元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

第十二章

489 もっと極めないと……

謁見の間には、王族達が揃うという所だった。まだ今回の主役達は来ていない。

ミラルファが部屋に入って来たコウヤを見て、感動に両手を広げる。

「まあっ。コウヤさんっ。なんてステキなの！？　今までのもよかったけど、その服もとっても似合ってるいるわっ。髪型も良いわねっ」
「ありがとうございます。ミラお祖母様」

胸に片手を当て、微笑んで礼を伝えるコウヤの姿を見て、ミラルファだけでなく、この場にいたイスリナも両手で口元を覆って目元を赤らめる。

そして、イスリナは同じようなに感動しているミラルファへと目を向ける。

「っ、ど、どうしましょうっ……お義母様っ、わたくし、こんなステキな息子の母親になれますかしらっ」
「落ち着きましょうっ……これも試練なのよっ。母親というスキルの熟練度を上げろという試練だわっ」
「っ、そうなのですね！　分かりましたわっ！　わたくし、良い母親になってみせますわっ」
「その意気よ！　それでこそ、わたくしの娘です！」
「はい！　お義母様！」
「……」

なんだか、熱くなっておられる。手を取り合うミラルファとイスリナを、少し心配気に見ていたコウヤだが、ジルファスが近付いてきたため、とりあえず視線を外した。

「コウヤ……その……っ、今日はとても可愛いっ……いや、とても似合っているよ」
「大事な授与式ですからね。侍女の方々も、かなり気合を入れてくれたみたいです」
「……そう……今日が特別……なのかな」
「だと思いますけど？」
「そう……」

残念そうなジルファスは、しきりにニールへ視線を向ける。これを受け、ニールがしっかり頷き、それを確認したジルファスが嬉しそうに笑った。

「コウヤ。今日のは本当によく似合っているから、髪型も、侍女達にこれからも任せてやってくれ」
「あ、はい。分かりました」

コウヤも別に嫌ではないので、構わないと笑った。言質は取ったとジルファスとニールは確かめ合い、頷き合うのにもコウヤは特に気にしていなかった。

これにより、次期国王の期待を背負った侍女達が、今後もコウヤを着飾るのに張り切る事になる。

そんな中、シンリームが何度もコウヤの姿を様々な角度からカメラの魔導具で撮影していた。

「えっと……シン様？」
「あ、気にしないで」
「はあ……」

シンリームは実は、エリスリリアやゼストラーク、リクトルスから専属のカメラマンに指名されていたのだ。

「っ、さっきの笑顔も最高だったな～っ、撮れて良かったっ。はっ、ちょっと困ってる顔も良いっ」

シャッターチャンスを逃さないシンリームだ。その隣りで、アビリス王も満足そうに目元を緩める。

「うむ。是非とも『写真』でも見たいものだ。シンリーム。今夜も頼むぞ」
「もちろんです。今日の分は多くなりそうですけどねっ」
「それは仕方ないだろう」

今日は記念すべき日なのだ。シャッターチャンスは沢山あるはず。既にこの時点でも普段より多い。

そんな写真を毎晩、コウヤとリルファムを抜きにして王族で集まり、鑑賞するのが楽しみになっていた。

「それにしてもすげえなシンリーム……お前、さっきまで全然気配を感じなかったぞ……」

アルキスがそれに気付いて目を丸くしていた。

「え？　そうですか？　けど、そうかもしれません……だって、自然な表情を撮るには、邪魔にならないようにしないとっ……」

コウヤにはさすがに気付かれてしまう。だが、もうシンリームの気配は、一流の冒険者であるアルキスさえ、ふとすると感じなくなる所まで来ていた。

「コウヤ君には気付かれるんですよね……っ、もっと極めないと……」
「いや……そこまで行ったら、お前……いや、なんでもねえ……」
「神官様達にもコツを聞かないと……」

シンリームは、少し違う道に目覚めてしまったようだった。

害はないため、アルキスもこれを黙認することにした。数年後、シンリームは城の隠し通路も難なく活用し、ルディエでさえ認める実力をつけることになるのだが、今はそれを知る由もない。

全てはコウヤのベストショットを撮るため。

これにより、シンリームは『幻の王族』などと城の者に呼ばれるようになるのだが、それも数年後の話だ。

また、シンリームが撮影、編集して年に一度売り出すことになる『王族の日常』の写真集は、他国の王侯貴族だけでなく他国の民達、冒険者までも手に入れようと躍起になるほど大人気となる。

その始めの一冊が数ヶ月後に売り出されることになるのだが、コウヤは知らない。

この世界での初の写真集は、シンリームが作り出す事になるのだ。

そんなこんなありながら、時間は過ぎ、授与式が始まる。








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