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第十二章
486 盛大によろしく!
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エリスリリアの出現に驚く中、近衛騎士があわあわしながらも椅子を持ってきた。この場にニールが居たなら、そうしただろうと確認しあった結果だ。
「あら。ありがと♪」
「「はっ! ごゆっくりどうぞ!」」
騎士達は、キレよく敬礼して壁際に下がった。女神に御礼を言われたということに感激する彼らに、他の近衛騎士達が抜け駆けしやがったなと突いていた。
それらは気にせず、コウヤの隣りにぴったりと椅子をくっ付けて座ったエリスリリアは、コウヤの方に体を寄せて肘掛けに頬杖を突く。
「本当、人って勝手よね~。邪神にしたり勇者にしたり~。これで王子様にもなるし、今は伝説になる冒険者ギルド職員って有名よ? コウヤちゃんってば大人気ねっ」
「っ……ううっ……」
顔を両手で覆うコウヤ。ほぼ不可抗力だ。コウヤにはどうにもならないこと。だからこそ恥ずかしく思う。
「ふふっ。恥ずかしいの?」
エリスリリアがコウヤの顔を覗き込むようにして笑った。
「良いじゃない。邪神って呼ぶのは私たちも許せないし、勇者がコウヤちゃんの事だって知られてないのは不満だけど……コウヤちゃんが沢山の人に受け入れられるのは嬉しいわ。ほら。神力もちょっと前より遥かに大きくなってる」
「あ……そういえば……」
思えば、幼児になってしまう反動も、かなり時間が短くなっていた。
そこで、また近衛騎士が近づいてくる。
「エリスリリア様っ。発言宜しいでしょうか!」
手を挙げる近衛騎士。これにエリスリリアが面白そうに頷いて許可を出す。
「良いわ。何かしら」
「はいっ。コウルリーヤ様が実は勇者の話の元だったという事を、宣伝しても宜しいでしょうか!」
「え? あら、そうね……」
少し考え込んだエリスリリア。それは数秒だった。そして、騎士の方を振り向いて華やかな笑顔で告げた。
「それ面白くなりそうだわっ。いいわよ。寧ろ盛大によろしく!」
「っ、分かりました!」
許可が出たということで、ルディエが一つ手を振る。これで神官が動いた。
その頬が緩み、少し赤くなっているのは『さすが兄さん』とコウヤを心の中で何度も讃えているから。ルディエも、コウルリーヤが勇者であったということに密かに興奮していたのだ。
他の動かなかったジルファス達王族や、フレスタやディスタ達は、コウヤが、コウルリーヤが勇者と呼ばれる存在だったのだと知り、未だ動揺していた。悪い感じの動揺ではなく、それは有名人に会えたという感動が大きい。
この世界の誰もが、勇者の話を聞いて育つ。それは、王族でも同じ。憧れの存在だったのだ。
「っ、どうしよう……本当にすごい方の側に居るんだ……」
「これは、益々気合いを入れる必要がありますね……」
フレスタとディスタは、コウヤの侍従になるということで、コウヤが聖魔神コウルリーヤなのだということを知らされていた。それらも込みでニールに指導を受けていたのだ。
真面目な彼らは、神に仕える神官にも似た感覚でコウヤに仕えようと思ってきた。神とは、会うことも叶わない、遠い存在。
この世界では神が近しい存在だとしても、一般的にはその実体さえ掴めないもの。ただ真摯に敬うべき存在だ。だから、コウヤがコウルリーヤだと知っても、二人にはどこか実感がなかった。
しかし今、コウヤが憧れの勇者と呼ばれる存在だったと知り、少しその距離が近付いた。勇者は、伝説の偉人という立ち位置なのだ。確実にこの世界で人々と生きた存在という認識になり、二人はそんなすごい人に支えられるのだという想いが強くなった。
「「うん」」
頷き合い、気持ちを確かめ合う。二人が、コウヤに一生ついて行こうと決意した瞬間だった。
そして、近衛騎士達も動き出す。
「おいっ」
「よしっ。非番の奴らに伝達!」
「俺が行く!」
「頼んだ」
「おうっ」
神官達だけでも充分な所に、冒険者達との交流もある近衛騎士達が動いたことで、急速に王都内にこの噂が広がっていくことになる。
「え? ちょっ、え?」
コウヤが珍しく、本気で動揺していた。その隣で、エリスリリアは上機嫌だ。
「うふふっ。いいわねっ。さすがだわ! これでコウヤちゃん最強伝説が誕生するわね!」
「何それっ」
どんどん大事になっていくのを、コウヤは止められなかった。
神様が拡散推奨の情報なのだ。止められる訳がない。神官達が教会転移も多用した結果、丸一日経つ頃には、国内全てに広まり、その数日後には国外でも囁かれ、確信の下に広がっていく。
「これであの国は益々、立場が危うくなるわね~♪」
「……まさか、エリィ姉……」
エリスリリアが言うのは、神教国のこと。あの国の中央は封印して、中に立て籠っていた幹部達は身動きが取れなくてなっている。
しかし、いち早く聖魔教として教会を乗っ取ったトルヴァランとは違い、他の国にはまだあの国の教会がある。彼らは、本国を襲ったエルフ族や獣人族、ドワーフ族達を、里抜けした者への掟などを盾に悪きものだと言って、未だに自分たちの正当性を主張していたらしい。
だが、それもこの『コウルリーヤ=勇者』だったという噂が流れたことで、状況が変わってくる。
迷宮化対策を始める前から、神教国がコウルリーヤを邪神にしたのだという話が広まっており、神教会も邪神であるコウルリーヤは悪き神だという考えを引っ込めることがなかった。
これにより、今回の話が決め手となって、人々の心は完全に離れた。そして、人々が神教会への反感と恨みが爆発した。各国、各地で暴動が起き、国は仕方なく神教会の関係者を保護するという名目の上、捕えることとなる。
「ベニちゃん達が、またちょっと忙しくなるわ~。けど、ジンクちゃん達も居るしね♪」
捕えられた神教会の関係者は、後日ベニ達が赴いて使える者とそうでない者に振り分けていく。神官達の中には、治癒魔法が使えるからと、神教国に良いように使われていた者も多いのだ。
そうして、聖魔教に鞍替えさせ、人員を増やしたことで、各国へ聖魔教会が順調広がっていくことになる。
「……」
これら全ては、エリスリリアの目論見通りにはまっていった。転がりだした石が、玉突きを起こして多くの石を引き連れ、どこまでも転がっていくように。それは一気に世界を駆け抜けていった。
そんな世界を大きく変えるきっかけが起きる中、リクトルスの計画した訓練ともいえる試験が終わろうとしていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、22日です!
「あら。ありがと♪」
「「はっ! ごゆっくりどうぞ!」」
騎士達は、キレよく敬礼して壁際に下がった。女神に御礼を言われたということに感激する彼らに、他の近衛騎士達が抜け駆けしやがったなと突いていた。
それらは気にせず、コウヤの隣りにぴったりと椅子をくっ付けて座ったエリスリリアは、コウヤの方に体を寄せて肘掛けに頬杖を突く。
「本当、人って勝手よね~。邪神にしたり勇者にしたり~。これで王子様にもなるし、今は伝説になる冒険者ギルド職員って有名よ? コウヤちゃんってば大人気ねっ」
「っ……ううっ……」
顔を両手で覆うコウヤ。ほぼ不可抗力だ。コウヤにはどうにもならないこと。だからこそ恥ずかしく思う。
「ふふっ。恥ずかしいの?」
エリスリリアがコウヤの顔を覗き込むようにして笑った。
「良いじゃない。邪神って呼ぶのは私たちも許せないし、勇者がコウヤちゃんの事だって知られてないのは不満だけど……コウヤちゃんが沢山の人に受け入れられるのは嬉しいわ。ほら。神力もちょっと前より遥かに大きくなってる」
「あ……そういえば……」
思えば、幼児になってしまう反動も、かなり時間が短くなっていた。
そこで、また近衛騎士が近づいてくる。
「エリスリリア様っ。発言宜しいでしょうか!」
手を挙げる近衛騎士。これにエリスリリアが面白そうに頷いて許可を出す。
「良いわ。何かしら」
「はいっ。コウルリーヤ様が実は勇者の話の元だったという事を、宣伝しても宜しいでしょうか!」
「え? あら、そうね……」
少し考え込んだエリスリリア。それは数秒だった。そして、騎士の方を振り向いて華やかな笑顔で告げた。
「それ面白くなりそうだわっ。いいわよ。寧ろ盛大によろしく!」
「っ、分かりました!」
許可が出たということで、ルディエが一つ手を振る。これで神官が動いた。
その頬が緩み、少し赤くなっているのは『さすが兄さん』とコウヤを心の中で何度も讃えているから。ルディエも、コウルリーヤが勇者であったということに密かに興奮していたのだ。
他の動かなかったジルファス達王族や、フレスタやディスタ達は、コウヤが、コウルリーヤが勇者と呼ばれる存在だったのだと知り、未だ動揺していた。悪い感じの動揺ではなく、それは有名人に会えたという感動が大きい。
この世界の誰もが、勇者の話を聞いて育つ。それは、王族でも同じ。憧れの存在だったのだ。
「っ、どうしよう……本当にすごい方の側に居るんだ……」
「これは、益々気合いを入れる必要がありますね……」
フレスタとディスタは、コウヤの侍従になるということで、コウヤが聖魔神コウルリーヤなのだということを知らされていた。それらも込みでニールに指導を受けていたのだ。
真面目な彼らは、神に仕える神官にも似た感覚でコウヤに仕えようと思ってきた。神とは、会うことも叶わない、遠い存在。
この世界では神が近しい存在だとしても、一般的にはその実体さえ掴めないもの。ただ真摯に敬うべき存在だ。だから、コウヤがコウルリーヤだと知っても、二人にはどこか実感がなかった。
しかし今、コウヤが憧れの勇者と呼ばれる存在だったと知り、少しその距離が近付いた。勇者は、伝説の偉人という立ち位置なのだ。確実にこの世界で人々と生きた存在という認識になり、二人はそんなすごい人に支えられるのだという想いが強くなった。
「「うん」」
頷き合い、気持ちを確かめ合う。二人が、コウヤに一生ついて行こうと決意した瞬間だった。
そして、近衛騎士達も動き出す。
「おいっ」
「よしっ。非番の奴らに伝達!」
「俺が行く!」
「頼んだ」
「おうっ」
神官達だけでも充分な所に、冒険者達との交流もある近衛騎士達が動いたことで、急速に王都内にこの噂が広がっていくことになる。
「え? ちょっ、え?」
コウヤが珍しく、本気で動揺していた。その隣で、エリスリリアは上機嫌だ。
「うふふっ。いいわねっ。さすがだわ! これでコウヤちゃん最強伝説が誕生するわね!」
「何それっ」
どんどん大事になっていくのを、コウヤは止められなかった。
神様が拡散推奨の情報なのだ。止められる訳がない。神官達が教会転移も多用した結果、丸一日経つ頃には、国内全てに広まり、その数日後には国外でも囁かれ、確信の下に広がっていく。
「これであの国は益々、立場が危うくなるわね~♪」
「……まさか、エリィ姉……」
エリスリリアが言うのは、神教国のこと。あの国の中央は封印して、中に立て籠っていた幹部達は身動きが取れなくてなっている。
しかし、いち早く聖魔教として教会を乗っ取ったトルヴァランとは違い、他の国にはまだあの国の教会がある。彼らは、本国を襲ったエルフ族や獣人族、ドワーフ族達を、里抜けした者への掟などを盾に悪きものだと言って、未だに自分たちの正当性を主張していたらしい。
だが、それもこの『コウルリーヤ=勇者』だったという噂が流れたことで、状況が変わってくる。
迷宮化対策を始める前から、神教国がコウルリーヤを邪神にしたのだという話が広まっており、神教会も邪神であるコウルリーヤは悪き神だという考えを引っ込めることがなかった。
これにより、今回の話が決め手となって、人々の心は完全に離れた。そして、人々が神教会への反感と恨みが爆発した。各国、各地で暴動が起き、国は仕方なく神教会の関係者を保護するという名目の上、捕えることとなる。
「ベニちゃん達が、またちょっと忙しくなるわ~。けど、ジンクちゃん達も居るしね♪」
捕えられた神教会の関係者は、後日ベニ達が赴いて使える者とそうでない者に振り分けていく。神官達の中には、治癒魔法が使えるからと、神教国に良いように使われていた者も多いのだ。
そうして、聖魔教に鞍替えさせ、人員を増やしたことで、各国へ聖魔教会が順調広がっていくことになる。
「……」
これら全ては、エリスリリアの目論見通りにはまっていった。転がりだした石が、玉突きを起こして多くの石を引き連れ、どこまでも転がっていくように。それは一気に世界を駆け抜けていった。
そんな世界を大きく変えるきっかけが起きる中、リクトルスの計画した訓練ともいえる試験が終わろうとしていた。
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