元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十二章

498 噂もあるしな

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宿泊所の場所を聞き、ギルドから出て来た冒険者達は、町の至る所で年配の男女が騎士を案内している様子があることに気付いた。

「なんか……やたら元気そうなじいさんばあさんが多くねえ?」

他所から来た冒険者達には、それがとてもよく目に付いた。

「あれくらいのじいさんとかって、家に閉じこもるよな……」
「そうそう。出て来てても、家の前でただ呆けっとしてたりさあ」
「これが王都か……」
「すげえな王都……」

そんな感想を口にする冒険者達に、近くで聞いていたいかにもベテランな冒険者達が思わず吹き出す。

「ぷっ。いやいや、王都だからってのは関係ねえよ」
「まあ、じいさんやばあさんが元気なのは理由があるけどなっ。お前らも邸宅宿泊所に行くんだろ?」
「ああ……」
「どこ案内されたんだ? 余裕があるのは西地区だから、『白鳥』か『白石』?」

貴族の接収された別邸や屋敷を利用したホテルを『邸宅宿泊所』と呼んでいる。

その宿泊所には区画で色の名前がつけられていた。北が黄色、西が白、東が青で南が赤だ。

「俺らは『白滝』の邸宅宿泊所なんだ。良かったら案内してやるよ。ついでに、近くにある食事所とかも教えてやる」
「良いんですか?」
「ああ。俺らの今日の仕事は、町の見回りだからな」
「まあ、自主的にやってんだけどさ」
「じいさん達にばっかやらせんのもなと思ってよ」
「はあ……」

案内してくれると言うので、お願いすることにしたようだ。

他の町ならば、知り合いでもない、初対面の人に道案内なんてお願いしない。特に冒険者には。

冒険者には素行の悪い者も多いため、人の居ない場所に案内されて、お金を巻き上げられたりすることもある。

誘った彼らの方がそれを気にしたようだ。

「それにしても、お前ら。俺らだから良いが、案内するって言われても、すぐにホイホイ付いて行くんじゃねえぞ?」
「……さすがに分かりますよ……けど、なんでか大丈夫な気がしたんで……」
「そうそう。なんか、周りが案内してもらえって頷いてたから……」

案内してくれると言った冒険者達の他にも、周りには人が居た。たくさんの人が道を行き交うのだ。話も聞こえていただろう。

そして、そんな人たちが、微笑ましげに頷いていたのだ。良いと思うよと言うように。

「ははっ。そりゃあな。一応、仮にもこの王都で長年冒険者やってるからな。ああ、そうそう。じいさんやばあさんが元気なのは『親老会』っつてなあ、じいさんやばあさん達のギルドがあるんだよ」
「ギルド……」

ギルドとは呼んではいないが、組織のようなものであることは変わりない。

「商業ギルドと冒険者ギルドだけじゃなくて、国の方からも色々と頼まれることがあってな。この国の北の方の辺境……ユースールでやり始めたことらしいんだが、仕事があるって頼ってもらえるってのが良いんだろうな……元気になっちまってよお」
「けど、俺らも見てて気持ちいいしな。じいさんらが元気だと、なんかやる気も出るし」
「あ~……なんかわかります」

老人達が元気にしていると、自分たちも頑張らないとなという気になる。

「嫌味ばっか言って、辛気臭いのより、笑い飛ばしながら先に動いて行くじいさんの方が付き合いやすいし」
「それな~。俺らも最近考えるんだよ。もう何年もすれば、こんな仕事も出来なくなる……仕事できねえってのは……なんか寂しいし、考えられねえんだよな。だから、今のじいさんらを見てると、まだまだ俺らもやって行けるって気になるんだ」
「まだ若いお前らには、実感ねえかもしれねえけどな。俺らはこれが生き甲斐だ。それが出来なくなるってのは怖いもんだ」
「……うん……怖いかも……」

そうして、今の生活も見直す者が出て来ている。

親老会は、老人達だけでなく、それを見る周りの人々をも元気にしていた。

「これを考えたのが、ついこの前、迷宮化の時に居たギルド職員なんだぜ」
「コウヤって言う、可愛い上に強い職員なっ」
「「「っ、その子、今どこに?」」」
「ん? なんだ。もしかして、コウヤに会いに来たのか?」
「最近、そういう奴多いよな~」
「あ、えっと……まあ、実は……はい」
「良いって。けどなあ、あれが終わってから、休暇中なのか、ユースールにも居ないらしいんだよな。まあ、あれだけ活躍したんだ。ひと月くらい休んでも誰も文句言わねえよ」

この王都にやって来る冒険者達の大半は、コウヤ目当てでやって来る。

彼らは、一度はあのコウヤに受付をしてもらいたいと言う、ささやかな気持ちで来ていた。コウヤは今や、全国規模のアイドルだった。

「けどまあ、ここだけの話だけどよ……二日後にある王子のお披露目式、それを手伝ってんじゃねえかって言われてんだ。だから、そこでちらっと顔も見えるんじゃねえかとな」
「へえ……けど、その王子って大丈夫なんですか? その……噂を聞いたんですけど」
「あ~……神教国の聖女の子だって話だからな……確かに、聖女ファムリアって言えば、あの国の中で唯一、まともな聖女だったって聞いたが……」

聖女ファムリアは、聖女らしい聖女だった。人々が求める聖女という存在を体現した人。そして、おかしかった神教国から逃げ出した人。それは、他から見ればまともな判断だと思える。今は特に。

だからファムリアの人気は高かった。

「けどなあ……その人の子だって言っても、次期国王が決まってから現れたからな……神教国の罠ってこともあり得るんじゃねえかって、俺らも警戒してんだよ」
「あの国はホント、ロクな事しねえからな……」
「この王都の教会に、神教国の元聖女が匿われてるって噂もあるしな」
「そんな……」

お披露目があると発表されてから、このような不穏な噂が急激に広がり始めていた。

そして、そんな噂を話す人々を、親老会の老人達が、密かに目を光らせて観察していたのだ。








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