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第十三章
510 勉強はな……
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迷宮討伐の時は、必死という感じはそれほどなかった。だが、本来ならば絶望してもおかしくない状況だったというのは、誰もが後から考える。
「そうですねえ。レベル的には王座の迷宮の四十階から八十階くらいのものでしたから」
「えっ……王座って確か、百階まであるって噂の世界最高難易度だって話のじゃ……」
階層が深いほど、迷宮の難易度も高くなる傾向がある。現在、この世界で百階まである最高難易度の迷宮はこの王座の迷宮だけだ。
「きっちり百階までありますよ……今のところは……」
《ふふふっ》
「ん?」
ダンゴが小さく呟かれたコウヤの言葉に笑う。空耳かとグラム達は首を傾げながらもそのまま聞き流した。
コウヤも話を変える。
「迷宮化の時は、出てくる魔獣も様々でしたから、経験としては良かったんじゃないですか?」
これに、冒険者達は頷く。
「そうだな……ドラゴンとか、コウヤ達が戦うの見てたから、どう倒せばいいのかとか、知れたしな」
思わぬ所で、そうしたことを知れる講義のようなものになっていたらしい。
映像として実際の戦いを観られるというのは、冒険者達にとっては衝撃で、有り難いものだったのだ。
現代では、ドラゴンと遭遇するということは、まず無い。あるとすれば、迷宮の最深層のボスだろう。戦い方など分かろうはずがない。
これに、グラムが少し遠い目をしながらも苦笑して視線を前に戻す。
「ああ。あれがあったから、俺も戦ったことのなかった魔獣や魔物も戸惑わずに戦えたぜ」
「ランク試験ですか」
「おう。『創樹の迷宮』にな」
王都から程近い森の中。そこに『 創樹 の迷宮』と呼ばれる迷宮がある。
階層は五十。だが、全ての階層がとても広いと有名で、中層以降はパーティにAランクの冒険者が二人はいなければ攻略を進められない。
最深層までの攻略は済んでいるが、四十五階層より先に行ける者はここ百年ほど居ない。氾濫が起きないのは、定期的にきちんと冒険者を入れているからだ。
迷宮の難易度が高いものは、最深層まで人が来なくとも、ある程度まで人が入れば氾濫は起きない。それだけ、思慮深く我慢強い精霊が管理しているからでもあった。
その代わり、人が来られる階層までの間、かなり魔獣が多くなったりする時期はある。上手くガス抜きをしているのだ。多いとはいえ氾濫と言えるほどにはならないので、そこは安心している。
これがあるため、王都では拠点とするAランク冒険者だけでなく、滞在することになるAランクの冒険者にもひと月に一度はパーティを組んで中層辺りまで入ってもらうようにお願いしていた。
「あそこは、全層が森でしたよね」
「そうなんだよ……なんか暑苦しい階層もあって、見たこともない植物とか魔物とか……」
湿度高め、温度高めの階層や、逆に少々肌寒い気温の階層もある。その植物が育ちやすい環境をしっかりと再現しているのだ。
「あはは……あそこは、世界中の植物がほぼ全部集まってるんで、有り難いんですけどね」
王座の迷宮に採りに行っていたスターバブルも、実はこの迷宮にもある。しかし、それが存在するのは四十八階層で、あの頃鍛えたジルファス達や近衛騎士達でも簡単には到達できない場所だった。
それも、見つかりにくい隠し部屋にあるというおまけ付き。
管理している王都の冒険者ギルドでも、未だこの隠し部屋は確認できていないだろう。
「見慣れない魔物も多いですよね」
「それだ。あの迷宮化の討伐の時に、植物系の魔物も多かっただろ? それで、知らなかったのもなんとかなったんだ」
あの迷宮化も、森の奥にある迷宮からのものだった。よって、植物系の魔物も多く出てくるフィールドがあった。
その討伐対策なども、その時にしていた。どう戦えばいいのか。どんな魔物が居るのか等、教えていたのだ。
それを参考にして戦ったため、初見や不慣れな相手であってもなんとかなった。
「Sランクになるまでに本来必要になる様々なる魔獣や魔物との戦闘がこれでかなり補えましたよねっ」
「ああ……かなりな。本当なら、いろんな場所に行って経験するんだろうが、あの一箇所でかなりの種類を知れたってのがある」
様々な国を旅して、いろんな環境で育つ魔獣や魔物に遭遇し、経験を積む。それが、あの迷宮化の折に、一箇所に集まっていたようなものだったのだ。
お陰で、かなりの経験をそこで得ることができた。
「迷宮の利点でもありますね。今はもうこの辺には棲息していないものも、迷宮では出て来たりしますし」
「それな。マンイーターとか、初めて見たぜ」
「あ~……この辺のは絶滅してますからね。ただ、ユースールの西の森のかなり奥に小さめの種類のがいますよ?」
「うげっ! マジかよ……」
コウヤの生家のある場所よりももっと奥。人の手の全く入らない場所に、それはまだ棲息している。
「浅いところには出てこないんで、大丈夫ですけど。植物系の魔物は、絶滅したのが多いですからね。迷宮でしか見ない特殊なのがいて、対策が難しいですよね。それもあって、あそこの迷宮はAランクの冒険者推奨なんです」
植物系だからと甘く見ていると、痛い目に合う。
「なるほどな……けど、それで納得したわ。勉強って必要だよな……」
「それそれ。意外と知らないといけないことあるわ」
「まあ、仕事に直結するから、覚えられないってことはないけど、勉強はな……」
これだ。今回、近衛師団に入った者達は、一気に実力が上がったが、それだけでSランク認定はされない。Aランクになるのにも、多くの魔獣や魔物の知識が必要だ。
その知識が不十分なため、単に今回レベルを上げただけの者達は、今必死になってそのレベルに見合ったランクになるために、勉強しているというわけだ。
「そこのところのサポートを、ギルドからお願いされました。皆さんがSランク認定されるよう、しっかりサポートするので、任せてください」
「「「……え……?」」」
「グラムさんも、付き合ってください。どうせなら、もっと上を目指しましょう!」
「……マジか……」
コウヤのギルド職員としての仕事に、今回から彼らの指導が追加されたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回28日です!
●文庫版 第二巻 好評発売中!
「そうですねえ。レベル的には王座の迷宮の四十階から八十階くらいのものでしたから」
「えっ……王座って確か、百階まであるって噂の世界最高難易度だって話のじゃ……」
階層が深いほど、迷宮の難易度も高くなる傾向がある。現在、この世界で百階まである最高難易度の迷宮はこの王座の迷宮だけだ。
「きっちり百階までありますよ……今のところは……」
《ふふふっ》
「ん?」
ダンゴが小さく呟かれたコウヤの言葉に笑う。空耳かとグラム達は首を傾げながらもそのまま聞き流した。
コウヤも話を変える。
「迷宮化の時は、出てくる魔獣も様々でしたから、経験としては良かったんじゃないですか?」
これに、冒険者達は頷く。
「そうだな……ドラゴンとか、コウヤ達が戦うの見てたから、どう倒せばいいのかとか、知れたしな」
思わぬ所で、そうしたことを知れる講義のようなものになっていたらしい。
映像として実際の戦いを観られるというのは、冒険者達にとっては衝撃で、有り難いものだったのだ。
現代では、ドラゴンと遭遇するということは、まず無い。あるとすれば、迷宮の最深層のボスだろう。戦い方など分かろうはずがない。
これに、グラムが少し遠い目をしながらも苦笑して視線を前に戻す。
「ああ。あれがあったから、俺も戦ったことのなかった魔獣や魔物も戸惑わずに戦えたぜ」
「ランク試験ですか」
「おう。『創樹の迷宮』にな」
王都から程近い森の中。そこに『 創樹 の迷宮』と呼ばれる迷宮がある。
階層は五十。だが、全ての階層がとても広いと有名で、中層以降はパーティにAランクの冒険者が二人はいなければ攻略を進められない。
最深層までの攻略は済んでいるが、四十五階層より先に行ける者はここ百年ほど居ない。氾濫が起きないのは、定期的にきちんと冒険者を入れているからだ。
迷宮の難易度が高いものは、最深層まで人が来なくとも、ある程度まで人が入れば氾濫は起きない。それだけ、思慮深く我慢強い精霊が管理しているからでもあった。
その代わり、人が来られる階層までの間、かなり魔獣が多くなったりする時期はある。上手くガス抜きをしているのだ。多いとはいえ氾濫と言えるほどにはならないので、そこは安心している。
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「あそこは、全層が森でしたよね」
「そうなんだよ……なんか暑苦しい階層もあって、見たこともない植物とか魔物とか……」
湿度高め、温度高めの階層や、逆に少々肌寒い気温の階層もある。その植物が育ちやすい環境をしっかりと再現しているのだ。
「あはは……あそこは、世界中の植物がほぼ全部集まってるんで、有り難いんですけどね」
王座の迷宮に採りに行っていたスターバブルも、実はこの迷宮にもある。しかし、それが存在するのは四十八階層で、あの頃鍛えたジルファス達や近衛騎士達でも簡単には到達できない場所だった。
それも、見つかりにくい隠し部屋にあるというおまけ付き。
管理している王都の冒険者ギルドでも、未だこの隠し部屋は確認できていないだろう。
「見慣れない魔物も多いですよね」
「それだ。あの迷宮化の討伐の時に、植物系の魔物も多かっただろ? それで、知らなかったのもなんとかなったんだ」
あの迷宮化も、森の奥にある迷宮からのものだった。よって、植物系の魔物も多く出てくるフィールドがあった。
その討伐対策なども、その時にしていた。どう戦えばいいのか。どんな魔物が居るのか等、教えていたのだ。
それを参考にして戦ったため、初見や不慣れな相手であってもなんとかなった。
「Sランクになるまでに本来必要になる様々なる魔獣や魔物との戦闘がこれでかなり補えましたよねっ」
「ああ……かなりな。本当なら、いろんな場所に行って経験するんだろうが、あの一箇所でかなりの種類を知れたってのがある」
様々な国を旅して、いろんな環境で育つ魔獣や魔物に遭遇し、経験を積む。それが、あの迷宮化の折に、一箇所に集まっていたようなものだったのだ。
お陰で、かなりの経験をそこで得ることができた。
「迷宮の利点でもありますね。今はもうこの辺には棲息していないものも、迷宮では出て来たりしますし」
「それな。マンイーターとか、初めて見たぜ」
「あ~……この辺のは絶滅してますからね。ただ、ユースールの西の森のかなり奥に小さめの種類のがいますよ?」
「うげっ! マジかよ……」
コウヤの生家のある場所よりももっと奥。人の手の全く入らない場所に、それはまだ棲息している。
「浅いところには出てこないんで、大丈夫ですけど。植物系の魔物は、絶滅したのが多いですからね。迷宮でしか見ない特殊なのがいて、対策が難しいですよね。それもあって、あそこの迷宮はAランクの冒険者推奨なんです」
植物系だからと甘く見ていると、痛い目に合う。
「なるほどな……けど、それで納得したわ。勉強って必要だよな……」
「それそれ。意外と知らないといけないことあるわ」
「まあ、仕事に直結するから、覚えられないってことはないけど、勉強はな……」
これだ。今回、近衛師団に入った者達は、一気に実力が上がったが、それだけでSランク認定はされない。Aランクになるのにも、多くの魔獣や魔物の知識が必要だ。
その知識が不十分なため、単に今回レベルを上げただけの者達は、今必死になってそのレベルに見合ったランクになるために、勉強しているというわけだ。
「そこのところのサポートを、ギルドからお願いされました。皆さんがSランク認定されるよう、しっかりサポートするので、任せてください」
「「「……え……?」」」
「グラムさんも、付き合ってください。どうせなら、もっと上を目指しましょう!」
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