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第十二章
475 完璧でございます
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コウヤ達が迷宮化討伐から戻り、城に落ち着いた時はもう夜だったので、顔合わせや報告などは翌日に回された。
丁度城に到着する頃には、コウヤも本来の姿に戻れており、ほっとしながらも休むことが出来たのだ。そのままだったら、ミラルファとアビリス王の寝室に連れ込まれていただろう。
そして翌朝。
コウヤのために用意された部屋。そこで目を覚ましたコウヤは、少しだけびっくりした。
「っ……あ、そっか。お城に来たんだった……」
気持ち的には、遠征が終わって、家でのんびりするというのがあったため、自宅に居るつもりだったのだ。
ここの寝具も、コウヤ特製のものなので、余計に錯覚したというわけだ。
因みに、ジルファスやアビリス王達も、このコウヤ特製寝具を愛用しているので、最高の寝具と認められたということになる。
《おはようございます。主》
「おはよう。テンキ。よく眠れた?」
テンキやパックン、ダンゴは、本来の姿でコウヤのベッドの上で眠っていた。
《はい。このベッド、大きいですから。パックンも転がってます》
見ると、下の方で横になっている。今にも蓋が開きそうだ。箱にしか見えないので、少し心配になる。ただ、パックンは寝相が良い方だ。横になることは今までなかった。
「あれ? 俺、蹴飛ばした?」
自分の寝相がおかしかったのかと心配になった。だが、違ったようだ。
《いえ。どうも、ああしてダンゴが浮いて行くのを見守っていたようです》
「あ、ダンゴ……」
テンキと上を見上げる。足下の方の天蓋の部分に、毛玉のようになったダンゴはいた。
《天蓋があるのは良いですね》
「うん。布もふわふわにしておいたから」
ひっくり返したとしても、ふわふわとした寝具になるだろう。眠ると浮いてしまうダンゴが、ここならば、ベッドの範囲に留まれる。天井だが、それはそれでいい。
《ご自宅のも天蓋を付けられますか?》
「そのつもり。ベッドも大きくしようか。そうしたら、こうやって一緒に寝れるしね」
《っ、はい》
一緒のベッドで眠れるというのはテンキも嬉しいらしい。
そうして話をしながらダンゴを見つめたりしていると、部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします。コウヤ様、お目覚めでしょうか」
「あ、はい。入ってください」
「失礼いたします。おはようございます。コウヤ様」
そうして入って来たのは、年配のメイドと、それに続いているのは、義母となるイスリナと同年代頃の三人のメイドだった。
「おはようございます。ミルヤさん」
「っ、わたくしの名を覚えてくださったのですか? 一度しか名乗っておりませんが……」
「はい。だいたい、一度で覚えるようにしてますので。それに、ミルヤさんはミラお祖母様付きだったと聞きましたので」
「ありがとうございます。これより、コウヤ様のお世話をさせていただくことになります。よろしくお願いいたします」
深く頭を下げるミルヤ。見る人によっては、少しキツめの印象を受けるので、苦手とする者も多いらしい。マナーに厳しい教育ママ的な、そんな厳格な様子にも見える人だ。
「はい。よろしくお願いします」
「コウヤ様。わたくし共に敬語は必要ありません」
「ふふっ。ええ。そう言われると思いました。けど、その内ということで許してください。自分でも人を相手にする仕事をする身としては、きちんとお仕事をされる方に敬意を示すのが当たり前なので」
コウヤには、メイドでもなんでも、仕事をする人達は皆、敬意を示すに値する。よって、いくら立場がどうのと言われても、そちらの方が目に付いてしまうのだ。
「では、そのように。ミラルファ様からも言われておりますので、追々ということにいたしましょう。本来ならば、コウヤ様を甘く見る者が出ることを危惧し、注意させていただくのですが……コウヤ様に限っては大丈夫そうですし……」
「ん?」
メイドにも礼を言うような、そんな庶子が城に居たら、間違いなく他の貴族達や、見ている者たちが陰口を言うだろう。そうして、立場に相応しくないからと、追い出しにかかるはずだ。
だが、コウヤの場合はそうはならない。寧ろ、繋ぎ止めようと王族からして必死なのだ。他の貴族達も、コウヤに対する悪感情はほぼない。
そもそも、問題のあった貴族達は排除済みだし、既に頭が上がらない貴族も多い。更には、騎士も魔法師もコウヤの側に居たいと思う者たちばかりだ。文句など出るはずがなかった。
「いえ。コウヤ様の性格、個性として受け入れさせていただきます。では、お着替えを」
「えっ、あっ、そうか……はい。お願いします」
「ふふっ。またギルドの制服を着られる所でしたか」
「あはは……はい」
休日でもギルドの制服で過ごすのが当たり前だったコウヤだ。ここでも、自然にそれをと思っていた。彼女達が来なければ、間違いなく着ていただろう。
ミルヤは、クローゼットを開けながら笑っていた。
「お城に居る間は、こちらで用意させていただきます。ですので……ギルドの制服は、お預かりいたしましょう。お手入れもさせてくださいませ」
「え……わ、分かりました。なら、お願いします」
「はい」
少し苦笑しながら、コウヤは持っているギルドの制服を亜空間から取り出して、それを受け取りますと差し出されたメイドの一人の手に渡した。
亜空間に驚きながらも、ミルヤや他のメイド達は微笑み、その後着替えさせてくれた。
「お待たせいたしました。完璧でございます」
「えっと……はい。素敵な服ですね」
「ありがとうございます」
ミルヤとメイド達は、やりきった顔だった。
そして、そこにまたドアがノックされる。
「失礼いたします。コウヤ様。ニールです。フレスタとディスタを連れて参りました」
「入って」
この日、久し振りに侍従となる他国の王子だった二人と再会したのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
丁度城に到着する頃には、コウヤも本来の姿に戻れており、ほっとしながらも休むことが出来たのだ。そのままだったら、ミラルファとアビリス王の寝室に連れ込まれていただろう。
そして翌朝。
コウヤのために用意された部屋。そこで目を覚ましたコウヤは、少しだけびっくりした。
「っ……あ、そっか。お城に来たんだった……」
気持ち的には、遠征が終わって、家でのんびりするというのがあったため、自宅に居るつもりだったのだ。
ここの寝具も、コウヤ特製のものなので、余計に錯覚したというわけだ。
因みに、ジルファスやアビリス王達も、このコウヤ特製寝具を愛用しているので、最高の寝具と認められたということになる。
《おはようございます。主》
「おはよう。テンキ。よく眠れた?」
テンキやパックン、ダンゴは、本来の姿でコウヤのベッドの上で眠っていた。
《はい。このベッド、大きいですから。パックンも転がってます》
見ると、下の方で横になっている。今にも蓋が開きそうだ。箱にしか見えないので、少し心配になる。ただ、パックンは寝相が良い方だ。横になることは今までなかった。
「あれ? 俺、蹴飛ばした?」
自分の寝相がおかしかったのかと心配になった。だが、違ったようだ。
《いえ。どうも、ああしてダンゴが浮いて行くのを見守っていたようです》
「あ、ダンゴ……」
テンキと上を見上げる。足下の方の天蓋の部分に、毛玉のようになったダンゴはいた。
《天蓋があるのは良いですね》
「うん。布もふわふわにしておいたから」
ひっくり返したとしても、ふわふわとした寝具になるだろう。眠ると浮いてしまうダンゴが、ここならば、ベッドの範囲に留まれる。天井だが、それはそれでいい。
《ご自宅のも天蓋を付けられますか?》
「そのつもり。ベッドも大きくしようか。そうしたら、こうやって一緒に寝れるしね」
《っ、はい》
一緒のベッドで眠れるというのはテンキも嬉しいらしい。
そうして話をしながらダンゴを見つめたりしていると、部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします。コウヤ様、お目覚めでしょうか」
「あ、はい。入ってください」
「失礼いたします。おはようございます。コウヤ様」
そうして入って来たのは、年配のメイドと、それに続いているのは、義母となるイスリナと同年代頃の三人のメイドだった。
「おはようございます。ミルヤさん」
「っ、わたくしの名を覚えてくださったのですか? 一度しか名乗っておりませんが……」
「はい。だいたい、一度で覚えるようにしてますので。それに、ミルヤさんはミラお祖母様付きだったと聞きましたので」
「ありがとうございます。これより、コウヤ様のお世話をさせていただくことになります。よろしくお願いいたします」
深く頭を下げるミルヤ。見る人によっては、少しキツめの印象を受けるので、苦手とする者も多いらしい。マナーに厳しい教育ママ的な、そんな厳格な様子にも見える人だ。
「はい。よろしくお願いします」
「コウヤ様。わたくし共に敬語は必要ありません」
「ふふっ。ええ。そう言われると思いました。けど、その内ということで許してください。自分でも人を相手にする仕事をする身としては、きちんとお仕事をされる方に敬意を示すのが当たり前なので」
コウヤには、メイドでもなんでも、仕事をする人達は皆、敬意を示すに値する。よって、いくら立場がどうのと言われても、そちらの方が目に付いてしまうのだ。
「では、そのように。ミラルファ様からも言われておりますので、追々ということにいたしましょう。本来ならば、コウヤ様を甘く見る者が出ることを危惧し、注意させていただくのですが……コウヤ様に限っては大丈夫そうですし……」
「ん?」
メイドにも礼を言うような、そんな庶子が城に居たら、間違いなく他の貴族達や、見ている者たちが陰口を言うだろう。そうして、立場に相応しくないからと、追い出しにかかるはずだ。
だが、コウヤの場合はそうはならない。寧ろ、繋ぎ止めようと王族からして必死なのだ。他の貴族達も、コウヤに対する悪感情はほぼない。
そもそも、問題のあった貴族達は排除済みだし、既に頭が上がらない貴族も多い。更には、騎士も魔法師もコウヤの側に居たいと思う者たちばかりだ。文句など出るはずがなかった。
「いえ。コウヤ様の性格、個性として受け入れさせていただきます。では、お着替えを」
「えっ、あっ、そうか……はい。お願いします」
「ふふっ。またギルドの制服を着られる所でしたか」
「あはは……はい」
休日でもギルドの制服で過ごすのが当たり前だったコウヤだ。ここでも、自然にそれをと思っていた。彼女達が来なければ、間違いなく着ていただろう。
ミルヤは、クローゼットを開けながら笑っていた。
「お城に居る間は、こちらで用意させていただきます。ですので……ギルドの制服は、お預かりいたしましょう。お手入れもさせてくださいませ」
「え……わ、分かりました。なら、お願いします」
「はい」
少し苦笑しながら、コウヤは持っているギルドの制服を亜空間から取り出して、それを受け取りますと差し出されたメイドの一人の手に渡した。
亜空間に驚きながらも、ミルヤや他のメイド達は微笑み、その後着替えさせてくれた。
「お待たせいたしました。完璧でございます」
「えっと……はい。素敵な服ですね」
「ありがとうございます」
ミルヤとメイド達は、やりきった顔だった。
そして、そこにまたドアがノックされる。
「失礼いたします。コウヤ様。ニールです。フレスタとディスタを連れて参りました」
「入って」
この日、久し振りに侍従となる他国の王子だった二人と再会したのだ。
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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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