならまだ良い方だろ?」
「「「「「……そうかも……」」」」」
苦労はしなさそうだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、7日です!
職員達は、裏口から入っても良いし、表から入っても良い。多くの職員は、冒険者達の中を歩くのは怖いということで、裏口から入るが、コウヤは入り口にゴミが落ちていないか、汚れはないか等確認しながら入ることにしているため、特に気にせず表から入るのが常だ。
「ん? 扉が少し歪んでますね……」
コウヤの呟きに、グラムが扉を見て確認する。そして、ここで初めてコウヤが表から入る理由を理解した。
ユースールでも、入る前にゴミを拾っていたり、入り口の足下を修復していたりしているのは、見た事があったためだ。
「え? あ、確かに……ってか、コウヤ……もしかして、表から入るのは、そういうチェックするためか?」
「そうですよ? やっぱり、玄関……入り口はキレイにしておかないと、印象悪いですからね。それに、出がけに転んだりしたら、幸先悪いって、思うでしょう?」
「思うなあ」
「それある」
冒険者達は、意外と迷信とか信じるタイプが多い。靴紐が切れるとか、飾りのネックレスが千切れて落ちるとかあると、その日は依頼に出かけないという人も居る。
もちろん、靴紐が切れたのを気付かなければ、思わぬところで怪我をしたりもする。そういう経験からだろうが、朝一番に転びそうになるとかでも、良い気分にはならないだろう。
「なので、出勤した時に確認してるんです。少しでも気持ちよく出かけて欲しいですから」
「さすがコウヤだわ……」
「ふふっ。あとは、ほら……やっぱりちょっと転びそうになると格好悪いじゃないですか。それを見られてたりすると、機嫌悪くなりますし、物や人に当たりたくなりますよね」
「あるわ」
「恥ずいし」
ちょっと転びそうになっただけでも、入り口だし、見ている人はいる。それは、格好つけたい大人達にはとても恥ずかしいことだろう。
「そうなると、ちょっとの事でも揉め事に発展したりしますよね。そうしたら、他の人にも飛び火するんです。一人不機嫌なだけでなく、周りもってなると、困りますから」
「うわ~……うん。それ考えたら確かに、このチェック必要だわ」
「本当にな……ありがとうコウヤ」
「どういたしまして。というか、これも冒険者の方へのサポートなんで、業務の一環ですよ」
そんな会話を、聞いている者が居た。
「っ、コウヤ様っ……コウヤ様は本当にっ、そんなことまで考えておられるなんてっ」
「あ、ラーバさん。おはようございます」
「おはようございます!」
この冒険者ギルドのサブマスターであるラーバは、コウヤが表から入って来た事に真っ先に気付き、慌てて出て来ていた。
「裏にご案内しようとしたのですが……表から入るのには理由があったのですね……っ」
「ああ、すみません。そうですよね。裏からこっそり入った方が良かったかな……」
今、冒険者ギルドは静まり返っていた。誰もがコウヤの存在に気付き、視線を固定したまま微動だにしなくなっていたのだ。
これは困ったと、コウヤは少し困惑しながらも挨拶する。
「みなさん、おはようございます」
「「「「「っ! おはようございます!!」」」」」
返事は返って来たので、避けられることはなさそうだとコウヤはギルドのカウンターの入り口へと進む。
すると、職員達が再起動する。
「はっ、お疲れ様です!」
「「「「「お疲れ様です」」」」」
「お疲れ様です」
王子だからと敬遠されることはなさそうだと、これで少し安心する。
「っ、あ、あのっ。こ、コウヤ様っ。報告書の確認をお願いできますかっ」
「はい。でも、先にギルドマスターに挨拶に行って来ますね」
「分かりました! ご用意してお待ちします!」
「お願いします」
ギルドは現在進行形でユースールのギルドの様々な政策を取り込んでいる。
仕事を受ける冒険者の数も、コウヤが出入りする以前よりも遥かに増えている。そのため、処理の仕方からして効率化を図らねばならなかった。
そうして、改善していく段階での報告書は、コウヤへと真っ先に渡されていたのだ。
ギルドの改革は、本部からの要望もあってのもの。それに対する派遣なので、これは当然だった。
報告書の書き方から指導しているので、職員達のコウヤへの信頼度は高い。城へも、二日に一度は送られてきていた。
その中には、色々と個人的に相談する案件もあるが、それはやはりコウヤの人柄によるものだろう。ギルドマスターに相談するよりもと思っているようだ。
「……コウヤって……ギルドマスターできるんじゃねえの?」
「そうなると最年少だな……」
「「「「「……さすがコウヤ……」」」」」
グラム達は護衛ではあるが、ギルドの奥には入らない。冒険者ギルド内で冒険者達に紛れて滞在することになる。
とは言え、退屈はしない。
「王子がギルド職員とか……いいのか?」
そんな声も聞こえるため、グラム達は説明に回ることになる。こうしたことも近衛師団の仕事だ。
「アルキス様だって冒険者やってるじゃないか。最近は、王妃様もだし、ギルド職員ならまだ良い方だろ?」
「「「「「……そうかも……」」」」」
苦労はしなさそうだった。
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次回、7日です!
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