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第十二章

499 ここでお茶いいですか?

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コウヤの王子としてのお披露目が明日と迫ったその日。多くの来賓達も既に到着しており、城内はとても慌ただしくメイドや騎士達が行き交っている。

そんな中、議場では貴族達が集まり、憤りも感じられる多くの声を上げていた。

別に今日会議があった訳ではない。来賓をもてなす必要がある上にお披露目が明日なのだ。会議など開く予定などなかった。

しかし、そのお披露目のために王都に集まっていた貴族達が、町に広まっている噂を聞き付けてアビリス王とジルファスへ、対応はしたのかと確認しに来たのだ。

「一体どこからこのような話が出て来たのでしょうか」
「まったく、けしからん! このような噂を流した者は、即刻捕らえるべきです!」
「そうです! 手の空いている騎士達がいないならば、我が家の手の者をお使いください!」
「そうです! 我が家からも出します! 即刻調査を!」

鼻息も荒く、憤慨している貴族達。

「コウヤ様を神教国から送り込まれた者だなどとっ……っ、失礼にも程がある!!」
「ベニ大司教様はご存知なのですよね? 既にあちらが動いておられるのでは?」
「それならば、まだここまで噂されているというのはおかしいだろうっ」
「確かに……あの方が知っているのなら動かないはずが……」
「「「「「……」」」」」

少し落ち着いたらしい。

ここを逃してはいけないと、宰相のベルナディオが口を挟む。

「その予想通り、既に聖魔教会が動いております。現在は、故意に噂を流した者の特定をしている所だそうです」

コウヤのへの嫌がらせとも取れる内容だったのだ。ルディエ達が黙っているはずはない。

「故意にというのは確実なのですね」

これにベルナディオが頷く。

「噂の中に、元聖女のリスティアン殿のものがありました。ご存知の通り、リスティアン殿は、リアンと名を改め、王都聖魔教会の神官の一人として居られます。神教国では猫を被っておられたとのことで……あの方が元聖女であるとは、知り合いでも気付かないだろうとのお墨付きがあります」
「「「「「……」」」」」

知っている者達は、口を閉じて目を泳がせる。

リアンという女神官は、今やこの王都でも人気の教会にある食堂の看板娘的なものになっている。

『天職だわっ!』

そう言って憚らない。週に一度出るリアンの手作りメニューは、コアなファンが多い人気メニューだ。

聖魔教会で給仕や料理、薬学などを覚え、それを心から楽しんでいた。

孤児上がりというのもあり、自然体になった彼女は、その辺の町娘と変わらず、元聖女だと言われても冗談だろと笑い飛ばされる。

「ブランナ殿が噂されるならば分かります。しかし、出ている噂はリアン殿のものだけです。今更というのもありますし、神教会の関係者が流したというのが自然な見解でしょう」

神教国の上層部の者達は、今現在も張られた結界内から出る事が出来ない。これは、古い神子であるジンク達が交代で見張っているので確実だ。

恐らく他国の神教会の者達が動いているのだろう。現在、他国でも神教会をなくし聖魔教会に代えようとしている所だ。その中で本国と連絡も取れないため、逃げ出した教会関係者が嫌がらせをしていると見るのが自然だ。

元聖女のファムリアの息子なのだ。不利な状況に追い込めば自分たちに助けを求めて来るとでも思っているのだろう。

「浅はかな考えが透けて見えるというのが、ベニ大司教様の見立てです。コウヤ様を聖女の息子だからと言うことで、自分たちの味方になると思い込んでいるのでしょう」
「……確かに浅はかですね……」

他の貴族達も、落ち着いて考えてみれば、なるほどと頷く。

そして、アビリス王が口を開いた。

「心配をかけたようだな。特に対策しなかったのは、コウヤを見れば誰も信じないと思ったからだ」

特に今回は、全国民に見えるよう、聖魔教会と冒険者ギルドの外にお披露目の映像が映し出されることになっていた。

「……そうですね……住民達もですが、冒険者達もコウヤ様が王子だと知れば……」
「余計な心配でしたね……」
「ベニ大司教様が浅はかだと言う意味がよく分かりました……」
「コウヤ様を見せてしまえば、噂など消えますね……」

王子がコウヤだと知れば、噂がデマだと誰もが理解していくだろう。

他国から来ている者達も、ギルド職員としてのコウヤの事は知っている。

あのような噂など、意味がなくなるだろう。

「噂を流した者も、無駄なことをしましたなあ」
「……本当に……」

誰もが同情した。一発で晴れる嫌疑など、脅威でもなんでもない。寧ろ、計画した者が哀れだ。

「恐らく、コウヤ様だと知れば、噂の出どころを冒険者達も探るでしょう」
「それは、犯人が可哀想ですな……」

大勢の者が一気に敵に回るようなもの。同情せずにはいられない。

そうして、一気に熱がおさまった議場の扉がふと開いた。そして、可愛らしい声が響く。

「レンスじいちゃま~」
「「「「「っ!!」」」」」

誰がじいちゃまと言ったのかと一斉に貴族達が扉の方を振り返る。

レンスじいちゃまと呼ばれたレンスフィートがハッとして声を上げた。

「っ!! レ、レナルカ?」
「あいっ。あっ。ベルじいちゃまとアビーじいちゃま、ジルパパもいるっ」
「レナルカさん……」
「レナルカ?」
「っ、レナルカっ」

ベルじいちゃまはベルナディオのことで、アビーじいちゃまはアビリス王のこと。そして、ジルパパはジルファスのことだった。

そこには、大きな籠をぶら下げながら、パタパタと小さな翼で飛ぶ幼児。レナルカが居たのだ。

「いっぱいじぃじたちもいるっ。みんなでくきーたべよー♪」
「「「「「っ!!」」」」」

その可愛らしさに、貴族達は撃ち抜かれていた。

「あ~、ダメだよ、レナルカ。お仕事中だからね?」
「え……じいじたち……まだおしごと?」

寂しそうに項垂れるレナルカ。貴族達は、バッと王と宰相を振り返り、目で訴える。もう終わりでいいですよねと。

「っ、そ、そうですねもう終わりにしましょう」
「そうだな。終わりにしようっ」

終わるべきだと結論を出す。

「おわったの? ねえ、ママ、じいじたち、おしごとおしまい? くっきーたべれる?」

コウヤへのママ呼びは未だに変わらない。それを自然に受け止めている。

「ふふっ。うん。終わったって。それじゃあ、みなさん、ここでお茶いいですか?」
「「「「「っ、もちろんっ」」」」」

それならばと、侍女達がやってくる。レナルカと一緒にクッキーを作り、コウヤと共にそのまま追いかけてきたのだ。

「カップとポット出しますね。茶葉はコレにしましょう。レナルカ、クッキーこれに分けられる?」
「できるっ、けど……レンスじいちゃまとやるっ」
「っ、おお。では手伝おう」
「うんっ」

レナルカはユースールのみんなの孫みたいなもので、コウヤが夜勤の時などは、レンスフィートの所で預かってもらうこともある。

ついこの間、フェルトアルスが女の子を出産した。これにより、母親としてフェルトアルスが長男であるティルヴィスをあまり構えなくなった。その寂しさを埋めるため、レナルカが遊び相手として領主邸に度々遊びに行くようになったのだ。

そうしてレナルカはゲンとのこともあり、おじいちゃん子だ。領主邸では、レンスフィートに一番懐いている。

今回、コウヤが戻らないことで寂しがっていたレナルカを連れて来たのは、レンスフィートだった。

その後、料理人たちも数人来て、休憩に入れるメイド達や文官、武官達も議場で始まったティータイムに参加していた。

レナルカが愛想を振り撒き、貴族の者達もじいじ、じいじと呼ばれてデレデレしていた。

途中でズルいと言ってミラルファやイスリナ、シンリームとリルファムも交ざり、完全な無礼講のお茶会となった。

貴族達は、今まで議場でこんなに穏やかな気持ちになったことはないと、改めてコウヤの存在に感謝していた。

「王宮がこんなに気持ちの良い場所になるとは……」
「コウヤ様のお陰ですね」
「「「食事も美味しいし」」」

彼らは、こんなに和やかな気持ちで笑い合えるとは、考えたこともなかっただろう。

自分達の利益だけを求めてギスギスしていた頃が嘘のようだと、誰もが笑い合っていた。

そして、いよいよお披露目の日がやって来た。








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読んでくださりありがとうございます◎
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