元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十二章

488 作らないよね?

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選抜戦を終えてから三日後。

コウヤ付きの近衛騎士との顔合わせを行うことになった。

翌日とならなかったのは、受験者達が神剣で斬られ、その後の後遺症に苦しんだからだ。それも体験することが込みの試験だったため、薬を飲んで復活するまでにも時間がかかった。

この日はまた朝から、コウヤは王子としての装いになり、謁見の間に向かっている。片側だけ髪も編み込んでおり、髪飾りらしきものまで付けられた。侍女達が目を輝かせていたので、断ることもできず受け入れた。ずっとやりたかったらしい。

恐らく、少しずつ装飾品に慣れさせようとしている。

髪飾りくらいは別に大したことではない。コウルリーヤの時は、もっと色々とジャラジャラしていたのだから、嫌ではなかった。

そうして、侍女達とも良い関係を築きつつ、少しずつだが、ギルドの制服ではないことにも慣れて来たなと感じている今日この頃だ。

斜め後ろにはニールが居り、今回の顔合わせについての話を聞かせてもらいながらの移動。

もちろんその後ろには、侍従であるディスタとフレスタも付き従っている。

今の時点での護衛は人化したパックン、ダンゴ、テンキ。それとニールだ。先日鑑定した所、ニールのレベルは三百に達しており、彼だけでも実質は問題ない。

とはいえ、護衛が何人も居るという見た目は大事だ。だからこそ、選抜戦までして護衛騎士を決めたのだ。

「今回選抜された者達は、近衛騎士ではなく、『近衛師団』と名乗ることになります」
「あっ、騎士だけじゃないもんね」

冒険者も、魔法師も神官や文官も居たのだ。彼らは騎士とはしなかった。それぞれの分野で、その場においての護衛や補佐役となる。

「はい。今日は彼らとの顔合わせと、身分を示す師団章の授与式のようなものになります。正式な任命式は、コウヤ様が王子としてのお披露目をされる時になりますので」

王族として、民や他国にも広くお披露目をする時に、それを守る者として近衛騎士のお披露目もすることになる。

「そっか……せっかくなら、俺が作りたかったな」
「そうおっしゃると思い、あえて伏せさせていただきました。制作されたのは、ゼスト様です」
「え?」

選抜戦の準備をしていた時に、ゼストラーク自ら作ると宣言したらしい。

「……それ、どんな出来になってるか聞いた?」
「……仕様のことでしょうか……はい……なんでも、命の危機を一日一回、確実に回避できるそうです……」
「それ……ううん……文句は言えないもんね」
「……有り難く頂戴いたしました」
「だよね……」

国宝級なんてものではない。本来なら、誰かに渡すなど出来ず、神殿などで神器として奉納されても不思議ではないもの。

受取拒否などできるはずもなく、アビリス王も冷や汗を流しながら受け取ったというのは後日聞くことになる。

「でも、着けることになる人たち、大丈夫かな……」
「慣れてもらいます」
「強気だね?」
「もちろんです。馴れ馴れしくされるのは許されませんし、恩恵を受けることを当たり前と受け止めることも注意させていただきますが、尊いからと離れていては警護も補佐もできませんので」
「それは……そうだね?」

実感がこもっていた。

「ですので、顔合わせが終わりましたら、コウヤ様には、数人ずつと歓談していただきます」
「歓談?」
「はい。それと、昨日に引き続き、お写真を撮らせていただきますのでよろしくお願いいたします」

なぜそれが必要なのかが、コウヤにはいまいち分からない。

「……それは良いけど……そんなに撮ってどうするの? 服も何回も変えてるし、写真集を作るんじゃないんだから」
「……」

ニールがあからさまに目をそらした。

カメラはゼストラークも面白がって作り、魔導具として商業ギルドから売り出し始めた所だ。

この二日、コウヤはモデルばりに着替えて、何度も色んな場所で撮影させられていた。目的を聞く暇もなく、ギルドなどから上がってくる報告書に目を通す間にも何度も撮影されていたのだ。

最初、王族として残す肖像画の資料としても使うと言われたので、それならばと頷いたのだが、明らかに必要ないだろう枚数を撮っている。

写真集が数冊出来そうな勢いだ。

「え? 作らないよね?」
「……申し訳ございません。お約束は致しかねます」
「へ? いや、俺なんか撮ってどうするの? エリィ姉のとか、ばばさま達のなら分かるけど」

カメラが出来て、最初の被写体がエリスリリアやベニ達だった。本人達も気に入ったらしく、周りも絶賛したため、聖魔教会の方で写真を撮るブームが来た。

神官の中で、とても写真を撮ることが上手い者がおり、この世界初のカメラマンという仕事が誕生してもいた。

「……ベニ様方のプロマイドは人気がありますね」
「もうあるの!?」
「ルディエ様のも人気です。それを目的として、貴族家からの寄付金がかなりの金額になってきているとお聞きしております」
「商売してる!?」

既にプロマイドを売っていると聞いて、コウヤは目を丸くした。

「護符代わりに持ち歩く方もいらっしゃるとか」
「どうしよう……教会としては正しいのかな……確かにばばさま達の写真もご利益ありそう……」

貴族達も、それを手に入れる目的でお金を出すという方が出しやすいのかもしれない。

そんな話をしていれば、謁見の間に到着する。その扉は、つい先日新しくしていた。

お陰で、コウヤも写真のことが頭から薄らぐ。

「うわあ~、やっぱりスゴイっ。カッコいい! 強そうなボスが居そう!」
「……はい……これはもうボス部屋ですね……」

そこに掘られていたのは、鳳凰のような華やかな大きな鳥とドラゴンが向き合っている図だった。

後日、この扉を見た辺境伯、レンスフィートが『やっちゃったかぁぁぁ……』と頭を抱えることになる。

ドラム組の棟梁とジンクの合作だ。

これを前にして、以前より入る前に緊張感が増すようになったと言うのが、貴族達の感想で、難しい迷宮や、迷宮ボスに挑戦する前のような気合いが入るというのが、騎士達の感想だった。






**********
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次回、1日です。

書籍版『趣味を極めて自由に生きろ! 
ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです』2
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