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第十二章
480 何か変えました?
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昼食を挟み、本戦が始まった。アルキスが前に立ち、本戦出場者達に説明していく。
『ここからは、それぞれの実力を細かく見ていく。いくつかの課題を出していくが、失敗した時点で終わりというわけではない』
これに、多くの者が首を傾げた。それは分かっていたのか、アルキスは少し口元を緩めて続けた。
『これは、一人を決めるものではない。全てにおいて完璧に出来ることに越したことはないが、一人の完璧な者より、一つにだけ秀でている者達を集めて、何人かで完璧を目指してもらえれば良い』
たった一人に責任を負わせるよりも、何人かで無理なくやるべきだ。
『冒険者は分かるだろう。ソロより、パーティでの方が安心感も違うし、出来ることも多い』
これには、騎士達も頷いていた。
それを見て、コウヤが少し不思議そうにする。確かに、王族が当たり前のように冒険者になるような国の騎士だ。偏見は少ないのかもしれない。
だが、それでも貴族の中には、冒険者なんてと思っている者もいたはずだ。
「騎士も納得してくれるんだね。あの辺は、ギルドでも見たことないけど……」
実際、ジルファスの近衛騎士ぐらいしか、冒険者として活動したりしなかった。それが少しずつ増えたのは、コウヤが来るようになってから。
これに、ジルファスが思わずというように笑った。
「ふっ。ああ、コウヤは迷宮化の対策とかで、しばらくギルドの受付には出ていなかっただろう? あの気位だけ高く、扱いづらかった第三騎士団の者が、冒険者として活動し始めてから明らかに強くなったのを知って、他の騎士達も慌ててその波に乗ったんだよ」
「兄さんが留守の間に、ほとんどの騎士が冒険者の登録をしてたよ」
「そうだったんだ……」
いつの間にと驚き半分、冒険者が認められたのだという喜びが半分だ。
そこに、ニールが補足する。
「騎士は融通の利かない者が多いですし、基本を知らないと動けないので、冒険者達に頭を下げて、教授願ったそうです」
ルディエは腕を組んで推察する。
「迷宮化の討伐で、冒険者が減ってたから、丁度良かったんじゃない? 雑用から全部、依頼は選びたい放題だっただろうし」
「それはあるかもね……」
寧ろ、仕事が滞ったはずだ。もちろん、それを見越して計画を立てた。討伐から帰ってきた冒険者達が、依頼に追われていることはないだろう。
とはいえ、依頼がなくなる日はないのだ。多くの冒険者が留守だったことで、止まってしまった部分はある。
そこを、騎士達が冒険者となって少しずつやってくれていたようだ。
そこで、コウヤは気になった。
「あのまま直接ここに来ちゃったから、ギルドの状態を確認してないんだよね……」
これにすかさず返すのがニールだ。
「王都のギルド職員から、コウヤ様宛の報告書が来ております。夕食後にでも少しご覧になってください」
「え? 俺に報告書……?」
わざわざ、一ギルド職員であるコウヤに報告書という形で送られてくるなんてこと、本来ならあり得ない。
だが、そこはコウヤを崇拝する勢いのある王都ギルド職員達だ。
「留守中のことが気になっておられるのではないかと、用意したのだそうです。ちなみに、ユースールからも先程届きました」
「そうなの? それはとっても有り難いなあ」
「報告書としての添削もお願いしたいとのことです」
「添削……う、うん。分かった」
なぜコウヤにとコウヤ自身は思わずにはいられない。
ここで、アビリス王が口を開いた。
「コウヤは、周りを自然と良い方へと変えてしまうなあ」
そんな感心の声に、ジルファスも同意する。
「本当ですね。それこそ、王族であってもどれだけ促した所で、ほとんど伝わらず、変える事が出来ないものなのですが……やはりコウヤは別格ですね」
「ん? 何か変えました?」
コウヤは自覚なしだ。
「騎士を変え、魔法師を変え、冒険者やギルド職員を変えていることに気付いていないのか? アレらが強くなったのも、第三騎士団が変われたのも、コウヤの影響なんだから当然だろう?」
「ちょっとつついただけですよ?」
「うん。本当にね……けど、アレだよ。つついた所が急所だったんじゃないかな」
「……なるほど?」
いまいち、コウヤは、自身の影響力を理解出来ていなかった。
そんな中、アルキスの説明は続いていた。
『攻撃手段が違うように。足の速さが違うように。秀でているものと苦手とするものがあるはずだ。それを示してもらう』
魔法師達が準備に入っていた。結界で一本道を作り、その周りに審査員だけでなく、予選に参加した者達も並んだ。
これを見て、コウヤは口を開ける。
「あ……」
「ん? どうしたんだい?」
明らかにやっちゃったという顔になったコウヤに、ジルファスが不思議そうにする。
「なるほど……」
「あ~あ……」
ニールとルディエもコウヤのやらかしに気付いた。
ここで、ジルファスが問いかける。
「……コウヤ? 何をしたんだい?」
コウヤは白状した。
「えっと……スキルの熟練度が上がりやすい訓練方法をアルキス様に聞かれて……多分それだと思います。自分たちでやろうと思うと、人数が居ないとダメなんですけど……」
「今なら居るしね」
「かなり鬼畜な訓練になると言っておられませんでしたか?」
ルディエとニールも聞いていたのだ。
そして、コウヤと三人、揃ってアルキスを見た。
「「「楽しそうな顔して……」」」
アルキスが必死で笑い出しそうなのをこらえているように見えた。三人には、明らかにイタズラを仕掛ける人にしか見えなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、21日です!
よろしくお願いします◎
『ここからは、それぞれの実力を細かく見ていく。いくつかの課題を出していくが、失敗した時点で終わりというわけではない』
これに、多くの者が首を傾げた。それは分かっていたのか、アルキスは少し口元を緩めて続けた。
『これは、一人を決めるものではない。全てにおいて完璧に出来ることに越したことはないが、一人の完璧な者より、一つにだけ秀でている者達を集めて、何人かで完璧を目指してもらえれば良い』
たった一人に責任を負わせるよりも、何人かで無理なくやるべきだ。
『冒険者は分かるだろう。ソロより、パーティでの方が安心感も違うし、出来ることも多い』
これには、騎士達も頷いていた。
それを見て、コウヤが少し不思議そうにする。確かに、王族が当たり前のように冒険者になるような国の騎士だ。偏見は少ないのかもしれない。
だが、それでも貴族の中には、冒険者なんてと思っている者もいたはずだ。
「騎士も納得してくれるんだね。あの辺は、ギルドでも見たことないけど……」
実際、ジルファスの近衛騎士ぐらいしか、冒険者として活動したりしなかった。それが少しずつ増えたのは、コウヤが来るようになってから。
これに、ジルファスが思わずというように笑った。
「ふっ。ああ、コウヤは迷宮化の対策とかで、しばらくギルドの受付には出ていなかっただろう? あの気位だけ高く、扱いづらかった第三騎士団の者が、冒険者として活動し始めてから明らかに強くなったのを知って、他の騎士達も慌ててその波に乗ったんだよ」
「兄さんが留守の間に、ほとんどの騎士が冒険者の登録をしてたよ」
「そうだったんだ……」
いつの間にと驚き半分、冒険者が認められたのだという喜びが半分だ。
そこに、ニールが補足する。
「騎士は融通の利かない者が多いですし、基本を知らないと動けないので、冒険者達に頭を下げて、教授願ったそうです」
ルディエは腕を組んで推察する。
「迷宮化の討伐で、冒険者が減ってたから、丁度良かったんじゃない? 雑用から全部、依頼は選びたい放題だっただろうし」
「それはあるかもね……」
寧ろ、仕事が滞ったはずだ。もちろん、それを見越して計画を立てた。討伐から帰ってきた冒険者達が、依頼に追われていることはないだろう。
とはいえ、依頼がなくなる日はないのだ。多くの冒険者が留守だったことで、止まってしまった部分はある。
そこを、騎士達が冒険者となって少しずつやってくれていたようだ。
そこで、コウヤは気になった。
「あのまま直接ここに来ちゃったから、ギルドの状態を確認してないんだよね……」
これにすかさず返すのがニールだ。
「王都のギルド職員から、コウヤ様宛の報告書が来ております。夕食後にでも少しご覧になってください」
「え? 俺に報告書……?」
わざわざ、一ギルド職員であるコウヤに報告書という形で送られてくるなんてこと、本来ならあり得ない。
だが、そこはコウヤを崇拝する勢いのある王都ギルド職員達だ。
「留守中のことが気になっておられるのではないかと、用意したのだそうです。ちなみに、ユースールからも先程届きました」
「そうなの? それはとっても有り難いなあ」
「報告書としての添削もお願いしたいとのことです」
「添削……う、うん。分かった」
なぜコウヤにとコウヤ自身は思わずにはいられない。
ここで、アビリス王が口を開いた。
「コウヤは、周りを自然と良い方へと変えてしまうなあ」
そんな感心の声に、ジルファスも同意する。
「本当ですね。それこそ、王族であってもどれだけ促した所で、ほとんど伝わらず、変える事が出来ないものなのですが……やはりコウヤは別格ですね」
「ん? 何か変えました?」
コウヤは自覚なしだ。
「騎士を変え、魔法師を変え、冒険者やギルド職員を変えていることに気付いていないのか? アレらが強くなったのも、第三騎士団が変われたのも、コウヤの影響なんだから当然だろう?」
「ちょっとつついただけですよ?」
「うん。本当にね……けど、アレだよ。つついた所が急所だったんじゃないかな」
「……なるほど?」
いまいち、コウヤは、自身の影響力を理解出来ていなかった。
そんな中、アルキスの説明は続いていた。
『攻撃手段が違うように。足の速さが違うように。秀でているものと苦手とするものがあるはずだ。それを示してもらう』
魔法師達が準備に入っていた。結界で一本道を作り、その周りに審査員だけでなく、予選に参加した者達も並んだ。
これを見て、コウヤは口を開ける。
「あ……」
「ん? どうしたんだい?」
明らかにやっちゃったという顔になったコウヤに、ジルファスが不思議そうにする。
「なるほど……」
「あ~あ……」
ニールとルディエもコウヤのやらかしに気付いた。
ここで、ジルファスが問いかける。
「……コウヤ? 何をしたんだい?」
コウヤは白状した。
「えっと……スキルの熟練度が上がりやすい訓練方法をアルキス様に聞かれて……多分それだと思います。自分たちでやろうと思うと、人数が居ないとダメなんですけど……」
「今なら居るしね」
「かなり鬼畜な訓練になると言っておられませんでしたか?」
ルディエとニールも聞いていたのだ。
そして、コウヤと三人、揃ってアルキスを見た。
「「「楽しそうな顔して……」」」
アルキスが必死で笑い出しそうなのをこらえているように見えた。三人には、明らかにイタズラを仕掛ける人にしか見えなかった。
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