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第十三章
508 聖女って……
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聖女達は、コウヤの見立て通り、トルヴァランの国境の牢に入れられ、そこで十日ほどを過ごすことになる。
最初、国境の兵士達は、見ただけで厄介な奴が来たと思って顔を顰めた。
よりにもよって、彼女達の第一声がこれだったのだ。
「ちょっと! さっさと通しなさいよ! 私達は神教国の聖女なのよ!」
「この格好が見えないの? 良い宿屋を紹介しなさいよね!」
「なんで私が並ばなきゃならないのよ! いい加減、馬車を用意すべきでしょ?」
「「「「「……」」」」」
門に並んでいた者たちでさえも絶句した。
それを彼女達は、同意の証と取ったらしい。彼女達にとって、自分達の言葉は全て肯定されて然るべきもの。信者達は黙ってそれに従うものなのだ。勘違いしても仕方がないと言えばそうだった。
「分かったら早くしなさいよ!」
腕を組み、胸を張る三人の聖女に対して、五人の聖騎士達は半ば頭を抱えていた。
ここへ来るまでにも、神教国の者というだけで塩対応されて来たのだ。その理由も、聖騎士達は聞いて知っていた。
彼らは、もう国を出ようと思った時には、冒険者にでもなろうと考えていた。普通に国を見捨てる気だった。
それが、この聖女達に見つかったために、面倒なことになっている。
既に聖騎士として支給されていた武具も捨てているし、彼らだけならば、旅の者として通っただろう。
もう見捨てても良いだろうかと泣きそうになること数十回。夜逃げしようとすること十数回。キレかけること二十数回。
それでも彼女達と離れず来たのは、怖いお目付役が居たからだ。
もう他人ですというように、頭を抱えて距離を取ろうとする彼らの傍に、その人は現れる。そして、耳元で囁くように、どうやるのか五人の耳元へと言葉が届く。
「分かっていると思いますが、約束は守ってくださいね」
「「「「「っ……」」」」」
「ですが、私達もあなた方の気持ちを分かっていますから。ここでしばらく休んでもらうことにします。話は通してありますので。では……あ、何度も言いますが逃げないように。これも試練ですよ」
「「「「「……はい……」」」」」
小さく、泣きそうになりながらも返事をした。
彼らは、三人の聖女達を周りに迷惑をかけないように見張りながら、トルヴァランの王都にある聖魔教会まで連れて来るという依頼を受けていた。
依頼先は聖魔教会の神官だ。
神教国からの妨害は全て、この見張っている神官達が処理することになっている。
聖騎士の者たちは、国からの報復を恐れていた。かつて、国を抜けようとする者を執拗に追いかけるという国のやり方を見ていた彼らとしては、それが一番怖かったのだ。
だから、その手を逃れられるならば、聖女達を護衛して移動するくらい、訳ないと思っていた。
「ううっ……聖女って……こんなだったのか……」
「聖女ってなんだろうな……」
「性格悪いなんてもんじゃないしっ」
「これなら馬車に乗せた方が早くないか?」
「けど、それだともっと文句言うじゃん……今も充分文句言ってくるけど……」
「疲れさせて口を止めるって考えは良いしな……」
体力もない聖女達を連れて移動となれば、相当時間がかかる。関わり方も分からなかったため、馬車に放り込んで移動した方が早いと思った。
しかし、彼女達は最高級の王族の乗るような馬車しか乗っていないため、こんな馬車に乗れるかと、最初に物凄く文句を言われたのだ。
それに懲りた聖騎士達は、馬車を諦めた。馬も嫌だと言うため、ならば歩くしかないと説得。歩かなければ置いて行くと言えば、何とかここまでついて来た。
一日、へとへとになるまで歩かせれば、しばらくは静かだ。それに気付いてからは、ちょっと無理してでも距離を稼がせた。
しかし、領地が変わるごと、国境を越えるごとに、聖女達はやらかす。先ほどのように、居丈高に周りに聖女であることを口にするのだ。
「ちょっと! 何するのよ!」
「話を詳しく聞かせてもらう」
「周りを混乱させるような言動は看過できない」
そう言って、兵士達が強引に聖女達を連行していく。いつの間にか女性の兵士が来ていた。
「この方達ですね」
「お任せを。さあ、こちらです」
「喚かないで。シワが増えますよ~」
とてもスムーズに、引っ張られて行った。こんなこともあろうかと、トルヴァランでは最近増えた女性兵士達を、国境など重要な場所に配置していたのだ。
それを呆然と見ていれば、兵士が駆け寄ってくる。
「あなた方があちらの方々の付き添いの方ですね。どうぞこちらへ……話は聞いています。ここで、少し休んでください……」
「「「「「っ……」」」」」
後半は小さな声で伝えられる。慰るようなその声に、聖騎士達は涙ぐむ。
そうして、しばらく彼らの心を休めるためにも、ここで留め置かれることになったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回17日です!
文庫版 第2巻 発売中です!
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よりにもよって、彼女達の第一声がこれだったのだ。
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それを彼女達は、同意の証と取ったらしい。彼女達にとって、自分達の言葉は全て肯定されて然るべきもの。信者達は黙ってそれに従うものなのだ。勘違いしても仕方がないと言えばそうだった。
「分かったら早くしなさいよ!」
腕を組み、胸を張る三人の聖女に対して、五人の聖騎士達は半ば頭を抱えていた。
ここへ来るまでにも、神教国の者というだけで塩対応されて来たのだ。その理由も、聖騎士達は聞いて知っていた。
彼らは、もう国を出ようと思った時には、冒険者にでもなろうと考えていた。普通に国を見捨てる気だった。
それが、この聖女達に見つかったために、面倒なことになっている。
既に聖騎士として支給されていた武具も捨てているし、彼らだけならば、旅の者として通っただろう。
もう見捨てても良いだろうかと泣きそうになること数十回。夜逃げしようとすること十数回。キレかけること二十数回。
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しかし、彼女達は最高級の王族の乗るような馬車しか乗っていないため、こんな馬車に乗れるかと、最初に物凄く文句を言われたのだ。
それに懲りた聖騎士達は、馬車を諦めた。馬も嫌だと言うため、ならば歩くしかないと説得。歩かなければ置いて行くと言えば、何とかここまでついて来た。
一日、へとへとになるまで歩かせれば、しばらくは静かだ。それに気付いてからは、ちょっと無理してでも距離を稼がせた。
しかし、領地が変わるごと、国境を越えるごとに、聖女達はやらかす。先ほどのように、居丈高に周りに聖女であることを口にするのだ。
「ちょっと! 何するのよ!」
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そう言って、兵士達が強引に聖女達を連行していく。いつの間にか女性の兵士が来ていた。
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